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(投稿:by 僻地の産科医)
今回取り上げたのは総論ですが、
各論(個々の向精神薬)の
説明の章もあってかなり使いやすいです。
(ただし専門家向け)
必要な方は取り寄せてみたらいかがでしょうかo(^-^)o..。*♡
妊婦・授乳婦に対する向精神薬の使い方
東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科
心療・緩和医療分野(心身医療科)准教授 松島英介
はじめに
もともと妊娠中の母体に使用される薬物は、胎盤障壁のために胎児には何ら影響を与えないと考えられていた。妊婦に用いた薬物が胎児に奇形を起こす事実が大きな問題となっだのは、1959~1962年のthalidomide禍で、当時催眠薬または鎮静薬や胃腸薬として市販されたthalidomideを妊娠初期の限られた時期に服用したことによって、世界28力国で約8,000人のphocomelia(アザラシ肢症)などの奇形をもった子供が生まれた(表1)。
一般に、妊娠期や授乳期にある女性(妊婦、授乳婦)への薬物治療に際しては、母児双方への影響を十分に考慮し、常に慎重でなければならない。
しかし、精神疾患の場合はやむをえず向精神薬を使用しなければならないことも多く、その場合はこれまでの知識や経験を十分に踏まえた上で、臨機応変な対応をすることが望まれる。
●妊娠から出産、授乳に至る各段階における薬物の影響
1)男性への影響
一般に精子の形成にはおよそ74日が必要とされており、男性では射精後を含め受精前の約3ヵ月間に投与された薬物が問題とされる(逆に、射精の1~2日前に服用した薬物の影響はないとされる)。しかし、男性患者では向精神薬の副作用や精神疾患そのものによって勃起不能になっていることも多く、また仮に性交ができたとしても薬物の影響を受けた精子は受精能力を失っているか、受精してもその卵は着床しなかったり、妊娠早期に流産し消失したりする可能性が高いという。現在までのところ、少なくとも向精神薬では男性側での薬物投与で胎児への影響の可能性がはっきり指摘されたことはない。
2)妊娠前後の女性への影響
女性患者では精神疾患や向精神薬によって月経周期自体が影響を受けていることも多いが、受精前に薬物の影響を受けた卵子は受精能力を失うか、受精してもその卵は着床しなかったり、妊娠早期に流産し消失する。妊娠3週末まで(受精後2週間)※の間に薬物の影響を受けた場合には着床しなかったり、流産し消失するか、あるいは完全に修復されて健児を出産するといわれている。したがって、この時期(悉無期・しつむき)の薬物の投与は基本的に胎児への影響を考慮する必要はないと考える。
※妊娠週数の数え方は、最終月経の開始日をO週O日とし、O週6日までを数え、その次は1週O日と数えて、分娩予定日は40週O日になる月数で数える場合は、4週間が1ヵ月で、O週O日から3週6日までが妊娠1ヵ月、4週O日から7週6日までが妊娠2ヵ月と数える。
3)母体への影響
妊娠中は一般的に薬物に対する感受性が高まっており、妊娠前にはみられなかったアレルギー反応やショックを起こすことがあり、一定の注意が必要である。また、妊娠により、肝腎機能の変化、貧血、低蛋白血症などをきたしやすく、さらに妊娠中毒症などを併発しているときには、とくに薬物の投与量や投与期間が問題となる。
4)胎児への影響
母体に投与された薬物は、主として胎盤を通過して胎児へ到達する。胎児の肝の薬物代謝酵素活性は極めて不十分な上、血漿蛋白濃度が低いため蛋白非結合の遊離薬物の濃度は上昇する。一方、胎盤組織の薬物代謝酵素活性については、妊娠初期でとくに低く、ほとんどの向精神薬は母体内濃度とほぼ同じか、それに近い濃度で胎児へ移行すると考えてよい。Sodium valproateやdiazepamなどはむしろ、母体内濃度よりも高値を示す場合もあるといわれている。
a妊娠初期(第1三半期)
図1に示すように、妊娠4週(受精後3週のはじめ)から7週までの時期は胎児の中枢神経系、心臓、消化器、四肢などの重要な臓器が発生・分化し、形態奇形(morphological teratogenicity)を生み出すもっとも危険な臨界期(絶対過敏期)に当たる。
したがって、この時期の薬物の投与には十分慎重であるべきである。ただし、胎児の発育には個体差があるので、この前後の時期も注意する必要がある。
さらに妊娠8週から15週までの時期(相対過敏期)は、胎児の重要な器官の形成は終わっているが、中枢神経系の発達は続く上、□蓋の閉鎖や生殖器の分化などはこの時期に行われる。したがって、催奇形性のある薬物の投与にはなお慎重であった方がよい。
b.妊娠中・後期
妊娠16週から分娩までの時期で、奇形のような形態的異常はあまり形成されないが、胎児の機能的成長に及ぼす影響や発育の抑制、子宮内胎児死亡などを引き起こす。このように、胎児の発育や機能に悪影響を及ぼすことを胎児毒性(fetal toxicity)という。とくに胎児の中枢神経系は妊娠期間中を通じて発達を続けるため、胎児脳の脳・血液関門が未発達なことと併せて考えると、中枢神経系の発達に大きな影響を与える可能性もある。すなわち、この時期に投与された薬物が行動(機能)奇形(behavioral (functional) teratogenicity)として出生後の児の精神神経発達に影響を及ぼす可能性についても考慮しなければならない。
また、妊娠後期に投与された薬物により、生下時から生後1週間ほどの間、新生児に直接の副作用が生じることがある。さらに、生後しばらくして数日間の離脱症状を引き起こすことがある。
これらは臨床的に区別できないこともあり、合わせて新生児薬物離脱症候群(neonatal with drawal syndrome)と呼ぶことも多い。
●妊娠期間を三半期で区分する場合は、妊娠O週O日~13週6日を第1三半期、妊娠14週O日~27週6日までを第2三半期、28週O日~を第3三半期という。
また、妊娠0~15週までを妊娠初期、16~27週までを妊娠中期、28週~を妊娠後期あるいは末期という。
5)授乳を通した新生児・乳児への影響
胎盤の通過性と同様に、母乳へはほとんどの薬物が移行すると考えてよい。とくに、生後1週間以内の新生児では薬物を代謝する能力が不十分であり、脳・血液関門もまだ完成していないので注意する必要がある。 O'Brienは向精神薬の母乳中への移行について表2のように大まかに分類しているが、各薬物により差がある。
また、在胎33週以上で生まれた新生児160万人以上を対象に、妊婦の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の服用と出生児の新生児遷延性肺高血圧症との関連を集団ベースのコホート研究で調査。妊娠20週以降のSSRI服用はバックグラウンドと比べて肺高血圧症リスクが高かった(1000人当たり3人対1.2人、調整オッズ比2.1)という論文もあります。
Selective serotonin reuptake inhibitors during pregnancy and risk of persistent pulmonary hypertension in the newborn: population based cohort study from the five Nordic countries
BMJ2012;344doi: 10.1136/bmj.d8012(Published 12 January 2012)
http://www.bmj.com/content/344/bmj.d8012
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