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(投稿:by 僻地の産科医)
今週は、ナゼだかワクチンシリーズでお伝えしています..。*♡
全国の自治体で割と中高生のHPVワクチン
(一般には子宮頸癌ワクチンと呼ばれていますね)
の無料化が進んで一般化してきましたが、
割と困るのがこの質問。
「性交渉後の女性のワクチンって
どうしたらいいの???」
うーん…。これって、私達専門家でも困っちゃうんですよね。
業者さんの言葉を鵜呑みにすれば、
もちろん、効くっていうし効果はあるって。
理論的には効果はありそうです。
ただ学会としての決まった公式見解は出ていない様子です。
(出てたらごめんなさい)
で、説明して希望者にはうつし、希望しない方にはうたない。
まぁ、そんな感じです。
で、この論文!!
「産科と婦人科」2010年9月号!!
お題は、
婦人科がんに関する最近の話題
この論文中の、
「年代別にみても20~24歳および50~54歳までのHPV陽性率はいずれも20%前後で,年代におけるHPV陽性率に有意差はなかった」と言う部分と、「年齢を問わず,HPV 16型および18型の双方に感染している女性は5%以下である(つまり,95%の女性は感染してないということである)」という部分から打つ意義はあるのかな?と思っています。
(高いですけれどね。病気になった時を考えたら安い)
皆様はどのようにお考えになりますか?
HPVワクチンー40歳代女性を
含むCatch-up vaccination
Sharon Hanley※1 今野 良※2
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学 ※1
自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 ※2
産科と婦人科・第77巻・9号(16) p1016-1022
要旨
HPVワクチンはHPVに曝露されてない女性においての効果が大きいため,多くの国では主たる対象集団は10~14歳女児である.ワクチン接種に対する費用対効果という観点から,第二に接種すべき年齢を25歳までとしてキャッチアップ接種プログラムを導入している国がある.26歳以上の女性の子宮頸癌予防において,最も重要である検診とともに,ワクチン接種も子宮頸癌リスク抑制のさらなる有望な対策である.
子宮頸癌は世界で2番目に多く発生する女性特有のがんであり,年間約50万人の女性が新たに子宮頸癌を罹患し,27万人が死亡していると推計されている.また,子宮頸癌患者の8割以上が発展途上国の女性である.発展途上国では,貧困やインフラ,医療資源不足および女性の公民権剥奪のため,集団検診制度が整っていない.その一方,先進国では1960年以降子宮頸癌の死亡率は対策型検診によって急激に減少している.しかし,スクリーニングによって前がん病変を発見し,さらに治療するための財政的負担のみならず,検診を受ける女性に加えられる身体的,精神的な負担が減少しているわけではない.イングランドにおいて,子宮頸部の異常に関するスクリーニングと治療の費用としてNational Health Serviceが負担する金額は年間1億5,700万ポンド(およそ250億円)と推測されている1).さらに,オーストラリアのようにスクリーニング体制が進んでいる国においてさえも,細胞診でみつけにくい腺癌(HPV 18型が発病に重要な役割を果たす)を子宮頸癌検診で減少させることができずにいる.
子宮頸癌のおもな原因は性的接触によって引き起こされる発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染である.特にHPV 16型と18型で発がん性が高い.このように病因解明が進んだことにより,2006年6月には世界で初めてアメリカでHPV 16型と18型に加えて,尖圭コンジローマの原因となるHPV 6型と11型に対する4価ワクチンの接種が承認された.日本ではようやく2009年10月にHPV 16型と18型に対する2価ワクチンが使用・承認された.2010年には4価HPVワクチンの承認も期待されている.HPV 16型と18型は世界中の子宮頸癌の70%の原因になっており,さらに高度扁平上皮内病変の50%,軽度扁平上皮内病変の25%の原因でもある2).世界と同様に日本でもHPV16型と18型が子宮頸癌の最も多い原因になっており,ワクチン接種により7割以上の子宮頸癌発生は防止されると推測されている3)。
HPVワクチンを思春期前に接種することで,多くの女児がHPVに曝露される前に免疫を獲得することができる。また,この年齢の免疫応答はほかの年齢に比べてよいので,HPVに感染する可能性が高い時期を通じてHPVワクチンによる免疫効果は持続するであろう.多くの国で10~14歳の接種を勧めているのはそのような理由からである.さらに,ワクチン接種に対する費用対効果という観点から,多くの国でも第二に接種すべき年齢を25歳までとしてキャッチアップ接種プログラムを導入している.(表1)4)しかし26歳以上の女性に対するHPVワクチン接種の方向性は先進国でも発展途上国でもまだ定まっていないのが現状である.
