五里夢中於札幌菊水先生から早速エントリーがあり、 ぽち→
さっそく読んでみますたo(^-^)o..。*♡
この論文の問題点
そのいち。
「医師需給に関する検討会」の資料を信用してはいけません(笑)。
だって年齢制限なしで80歳でも1人として数えられています。
詳細は新小児科医のつぶやき先生にお譲りするとして、
実は私の身内にも脳外科が二人おりまして、他人事ではありません(笑)。ではどうぞ!
わが国の脳神経外科医は多いのか
(脳神経外科速報 vol.17 no4 2007.4.p520)
わが国の脳神経外科医は多すぎるという議論がある。しかし、医療の現場を見ると、脳神経外科は明らかに不足しているうえ、大学の医局などでは求人がひっきりなしである。これはどうしたことであろうか。
一昨年3月に行われた厚生労働省の「医師需給に関する検討会」の資料によると、米国の人口当たりの医師数を1.0とした場合のわが国の医師数は全臨床医でみれば0.9とほぼ同数であるが、脳神経外科は3.4と断然多く、整形外科2.0、外科1.5、胸部外科1.4と続く。ちなみに相対的に少ない診療科は麻酔科0.4、小児科0.5、産婦人科0.8である。おそらくこのようなデータを根拠として脳神経外科の多寡が論じられているのかと思われる。しかし、彼我の医療制度、ここでは特に脳神経外科の位置づけを明確にしてからでないとこのような数字のみを取り上げるのは無意味である。
わが国の脳神経外科は基本領域の診療科に属している。これには18科あるが、地上面を社会とすると、建物で例えれば基本領域は1階部分に相当する。すなわち、社会と直接接しており、他の診療分野と大きく重ならない基本的な診療領域を担当しているわけである。しかし、脳神経外科は2階や3階部分といったきわめて高度に専門分化した領域も含んでいる。一方、心臓血管外科は外科の2階に位置しており、神経内科も内科の2階に分類される。そのため脳神経外科を高度な専門分野(2階以上)とだけ定義すると確かに今の6,000名を超える専門医数は多すぎる。人口約2万人に1人の脳神経外科を持つ国は世界中で日本だけである。しかし、幅広い1階部分をはじめ手術以外のさまざまな診療をも担当している現状からはまだまだ不足しているという結論になる。実際、脳卒中の初療を誰がするかという脳神経外科学会の全国調査によると、脳神経外科が56%であり、内科医は5.5%にすぎない。
世界保健機構(WHO)の2000年の集計によると、わが国以外のいずれの国でも神経内科医は脳神経外科の2-4倍存在する。しかるに、わが国では逆に脳神経外科医が3.2倍多い。英国を極端な例外として除くと、一般に神経内科医は人口2~5万人に1人いるが、わが国では6万3千人に1人である。すなわち、もし神経内科医または神経疾患を診ることができる医師が今後十分増えてくれば1階部分の脳神経外科医は現状よりも少なくてよいことになる。
以上のようなわが国独自の脳神経外科の特徴と発展史上の背景を抜きにその数の多寡を論ずることは不適切である。脳神経外科学会としても社会における脳神経外科医の役割や貢献の実態を強くアピールしていく必要を感じている。
「硫黄島からの手紙」の味わい
金沢大学脳神経外科 濱田潤一郎
(脳神経外科 35巻6号 2007年6月p536-537)
硫黄島に関する映画が2本,アメリカで製作されることになったという話は早くから聞いていた.1本はアメリカの立場から,もう1本のテーマは日本の立場からという発想がユニークで,関心をかき立てられていた.
クリント・イーストウッド監督が日本側の視点で硫黄島の戦いを描いた「硫黄島からの手紙」は,それより先に公開されたアメリカ側からの「父親達の星条旗」との2部作の1本としても,独立した作品としても観ることができる.残念ながら「父親達の星条旗」は未見だが,「硫黄島からの手紙」は是非とも観たいと思い劇場へと足を運んだ.
東京から南へ1,250キロメートル.そこに,太平洋戦争最大の激戦地となった硫黄島がある.世田谷区の半分の広さしかない小島に,昭和20年2月,米軍は大挙して攻め寄せた.海を埋め尽くす艦船,戦艦の艦砲射撃や航空機の爆撃に支援されて,上陸する部隊は6万,後方部隊を含めると実に16万にも及んだ.これに対し,守備する日本軍は2万余名.米軍指揮官は「5日で落ちる」とたかをくくったという.
しかし,硫黄島は落ちなかった.
