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(投稿:by 僻地の産科医)
キャリアブレインとM3、Mt proから!
スーパー周産期についても言及があります(>▽<)!!!
【参考ブログ】
周産期は妊産婦だけのものにあらず。
ロハス・メディカルブログ 2009年02月27日
http://lohasmedical.jp/blog/2009/02/post_1544.php
妊婦死亡、墨東・救命センター長の見解
キャリアブレイン 2009年3月2日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/20861.html
昨年10月、脳内出血を起こした妊婦が都内8病院に受け入れを断られ、都立墨東病院で死亡した。これが周産期母子医療センター再編の議論が沸騰する発端となったが、その時、現場では一体何が起こっていたのか―。これまで同病院の医師が公の場で釈明する機会はほとんどなかったが、先日開かれた周産期、救急医療の専門家会議で、救命救急センターの濱邊祐一部長がその沈黙を破った。
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相次ぐ妊婦の受け入れ不能
会議は周産期、救急医療の今後の在り方を検討している厚生労働省の研究班が主催。周産期母子医療センターの指定基準の見直しなど、同省の懇談会で年度内に検討するとしている事項について、現場の医師から意見を求めた。
「今回のようなセッションが開かれたのも、うちの病院が発端だと認識している」。周産期と救急医療の連携がテーマとなった第1部で、濱邊部長はそう語り始めた。
病院側は当日、妊婦のかかりつけの産科医院から受けた最初の照会を断り、2回目の照会で受け入れを決めている。厚労省の調査によると、病院から呼び出された産科部長が女性を診察した際、患者の頭痛が悪化していたため、ER(緊急救命室)の担当医が呼ばれた。その後、医師が脳卒中の可能性を指摘し、ようやく脳外科医の診察に至ったという。
マスコミの報道の後、「救命サイドは、『墨東の救命センターは何をやっているんだ』とあちこちから責められたが、残念ながら、それに対して釈明の機会はまったく与えられていないし、釈明する気もない」と前置きした上で、濱邊部長は「患者受け入れまでの(開業医との)情報のやり取りは3回やっているが、救急のラインの医者は全くかかわっていない。すべて産科同士だった」と明かした。
また、妊婦の死亡について、「私も含め、全く問題視していなかった。妊婦が脳出血を起こして死亡することはあり得ることで、今回のケースも、周産期ネットワークの中ではうまく処理された。不幸な結果になったが、(産科の医師も)ネットワークは機能していたという認識を持っていたはずだ。なぜかと言えば、(直後に)そのことが一切院内で話題にならなかった」と、当時の状況について説明。
「搬送までに1時間も2時間もかかったが、『周産期のネットワークでは早い方だよね』『最初に断ったのによくとってくれたよね』とほめられても良いという認識が、おそらく関係者の中にはあった。ところが、一般人の感覚から言えば、『受けるんなら最初から受けろよ』という話になる。マスコミを含めた一般の方の受け止め方と、我々の受け止め方は全く違う。問題になるという認識自体がなかった」と、医療現場と一般の間の認識の乖離(かいり)について言及した。
周産期システムが連携を図るための方策として、濱邊部長は受け入れ窓口の一本化すべきと強調。「今回も、情報が救急センターに入っていれば、まったく別の展開になっていただろう」と述べ、問題は「(収容の)キャパシティだ」と指摘した。そして、その解決策としては、「各ブロックにある地域周産期母子医療センターを整備した上で、各地域で責任の所在を明確にし、地域主導のネットワークをつくれば、いまの医療資源でも対応は可能だと思う」との認識を示した。
