「助産師充足状況緊急実態調査」の実施結果について報告
(日本産婦人科医会報1月号p3-4)
平成16年9月厚労省医政局看護課長通知により看護師の妊婦に対する内診が全面的に禁止された。全出生数の46.7%約54万人の分娩を取り扱うわれわれ有床診療所にとっては衝撃的な問題であり、日本の周産期医療を壊滅させる危機的問題である。
昭和23年に保助看法が制定されて以来50有余年、われわれ分娩取り扱い施設は数少ない助産師とこれを補う数多くのベテラン看護師の協力のもとに日本の周産期医療を世界のトップ水準にまで向上させてきた。しかし現在分娩の監視に対して看護師の関与が制約されてしまった。
医会はこれを打開すべく法の改正問題や種々努力してきたがそのひとつとして17年12月6日に坂元会長らが川崎二郎時の厚生労働大臣と面会し、助産師が充足されるまでの「看護師による分娩経過観察を可とする特別措置に関する要望書」を提出した。ところが、2日後に厚労省は第六次助産師需給見通しは「ほぼ充足」と発表、われわれが提出した要望書の「不足」とは矛盾と乖離があった。われわれは実数を提示して早急に反論する必要があった。このために医会は全国6,363施設に「助産師充足状況緊急実態調査」を行った。
回答された集計結果を日本医師会に所属する日医総研に
分析していただいた結果が出たので報告する。
方法:2005年12月時点で、産婦人科を標祷し、且つ診療を実施している全国の医療機関6,363施設(内訳は、病院が1,898施設、診療所が4,465施設)の責任者を対象とし、郵送法による無記名アンケート調査を実施した。
調査結果:有効回答数は、5,861施設で、その内訳は、病院1,730施設、診療所4,131施設であった。これらのうち、分娩取扱い有りの施設は、病院1,247施設、診療所1,658施設であった。
所在地別にみた、産婦人科を標祷する施設種類の分布状況:分娩取扱い有りの施設で最も多いのは束京都、次いで愛知県、大阪府、神奈川県、福岡県の順であった。これを病院と診療所の別でみると、病院について最も多いのは、東京都、次いで大阪府、神奈川県、愛知県、北海道の順であった。診療所について最も多いのは愛知県、福岡県、東京都、大阪府、兵庫県の順であった。
産科病床数の分布状況:病院では、1床から19床が最も多く529施設、次いで20床から29床が344施設、30床から39床が199施設の順であった。
助産師募集状況:病院では、募集している施設が最も多く756施設、次いで募集していない施設が258施設、半年間応募無しが217施設の順であった。一方診療所では、募集しているにもかかわらず半年間応募が無い施設が最も多く637施設、次いで募集している施設が591施設、募集していない施設が415施設という順であった。診療所についての応募の状況は、病院と比べて少なく、より厳しい状況であることが示されている。
常勤助産師数の分布状況:病院では、常勤助産師の従事者数が1人から9人の施設が599施設で最も多く、次いで10人から19人が447施設、20人から29人が128施設などの順であった。診療所では、1人から9人が最も多く1,085施設、次いで0人が555施設、10人から19人が11施設であった。病院では、ほとんど施設に常勤助産師が従事している一方で、診療所において常勤助産師が従事している施設数は約3分の2となっている。
非常勤及び嘱託助産師の分布状況(常勤換算):病院の分布をみると、O人が710施設で最も多く、次いでO.5人が264施設、1人が134施設などの順であった。診療所では、0人が808施設で最も多く、次いで1.5人が361施設、1人が192施設であった。
分娩有り施設の病院については、助産師総数が0人の施設は、10施設(0.8%)であったが、診療所では311施設で18.8%も占め、このことからも、助産師の従事状況からみた分娩環境が十分に整っていない実態が示されていた。
必要助産師数の分布状況:病院では10.5人から15.0人が267施設と最も多く、次いで15.5人から20.O人が179施設、20.5人から30.0人が154施設などの順であった。診療所では、4.5人から5.0人が213施設で最も多く、次いで5.5人から6.0人が211施設、6.5人から7.O人が192施設などの順であった。
充足率の分布状況:0施設を除く計4,301施設を対象に、必要な助産師数に対する実際の従事者数の割合として、助産師の充足率を算出した。病院では、100%以上が396施設で最も多く、次いで充足率70%~80%未満及び80%~90%未満が各々187施設などの順であった。一方、診療所では、充足率O%が250施設で最も多く、次いで100%以上が242施設、O%~10%未満が175施設、20%~30%未満が141施設で、充足率の分布にばらつきが見られるとともに、必要な助産師が十分に確保されていない状況が示唆されていた。
都道府県別にみた充足率の分布状況:助産師の充足率30%未満の施設は、全国では病院において6.8%、診療所において44.9%存在した。
