(投稿:by 僻地の産科医)
中央公論1月号ですo(^-^)o..。*♡
http://www.chuko.co.jp/koron/
特集 医療崩壊の行方
医師は過重労働から逃げ出し、地方と都市部の格差は開くばかり。
私たちはこのまま医療難民となってしまうのか。
崩壊する現場を分析し、新たな方向を探る。
医療の惨状は国のあり方そのものだ 櫻井よしこ
〈中国と英国の体験に学べ〉
医療費抑制が病院を殺す 川渕孝一
〈現場からの提言〉
患者のみなさん、まずはあきらめてください 若手医師匿名座談会
<ルポ バイト医師増加の裏側>
搾取される常勤医を救え 菊地正憲
この一年、雑誌の論調はずいぶん変わりました。
一年前は、田原総一郎さんが、取上げてくださったことだけでも
本当に御の字だとおもうくらいの大快挙でしたのに(>▽<)!!!
ようやく、医療の問題は、医療従事者だけの問題ではなく、
国民のこれからの問題だって気がついてもらえるようになってきたみたいです。
それから、医療費の問題。
「削減ありき」で首を絞められるのは誰か?
病院がなくなって、困るのは誰か?
都市部でさえ例外ではない、ということ。認識されて嬉しいですo(^-^)o..。*♡
> 財源不足、医師不足、問題への認識不足の三不足
とはよく言ったものですね!
ぜひぜひ、読んでみてください..。*♡
(これだけは言ってほしい(>▽<)!!!!!
って点を押さえてるので、私の評価は及第点です..。*♡)
医療の惨状は国のあり方そのものだ
櫻井よしこ
(中央公論 2008年1月号 p26-31)
改革は国の仕組みから
――近年の「医療崩壊」についてどうお考えですか。
櫻井 日本の医療制度は、世界にも例がない良いスタートを切りました。戦後一〇年あまりで国民皆保険制度を導入できたのは国民にとって幸せなことだったと思います。しかも高福祉国家として知られる北欧諸国に比べ、ずっと安い税金で運用されてきた。日本が世界一の長寿国になれたのも国民皆保険制度のおかげとも言えるでしょう。
しかし一方で私たちはどのような質の医療を、どれくらいの税負担で欲しているのか、といった医療の根幹について論じ合わずにここまで来てしまった。
その結果、お尋ねの「医療崩壊」現象が生じています。医療崩壊はいまや地方の過疎地にとどまらず、大都市圏でも見られます。一例が神奈川県産科婦人科医会が二〇〇七年七月に発表したものです。それによると、横浜市栄区では○八年から分娩施設がなくなり、お産ができなくなります。緑区でも○九年以降、同じ状況が生まれます。横浜市という大都市圏の中核をなすはずの大きな街でさえ、このような緊急事態に陥っているのです。
高齢化が進み、医療を必要とする人が増えているにもかかわらず、そういう人々に医療サービスが行き渡らなくなってきた。原因は、大別して財源不足、医師不足、問題への認識不足の三不足にあると思います。○五年の資料ですが、日本の医療費はGDP比で8%、OECD三〇カ国中22番目という低い水準にあります。ちなみに一位の米国は15・3%、三位のフランスは11・6%です。明らかに日本の医療費の増額が必要です。しかし、巨額の財政赤字問題を抱えているいま、問題を解決するには、医療はどうあるべきなのかという基本理念を打ち立てなければならないと思います。
医療は人のあり方そのものであり、医療制度は国のあり方そのものです。日本の医療体制によって、日本人は世界最長寿の人々となり、全国で比較的高度の医療を受けてきた。それは日本の医療体制のよき一面だったと思います。それを支えるのが非営利性と公益性の強い医療法人の存在で、この点は第五次医療法人制度改革によっても強調された点です。しかし、医療費を増やしたり、非営利性や公益性を強調するだけでは、到底、問題は解決されません。
「混在」という問題
――限られた医療費を効率的に使うことが重要だと思うのですが、具体的な施策案はありますか。
櫻井 日本では研究施設を備え、急性期医療を担うことのできる大学病院と民間病院や診療所が何の区別もなく混在しています。どの病院に行っても診察費は同じ。そこで患者は大病院に集中します。症状が重い人から軽い人まで一様に高度な医療機器で検査を受け袋いっぱいの薬をもらう。医療費が膨れ上がり、いざというときに必要な大病院、急性期医療を担える病院の医師が疲れ果てるのも当然です。