ただ、この問題については、「最終的にどこに改善を求めるかと言えば『病政』。東京都で言えば、福祉保健局の医療政策部になる」とし、「これまで中から発信できなかった最大の理由は、うちが都立病院だからだ。都内の周産期センターでも都立は墨東だけ。うちから言うことは実は内部批判になる」と、苦しい胸の内を明かした。
「“スーパー周産期”には懐疑的」と墨東・救急医
橋本佳子
M3.com 2009年03月02日
http://mrkun.m3.com/mrq/top.htm#mr
「 “スーパー周産期”には懐疑的。うまく機能してくれればありがたいが、『もうスーパー周産期に送れ』となるのが人情ではないか。しかも、“スーパー周産期”に指定された3カ所は都心に固まっており、東京の西や東の端から妊婦さんを搬送するのが果たしていいのか」
「当事者の立場で言うのは、弁明に受け取られる」「都の職員なので、行政のことを言うと、内部批判になる」などと断りながらも、こう語ったのは、東京都立墨東病院救命救急センター部長の濱邊祐一氏。3月1日に開催された、「周産期・救急医療専門家会議」でのことです。
“スーパー周産期”とは、昨秋問題となった東京都立墨東病院などの妊婦搬送問題を受けて、東京都が打ち出した構想(『都が「スーパー総合周産期センター」構想打ち出す』を参照)。ごく簡単に言えば、妊婦搬送の“最後の砦”として、都内9カ所の総合周産期母子医療センターのうち、昭和大病院、日本赤十字社医療センター、日本大板橋病院の3カ所を指定する制度。本構想を打ち出したのは、東京都周産期医療協議会会長で、昭和大学産婦人科主任教授の岡井崇氏。「各施設で準備を進めており、今、地域の医療機関への説明なども行っている。この3月にはスタートさせたい」(岡井氏)。
1日の会議は、厚生労働省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(『報告書案了承も、成否は「カネ次第」』を参照)の議論を具体化するために発足した厚生労働科学特別研究の一環で開催されたもの。広く専門家から意見を集めるのが趣旨です。この懇談会の発足も都立墨東病院の問題がきっかけですから、濱邊氏の発言は出席者の注目を集めました。
濱邊氏の発言をやや長文になりますが、紹介します。
「あの一件で、『墨東の救命救急センターはいったい何をやっていたんだ』と方々から責められたが、釈明する気もなく、恐らく言っても言い訳に取られるだろう。ただ、患者受け入れまでのやり取りは、産科医同士で行われており、救命救急センターは絡んでいない。
墨東には、救急のラインは、救命救急センター、初期と2次を受けるER、精神科救急、感染症救急、周産期救急の5つがある。救命救急センターとERは一体化、感染症救急もほぼ一体化している。精神科と周産期救急は別。
では今後、どう対応すればいいのか。一つは病院サイドの話で言えば、窓口の一本化。墨東の5本のラインを1本化することは可能。現実に、交通事故の妊婦なども救命救急センターで受け入れている。まず受け入れてから、産婦人科に『よろしく』と言う。ベッドも救命救急センターで提供している。
ただ窓口を一本化したときに問題になるのは、キャパシティー。これを解決するためには、“スーパー周産期”を作るのではなくて、むしろ地域周産期センターを整備したり、地域の開業医の先生方とネットワークを作り、地域で責任を持って受け入れる体制を構築すること。さらに、救急の問題は最終的には行政の責任であり、東京都がしっかりインセンティブを取り、必要なお金をつぎ込めば、今のリソースでも、ある程度、いい体制ができるだろう。
“スーパー周産期”はすべて都心にある。しかも、大学病院には地域の医療に責任を持つという発想はなく、“スーパー周産期”を作ったところで先が見えている」
“スーパー周産期”に患者が集中し、パンクしてしまう……。そんな懸念の声はフロアからも上がりました。
