(投稿:by 僻地の産科医)
第34回 日本産婦人科医会学術集会に参加してきましたo(^-^)o!!!
7日の演題はかなり硬派な社会派演題が続きました。
っていうか。かなり産婦人科の状況がおわかりになるような演題集です。
基調講演 医療事故の削減に向けて―基本に忠実な診療を― 副会長 木下勝之 シンポジウム 1・共同診療体制による明るい産科医療をめざして 「産婦人科診療ガイドライン…産科編」
「明るい未来の産婦人科医療体制に向けて」
宮崎大学 産婦人科 池ノ上克教授
2・当院における産科オープンシステムの現況と将来
三重県総合周産期母子医療センター 前田眞
3・周産期医療システムの現状と課題
厚労省雇用均等・児童家庭局母子保健課 小林秀幸
4・県立大野事件のその後
福島県立医科大学 産婦人科 佐藤章教授
北海道大学大学院医学研究科 産科・生殖医学 水上尚典教授
どれもすばらしい演題で、どちらかというと時間が足りず、まったく休憩もなく、もう駆け足状態!でもよかったです。飛行機に乗って駆けつけただけの意味がありました!
まずは無過失保障についての木下先生の演題から!
日医の常任理事でもいらっしゃる医会の副会長ですけれど、「無過失保障」の枠組み作り、そして「診療関連死委員会」でも活躍されています(>▽<)!!!!
寺尾産婦人科医会会長にご挨拶したのですけれど(寺尾会長とは文通というか、懐の深い方でいらっしゃって、すっかり甘えてお手紙お友達させていただいています!)なんとびっくりご紹介いただけました!!!もう感激。このブログをあげましたら、木下常任理事にもこちらのアドレスをお送りして、添削していただこうと考えています!
私を送り出してくださった、同僚・上司の先生方も喜んでくださると思います!
(寺尾会長、ありがとう存じます!!!)
内容としては、無過失補償などを導入し、(脳性麻痺のポスター内容についてはまた別途あげていきます)そして第三者機関等についてたちあげて、国民の方々に医療の不確実性について理解していただくとともに、私たち医療者も国民の安全にたいして歩みより努力していかねばならない、という内容でした。
医療に関連する死亡は絶対にゼロにはなりませんが、防ぎうる事例を防いでいこう、という誠意を示すことは、学会としては必要であろうと思われます。
産科ガイドラインについてもまた記事をアップする予定ですが、産科ガイドラインは私たち産科医を守ってくれると同時に、そのレベルを満たしていない場合には裁判で厳しく追及される可能性を含んだ出版物です。
また今週中にアップしますけれど、きちんと購入の上、勉強していただけるようにお願いいたします。
ではどうぞ!!!!(抄録は一番下です!)
医療事故の削減に向けて
―基本に忠実な診療を―
日本産婦人科医会副会長
日本医師会常任理事 木下勝之
昨今の産婦人科を取巻く情勢は厳しいものですが、日本産婦人科医会としてこの状況をよくしていくことについて、どうしていけばいいか、スライドに示すように方針をたてています。安心して診療を行うことができるために、刑事訴追に関しての排除や、無過失保障などの対策を現在推し進めていますが、それを推し進めていくためには、社会による産科医療に関する理解も必要です。
現に医療紛争の3割は産婦人科が占めています。
現在、そういったことから保険会社が「産科だけの保険金をあげよう」という話もなくはないのです。でも医療は相互扶助ですし、産科従事者としては、他の科のためにも紛争になる状態は極力避けていくことが責務でもあります。
わが国の刑法・民法の特色として、過失責任主義があります。すべての責任が医師にあるわけではないのに、刑事訴追も増加しています。訴訟を減らすには、産科補償制度の確立や、診療関連死に関して刑法を通じない、第三者機関による判断を求めるという仕組みの法制化が必要になると思います。
また一方で、われわれは防ぎうる事故を防げるように努力していかねばなりません。
われわれのできる、訴訟前の産科医療に関する環境整備としては、
1. 研修医の教育(研修ノート)、また生涯教育、診療ガイドラインなどがあります。産婦人科の訴訟の約4割が分娩周囲で起こっています。ガイドラインは我々を守ってくれる役割も果たすでしょうし、また逆に裁判の指標になるかもしれない。私たちは常に産科医療のレベルアップに関して努力し、そして仕方ないことは仕方ないと会をあげて訴えていかねばなりません。
2. 分娩周辺時の対応についての検討も必要です。
3. また事故・紛争が起こった場合の再検討。これは今後の医療へのフィードバッグ、そして医療対策上も大変に重要です。
