地域周産期医療の問題点 今年(2007年)の新生児学会抄録より
ポスターセッションから5つo(^-^)o 。
P-403地方における集約化の現状
名寄市立総合病院
○宮川博栄,川村光弘
【はじめに】
産科医の減少ともない産科医師の過酷な勤務状況の改善や良質な医療を提供するために分娩場所の再編成がすすめられてきた.旭川以北の道北地域において2004年から2006年にかけて分娩取り扱いを休止または制限した施設は3施設であり,そのため当院の医師数は3人から4人(2004年度のみ5人)へと増員された.再構成により産科医師の勤務状況の改善および良質な医療を提供が進んだかを検討する.
【方法】
当院で2003年から2006年まで分娩したものを対象とし,通院圏の変化,分娩時救急搬送になった妊婦の分析および当院産婦人科医の一人あたりの分娩取り扱い数,時間外に取り扱った分娩数に関して考察する.
【結果】
当院の2003年の分娩数は450人そのうち時間内の分娩数は231人,時間外が219人であった.医師一人あたりの分娩取り扱い数は150人,時間外は73人であった.一方2006年の分娩数は598人,時聞内の分娩数は313人で時間外は285人,医師一人あたりの分娩取り扱い数は時間内で149.5人,時間外は71.3人でほとんど変化がなく一人あたりの分娩件数で考えると勤務状態の改善はみとめられなかった.通院に2時間以上要した妊産婦は2003年が約17%であったのに対し2006年は19%であった.さらに2時間30分以上要した妊婦は2000年が約0.4%であったのに対し2006年は約3%であった.分娩にともなう救急車による市外からの搬送は2003年には1人だったが2005年には5人であった.2005年には常位胎盤早期剥離を発症後すぐに行動をおこしたとおもわれるが,当院到着まで約3時間要し母体は救命できたが,胎児は死亡した症例があった.
【結論】
当科においては産婦人科医師一人当たりの仕事量は減少していないとおもわれ,勤務状態の改善はみとめられなかった.また妊産婦の通院圏は拡大し負担を要しているだけでなく,遠方のためのリスクを抱えることを余儀なくさせている状態である.現段階では集約化の目的を達成できているとはいえない状況である.
P.404旭川厚生病院における周産期医療の地域化と今後の問題点
旭川厚生病院小児科
○白井勝,五十嵐加弥乃,土田悦司,大久保淳,小久保雅代,梶野真弓,高瀬雅史,坂田宏,沖潤一
【目的】
旭川厚生病院NICUは北海道の道北地域の新生児医療の中核をなし,新生児・母体搬送の受入れを積極的に行って来た.過去の搬送依頼地域の総面積は21,400平方㎞(東京都の10倍)に及び,搬送距離は片道200㎞を越える.昭和63年4月の病院移転から新生児救急車が導入され,当初NICU総病床数は20床であった.平成7年6月にNICU施設基準承認病床6床,平成8年3月には9床の認定を受け,増改築後の平成18年4月からはNICU12床とGCU16床の合計28床となった.今回は平成1年から18年までの入院患者,特に超低出生体重児の入院様式と死亡率をまとめ,今後の問題点を検討した.
【結果】
年間平均入院数は前期(平成1~6年)183名/中期(平成7~12年)197名/後期(平成13~18年)211名で,院内出生率は44/48/64%であった.超低出生体重児の平均入院数は11/11/13名で,院内出生率は72/87/86%,死亡率は30・9/12.5/16.7%であった.後期前半平成13~15年/後半16~18年では,平均入院数は12/14名,院内出生率92/78%,死亡率8.1/24.4%であった.