これに対して岡井氏は、「反対する理由が分からない。地域完結と言っても、どうしても対応できない事例が出てくる。“スーパー周産期”は搬送先が見付からない場合に何とかしようという仕組み。今やっているところには、今まで通りやってもらうのが基本であり、“スーパー周産期”への搬送基準を作り、それに該当した事例のみを搬送してもらう。“スーパー周産期”の実施に当たっては、NICU不足の解消や患者への啓発など実施すべき点はある。また無理を押して対応してもらうこともあるため、診療結果が悪かった場合の責任の問題をどうするかなども検討しなければならない。しかし、今は患者の安心を提供することが必要」などと述べ、緊急避難的な対応であることを強調しました。
1日の会議では、大阪府の報告で2007、2008年の2年間で分娩件数は6万7893件(208の分娩施設、救命救急センター・救急部20施設分のデータ)のうち、重症管理が必要だった妊婦は816例(全分娩の1.2%)、うち救命救急センター収容は26例(同0.015%)というデータも報告されました。
“スーパー周産期”への搬送基準が遵守されれば、恐らく数的には3施設でも対応が可能なのでしょうが、患者・住民、医療機関が安易に“スーパー周産期”を利用するようになると、“最後の砦”が崩れる懸念もあります。 “壮大な実験”(この日の会議の主催者の一人、北里大学産婦人科教授の海野信也氏)が始まります。
母体搬送の「スーパー総合周産期センター」巡り議論紛糾
「緊急避難措置だから」と岡井氏
周産期・救急医療専門家会議
軸丸 靖子
MTpro 記事 2009年3月2日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0903/090301.html
昨年(2008年)急速にクローズアップされた周産期医療における母体搬送の問題を受け,周産期救急と一般救急の連携強化に向けた具体策を話し合う「周産期・救急医療専門家会議」が3月1日,東京都内で開かれた。
厚生労働科学特別研究「救急部門と周産期部門との連携強化に資する具体的手法に関する研究」研究班の主催で,全国の産科医や小児科医,新生児科医,救急医らが参加。周産期母子医療センターの分類や搬送の迅速化,新生児集中治療室(NICU)長期入院時の問題などについて意見を交換した。
会議は午前10時から8時間以上にわたり,フロアとのディスカッションを中心に進められた。周産期救急のあらゆる問題に話題が及んだが,ここでは東京ローカルの話題ながら議論が紛糾した新システム「スーパー総合周産期センター」についてのやりとりを紹介する。
東京都の3施設が選定,3月中にも稼働
周産期医療と救急医療の連携が議論されるようになったのは,昨年10月に発覚した都立墨東病院での母体搬送困難事例の影響だ。同事件では周産期と救急の連携の悪さから母体の受け入れが遅れ,それが産婦死亡につながったと指摘されており,国と都がそれぞれ改善策の検討を進めていた。
このうち,東京都の都周産期医療協議会(会長=岡井崇氏・昭和大学産婦人科学教授)が出した対策案の1つが,いわゆる「スーパー総合周産期構想」。既存の総合周産期母子医療センターや救命救急センターの後方に位置付ける形で,妊産褥婦の救命対応と産科緊急疾患(重症)を必ず受け入れる医療機関を選定・確保することが決定された。最終受け入れ施設に選定されたのは昭和大学病院と日赤医療センター,日本大学板橋病院の3施設で,岡井氏によると3月中にも稼働される。会議では,提言した同氏が「まだ最終決定ではないが」としながら新システムの運用規定について解説した。
「スーパーにこだわり」と岡井氏
なかなか決まらなかったシステムの正式名称は「東京都母体救命搬送システム」で,略称は「スーパー母体搬送」。選定された3か所の最終受け入れ施設の名称は「母体救命対応総合周産期母子医療センター」で略称は「スーパー総合周産期センター」となった。対象症例は「スーパー母体救命」として扱う。
システム対象症例は,(1)脳血管障害や急性心疾患など6種類の妊産褥婦の救急疾患合併症,(2)羊水塞栓症や子癇など5種類の産科救急疾患(重症のみ),(3)診断は未確定だが激しい頭痛や意識障害など6種類の症状を示し重篤な疾患が疑われるもの,および(4)1~3に準じるもので緊急に母体搬送が必要なもの。搬送では症例を「スーパー母体救命」と明確に指定する。
