(関連目次)→今月の産婦人科医会報
(投稿:by 僻地の産科医)
リステリアってなんだったっけ??
な私ですが、とりあえずお勉強お勉強です!
研修医の頃、心の師匠(実際にも師匠である)に
「hexan!あんた勉強してるつもりかもしれないけど
一番大事なことは教科書にはもう載ってない。
英字論文が一番だけれど、
一誌でも和文産婦人科専門雑誌をとりなさい。
あと、産婦人科学会誌は読むところないけれど、
医会誌の真ん中の色つきページは、
必ず読むこと!生涯、勉強勉強!!」
と言われたことがあります。
えーっと、時々忘れますが、
基本的に守ってます!師匠!!(>▽<)!!!
というわけで、医会入っていない若い方々。
この薄っぺらい医会報、本当に役に立つのよ~o(^-^)o ..。*♡
高いけど。(薄っぺらさの割に。)でも役立つから!
ぜひぜひとってね!!
最近では8月号の緊急避妊の適正使用(by北村Dr)とか、
10月号なんて不育症診断の新たな展開ですよ!
面白そうでしょ???
リステリア感染症
-食中毒概要と妊娠期の注意-
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部
第一室長 五十君靜信(いぎみしずのぶ)
はじめに
リステリア感染症は、食品による集団事例が多数報告されており、入院が必要とされる重篤なリステリア症の致死率が約20~30%であることから、海外では食品媒介性の重要な感染症という認識が定着している。
リステリアは低温増殖性があり、食品の低温流通が進み、食品を長期間保存することが可能になったことが、食品媒介感染症として注目されるようになった要因の一つであると考えられている。一方、国内では、食品媒介感染症であるという認識は低く、一般消費者はリステリア感染症やその起因菌への関心がほとんど無いのが現状である。リスク評価を基にコーデックスではReady―to―eat(RTE;非加熱喫食食品、国内の調理済食品に相当)食品のガイドラインが作成され、2009年に最終合意を得たことから、厚生労働省は国内の食品におけるリステリア基準の検討を開始している。
問 リステリア感染症とは?
答 リステリア・モノサイトゲネス(Listeriamonocytogenes ;以下リステリア)の感染によって引き起こされる。ヒトのリステリア感染症と動物のリステリア感染症がある。動物のリステリア感染症では反芻獸で事例が多く、特徴的な病変を示す脳炎が知られている。ヒトにおける本症では、頭痛、項部硬直、平衡感覚の消失、意識の混濁などの神経症状の髄膜炎や、敗血症、流産を来たし、WHO のリスク評価では、このような重篤な症状を示す場合を侵襲性リステリア症とし、その他に非侵襲性リステリア症を分類している。非侵襲性リステリア症では、発熱などの風邪様症状や稀に急性胃腸炎症状を示すとされている。しかし、非侵襲性リステリア症を診断することは難しく、一般的にリステリア感染症と認識されるのは侵襲性リステリア症である。
海外では食品を介した集団事例が多数報告されていることから、リステリアは食中毒菌として注目されている。高い菌数のリステリアに汚染された食品等を経口的に摂取することで発症すると考えられている。妊婦が感染した場合は胎児への垂直感染、産道感染を引き起こす。妊婦が感染すると妊婦は軽い風邪様症状を示す程度であっても、胎児に対して強い影響が現れ早産や死産となる場合がある。
侵襲性リステリア症では潜伏期間が20~30日ないしはそれ以上と長く、散発事例のリステリア症の原因食品や感染経路の特定は難しい。本感染症の診断には菌の分離を必要とする。
問 国内のリステリア感染症の発生状況は?
答 リステリア感染症については、現在感染症法上の報告義務がないため、患者数の実態を掌握することは難しい。また、汚染食品を摂取してから発症までの潜伏期間が非常に長いため、食品媒介であるという判断は困難で食中毒事例として報告されることもない。
死亡統計に死亡原因として報告されることがある。
全国の病院を対象として行われた厚生労働研究班のアクティブサーベイランスによると1996年から2002年までの調査結果から毎年平均83名がリステリア症を発生していると推定されている。国民100万人あたり、毎年0.65人が発症していることになる。調査当時の海外のリステリア症の発症数は、それぞれ100万人あたりアメリカ5(1998年)、フランス4.1(1997年)、イギリス1.6~2.5(1990年代)、オランダ0.7(1991~95年)であった。ちなみに1997~2008年のEU(27カ国)のリステリア症の発生頻度は1~3である。
問 国内のリステリア感染症の年齢階級別発生状況は?
答 臨床情報が確認できたリステリア症42症例の患者の年齢分布を図1に示した。1歳未満と、60歳を超える高齢者の患者数が多く、その他の年代の患者数は少ない。1歳未満のリステリア症は、ほとんどが母子感染と思われる。
42症例のうち9名の患者が死亡しており、全て60歳以上であった。国内のリステリア症の致死率は21%である。
問 リステリアは冷蔵庫内で増殖する?