どうしたらよいか、解決策は広域医療体制にあると思います。診療所の機能を維持しながら、大病院の機能を集約して、各々の医療機関の特色を生かしつつ、連携させるのです。
面白い事例として長野県があります。同県は○五年の厚生労働省の調査では、男性は平均余命全国一位、女性は全国三位です。それでいて県民一人当たりの老人医療費は全国最低です。なぜか。
長野県では、クリニックと民間病院と大学病院の仕分けがしっかりできているのです。長野県人は風邪を引いたら、まず漢方薬などで自宅で治そうとする。治らないときは近所のクリニックに行く、それでも治らなければ初めて大病院に行く。こうすることで医療費が抑えられるだけでなく、自分の健康状態を正確に知っておこうとする意識も高まり、結局、日本一の長寿を達成しているのですね。
もう一つ興味深いのが北海道奈井江町の事例です。札幌から車で約一時間の、かつて炭鉱のあった町です。開業医と町立病院が連携する仕組みを作り上げ、さらに隣接する砂川市立病院との連携も成し遂げました。基本は開放型共同利用病床、米国型のクリニックと大病院の連携方式と言えます。つまり町立病院の一定数のベッドを開業医が活用できるようにして、開業医は自分の診療所で治療ができかねる重症の患者を町立病院に送り込むことができます。開業医は送り込んだ患者の主治医であり続けます。カルテは開業医と病院が共有し、診療報酬もさまざまなケースの取り決めをして双方で合理的に分け合います。このようにすることで、比較的低い医療費で医療の効果を上げ、しかも、開業医も病院も、患者を奪い合うという後ろ向きの競争を回避し、前向きの連携を進めていくことができます。望ましい広域医療の一例だと思います。
――混在ということで言いますと、医療と福祉の混在も問題ですよね。
櫻井 少し身体が悪くなった、または少し認知症になって自分で身の回りのことができなくなってしまった、という方の世話は、本来は福祉施設や家族の役割です。しかし日本では福祉施設が十分ではなく、また核家族化が進んで自宅では十分な世話ができないということで、これまでは病院が福祉施設を兼ねていた現実がありました。
二年前、厚労省は「医療と福祉を分ける」という施策を出しました。この方向性は正しいと思います。しかし、そのやり方は非常に強引で、全国の35万床の療養型病床を2012年までに6割も減らすというのです。それによって、医療費を大幅に減らすというのですが、こんな手法はあまり誉められたものではありません。
厚労省の目指す方向は理論としてはそれほど的をはずしていないと思いますし、「毎年一兆円ずつ医療費が増えていて、2025年には50兆円を超える。これを一刻も早く何とかしなくてはいけない。私たちには悠長に国民を説得している暇などない」という官僚たちの話も理解できないわけではありません。しかし高齢者のための療養型病床を、介護保険適用型と医療保険適用型に分類して、双方の報酬体系を合理化の名の下に実質的には削ってしまったために、多くの病院が閉鎖、倒産に追い込まれているのが現実です。
医療も福祉も人間のあり方、国家のあり方そのものですから、そこには「納得」が必要です。強引にシステムだけ整備しても、国民は救われません。そんな状況では、どんなに工夫を凝らした政策であっても、期待される結果は出てこないのです。
医師偏在は国の歪みの顕在化
――地方に医師がいない、という問題はどう解決すればいいのでしょうか。
櫻井 先程申し上げたように、医師の数が足りないという現実にまず、向き合うことが重要です。現実に.医師不足で大都市のかなり大きな病院までが閉鎖に追い込まれる事例が出ています。そのような状況を見て、日本医師会は○七年に初めて、医師の絶対数が不足していることを認めました。これまでは地方での医師不足は都市部に医師が集中するからだと主張してきたのですから、大きな方向転換と言えます。ですから、まず、医師の絶対数を増やすことをしなければなりません。しかしそれだけでは時間がかかります。今すぐ手を打たなければ間に合わないのですが、現実の施策は、地方から医師を奪う方向に機能しています。