陸軍中将栗林忠道の指揮により,大規模な地下陣地を構築,全島を要塞化したうえで,徹底した持久戦に臨んだからである.日本軍将兵にすれば,やすやすと敗れるわけにはいかなかった.島を奪われれば,敵機による本土への大空襲が行われてしまう.「白分たちが,1日でも長く島を守ること,それがすなわち,本土にいる家族を守ることなのだ」その思いが,水もない劣悪な環境下で,栗林中将以下の将兵を奮い立たせた.圧倒的な兵力差がありながら,激闘は実に,36日間続く.「生きて帰ることができない」必敗の戦場で飢えと渇きの中,戦って散っていった多くの男たちがいた.最後まで家族を思い,島に散っていった彼らの戦いは今,私たちに何を語りかけてくるのだろうか.
飛躍しすぎかもしれないが,今急速に破綻に向かっている日本の医療と硫黄島の戦いとが重なり合ってしまった.多くの矛盾と不合理を抱えながらも,日本の医療を支えてきた医局制度は,現実を無視した理想論の前に崩れ去ろうとしている.以前は医局が医師をコントロールし,教授の権限(?)で僻地にも医師が派遣されていた.その代わり,あとで厚遇されたり医局に守られたりという見返りがあったと思う.勤務地が自由に選べるのなら,だれも僻地へ行かなくなるのは火を見るよりも明らかである.健全な医療を行おうとすれば,当然のごとく医師の私生活がずたずたに破壊される.それに気づいた若い医師たちは,雪崩をうって個人主義に走り出した.苦しい勤務から逃げ,医療訴訟のリスクの高い科を避け,過疎地を離れ,患者を置き去りにしていく.
従来の医局制度が破綻し,医師は自由な選択権を得た代わりに,安定と将来の保障を失ってしまった.世問は不透明な寄付や名義借りをしなくてすむようになった代わりに,地域医療と産科医・小児科医を失った.患者は医療訴訟で権利が守られるようになった代わりに,訴訟のリスクの高い科の医師を失いつつある.
東京慈恵会医科大学附属青戸病院の事件のあと,マスコミは無謀な手術を防ぐために,医師の技量を開示するよう医療界に強く求めた.そうすれば,患者は技量の高い医師に手術を受けられるといわんばかりである.しかし,これは医療に要求される典型的な二律背反の1つである.患者はだれでも熟練者に治療を受けたいと思うが,だれかが未熟な医師の治療を受けなければ,永遠に熟練者は生まれない.もし外科医が執刀数を開示すれば,ほとんどの患者がベテランの術者を選ぶだろう.すると初心者は執刀数を増やすことができず,いつまでたってもベテランになれない.その問題に触れずに,患者の視点に立っているかのような新聞の社説にはあきれる.典型的な偽善報道である.世間が早くそういう社説を,「バカバカしい」と思うようになれば,もう少し踏み込んだ議論がなされるようになるだろう.研修中は指導医がついて,万全の態勢で安全をはかるが,人間のすることだから,百パーセントの安全を保証することはできない.その犠牲を拒んでいては,一人前の医師を育てることは不可能である.だから,万一の場合の保障を充実させる.マスコミはその万一の場合が許せないと騒ぐが,専門家がベストを尽くしても,危険率をゼロにすることはできない.それを無理にでもゼロにしようとするには,途方もない努力とお金が必要だ.それよりも無過失補償制度を充実させることのほうが,はるかに重要で建設的だと思う.
いかに外圧が理不尽であろうと,日本の脳神経外科医療を守るために,われわれ脳神経外科医は黙々と働き続けて散って行く以外にはないことを「硫黄島からの手紙」を観て思った.そして,前線部隊の指揮官としては自らが先頭に立って奮戦しなければならないと思った.また,自分のこうした思いを共有していてくれると信じるに足りる教室員たちをもったことを少し誇らしくも思った(教室員には内緒だが).
抜粋ではあるが,栗林中将が最後の出撃の際,「日本国民が諾君の忠君愛国の精神に燃え,諸君の勲功をたたえ,諸君の霊に対して涙して黙祷を掲げる日がいつか来るであろう.」と別辞したそうだ.遅すぎることを詫びながらも,戦って命を落された日米の方々に心から哀悼の意を捧げたい.合掌.
(日本軍戦死傷者21,900名米軍戦死傷者28,686名)
金沢大学濱田教授の扉いいですね。この先生、飲んだらもっとおもしろい先生です。
さて、これに関しては1年前、私が初めてブログに接し、初コメントしたのがこの記事。この記事はかなり反響を読んだと記憶しています。
「やぶ医師のつぶやき」〜健康、病気なし、医者いらずを目指して
http://blog.m3.com/yabuishitubuyaki/20060516/1
新人脳外科医2割減少
日本の脳外科医が脳梗塞を診るのは良いことだと思います。血圧管理が良くなって脳出血が減り、脳梗塞が増えていますが、頚動脈狭窄の症例、バイパスが必要な症例が増えてきてますから脳血管障害を扱う脳外科医の数は最小限必要です。都市部では脳外科医が多すぎて手術症例が少ないのも現実ですが、これをマスコミで多く取り上げ過ぎて脳外科医過剰論を聞いた新人研修医はびびった人も多かったのでは?現在の研修システムですと研修中に3年目の専攻を選ぶ時間も豊富ですから、いろいろ考えて忙しい科は敬遠されるのでしょうか?
