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(投稿 by suzan)
Medical Tribune Vol.41,No.2 より
生殖補助医療による出生児のリスク
カップルの生物学的背景に起因
妊娠中の合併症発生率も高い
[ニューヨーク]現代医療のなかでもほとんど奇跡に近い医業の1つに生殖補助医療(ART)が挙げられるが、①この方法による妊娠がどのような影響を及ぼすか②この方法により誕生した小児の健康にどのような影響があるか③母親の健康にはどのような影響があるか④いまだ解決されていない憂慮すべき問題や将来のサーベイランスの領域を同定することに関して、現在入手できる情報から何がわかるかーなどの問題がある。この問題を検討するため、ロンドン大学(ロンドン)小児科のAlastair G. Sutcliffe博士とハンブルク内分泌総合センター(独ハンブルク)のMichael Ludwig教授らは、関連する過去のレビュー737例のほか、欧州ヒト生殖胎生学会(ESHRE)と米国生殖医学界(ASRM)の主な抄録を含む関連論文3980件をレビューした。交絡を最小限にするため、データは単体妊娠の小児のアウトカムに焦点を合わせており、単一胚移植(SET)についても考察している。このレビューはLancet(2007;370:351-359)に発表された。
男児で多い泌尿生殖器奇形
おもな知見の1つとして、ART後に出生した小児に対するリスクの一部が、ART技術自体の欠陥に起因するものでないことが挙げられる。それらリスクの一部は、むしろカップルの生殖能力が劣るという生物学的背景に起因する。さらに、ARTに伴うリスク増大の多くは、多胎出生における出産順位と関係がある。
別の知見として、子宮内合併症リスクやのちの周産期合併症リスクは、ARTを受けずに出生した場合よりもARTを受けた場合のほうが高いことが挙げられる。さらに、単胎児であっても、泌尿生殖器奇形リスクは男児のほうが高い。
Sutcliffe博士らは「いずれのカップルにもARTを行う前にリスクの説明をしなければならない」と述べている。ARTを検討しているカップルのカウンセリングに当たって、協議することが推奨されている内容を表(略)に示す。
SETを考察するに当たり、同博士らは前向きランダム化試験で、SETと単一凍結解凍胚移植の組み合わせにより達成される妊娠率は、1回に2個の胚を移植する場合と同等であることが認められたと説明している。同時に、SETは多胎妊娠率を大幅に低下させる。しかし、同博士らは、ベルギーにおいてSETを利用したきわめて明確な例について考察した上で、「他の国で標準慣行としてSET政策を確立するに当たって、法律が制定されていなければ訴訟が起こる可能性がある」と強調している。
子癇前症と高血圧リスクを増大
ARTは早期と後期の流産リスクのいずれも増大させるといわれているが、Sutcliffe博士らは「この問題と関連する試験データから交絡因子を排除することは難しい。ARTを受けるカップルは、ARTを受けないカップルよりも甲状腺障害、多のう胞性卵巣症候群、卵管疾患、子宮奇形、精子異常、または数的もしくは構造的染色体異常のいずれかがカップルの一方、または双方に認められる可能性が高いと思われる」と述べている。しかし、流産に関するデータが正確にARTの影響を反映しているのか、あるいはこのデータは基礎疾患のほうにより深く(または少なくても一部は)関係しているのかという問題は、未解決のままである。
ARTでは自然流産リスクがおそらく高いと思われるが、この問題を検討している試験はほとんどない。
同博士らは「ARTが子癇前症と妊娠誘発性高血圧リスクの増大と関係することには議論の余地はないが、子癇前症もまた妊娠困難の根底をなす因子と独立した関連性がある」としている。また、ARTを使用して妊娠した単胎児では早産リスクが高いと説明している。また、これらの新生児では、低出生時体重または超低出生児体重のいずれかのリスクも高く、出生児の妊娠週齢の割には小さいことも多い。周産期死亡と新生児死亡、新生児集中治療室への入室リスクも高い。さらに、妊娠までの期間はこれらの状況のいずれとも関連するとしている。
親子関係に関するデータは有望
体外受精(IVF)と卵母細胞質内精子注入法(ICSI)のいずれによっても、大奇形リスクは約30%増大するとされる。
アンゲルマン症候群やベックウィズーヴィーデマン症候群(臍ヘルニア、大舌症)のようなまれな事象は、ARTを受けた場合のほうが発症率が高いと思われる。
Sutcliffe博士らは、ART後に妊娠した小児の全般的な身体の健康に関して、これらの小児が自然妊娠児よりも病院サービスを利用する可能性が高いことを見出したが、「この事実は脳性麻痺リスク増大により一部あるいはすべてが説明できる」と述べている。
神経発達の面では、ART後の単胎児と自然妊娠時の間に差はないことが、数件の試験で示されている。この知見はIVF妊娠児、胚凍結保存法による妊娠児、ICSI妊娠児にあてはまる。
親がストレスに耐える期間が長いにもかかわらず、いずれのARTでも小児の社会的および感情的発達に見られる通り、親子関係に関するデータは有望である。
このレビューではARTにより妊娠し、早産で出生時体重の少ない小児は、晩年に心血管疾患や糖尿病を発症するリスクが高いことが認められている。
同博士らは、限られた公表文献の範囲で結論を下すことを避けている。これらの範囲には、ドナーの精液注入、着床前診断、体外受精後のアウトカムが含まれる。なお、同博士らは、その多数多くの関連する重要なテーマに言及しており、数多くの興味深いデータを挙げているが、すべてが容易に解釈されるとは限らないため、確固たる結論は導き出していない。
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