新研修制度では、医学生たちは研修先の病院を自由に選べるようになりましたが、その結果、大都市の大病院に研修生が集中して、地方には残らないかと言って、主任教授が研修医を強制的に各病院に振り分ける医局制度に戻せるかと言えば、それも不可能です。
何とか医師が全国各地の病院で働いてみたいという動機を作らなくてはいけないのですが、それを医療界の努力だけで解決しようとしても無理だと思います。人、物、金、あらゆるものが都市に集まる今の日本の「国の仕組み」そのものを変えなくてはいけないのです。
少し極端な例かもしれませんが、たとえば、人口も多く、企業も医師も多い東京都の品川区と、人口が少なく、企業立地もままならず医師も少ない千葉県の君津市は、東京湾アクアラインを通れば一五分で行き来できます。つまり地方と都市部の格差をアクセスの向上で解消できる可能性があるのです。今、アクアラインを通行料が高いという理由で人が利用しないのなら、それを無料にすることはできないのでしょうか。もちろん道路問題として考えれば、現在の道路の赤字は無料化でもっと増えます。しかし、医療問題をはじめ、土地利用、企業立地の偏在問題などが解決することのプラス面を考えれば、考慮に値する政策ではないでしょうか。
「これは医療の問題」「これは高速道路の問題」「これは税の問題」と縦割り思考で解決できる時代ではありません。国全体の歪みを解決していくことこそを国民全員で考えなくてはいけないのです。
産科医不足の本当の原因
――全体的に医師が足りない中、特に産科医不足が顕著のように思うのですが、これはどうしてなのでしょうか。
櫻井 たしかに産科医は、ずっと減り続けてきました。統計を見ると、94年からの10年間で七%も減っています。最近の議論では、「訴訟リスクの高い産科から医師が逃げるためだ」とも言われます。知り合いの産婦人科医にも、訴えられたことを原因に産科を辞めて婦人科診療のみを行うようになった人がいます。たしかにそういう要素もあるのでしょう。しかし、統計上は医療訴訟が問題になる以前から産科医は減っているのです。そして先程触れたように、横浜市の一部で08年からお産ができなくなるように、各地で産科が閉鎖されれば、より大きな病院の産科への負担が重くなります。現場の産科医の負担は想像を超えるものになります。現存する産科への負担増と、人口減の日本における産科医の将来展望の暗さに私たちは直面しています。今は団塊ジュニアの出産適齢期でお産の数は多いのですが、数年後には急激に減ることも予測されます。医学生から見て、「産婦人科医は仕事がきついわりに儲からなくなる」という意識が働いても不思議ではありません。
付け加えれば、産科の先に位置する小児科病院や小児科医も深刻な状況に置かれています。統計を見ると、小児科医は減ってはいない。むしろ増えているのですが、各病院にとって経営面での負担になっています。立派な病院の小児科医が、病院長から収入を増やす努力を要請されるなどの話は珍しくありません。小さな子どもには、投薬も検査も大人の患者に比べて控えなければなりませんし、診察にも時間がかかります。つまり効率が、大人に比べて悪いのです。結果として、小児科は人員上もぎりぎりの体制で維持され、医師たちの当直が増えます。小児科医も本当に疲れきっていると言えます。
医師になる動機を医学生に聞くと、「人を助ける仕事に従事したい」という理由とともに、「高い収入を得たい」という理由も上位にきます。であれば、同じ人を助ける仕事でも、効率の良いところにいきたいと思う。すると分野も地域も偏る。業務内容もきつい産科や収入の低い小児科は避けられてしまう分野なのかもしれません。
つまり医療の原点を「利益」中心に考えてしまえば、産婦人科医だけでなく、医療全体が傾いてくる。ですから効率は上げていかなければならないけれど、「利益」だけに拘る医療であってはならない。医療分野の人材育成も同様です。それには政府による根本的な政策が必要です。
全体像の提示を
――国としてはまず何をすべきですか
櫻井 まず、問題への正しい認識が必要です。それに基づいてはじめて解決策が生まれてくると思います。たとえば、政府は、私たちが直面する医療危機の実態をどれだけ国民に伝えてきたでしょうか。地方自治体も合わせて1000兆円にものぼる財政赤字、その中での日本の医療制度の危機なのです。