HPV感染の自然史
発がん性HPVに感染している人(男女を問わず)と性的関係をもつことでHPVの感染が広がる可能性がある.HPV感染は非常にありふれたもので,性活動が活発になる10歳代後半から20歳代の性交開始後,数年以内に感染が成立する.若い女性にHPV感染が多いとよくいわれる理由は,社会的な理由と生物的な理由がある.この年齢層は性活動が活発なので特定のパートナーや配偶者と性的関係をもつよりも,常に新しいパートナーと関係をもつ傾向があることが社会的な理由として挙げられる.生物的な理由として,自然感染による抗体がなく,若い女性のHPVが感染しやすい扁平・円柱上皮境界(SCJ)は子宮頸部の先端から外側にかけて広がっている.そのため,性行為の刺激で傷つきやすいので,HPVが入り込みやすい状態になる.HPV感染が成立しても90%は免疫力により2年以内にウイルスは消失するが,持続感染となった場合,子宮頸癌に移行する可能性もある.特に30歳以降は免疫機能が低下するため,持続感染を起こすリスクは加齢に伴い増加する.
1.HPV感染によって発生する子宮頸癌以外の疾患
HPVは全世界で最も多くみられる性器感染であるが,子宮頸部以外(外陰,膣など)でも,産婦人科領域以外の臓器(肛門,口腔,中咽頭)を含めて,HPV感染によるがんや疾病が多い(表2).2002年のデータによると,57,800人の女性がHPV感染に起因する子宮頸部以外の癌を発病した5).したがって,子宮を摘出した女性でもこのような癌を予防するためにHPVワクチンを接種する意味がある.2009年6月に亡くなった,有名なアメリカ人女優ファラ・フォーセットは肛門癌で亡くなった.子宮頸部と同様,肛門管にもHPVが感染しやすいSCJが存在し,肛門癌の90%はHPVが原因で,そのうちの92%がHPV 16型と18型が原因だとされている.HPVワクチンを受けていたら,彼女はこのがんで命を失うことはなかっただろうとテレビで報道された。
HPVの疫学
HPV感染の保有率は地域や年齢によって異なるが,統計的な調整後,HPV保有率は全世界で10.41%と推測されている6).HPVの罹患率をみると,一般に女性では15~24歳までが最も高く,30歳から低下する.しかし45歳以降に2つ目の小さなピークがある.この第二のピークは世界中の多くの疫学研究で示されており,その理由の一つとして閉経による免疫能の変化が指摘されている.しかし,このピークの年齢は地域によってわずかに異なるので,死別や離婚によって新しいパートナー・に変わるなどの社会的な要因も理由として挙げられている.さらに第二のピークが存在するということは若い時期に感染して潜伏したものが再燃したのか,あるいは免疫力低下によって初感染,あるいは罹患したことのあるHPV型への応答能力が低下したのかという疑問も生じさせる.あるいはHPVの型特異抗体が年齢とともに徐々に減少することが関係している可能性もある.
日本での一般健常女性のHPV感染データは少ないが,2009年に筑波大学から報告されたデータでは,細胞診が正常であった女性(n=1,517,平均年齢35.9歳)の22.5%にHPV-DNAが検出された3).また,第62回日本産科婦人科学会学術講演会で発表した外来での検診女性500人(上皮内癌と浸潤癌以外の女性,中央値年齢35.8歳)のHPV陽性率は21.2%であった7).後者の研究では,年代別にみても20~24歳および50~54歳までのHPV陽性率はいずれも20%前後で,年代におけるHPV陽性率に有意差はなかった.
