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(投稿:by suzan)
平成19年度家族計画・母体保護法指導者講習会より
未受診妊婦への対応について
前田津紀夫(前田産婦人科医院/日本産婦人科医会広報委員会委員)
産科一時救急受け入れ問題は全国的に発生しており、未受診妊婦に多く発生している。そこで、過去に発表された11文献と静岡県内19施設に過去5年間の受け入れ状況調査を行い、両者合わせて集計・解析して、合計588名の未受診妊婦の実態調査を行った。その結果、総分娩数の約0.5%にみられ、対象群と比較すると10代に多く40代の頻産婦にも多い傾向がある。未婚率は39%で若年層ほど高く、未婚者の中には離婚経験者が多い。また4回以上の頻産婦(16%)と10代の初産婦に多い。墜落分娩は15%にみられ、到着後1時間以内の分娩が44%であった。31%が救急車を利用している。母体の周産期異常は妊娠高血圧症候群、前置胎盤、既往帝切、劇症型A群溶連菌感染症、糖尿病などがあり、感染症はHIV陽性4例、梅毒陽性10例、HCV陽性8例、HBsAg陽性8例(重複例あり)であった。分娩様式は帝王切開は一般と変らないが、緊急帝王切開となることが多く、児の異常は子宮内胎児死亡10例、重症新生児仮死11例、感染症3例などがあった。周産期死亡率は8%で、低出生体重児は33%にみられ(1000g未満は5%)、29%がNICU管理となった。児の置き去り・養育困難が高率(約10%)にみられた。入院費未払いは40%で、追跡調査が可能だった291人のうちリピーターは12%であった。
未受診妊婦が出現する背景には、経済的問題(貧困・保険証なし)と教育的問題(妊娠に気付かなかった・妊婦健診の大切さを知らなかった・妊婦健診の存在そのものを知らなかった)と倫理的問題(確信犯・踏み倒し)が絡み合っている。実受診妊婦が問題である理由は、母体の立場からみると母体合併症の放置、重症産科合併症の診断遅延、墜落分娩、適切な産科管理不可能であることなどで、児の立場からみると低出生体重児・周産期異常・周産期死亡が増加し、母子感染が回避困難で、養育困難児・被虐待児予備軍になるということである。医療機関の立場からは、感染症のリスク、事前情報がない、瞬時の決断を求められる、かなり高率に含まれるハイリスク症例、倫理上の優越感が異なる、診療費未払い、繊細な周産期システムの攪乱がある。社会の立場からいうと救急車・当直医など社会的資源の浪費やNICUなど貴重なスペースの割り込み占拠、まじめな「お産難民」に対してのバランス感覚の欠如、倫理観の喪失を助長することである。
対策は、金銭的援助と教育(性教育・妊婦健診の意義の周知)が必要だが、倫理観の欠如した確信犯的妊婦に対してはお手上げである。まず、まじめに受診している妊婦が安全に分娩を行える環境整備が第一で、これなくして未受診妊婦への対策を充実させるのは不公正である。その上で、各病院・診療所が輪番制をとり受け入れあるいはトリアージを行うことが考えられる。また、より高次の受け入れ先の確保と受け入れた施設が経済的・社会的に不利にならないこと(不払いや訴訟からの保護)が絶対必要である。
未受診妊婦の問題は全国的ですよね。当院はもう飛び込みに対応できる状態ではないので、分娩予約のない妊婦は受診段階でお断り、救急対応なしですから楽してますが。
自分の体ですらどうでもいいという虚無感にさいなまれている女性は、どう啓蒙してもどうにもならない気がするので、迂遠ですが自己肯定感をもてる人を育てないと。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2008年1 月18日 (金) 22:26