4. そして今までも言われているように、安全マニュアルとか、病診連携などの整備です。
Ⅰ.安心して診療ができるための環境整備
まぁ、もう保助看法の看護師の分娩介助等については、いいとおもいます。
というのは、検察一致の法則というのがありまして、基本的には豊橋・青森・横浜地検の保助看法違反でいずれも不起訴になっています。
また看護師の内診問題で分娩を取りやめる診療所の増加による周産期医療の崩壊について「厚労省は現実的解決策を講じるべきだ」との声もあり、報道に変化がありました。
そのうえ、局長通知があります。局長通知がなくても、先ほど申し上げた「検察一致」の法則から立件はできないのですが、「分娩期に看護師等は医師の指導の下で、診療と助産の補助を行う」という一文が入っています。
というわけで、産科補償制度の制度理念について説明をしていきたいです。
こちらの制度については、かなり異論やご心配をいただいているようですが、訴訟を減らし、家族の精神的負担を減らすという意味では相互にとって意味があります。
産科補償制度については、いまのところ、2000g 32w以降、そして分娩後の場合に、調査が入ります。これに対して、委員会が「無過失」とするとお金が出ます。
多くの人は、「そのお金を握って、弁護士のところに駆け込むのでは」と心配されています。しかし、産科補償の委員会が一度「無過失」と決定したものについては、その後訴訟にしても、勝てないと思います。なぜなら、「医療は問題なかった」からです。
一方で、「医療に問題があった」とされたものに関しては、訴訟なり、の形へすすまざるを得ないとは思います。しかし、そうやっていかないと回らない、というのが本音です。
このお金なのですが、結局のところ、前から言っていたようにどうも分娩手当金が3万円にあがるらしいですので、各分娩機関は分娩費3万円値上げしてくださいo(^-^)o!!!左にシェーマを示します。
さて、現在「診療死に関する死因究明」委員会でやっていることから、いくつか皆様にお伝えしたいことがあります。
患者さんにお話をきくとこういうことをおっしゃるんです。我々は患者さん側の悩みや想いに歩み寄っていかねばなりません。
新しい仕組みに対して、患者、医療双方から要望があります。
一応今のところの案があがっています。
医療者側の希望としては、
医療機関→届出→第3者機関→その審査結果が医療機関へきて、悪質と思われる場合のみ警察への届出。
患者さん側の希望としては、
遺族→警察→警察としては医学的なことはわかりませんから鑑定を第三者機関へおろして→調査結果を警察にもどす、という形の大きく二つの案で検討が進んでいます。どちらにせよ、大事なのは警察を先に通すかどうかはどうなるかわかりませんが、実質的な判断は「第3者機関」が決めてくれる、という形になるようのが望ましく、調整中です。
去年の行政処分による医師免許取上げ等の行政処分ですが、刑事事件はそのうち7-8件で、あとは痴漢だったりする。へんな人を排除するのは大事かもしれないけれど。一緒くたにされるような問題じゃない。
医学的素人判断での刑事訴追をなくすために、どうしたらいいかということについて東京検察庁に何度も何度も乗り込んで対話を試みています。その中でいくつかご意見をいただきました。それについて述べていきます。
1. 東京地裁判事が提言する医療事故と医療訴訟を防ぐための方策
1) 医療行為の法的性質についての正しい知識
医療行為は患者と医師(病院)との間の契約に基づいて行われるものであると認識が必要(患者の認識の変化に追いつくこと)
① インフォームドコンセントを必ずとること
② 一方で、専門家としての後見的役割を自覚し患者との信頼関係を構築しておくこと。
2. 医療行為自体について
医療紛争には、いままでに「必ずそこのところを突っ込まれる」というつぼのようなところがある。毎回紛争の種になって、そしてもめる。産婦人科だと分娩監視装置の読み方といったところ。それについてよく勉強を。
3. あとこの辺は前から言っていますね。こういったことで、訴訟になる可能性がずいぶん減ります。
日本産婦人科医会は、偶発事例報告制度から医療事故の実態を把握しその傾向が明らかにしようと頑張っています。報告をしっかりとお願いします。事例ごとの傾向についてしっかり臨床にフィードバックしていけるように頑張っています。
次に医療関係訴訟の推移です。
まぁこんな感じですごい右肩上がりですo(^-^)o
H17のわかっているだけの脳性まひの人々18例中15例はすでに紛争中です。