1.中年女性のHPV感染
HPV感染は年齢が進むにつれて減少する傾向にあるものの,性的活動を行う限りは生涯を通じて感染する可能性がる.特に新しいパートナーをもつ場合には感染する可能性がより高い.25-80歳の女性がHPVに感染する率は年間5~10%である8)9).英国や日本といった国では女性の晩婚化が進み,生涯独身の女性も増えていることから,以前とは違って新しいパートナーと性的活動をもつ機会が増えている.英国では35~44歳の男性の17%,女性の11%が前年に新しいパートナーを得たという報告がある10).一方,日本では16~69歳の男女を対象として行われたNHKの調査によると,過去1年間で複数のパートナーがいたのは11%で,そのうち女性の60%と男性の52%が複数の相手と同時進行であった.さらに,配偶者や恋人といった,特定の相手がいる人のうち,過去1年間で12%がその相手以外と性行為を行っており,20%が無回答であった11).
HPVに感染しても半数以上の女性では抗体が産生されないので,抗体陽性者数をもとに過去のHPV曝露を推定したとしても必ずしも正確ではない.しかしながら,HPV 16型と18型が同時に陽性であることは一般に少なくない.フィンランドの研究では,HPV 16型と18型が同時に陽性であった妊娠女性の割合をみると14~22歳ではわずか4.4%,23~31歳では6.2%のみであった12).日本のデータは少ないが,先に述べた第62回日本産科婦人科学会学術講演会の研究では500人の外来受診女性のうち,HPV 16型,あるいは18型のDNA陽性率はすべての年齢群で5%未満だった7).そのデータは英国の研究で得られたものと同じであった13).
また,日本におけるHPVワクチンの臨床試験開始時の20~25歳の健常女性における,HPV 16型の感染率は6.5%, HPV 18型の感染率は4.0%,いずれかの感染率は9.9%,両者への感染率は0.7%であった14).
中年女性へのHPVワクチン接種の安全性と有効性
一般に抗体誘導能は年齢とともに低下してくるが,これまで行われてきた,45歳までの女性を対象にした臨床試験では年齢層による違いはほとんどないと報告されている.そのうえ,2価ワクチンの免疫原性を評価した臨床試験では,55歳までのすべての女性でHPV 16型と18型に対して抗体が陽性となり,自然感染より少なくとも10倍以上高い抗体価を得られた15).若年者と同様,「高年齢」の女性においてもワクチンに対する重篤な副作用はみられなかったが,興味深いことに,「高年齢群」では局所症状がわずかに認められた.「高年齢」の女性に対する臨床試験は現在進行中であるが,4価ワクチン臨床試験の中間報告ではper-protocol(PPT)群(試験計画適合群)の24~45歳の女性において90.5%もの高い有効性が示されている16).しかし,現在発売されているHPVワクチンは年齢にかかわらず,既存の感染や異型病変にはまったく効果がない.すなわち,HPVワクチンはあくまでも予防ワクチンであり,治療ワクチンではない.したがって,抗体陽性であるがウイルスDNA陰性(過去の感染が排除された証拠)の女性においては,HPVワクチンによって抗体価が増幅され,その結果,同じ型のHPVに対するその後の感染が防がれることになる.
26歳以上女性のHPVワクチン接種の意義
①HPVワクチンは26歳以上の女性に対して安全に投与できる薬剤であり, 55歳以下の女性では良好な免疫反応が認められる.その抗体価は感染歴のない15~25歳の女性を感染から防御できるレベルである.
②自然感染ではHPVに感染しても抗体が産生されない女性が50%以上いる.また,抗体が産生されたとしても再感染を防ぐほど十分な量ではないため,1度HPVに感染したことがある女性でも,何度でも感染する可能性がある.さらに,自然感染により獲得された中和抗体レベルは年齢とともに低下し,再感染を防ぐのに十分な濃度ではなくなる.すなわち,自然感染により抗体陽性となった女性がHPVに感染するリスクは5~7年経過すると抗体陰性の女性と同等となる17)。
③HPV感染は年齢が進むにつれて減少する傾向にあるものの,性的活動を行う限りは生涯を通じて感染する可能性があり,特に新しいパートナーをもつ場合には感染する可能性がより高い.さらに,加齢により免疫機能が低下するため,持続感染リスクは増加する.
