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(投稿:by 僻地の産科医)
エイズ予防には合理的で科学的なアプローチを
Medical Tribune 2009年2月26日号(VOL.42 NO.9) p.06
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M42090062&year=2009
〔ロンドン〕発展途上国の公衆衛生コンサルタントであるHelen Epstein氏は,複数のパートナーと長期にわたる性的関係を持つこともエイズ増加の一因で,エイズ教育のなかでこの事実を伝えていくことが重要であるとBMJ(2008; 337: a2638)に発表した。
2〜3人との継続的関係も危険
Epstein氏は「長期にわたる複数のパートナーとの性的関係がアフリカでのエイズの蔓延に及ぼす影響を長年無視してきたことで,国連共同エイズ計画(UNAIDS)の事務局の立場は失墜している」と説明。また,「UNAIDSがこの感染症を不必要にきわめて複雑に伝えることで,アフリカでのエイズを神秘化してしまっている」と述べている。
同氏は「長期にわたる複数のパートナーと同時並行して性的関係を持つことが,アフリカの一部の国の人々が驚くほど高い割合でエイズに感染している理由の1つだ」と指摘。UNAIDSにこの問題に関する科学的データを再評価するよう求めている。
同氏は,行きずりの性交渉や売春などの高リスクを伴う典型的な性行為のみを強調するUNAIDSの姿勢が,エイズの予防を妨げ,エイズそのものに対する拒否感や悪いイメージを助長し,エイズ患者は皆ふしだらと思わせてしまうことで家庭内暴力にもつながっていると考えている。
実際には,アフリカ人が他国の人と比べて性交渉の相手が多いわけではないが,2〜3人の相手と長期間にわたって「同時に」関係を持つ割合はより高く,これがHIVの感染率を高めている。
複数の相手がいても,長期的な関係を続けている人はリスクを感じることがほとんどないために,コンドームが使用されることはめったにない。このことは感染率の低下したアフリカの国すべてで,性交渉の相手を減らすことが重要であったことからも説明が付く。例えば,ウガンダでは1990年代に,性交渉の相手の60%の減少に伴ってHIVの感染率が70%も減少した。さらに,米国の同性愛コミュニティーとタイのHIV感染率も性交渉の相手の数の激減に伴って減少した。
同氏によると,UNAIDSは性交渉の相手を減らす重要性についての第三者報告を長年にわたり見過ごしてきており,2006年まで性行動に関する報告で長期にわたる複数の相手との関係について触れることはなかった。
同性愛への嫌悪が障害に
Epstein氏は「性交渉のパートナーの数を減らすことだけがアフリカのエイズ危機を解決に導くわけではないが,HIV感染の恐ろしさを啓発することで,特に性的パートナーの数を減らそうとする行動変化がもたらされる可能性があり,これはアフリカで行われているすべてのエイズ教育計画に取り入れるべきである」と述べている。
同氏は,新しいUNAIDSの責任者と運営委員会に対して,同機関の政治的および科学的役割を再評価するよう呼びかけた。また,科学的問題の検討は,よりオープンな研究過程と専門家による評価のもとで行われるべきで,ほとんど規制のない国連の一機関に任せるべきではないと提案している。
フリージャーナリストのBob Roehr氏はBMJ(2008; 337: a2566)で,画一的な同性愛に対する嫌悪と同性愛を罪と見る行為が,いかにHIVの増加を助長し,同性愛者に対する治療とエイズ予防の取り組みを妨げているかについて検討している。
UNAIDSのPeter Piot局長によると,同性愛に対する嫌悪はエイズの流行を食い止めるうえで障害となる5大要素の1つである。
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