【考察および結語】
入院数は増加し,院内出生も50%を越えた.超低出生体重児の入院も後期に増加し,後期前半では院内出生率が92%に達し,死亡率も8.1%となった.しかし,後期後半には院内出生が減少し,死亡率が増加した.後期前半0であった出産まで産科未受診が後半3例いた.北海道道北地区の周産期システムは地域化が進み,周産期センター的役割を担う施設への母体搬送,院内出生が増加し死亡率も低下して来た.しかし,新たな妊娠母体胎児管理の問題として経済的理由による妊婦検診の劣悪な受診状況が,未熟児の生存に大きくかかわって来ている可能性が考えられた.平成18年の北海道の失業率は全国5位,旭川市の生活保護率(全国平均11.6%。)は31.9%。(うち母子世帯受給18.1%)で年々増加して来ている.当院は助産施設であるが,シングルマザーの出産はここ1O年で3倍(4.8%)になった.市内の児童虐待も増加しており,胎児虐待とも考えられる劣悪な妊婦検診受診状況を改善することは急務であり,経済的な貧困が胎児・新生児に悪影響を及ぼすことのない社会構造の構築が必要である.
P-405愛知県東三河地域における周産期医療纂約化の現
状と問邊点
豊橋市民病院小児科
○杉浦時雄,谷田寿志,忍頂寺毅史,岸本恵美子,清澤秀輔,牧野泰子,戸川貴夫,安田和志,幸脇正典,小山典久
【はじめに】
東三河は愛知県の東に位置し,東は静岡県,北は長野県に隣接する地域である.豊橋市民病院新生児医療センターは東三河全域を医療圏とし,愛知県周産期医療システムのなかで,地域周産期母子医療センターと位置づけられる地域唯一の新生児三次医療施設である.病床数はNICU12床,GCU23床の計35床で,年間入院数450例前後,超低出生体重児20例前後を含む極低出生体重児は50例前後である.東三河における周産期医療集約化の現状を報告し,今後の問題点を考察する.
【現状】
1.東三河において新生児を管理できる病床が減少している.
年間約100例の新生児入院があった近隣の4病院が産科・小児科の縮小・閉鎖に伴って新生児室が閉鎖され,新生児を管理できる病院が相次いで消失した.これにより東三河の新生児病床が64床より48床に減少した.また,極低出生体重児に対応可能であった近隣の市民病院も産科・小児科の医師減少から新生児病棟の縮小を余儀なくされている.一方,集約化され患者が集まる当院の病床数は35床のままである.当地域の出生数は減少傾向にあるが,低出生体重児の出生数は減っておらず,極低出生体重児・超低出生体重児の入院数も減少していない.
2.当院において長期入院症例が増加している.
先天奇形,重症仮死等のため,長期人工呼吸器管理を必要とする児が常時数名入院しており,その数は増加傾向にある.医療的ケアが必要であること,転院施設の不足などにより退院が困難な状況にある.また,超低出生体重児の救命率も向上し,これらの長期入院児の増加が病床数を圧迫し,新たな緊急性の高い新生児搬送・母体搬送の受け入れに影響を及ぼしている.
【考察】
周産期医療の集約化は避けられない流れである.実際東三河では,産科・小児科医不足から集約化が否応なしに進んでしまっている.周産期医療の集約化はマンパワーのみでなく,センター病院の増床などハード面においても集約化されないと成り立たない.規模が縮小する病院のみでなく,拡大する病院にもサポートが必要である.また,在宅医療を進めるにあたっては,ショートステイ,レスパイト,訪問看護,緊急時の対応,経済的援助など,家族の負担を減らすべく支援体制の整備が必要である.周産期医療体制・在宅医療支援体制は地域だけでなく,県や国の対策として重要な問題である.
P-409当施殴における新生児搬送の現状と今後の課国
国立病院機構佐賀病院母子医療センター小児科
○小形勉,岩永学,松尾幸司,高柳俊光
【緒言】
当施設は佐賀中部医療圏に位置し,久留米(筑後)医療圏に属する県東部を除く佐賀県の周産期医療の中核的役割を担っている.年間入院数は約300例/年で,そのうちの約1/4が院外出生児である.当科では1999年11月より医師同乗による新生児搬送業務を開始した.搬送依頼は原則として全て受け入れ,当施設で対応可能な場合は当施設で受け入れるが,当施設が満床もしくは外科的適応を有する症例は佐賀大学や県立病院に三角搬送を行っている.今回,当科の過去8年間の新生児搬送の現状と今後の課題について検討した.
【対象】
1999年11月~2006年12月に当院に搬送依頼のあったうち,三角搬送やBacktransfer症例を除く576例.