最終受け入れ施設は輪番制を採用する。「スーパー」指定症例については受け入れ時に重症度の議論は行わず,即座に受け入れる。搬送元の一次,二次医療機関の医師は搬送の救急車に同乗する。東京都は埼玉や神奈川で搬送先が見つからなかった症例を多く受け入れていることで知られるが,スーパーに関しては他県の患者は原則対象に含めない。
名称については「スーパーコンビニ」などとやゆも聞かれるが,岡井氏は「略称のスーパーは何でも受け入れるという意味ではなく,『コードブルー』とか『グレードA』といった,特別な患者を受け入れる特殊な体制を整える医療者間の合図のようなもの。そういうことでスーパーという言葉に私はこだわりを持っている」と主旨を説明。
運用開始後の検討課題として,母体救急を受け入れた後の新生児搬送先の確保,NICUがオーバーベッドになった際に診療報酬加算の返還を求められないような措置,そして,無理な受け入れをすることになるスーパー総合周産期センター担当者を診療結果に対する責任追及から守る措置,一次・二次医療機関と患者への周知―を挙げた。
「緊急避難策」にもかかわらず疑念次々
周産期救急の問題は人手不足とNICU不足が解消しなければ解決しないことは明らかであり,今回のスーパー総合周産期センター構想は「それまでの緊急避難的な措置」と岡井氏は位置付けている。
にもかかわらず,同構想には運用直前の現在でも懐疑的な見方が多い。軽症例も送られてスーパーがパンクする,最終受け入れ施設をつくれば既存の三次救急が空洞化する,二次救急を整備して三次救急の混雑を緩和すれば現行システムでも改善は可能なはず,などの意見だ。これらの意見は「三次救急が整備されてから一次,二次救急が機能しなくなり,三次に軽傷者も集中するようになって現在の医療崩壊が起きた」という現状の反省に立っている。
会議では,提言者である同氏に集中砲火が浴びせられた。
「総合周産期母子医療センターの多くは大学病院だが,大学病院には地域医療に対して責任を持つというプライドがない。地域周産期母子医療センターを整備して,地域医療に責任を持たせることが重要だ。スーパーのような最終受け入れ施設をつくれば地域の二次救急は『何でも送れ』となるのはわかり切っている」(都立病院救急部門の関係者)
「既にスーパーのようなシステムで母体救命事案を受けているが,対象外の症例が無理に搬送ラインに載せられてきたり,診断名が違ったりということはある。そういうときのスタッフの意欲低下は著しい。スーパーがだめになれば地域の医療はきわめて危うくなることを考えて,地域医療の充実を考えなければいけない」(埼玉県の総合周産期母子医療センター医師)
「対象症例を都民に限っているが,実際の生活県域が県外・都外ということは多い。行政の圏域で無理に割って補助金で運営するというのでは,周産期医療は整備されていかない」(岡山県の医師)
これに対し同氏は,地域で医療を完結できていない現状と,医師やベッド数増加には時間がかかることを指摘し,スーパー総合周産期は医療提供体制改善までの応急処置であると言明。「『何でもスーパーに送ってしまえ』ということは頼むからやらないで欲しい」と受け答えに追われた。
専門家会議主催研究班の担当分担研究者で北里大学産婦人科学教授の海野信也氏は,会議後の取材に対し,「スーパー総合周産期センターは壮大な実験になる。上(三次または最終受け入れ施設)をつくれば下(一次・二次または三次)が空洞化する危険は常にある。新システムをつくってすぐはよいけれど,ずっとやっていくなかで変質するのが問題だ」と懸念を示した。
ダメな議論ですね。
制度変更に内在する大きなリスクを指摘されながら、それに直接応えないのでは失敗は約束されたようなものです。
特定施設への集中が破壊的であることが分かっているのであれば、それを回避する具体的な方法を提案するべきであって、緊急避難だからこれで良いのだなどという粗雑な逃げ口上では、現実と向き合っていくことができません。
回避策が思いつけないのであれば、会場で聞けばいいでしょう。救急分野はまさにそのために危機に瀕しているのであって、様々な試行錯誤が為されています。
聞く耳を持つ度量が必要と思います。
投稿情報: rijin | 2009年3 月 2日 (月) 17:38