H17の脳性まひ等、分娩にまつわる死亡例などの調査の結果です。
また医療事故事例の原因究明と再発予防対策として 「起こしやすい医療事故の原因究明と予防対策」産婦人科の世界 vol.59 No.5 May 2007 抄録 (第34回日本産婦人科医会学術集会 抄録集よりp38-40)
新連載「医療係争事例から学ぶ」 日本医師会雑誌 Vol.136 No.7 Oct 2007
こういったものをできればみなさまに読んでいただきたい。
いつも裁判でもめる事項は同じところなのです。医療者も対策をきっちりたてていくことが個人個人の医療対策だけではなく、産科全体への還元になります。
また地域としての取り組みとして、後ほど宮崎医大の池ノ上教授にお話いただきますが、死亡例等について徹底したカンファレンスなどを行い、開業医さんや二次機関へ積極的にフィードバックしていたら、全体としてきちんと結果につながったという例もあります。
基本に忠実な診療とは、ということをしっかり考えてやっていきましょう。
産科手術は適応と要約を満たしていること婦人科手術は骨盤解剖を熟知すること。
危険な手術は行わない。これが患者さんの安全にもつながります。
医療事故を減らすことは国民に対する責務であります。
今日でも、産科医不足や、厳しい労務環境ゆえに、分娩を取りやめる病院や診療所が増えている現状に対し、それでも、『産婦人科医療には夢があり、明日がある』と希望をもって、産婦人科を専攻する若手医師は、毎年300名を超えている。
このような、前途有為な若手医師が、臨床の第一線で、安心して、診療に従事できる環境を整備することは、産婦人科医会会員の共通の願いであり、使命である。患者の医療不信の最大の原因は、医療事故であるだけに、医師が安心して、患者との間の信頼関係の基に医療に従事するためには、医療事故をめぐる法的問題の解決が不可避であると同時に、医療事故の削減を達成することこそ、今後の医会が取り組むべき最大の課題である。
1.医療事故後の法的問題の整備
(1)産科補償制度の具体化への取り組み
産婦人科領域の医療紛争のうち最も頻皮の高いものは、脳性麻痺であるが、必ずしも医師に過失がある事例ばかりではない。そこで、患者の救済と医療訴訟軽減のために、日本医師会の要望を受けて、脳性麻痺に対する無過失補償制度を立ち上げることが、決まり、国は平成18年度補正予算で、準備のために、1億1千万円を計上した。現在、目本医療機能評価機構内に、準備委員会を設け、平成20年皮からの運営を目指して、制度つくりを行なっている。
(2)診療関連死の死因究明のための第3者機関を届出先とする新たな取り組み
福島県立大野病院の医師が、医師法21条違反と業務上過失致死傷罪の容疑で、逮捕拘留されたことは、産婦人科医に衝撃を与えた。異状死の届出先は警察であるとする医師法21条に、診療関連死もふくまれていることから、産科関連死でも、警察の捜査と、刑事訴追が増加している事実は、若手医師の産婦人科離れを助長している。そこで、今目、厚労省では、『診療に関連する死亡の死因究明のあり方に関する検討会』で、新たな法制化を視野に入れて、
① 診療関連死の届出先は、警察ではなく、第三者機関とする。
②調査報告書に基づき、過失があるときは、刑事罰ではなく、行政処分とする。という、方向性でまとめている。
2.医療事故削減のための対策
(1)産婦人科領域の医療紛争事例は内科、外科、整形外科と同様に、多く、しかも、高額賠償責任を問われるだけでなく、刑事訴追されることもある。脳性麻痺に対する無過失補償制度の成立と同時に、一方、産婦人科医会は、過失による脳性麻痺事例を削減することこそ、国民は本制度の存在に納得するものと思われる。そのために、分娩周辺期の胎児管理のあり方に習熟し、脳性麻痺削減を医会の重要な目標としなければならない。
(2)日本医師会医師賠償責任保険に付託された審査報告書から、各診療科での紛争事例の原因を調査することで、医療事故を起こしやすい診療内容についての事故予防対策作成が可能である。産帰人科領域では、新牛児死亡、脳性麻痺、母体死亡などの重篤な事例だけでなく、人工妊娠中絶術などの事故が多い内容に関して、事故事例の問題点と事故予防の留意点をまとめる作業が不可欠である。
(3)骨盤内手術の基本は、骨盤の臨床解剖の理解に基づく、出血量の少ない安全な手術でなければならない。全ての診療上の処置、操作は、注意深い、基本に忠実な手技により、事故は防げる。
無過失補償制度の構想については、過失調査を入れる方向で固まったのでしょうか?