④年齢を問わず,HPV 16型および18型の双方に感染している女性は5%以下である(つまり,95%の女性は感染してないということである).
⑤現在のHPVワクチンは既存の感染や異型病変にはまったく効果がないが,HPVが免疫で排除された後,そのHPVと同じ型による再感染を予防する効果はある.また,ワクチンが誘導する別の型に対する抗体により感染が防がれる.
⑥HPVワクチンにはHPVに起因する子宮頸癌以外のがんを防ぐという効果があるため,子宮頸部のない女性を接種対象から外すということは必ずしも正当なことではない.
⑦現在の細胞診による子宮頸癌検診でみつかりにくい腺癌の多くはHPVワクチン接種により予防できる.
⑧検診率が70%の欧米諸国では,キャッチアップ接種を25歳までに推奨している国があるが,日本のように検診率が25%未満の国ではワクチン接種の推奨年齢を45歳まで伸ばすことが医療経済学および公衆衛生学的な面から大きな意義があると考えられる(図1)18).
おわりに
子宮頸癌検診が26歳以上の多くの女性にとって,子宮頸癌予防に最も重要であることは今後も変わらないだろう.しかし,HPV感染を発見する検診よりも感染そのものを予防することの重要性が今後さらに大きくなるに違いない.したがってHPVへの曝露と関連する女性の性行動に対応したワクチン接種を展開することが医療関係者には求められるといえる.しかし,女性が将来的にHPVに曝露されるかどうかを過去と現在の性行動から正確に予測することは難しい.性行動のパターンは生涯変わり続けるし,パートナーの性行動も関わってくるからである.さらに,この年齢層の女性がワクチンから受ける利益は,その女性が住んでいる国の集団検診制度がうまく機能しているかどうか,また,その女性がこのサービスを受けると決断するかどうかということにも関係がある.
多くの国において,26歳以上の女性のワクチン接種費用は自己負担になると予想される.そうであっても,ワクチンでがんを予防することを望み,自分で費用を負担できるのであれば,各個人が恩恵を受ける可能性が高いだろう.医療関係者がこの年齢層の女性に対してどのような利益があるかを正確に評価することは難しいものの,コストと利益についてバランスのとれた決定をするために情報を提供することは可能である.したがって,医療関係者とこのワクチン接種を検討している26歳以上の女性とのコミュニケーションを深めることが,子宮頸癌予防のためのワクチン接種の利益を最大にする鍵となる.最も強調すべきことは,この世代の女性がきちんと子宮頸癌検診を受けることであり,ワクチンの接種は子宮頸癌リスク抑制のさらなる追加的な有望な対策である.
子宮がん検診のお値段がいくらかと言うことにも関わってきますね。名古屋市の場合ワンコイン検診で500円。ワクチン3回分でどれだけ子宮がん検診を受けられるか考えると、中年以後のお方はワクチンより検診の方がお得な気はします。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2012年1 月20日 (金) 11:03
なるほど!そういう助成があるところはいいですね。
厚労省のクーポンも受診機会を増やしていていい政策だと思います。
ただ問題は、本当に産婦人科受診をしない人って受診しないんですよね~。なかなか気軽に受診しようって気にならないのはわかりますが。。。
一番困るのが80歳とかのおばあちゃんの血が止まらない、しかも認知症の方で、治療側としてもどうしようもない。。。
あとは若年の異形成多くなっているなぁと体感的には思います。若年癌は困りますしね。
頸癌みていて悲惨なのは、若いお母さん世代が多くて、産んでない方の悲惨さとはまた別に、子供が小さいのにどう考えても長生きできなさそうな場合とか、やっぱり嫌な病気ですよね。
また子育て世代が忙しくって病院に来ないんですよ!これが。
気持ちはわかりますけれど。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2012年1 月20日 (金) 12:01