10月よりアメリカで臨床予定の脳外科医より
>Tai-chan先生
はじめまして。
私もそう思います。
一番違うのは、リハビリの開始時期ですね。
脳外科専門の施設だと、脳梗塞の患者に慣れたリハビリの運動療法士さんとかが多いでしょうから、安心して早めにまかせられると思うんですが。
一般病院で、内科が診ると、そうしても後手を踏んでしまうんですよ。
早くやった方が良いってのは、一応はわかってはいるんですけどね。
やはり研修医は、今後の一生の事を考えると、忙しくてリスクも高くて、給料も同じっていうのであれば、敬遠するんではないですかね。Dr. I
投稿情報: Taichan | 2007年7 月 3日 (火) 23:30
確かに、日本の脳外科医の先生がたの仕事の内容の広さとかを考えると・・・もっともです。そして硫黄島の戦いは、消耗戦で補給がどんどん切れている中で、やはり専門医として残っていくためには、なんらかのインセンティブ(プラス評価)がないと、危険な仕事なだけに、産科医療と同じような絶滅の危険性があります。
ありがとうございました。
投稿情報: skyteam | 2007年7 月 4日 (水) 06:20
僻地の産科医先生、はじめまして。いつも更新を楽しみにさせて頂いております。元気一杯のハートマークに続いて紹介される暗い医療ニュースとのコントラストがとってもシュール!
本日ご紹介の「硫黄島からの手紙」の味わい…の中に、「大学病院のウラは墓場―医学部が患者を殺す」(久坂部羊 著)から書き写した(!)と思われるフレーズがあったので、思わずインスパイアされたのは「硫黄島…」ではなくてこちらの御本ではないですかと指摘したくなりました(笑)
http://d.hatena.ne.jp/Nylon/20061204
投稿情報: Nylon | 2007年7 月 4日 (水) 14:48
Taichan先生o(^-^)o..。*♡
コメントありがとうございます!
先生からはコメントをいただけるものと思っておりました(笑)。
うれしいです。
アメリカと日本での脳外科医としての仕事には大きな差がありますか?
ぜひぜひお尋ねしてみたいです!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年7 月 4日 (水) 21:50
こんばんは
トラックバックありがとうございました。
濱田教授の文章は、恐らく、日本に生息する自称コラムニストと呼ばれる方々よりも重厚で説得力がありますね...。表層だけをながめて断罪するマスコミには辟易するばかりです。脳神経外科医は足りていない。これは明らかですね....。
こちらからもトラックバックさせていただきました。
投稿情報: いなか小児科医 | 2007年7 月 4日 (水) 21:50
>skyteam先生..。*♡
硫黄島で連想することは一緒かなって感じましたです!
先生のブログでの硫黄島の感想、とってもよかったの覚えていますです。
> 従来の医局制度が破綻し,医師は自由な選択権を得た代わりに,
> 安定と将来の保障を失ってしまった.世問は不透明な寄付や名義借り
> をしなくてすむようになった代わりに,地域医療と産科医・小児科医を失った.
> 患者は医療訴訟で権利が守られるようになった代わりに,訴訟のリスクの高い科の医師を失いつつある.
の部分がいいかな!っておもいましたです。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年7 月 4日 (水) 21:52
> Nylon先生!!
コメントありがとうございます!
先生のブログしりませんでした(>▽<)!!!!!
明日から早速巡回コース(←回りきれていないのですけれど(^^;)。)
に入れさせていただきます!!
本当に引用と言うか、そのまま使っていますね。
確認してしまいました(笑)!
ご指摘ありがとうございます。
(じつは『大学病院の・・・』は読んでいないんです。
作者さんに抵抗があって。なんとなく。好き嫌いはダメですね!)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年7 月 4日 (水) 21:56
> いなか小児科医先生o(^-^)o ..。*♡
コメントありがとうございます!
先生の引用されていた記事は、本当に反吐が出るような文章で。
ああいう論調が出てくるっていうのは、
「医師需給に関する検討会」の資料には十分意味があるんですね。。。
厚労省の陰謀と言うか、ネガティブキャンペーンです!
医師不足と自治体病院 日医ニュース 第1093号(平成19年3月20日)
http://www.med.or.jp/nichinews/n190320p.html
の先生なんて怒り狂ってるのに。。。(参加者なのに)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年7 月 4日 (水) 22:00