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(投稿:by suzan)
これは、10月8日の河北新報投稿欄の「持論、時論」に掲載されたものです。
投稿者の伊藤恒敏(つねとし)先生は、東北大学医学部大学院、発生生物学分野の教授で、地域医療開発センター教授を兼任しておられます。
地域医療と行政の責任ー市町村の枠超え対策を
地域医療は混迷を深め、住民の医療へのアクセスすら脅かされている。原因は全国的に深刻な医師不足と厚生労働省のビジョンなき医療費抑制政策にある。診療報酬や病床数、医学部定員など医療政策の枠組みは国に決められ、県・市町村に裁量はほとんどない、にもかかわらず、医師不足や瀕死(ひんし)の自治体病院経営といった問題に格段の力を発揮するよう求められている。
わたしたちは2005年から栗原、仙南、登米、石巻という宮城県内4地域の二次医療圏で地域医療体制の検討会に参加し、どう現状を把握し、改善のために何をなすべきか議論してきた。
どの医療圏も深刻な医師不足や、一貫性のない国の政策に悩まされている。国の政策変更がない限り、地方では解決できないことが多い。検討会では首長や行政当局から、すぐ実行可能で有効な具体的提案を求められた。アイディアがあれば実行されていたはずだ。医療政策を救う妙案がないのは、為政者にとって都合のよい政策などない、ということだ。
いかに地方に医師を集め、適切な医療提供体制を構築していくか。わたしたちは検討会に、以下のような提案をした。
1)医療圏は人口二十万を単位にすべきだ。二十万を大きく下回る医療圏では医療体制構築とその存続は困難
2)地方に医師を集めるには中核病院に明確なインセンティブ(動機付け)が必要。若い医師のための教育・藤堂環境が整備され、診療科が網羅できる五百床規模の病院(マグネットホスピタル)が望ましい
3)広域的・効率的な病院、医師の配置を戦略的・地理的に考え、遠距離になる住民のためには患者搬送手段(救急車やドクターカーの配置)を講じる
大きな責任は国にあり、地方だけで対策を考えるのは容易ではない。それでも実行可能なことを提案した。中核的病院は救急患者の対応に疲弊している。栗原医療圏では勤務医が過重な労働に倒れるのを防ぐため、開業医に夜間救急の応援を頼む体制も提案した。
ところが首長・行政担当者は医療圏の再編に興味を示さず、自体改善に動く気配もない。県も対策を取ろうとしない。栗原では公開が原則の議事録が1年近くも公表されなかった。首長を含め行政担当者たちは市町村の境界を超えて物事を考えようとしない。医療問題が政治や選挙の具になっている。
いまや、一市町村だけで問題を解決できる状況ではない。現在の枠組みの中でいかに効率を上げるか。それが、地方にできることだ。そのためには地方の行政担当者が大きな責任を負っている。必要ならば市町村の境界を超えて問題を俯瞰(ふかん)し、広域で政策を考えるべきだ。それも実行できない行政は住民に誠実であるとは言えまい。栗原医療圏では救急体制の提案も医師会から反対され、さたやみになっている。時にタフな交渉も必要だろう。それもやれずしてどうして自体の改善を図れるのか。これ以上の不作為の積み重ねは許されない。
医療問題は極めて多層的で、一つの見方だけではうまく解決できないことが多い。しかし、やるべきことに対し困難を覚悟で当たらなければ、改善は生まれない。地域医療問題で県や行政が担当者の果たすべき役割はまだまだ大きい。国が動くのを待つだけでなく、自らの役割を自覚し、医療行政に当たるべきだ。庁内の都合だけで考えずに、どうすれば住民の医療を改善できるのか、しっかり考えるべきだ。
ご指摘のとおりのように感じます。
生活保護など福祉は市への権限委譲などで市町村でよく考えるようになっていますが(児童虐待などはまだまだですが)、
医療に対する意識は首長の意識と住民の意識によりますね。。。
都道府県では鳥取県くらいの規模だったらいいのでしょうけど、それ以上だと調整がつかないですからね。。。
(昔は地域医師会の意見調整も大変だったでしょう)
医療行政はは「みんなの責任無責任」状態かもしれません。
投稿情報: 饅頭 | 2007年10 月20日 (土) 09:21
小児科医では総人口が1万人あたり1人程度です。24時間体勢を組むなら、1病院に10人程度の医師が必要です。勤務医:開業医の比率は1:1に近いので、人口20から30万人以上でないと、24時間体勢は組めません。実際に24時間体勢を組んでいる二次医療圏は50万人以上の地区です。
堀田哲夫(江原のペンネーム).二次医療圏の人口と小児救急体制.小児科 2005;46:296-298.
http://pediatrics.news.coocan.jp/hotta_paper/shonika46_296_2005.html
投稿情報: 江原朗 | 2007年10 月20日 (土) 23:39
私も「僻地の産科医」の一人です。
今日も似たような県や医師会の議論に加わってきました。
県は「市町村に明確な医療体制への展望がないから県としてもやりようがない」と強調し、一方で市町村は「県が旧態の医療圏構想、病院配置にこだわり、明確なビジョンの下に動かない」と言い合いました。
国がいくら集約化、効率化の方針を出しても、県、市町村(加えて医師会も)がそれぞれに、医療危機(自治体病院の経営危機を含め)への認識を共有せず、官庁特有の先送り、責任霧散体制だけが水面下の暗黙の了解と想像される中では、到底地方の医療崩壊は止められないと思いました。
焼け野原論の跋扈する所以です。
投稿者の伊藤恒敏先生に共感します。
それにしても、よくこんなの見つけ出してきますね、僻地の産科医先生殿
投稿情報: 風邪ぎみ | 2007年10 月21日 (日) 06:21
あ、実は、こちらは私ではなく、suzan先生です!
志を同じくされる、僻地の産婦人科医のお一人です。住んでいる地域がかなり違うのですけれど、suzan先生の経験&地域は本当に、
「この地域にお住まいです!」
と公表したら、みんなが涙して
「早く逃げて~(>_<)!!!!」
と間違いなく叫ぶであろう場所で頑張っていらっしゃいます..。*♡ いつもいい事おっしゃるんですよ~!!!
私からのメッセージは、
「がんばりすぎないでね~」
「いつもありがとうございます(>▽<)!」です。ありがとうございます!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年10 月21日 (日) 08:51