答 リステリアは、増殖可能な食品であれば低温であってもゆっくりと増殖する。37℃、10℃、4℃におけるリステリアの食品中の増殖曲線によると、かに風味かまぼこでは、10℃4日あるいは4℃12日で菌数は10倍(1log)以上に増え、10℃6日で108個/g を超えた。いくら醤油漬けでは、10℃2日あるいは4℃12日で菌数は10倍(1log)以上増え、10℃6日で109個/gを超えた。したがって、家庭の冷蔵庫内にリステリアに汚染した食品を保存すると、10℃管理であれば2~4日以上、4℃で管理したとしても2週間以上放置しておくとかなり高い菌数となることが予想される。一方、リステリアの増殖の見られない食品もあり、白菜浅漬では、37℃2日、10℃10日、4℃18日で初期菌数の10分の1以下に減数したことが観察されている。
問 リステリアの抗菌薬に対する耐性獲得状況は?
答 国内のこれまでの臨床分離株、食品由来株の調査では、一般的な抗菌薬に対する耐性株の出現はほとんど観察されていない。
問 リステリア感染症の感染ルートは?
答 ヒトのリステリア感染症は、RTE 食品による経口感染が主要な感染経路であり、また胎児への感染は母子の垂直感染である。米国疾病管理予防センター(CDC)は、妊婦への感染も含めリステリア症における食品媒介寄与率を99%としている。リステリアは自然界に広く分布しており、土壌、植物、汚水、と畜場などの環境からしばしば分離される。健康なヒトの糞便からは、約2%の割合でリステリアが分離されている。
国内のRTE 食品の汚染率は食品毎0~5.4%程度(表1)であり、一般に汚染菌数は低いため食品からの検出には増菌が必要である。RTE 食品の汚染状況などから、低い菌数のリステリアのヒトへの曝露はそれほど稀ではなく起こっており、ほとんどの場合、感染に至らずに推移しているものと思われる。リステリアに感染した家畜からは糞便中にリステリアが排菌されており、土壌や野菜を汚染する。殺菌前の生乳にはリステリアの汚染が見られるが、国内の飲用乳は加熱殺菌が義務づけられており市販の牛乳からの感染は知られていない。生肉におけるリステリアの汚染率は高い。牛、豚、鶏とも同様に汚染が見られ、枝肉から薄切り肉や挽肉へと加工が進むと汚染率が上がる傾向がある。
問 どのような食品がリステリアによる集団食中毒を起こすか?
答 殺菌されていない生乳にはリステリアの汚染があるため、乳製品は適切な殺菌や管理を行わないとリステリア感染の原因となる。特に低温で長期熟成を行うことからチーズはリステリアに関してハイリスク食品である。水分活性の高いソフトタイプのナチュラルチーズでは、しばしば集団事例が報告されている。
生の食肉は高率にリステリアに汚染されていることが知られており、加熱不十分などで菌が残ってしまうと、低温保存中に菌が増殖して、リステリア症を発症してしまう。食肉加工品もハイリスク食品といえる。その他の食品では野菜サラダやスモークサーモンによる集団事例が報告されている。
問 妊婦のリステリア感染症は?
答 妊娠中のリステリア感染症は多くの場合、基礎疾患のない健康な女性に起こっている。妊婦自体の症状は発熱や頭痛、筋肉痛など比較的軽いが、胎児への影響は強く出ることが多く、胎児死亡、死産、早産または新生児感染を起こす。妊娠中絶や死産の新生児について、リステリアの培養が行われることはほとんどないため、妊娠中にリステリアを原因とする感染がどの程度起こっているか正確な割合を推定することは容易ではない。Giraud らの報告によれば、自然流産の1.6%で、胎盤や胎児からリステリアが分離されている。リステリア症と診断された妊婦における胎児の死亡率は、論文により異なっており、16~45%と報告されている。また、妊娠中のリステリア症では、20%が流産や死産であり、出産した場合の63%は新生児感染であったという報告がある。
問 妊娠期のリステリアに対する注意は?
答 基礎疾患のない健康な女性でも、妊娠期はリステリアの感染を受けやすいと考えられている。リステリアは、低温増殖性があり仮に4℃で保存したとしても増殖可能な食品では2週間、10℃では2~4日で10倍以上に菌数が増えることを理解し、低温保存を過信しないことが重要である。市販のRTE 食品では、菌数は低いがリステリアの汚染が見られることから、これまで集団事例が頻発しているリステリアのハイリスク食品であるナチュラルチーズ、冷蔵保存されている食肉加工品、パテやスモークサーモンなどは、直前に充分加熱して喫食するか、妊娠期は避ける。
(今年度より母子健康手帳にリステリア菌による食中毒について掲載されています。)
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