病院で充足率30%未満施設の割合が最も大きかったのは佐賀県で25.O%であり、次いで山梨県が、茨城県が、広島県などの順であった。診療所では充足率30%未満施設の割合が最も大きかったのは香川県で62.5%、次いで沖縄県、佐賀県、熊本県などの順であった。また充足率0%の施設が、病院でO.8%、診療所では15.8%存在した。診療所について、充足率O%の施設の割合が最も大きかったのは香川県で37.5%、次いで山梨県、高知県、佐賀県などの順であった。特に診療所において、助産師の充足率が非常に低い状態であることが示されていた。
充足率区分別にみた年間分娩数:ほぼ全国の産科における分娩の実態を表しているものと考えられる。助産師充足率30%未満の施設における分娩数は、病院の分娩数全体の4.O%に当たる14,048件あった。診療所では、診療所の分娩数全体の30.3%に当たる144,539件の分娩が、助産師充足率30%未満の施設において行われていた。
さらに、病院及び診療所の充足区分率にみた分娩数の分布をみると、病院では充足率90%未満をピークに、充足率の割合が高い区分に分娩数が分布しているのに対し、診療所では、充足率に関係なく分娩数が3万台から4万台に定している。助産師の充足状況からみた病院における助産体制は決して十分とは言えないが、診療所における助産体制は、病院よりもさらに深刻な状態にあることが示唆されていた。
まとめ
(1)調査対象施設における年問の分娩数は、病院で517,820件、診療所で476,770件、計994,590件あった。なお、平成17年の人□動態統計の年問推計における年問出生数は1067,O00人であり、本調査から得られた上記の分娩数は国の推計値に近く、ほぼ全国の産科における分娩の実態を表しているものとして貴重なデータと言える。
(2)分娩取扱い有りの病院834施設(66.9%)、診療所1,343施設(81.O%)、計2,177施設(74.9%)において、助産師の充足率が100%を満たしていない状況であった。
とくに充足率が30%未満の施設数の割合は、病院で6.8%、診療所で44.9%、さらに充足率O%の施設については病院1.2%に対し、診療所では18.6%で極めて深刻な不足の実態が示されていた。
(3)助産師充足卒30%未満の施設における分娩数は、病院の分娩数全体の4.0%に当たる14,048件、診療所では分娩数全体の30.3%に当たる144,539件、計158,587件の分娩が、助産師充足率30%未満の施設において行われていた。助産
師の充足状況からみた病院における助産体制は、決して十分とは言えないが、診療所における助産体制は、病院よりもさらに深刻な状態にあることが示唆されている。助産師の充足状況は、実際の分娩にも影響を与えていると考えられる。
(4)都道府県の施設所在地別の20~39歳女性人口1万人当たりの分娩取扱い施設数は、全国平均1.69施設に対し、かなりの差異が見られた。長崎県3.48施設、島根県3.41施設、佐賀県3.24施設、山形県3.21などが比較的高い数値であったのに対し、埼玉県O.98施設、束京都0.99施設、神奈川県1.14施設、大阪府1.25施設などの大都市圏を抱える所在地においては、全国平均を大きく下同る結果となっている。
このような所在地による分娩取扱い施設の偏在の問題につ
いても、実態の把握が必要であると考えられる。
*注、詳細は日本産婦人科医会に保管されている。必要な方は医会に問い合わせていただきたい。
今後は施設の基本データを毎年支部から報告していただくことになった。会員各位のご協力をお願いしたい。
今後の産科医療のあり方に関する会員のアンケート調査
(日本産婦人科医会報1月号p6-7)
E.看護師の内診問題について
1.分娩の管理上、過去に看護師に内診させたことがありますか?
分娩を取り扱っている施設では病院の約25%、診療所の75%があったと回答している。一方、分娩を取り扱っていない施設でも病院の50%、診療所の48.5%があったとの回答であった(表9、図2)。(主に看護課長通知以前のことである。)
2法律の改正、あるいは解釈の変更により看護師の内診を認めるべきとする意見があります。このことについてのご意見は?
・法律で決められたことであり、実際上違反として処罰されている。看護師の内診を認めるべきでない。
・法律を改正して分娩第一期の内診を認めるようにすべき。専門看護師の制度を設けて産婦の経過管理を認める。
・助産師制度そのものを見直すべきである。
この設問に対する回答は表10のごとくであった。内診を認めるべきとの回答は有床診療所で54.O%であったが、病院・無床診療所では約30%であった。それに対して内診を認めるべきでないとの意見は有床診では11.34%に過ぎなかったが、病院では26.8%、無床診では21.8%であった。専門看護師の制度を設けるとの考えは病院35.4%、有床診の28%にみられた。
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