医療危機を緩和し、やがて克服するためには、巨額の財政赤字を抱えながらも、医療費を増額していかなければならない――このような認識は民主党の政策に顕著ですが、福田政権は民主党に刺激されたのか、同じ方向で医療や福祉を考えているようです。小泉政権のときに顕著だった改革と効率化、医療費の抑制策は修正されつつあります。それは当然、消費税の引き上げにつながるでしょうし、医療サービスを受ける側も供給する側も、日本の医療制度を合理的で透明なものに育て上げていく努力が欠かせません。都合の悪いことも含めた全体像を認識して、皆で対応すれば医療危機の克服も不可能ではないと思います。
個々の問題に埋没することなく、全体を把握して対処すれば道は開けるという例を秋田県に見てみたいと思います。長らく過疎に悩む秋田県が、国芦地元が税金を投入して作る「新直轄言路」の交通料金を県内ではタダにしました。法人税も下げようとしています。「県の財政がこれほど赤字のうえ、道路も造っておいて税金を下げてどらするのか」との問いに知事は、「企業誘致が成功しなければ人口減に歯止めがかからない」「それに子育て支援の財源にまわす『子育て新鋭』のようか増税も県民に負担してもらう予定です」と答えていますね。
東京都の杉並区も面白い。杉並区はこれまでの区債、つまり借金を着々と返しています。税収の一割をあてているそうです。そのかわりに住民に「ゴミの分別をしてください」「防犯も地域の力を活用してください」と言って住民参加で行政コストを下げる。行政サービスは多少下がるかもしれないけれども借金返済は進むと説得したんですね。もうすぐ借金が払い終わる。するとこの一割が浮きます。その分、税金を下げてもいいし、将来のために積み立てて、杉並区の住民税を無税にする考え方もある。そうなれば企業も人も集まり街が栄えて、結局は住民に利益が回ってくる。こうして全体像を示せば、住民は分かってくれる。
秋田県民も杉並区民も理解して協力した。日本国民全体ができないはずがありません。
死生観を考え直すチャンス
――「どんな病気も治すことができる」と日本人は医療に対してある種の過剰な期待を持っているように思います。
櫻井 先日、日本の研究者が人の皮膚から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出した。一〇年後くらいには実用化できるだろうという話がありました。iPS細胞からは腎臓も心臓も肝臓もすべて作られるようになるといいます。医療や予防医療はどこまで進むのか想像もつきません。
良寛さんは「死ぬときは死ぬがよろしい」と言いました。でも、高度医療が可能な現代では、薬、手術、臓器移植などで寿命を延ばします。医療技術の発展はすばらしいけれども、それに振り回されるのが幸せか否かは分かりません。医療危機は否応なく医療の制度改革を私たちに迫りますが、それはまた、私たち一人一人にとって「死生観」に想いを巡らすチャンスとも言えるのではないでしょうか。
お久しぶりです。最近またブログが充実ですね。ありがとうございます&先生お体大丈夫ですか?
全国医師連盟にご参加との事。応援しています!一般人にもお手伝いできることはないものでしょうか。
医療崩壊の認識が少しずつ広まり、かすかな期待と、このペースじゃ完全崩壊に間に合わないよ~という焦りと、自分の周りのレベルに落胆と、何もできない歯がゆさと、入り混じった今日この頃です。
ご家族の思いに比ぶべきもありませんが、先生が心身ともご健康で活躍を続けられること、祈ってます。
投稿情報: きよ@一般 | 2007年12 月13日 (木) 14:07
最近の雑誌で言うと、『文藝春秋』2008年1月号の巻末コラム『人生天語』の内容もよかったと思います。堺の置き去り事件の話なのですが。
もしもお時間があるようでしたら、一度ご覧になっても損はないと思います。自分でアップしようと思ったのですが、見開き2ページのコラムに780円かけるのもなぁ、と思い涙をのんだ次第です。
投稿情報: 三上藤花 | 2007年12 月13日 (木) 20:55