臨床婦人科産科 2007年03月発行(Vol.61 No.3) ぽち→
今月の臨床 周産期医療の崩壊を防ごう http://www.igaku-shoin.co.jp/prd/00146/0014633.html
論文、結論怖いです。
「早期新生児死亡率と産婦人科医師割合との問に有意な負の相関が認められた」とか
「新生児死亡率および乳児死亡率はいずれも人口1,000人当たりの産婦人医師数,小児科医師数に対して有意な負の相関を認めた」
とかさらっと書いてあります。ぜひ読んでみてください..。*♡
周産期医療の集約化,地域のネットワークづくり 1
北海道における周産期医療の集約化の現状と問題点
石川 睦男
(臨婦産61巻3号・2007年3月 233-237)
はじめに
産婦人科医の絶対的不足から日本各地からお産ができないと悲惨な声が巻き起きている.この状況は広大な北海道ではさらに深刻で,医療提供機能の低下から新生児死亡率や乳児死亡率の増加など北海道民の健康被害が現れてきており,さらに妊産婦死亡の増加が危倶されている1〕.
北海道における産婦人科医数ならびに周産期医療にかかわる医師数
北海道における産婦人科医師数は平成10年に450人,平成12年は457人,平成14年は455人,平成16年は422人と確実に減少してきている.日本産科婦人科学会の2005年12月1日の全国周産期医療データベースに関する実態調査によると,北海道で分娩に携わっている産婦人科医は病院に257人,有床診療所に59人,総数316人であった.また,産婦人科医が1名の施設が病院でほぼ20%,診療所では70%近くで,10名以上の施設は3医育機関のみである(表1).
このように北海道では周産期に携わる産婦人科医数は少ないことに加え、大部分が札幌と旭川に集中している.さらに,広大な北海道において距離の因子が集約化に重い負荷となっている.
北海道における周産期医療の現状
前述の産婦人科医数を反映して道内の周産期医療の現状は惨憺たるものである.
1.産婦人科医数と周産期指標
われわれは,北海道における第二次医療圏における産婦人科医師と小児科医数と周産期医療のアウトカム指標などの及ぼす影響について検討した.医師数は平成10年から平成14年の厚生労働省の医師調査を用い,周産期の各指標は北海道衛生統計年報を使用して第二次医療圏ごとに算出した.
図1の棒グラフに示されるように,宗谷,留萌,日高,東胆振,西胆振は北海道において人口10万人当たりの産婦人科医師数が最も少なく,周産期指数では早期新生児死亡率が図において色濃く描画されているように非常に高くなっていた.早期新生児死亡率と産婦人科医師割合との間に有意な負の相関が認められた(rl=O.560,p<0.01)(図1).
図2と図3において色濃く描画されている留萌や日高は,新生児死亡率,乳児死亡率が最も高く,産婦人科医師数および小児科医師数は極端に少なかった.さらに,北海道の北部や東部も同様な関係の傾向がみられた.計量分析を試みると,新生児死亡率および乳児死亡率はいずれも人口1,000人当たりの産婦人医師数(r1=α575,p<0.01),小児科医師数(r2=0,490,p<0.05)に対して有意な負の相関を認めた(図2,図3).
「医師の偏在により産婦人科医師・小児科医師の不足が生じている地域は周産期医療の水準が低下している」という知見は,エビデンスとして間違いなく,早急に対策を講じる必要があると結論だった1).
2.現在の北海道における産婦人科医の配置
先般,厚生労働科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業「分娩施設の集約化モデル事業」2)の市民公開フォーラム「北海道のお産をまもるために」を開催した(表2).そのなかで,道内の3医育大学の医師派遣状況を総合して分析を試みた.図4に示す北海道全域で分娩のできる施設は限定されてきている.