(概念的には「過失の有無を問わない」ことを無過失補償というので、過失の調査は必須ではありません。)
モトケンブログのほうでも議論になりましたが、制度設計をどうするかは、理念的な面及び実際上の効果(訴訟抑止できるか)から、難しいと考えられます。
例えば、調査を入れるとして、補償範囲はどこまでとするか。過失が無い場合だけか、それとも有過失でも補償するのか。
有過失でも補償するとした場合に、さらに進んで通常の賠償請求をすることを許すのか。請求放棄と引き替えでなければ、それこそ裁判費用の元手を与えることになるでしょう。が、一方で少ない補償額で(そんなに高く出せるとも思えません)、請求放棄させることは公序良俗に反します。
投稿情報: YUNYUN | 2007年10 月 9日 (火) 03:59
過失調査を入れる方向はどうやら間違いがないようです。
まずは補償ありき、そして過失調査を行い分析する。シェーマを見る限り、そうなっています。ただこの過失調査にそれだけの信用性をつけられるかどうか、というところが一番の課題かもしれません。民事と刑事のように、まったく別個の理論で慰謝料をつけられるようになってしまえば、すべては元の木阿弥です。
過失ありの場合の補償については、木下先生にメールで確認してみます。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年10 月 9日 (火) 08:58
過失有りの場合は医賠責でという方向性のように見受けられます。
厚労省は死因究明機関と一本化したいということなのでしょうか?
…原因分析(RCA)やってみれば分かりますが、原因となったか否かの判断と過失無過失の判断は、直接関係しません。むしろ「べき論」が横行すれば、最終段階でトリガーになった人物だけに無理な責任が押しつけられることになりますし、逆に関係者全員が責任を問われるということにもなりかねません。
特に後者の方がRCAの本来の姿を反映していますが、結局、人手不足や資金不足が毎度毎度問題として上がってくるようでは、厚労省(相)自身が責任を問われることになります。厚労省としては呑めない話ですから、前者で押してくるだろうと思いますが、そんな方法論は医療安全の確保と再発の防止という本来の目的とは根本から乖離してきてしまいます。
インセンティブ設計の上からも、conflict of interestの回避の上からも、きちんとした制度設計をするとしたら、もっと真面目にやらんと機能するものができあがらないでしょう。
厚労省が二流・三流の役所扱いされ続ける理由は、制度設計のセンスの(無さの)中にありますが、今回のは相当に酷いですね。
投稿情報: rijin | 2007年10 月 9日 (火) 10:16
> 過失有りの場合は医賠責でという方向性
ええと、調査して、無過失と立証できた場合にだけ補償するのですか?
それでは、患者にとってメリットが少ないと思います。
無過失補償を請求して無過失の立証ができず給付されない、かといって、訴訟しても過失の立証ができず損害賠償も受けられないという八方塞がりになるおそれ。無過失であることが立証できる場合でも、給付を受けるまでに時間がかかります。
それぐらいなら、逆に最初から訴訟提起して、万一敗訴したときは次善の策として無過失補償を請求しようという態度に流れるかもしれません。
よって、順序としては過失調査を先行させるのではなく、
脳性麻痺の病名さえ特定できれば、一旦は全員に補償金を支払い、後に調査して過失が判明したら、補償金額を医賠責に対して求償する
というようなしくみにすべきではないでしょうか。
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> 原因となったか否かの判断と過失無過失の判断は、直接関係しません
損害賠償の法律要件のうち、因果関係の問題と、過失の問題という趣旨ですか?
そういう意味なら、両者は別の要素であり、代替されるものではありません。
> きちんとした制度設計をするとしたら、もっと真面目にやらんと機能するものができあがらないでしょう
その通りと思います。
投稿情報: YUNYUN | 2007年10 月10日 (水) 03:12
YUNYUN先生、こんにちは。
> よって、順序としては過失調査を先行させるのではなく、
> 脳性麻痺の病名さえ特定できれば、一旦は全員に補償金を支払い、後に調査して過失が判明したら、補償金額を医賠責に対して求償する
> というようなしくみにすべきではないでしょうか。
おっしゃるとおりと思います。
厚労省として、過失無過失を自分の影響力のあるところで確定する力を独占したいというのがあるようのかも知れません。
しかしながら、現場の医師は臨床経験の乏しい医系技官の判断など支持しませんし、警察も検察も独自の判断を留保するでしょう。
補償制度の事務局が医療機能評価機構に設置されるということで、現場に対して一定の権威付けに利用できることは確かではあります。意図はともかく、将来、これが厚労省の隠れ蓑として機能するだろうことは間違いないように思います。
また、死因究明機関も壁に突き当たっており、議事録を読むと、原因はやはり厚労省の権限拡大へのこだわりにあるように思われてなりません。
国民のために真摯に問題解決に邁進するというよりも、これを機に権限を強化しようという雰囲気ばかりを感じます。
投稿情報: rijin | 2007年10 月10日 (水) 11:14