【検討項目】
(1)紹介元施設の分類と地理
(2)経年的に見た早産症例(28週未満,35週未満)と重篤な新生児仮死症例の推移
【結果】
(1)一次産科施設からの紹介は495例85.9%,二次病院からの紹介は81例14.1%で,呼吸管理が必要な症例は各々54例10.9%,24例29.6%と,二次施設からの搬送症例は重症度が高い傾向にあった.
紹介元は地域別に中部297例51.6%,南部151例26.2%,西部81例14.1%,北部19例3.3%,東部15例2.6%,県外9例1.6%,自宅・車中分娩4例0.7%で,中部と南部が多数を占めた.
(2)2000年から2006年まで各年の症例数は28週未満(1,3,1,0,0,0,O),35週未満(7,16,7,8,6,2,6),気管内挿管を要した新生児仮死24例中,予後の評価ができた23例の各年の症例数と予後(正常,重度後遺症,死亡)は,2000年1例(0,0,1),2001年3例(1,0,2),2002年2例(1,0,1),2003年2例(0,2,0),2004年5例(2,3,0),2005年6例(3,3,0),2006年4例(3,1,0),正常10例43.4%,重度後遺症9例39.1%,死亡4例17.4%で半数以上が予後不良であった.
【考案】
新生児搬送開始後,一旦は増加した早産の症例,特に28週未満の症例は2001年をピークに減少しており当県でも母体搬送が定着したことをうかがわせた.一方,新生児仮死症例は予後の改善が得られておらず,その対策として新生児蘇生講習会を昨年より開催しておりその効果について今後検討していく予定である.
P-410当院NICUに入院となった新生児服送症例の検討
市立豊中病院小児科
○徳永康行,松岡太郎
【背景】
当院は大阪府北西部の豊能医療圏に位置し,NICU6床,GCU1O床を有する.大阪府新生児診療相互援助システム(以下NMCS)に参加する1施設として地域の周産期,新生児医療の一翼を担っている.ドクターカーを所有しておらず,自院での搬送は行っていないため,新生児搬送症例は,出生した病医院から自治体の救急車などにより直接当院に搬送される症例(以下一次搬送)と,出生した病医院からNMCS基幹病院に入った搬送依頼に基づき,基幹病院のドクターカーによって当院に搬送される症例(以下二次搬送)に大別される.今回,当院NICUに新生児搬送入院となった児について,搬送次別に,搬送となった地域や搬送理由について検討した.
【対象】
2000年から2006年の7年間に当院NICUに新生児搬送となった306例.一次搬送249例,二次搬送57例.同一期間内の総入院数は2085例であり,新生児搬送症例は入院総数の14.7%であった.
【結果】
一次搬送症例の紹介元施設は,豊中市内が約60%,豊中市を含む豊能地区全体で90%を占めていた.それに対し,二次搬送では,豊能地区からの搬送は約50%に過ぎず,大阪市内やその他の大阪府内から搬送されており,より広域化していた.
搬送理由に関しては,新生児搬送症例全体では,多い順に,呼吸障害,黄疸,感染,早産・低出生体重児であった.搬送次別でみると,一次搬送では,黄疸,呼吸障害,感染の順に多く,これら3者で半数を占めた.二次搬送では,黄疸,感染の症例は認めず,呼吸障害が過半数を占め,以下,早期産・低出生体重児,無呼吸発作と続いた.搬送理由別の最終診断をみると,呼吸障害では,新生児一過性多呼吸,air leak,胎便吸引症侯群の順に多かった.また,無呼吸発作で搬送された児の約半数にくも膜下出血を認めた.
【まとめ】
当院NICUに入院となった新生児搬送症例は,一次,二次別で比較すると,搬送地域,搬送の理由は大きく異なっていた.これまで当院NICUでは,新生児搬送の要請にはほとんど応需できており地域での一定の役割は果たせていると考えられた.しかし,昨年来,母体搬送を積極的に受け入れる方針としてから,NICU満床を理由に新生児搬送依頼を受諾できない状況も出現してきており,今後の課題である.
コメント