根室地区をみると,この管内での分娩数は約250件で,本年9月から市立病院への派遣がなくなった.そのため,ここの住民の大部分が2時間かけて124km離れた釧路市で分娩することが余儀なくされた.根室市立病院では週2日の外来診療のみで,妊婦は予定日近くなると釧路市内での待機を余儀なくされている.根室市は交通費の補助をしている.一方,釧路市では分娩を取り扱う有床診療所は1か所で,ほとんどの分娩は市内の3か所の公立病院で対応している,産婦人科医数は施設当たり3名から5名の総計12名で1,500件の分娩となり,1人当たり130件となる.また,日本の最北端の稚内市においては,この地域で唯一分娩を取り扱う市立病院に大学から派遣されていた常勤医が3名から1名となり,大学から1名の非常勤交代の出張で対応してきたが,本年秋から来年3月まで限定で常勤医が大学の出張の代わりに赴任となった.また,島根の隠岐の島が今話題になっているが,以前から利尻島,礼文島の住民は出産近くなると稚内市に移住して分娩まで待機している.いずれにしても,2名で300名の分娩を管理しなくてはならない.さらに,ハイリスク
の妊産婦の住民は5時間かけて249km先の旭川の旭川医科大学病院か旭川厚生病院に転送される.日高地区の浦河赤十字病院への大学からの常勤医の派遣の中止が決定され,分娩の取り扱いの中止が検討された,しかし,300名の分娩が156km離れた苫小牧市まで3時間かけて移動することは困難であるとの住民からの反対運動のため,苫小牧市の企業立病院からの1週問交代で非常勤の医師派遣でローリスクの分娩のみを取り扱っている.
同様に留萌市の市立病院は大学からの非常勤医に
より230名の分娩を取り扱っている.しかし,福島の大野病院事件以降,1人の産婦人科医での診療は医師が不安を抱えながら行っている現状である.
北海道の集約化の状況
紋別市にある道立病院に大学からの2名の派遣がなくなり,近隣の遠軽の厚生病院に集約し3名体制となった.道立病院では1名の常勤医がローリスクの分娩のみを取り扱っている.空知地区においては滝川市,砂川市,美唄市の市立病院に常勤医を大学から派遣されていたが,滝川市に集約し5名体制とし,ほかの2病院は週3日の外来診療のみとした.
これまでの集約化は,各大学が独自で行ってきたが,道内の3医育大学産婦人科教室と北海道保険福祉部と協議会を設けて,周産期医療における産婦人科医,小児科医の配置のあり方について協議を重ねてきた.また.3医育大学の産婦人科教授と産婦人科の大学病院長とも個別で検討してきたが,今後は北海道医療対策協議会の自治体病院等広域化化検討分科会で議論と調整が進められる予定である.
北海道の集約化の問題点
まず,北海道大学が今回のフォーラムで報告したが,現在の北海道の産婦人科医数は必要人数の半数しか存在せず,集約化に白ずから限界があることを指摘しておかなければならない.第二に広大な北海道であることによる,集約した場合の妊産婦の移動や搬送に要する距離とそれに伴う時間のファクターである.奈良県の妊婦搬送の遅れが問題視されているが,果たして2時間,3時間かけて搬送することで妊産婦ならびに胎児,新生児の安全が担保されるであろうか.この観点からの科学的分析と検証が必要である.事実,われわれの研究では産婦人科医数,小児科医師数と周産期アウトカムが逆相関を示しており,ここに距離と時問の因子も関連することが予想されるが,さらなる研究を加えなければならない.
最後に,北海道において集約化はほぼ限界まできており,これからはいかに産婦人科医を増やすかにかかっており,今後産婦人科医の増加がなければ北海道でお産難民が各地でみられるであろう.当面の対策として,ローリスクの分娩の有床診療所や助産所などでの棲み分けなど,われわれは医療を受ける立場の人たちの視点で英知を今こそ結集しなくてはならない.
文献
1)今井博久,伊藤俊弘,吉田貴彦,他:産婦人科・小児科医師数と周産期指標との関連性.日本医事新報4246:28-32.2005
2)岡村州博:地域における分娩趾節の適正化に関する研究.厚生労働科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業,平成15年度~17年度,総合研究報告書.2006年3月
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