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(投稿:by 僻地の産科医)
香川での受精卵とり違いについて、
各誌で検討が盛んに行われています。
私も、受精卵を扱ったことがあり、(精子も同じですが)
ヒヤリとすることはままありました。
というのは、ああいった小さなものについて、
「もう体から離れてしまった場合に、
本人確認がほぼ不可能」
であることが上げられると思います。
たくさんの体外受精がある日など、
「今日は気をつけましょう」と重々気をつけていても、
誰のかわからない卵がでてきたりするものですから。
(その場合は仕方なく廃棄するしかありません)
名前の書いた部分がアルコールで消えてしまうだけで
その日の件数が1件でない限り、
誰のだかわからなくなっておしまいです。
蓋をとったらもうわからなくなります。
シールが剥がれればもうわからなくなります。
戻してしまった後に気がついて、
「いっそ黙っていようかと思った」という記事を見ました。
黙っていればわからない。気持ちよくわかります。
流産してしまえば問題にならない、という気持ちもよくわかります。
個人だけの問題ではないのです。
取違えはいつでも起こりうることなのです。
受精卵取り違え:技師配置、機能せず 担当医1人作業、勤務シフトに問題
毎日新聞 2009年2月22日
http://mainichi.jp/life/edu/child/news/20090222ddn041040009000c.html
香川県立中央病院(高松市)であった受精卵取り違え疑惑で、担当医の川田清弥医師(61)の要望で実現した複数の検査技師の配置が、他業務との兼務などで有効に機能していなかったことが分かった。川田医師は21日、毎日新聞の取材に「受精卵の凍結保存や顕微授精で、作業範囲が広がったため」と要望の理由を説明。しかし1人での作業は解消されず、体制の不備がミスにつながった可能性がある。
病院によると、要望を受け02年以降、複数の検査技師を配置。現在は5人が1日数時間ずつ採卵や培養液の交換などをし、川田医師の業務を手伝っているという。取り違えが起きたとされる昨年9月18日も同様の体制だったが、川田医師は1人での作業について「検査技師の勤務上、たまたまそうなった」と説明。勤務シフトについては「(所属が違うため)私が勤務しなさいという命令はできません。私の能力のなさです」と話した。
病院によると、検査技師は中央検査部に所属し、他科の血液検査などもする。勤務シフトは事前に決まるため、当日の配置が実際の作業内容と合わないケースがあったとみられる。同病院は香川県内の体外受精治療の中核。患者数は98年以降90~53件で推移し、08年は86件。産婦人科医は7人いるが、専門性が高いため事実上、川田医師1人に任せていた。病院側は川田医師の単独作業が多いことも認識していたが、93年の開始時から約1000件を扱うなど実績があり、問題視していなかったという。同病院では、疑惑発覚まで院内マニュアルにミス防止手順がなかったことも判明している。
スタッフ約20人を抱え、必ず複数で作業し、作業台に1人分の検体しか載せないなどマニュアルを整備しているという不妊治療の専門施設「蔵本ウイメンズクリニック」(福岡市)の蔵本武志院長は「ヒューマンエラーは必ず起こる。1人だと疲労で集中力がにぶることもあるだろうが、2人なら声をかけるだけで気持ちも楽になるし、ミスを起こす確率も低くなる」と指摘する。
受精卵「1人で扱う」、ほかの病院も 背景に人件費抑制
朝日新聞 2009年2月22日
http://www.asahi.com/health/news/OSK200902210050.html
香川県立中央病院(高松市)で不妊治療を受けた女性患者に他人の受精卵を移植した疑いがあり人工中絶した問題は、担当医が1人で受精卵を扱う作業を続けていた環境がミスを誘発したとされる。こうした「1人作業」はほかの病院でもあり、現場からは不安の声が上がっている。背景には、人件費抑制で医師を補助する「培養士」の雇用が難しい事情もある。
「昨年まで産婦人科の医師としてお産や手術、外来、中絶をこなしながら、1人で不妊治療にあたっていた。事故が起こらないかと怖かった」
西日本の公立病院で、10年近く1人で不妊治療を受け持つ40代の男性産婦人科医は打ち明けた。受精卵や精子の取り違えを防ぐため、患者は年30人程度に抑え、作業には細心の注意を払ってきた。それでも1人の作業は不安だったという。
受精卵を扱っているさなかに妊婦の陣痛が始まることもあった。「慌てず間違えないように」。自分に言い聞かせながら、急いで片づけて出産に向かった、と振り返る。
病院には、受精卵の培養・管理で医師を補助する「胚(はい)培養士」が必要と訴え続け、今年ようやく1人の雇用が認められた。一方、不妊治療は収益が上がるため、病院から「もっと患者を受け入れて」と言われたこともあったという。「公立病院は経営が苦しく、新規雇用は厳しい。香川県立中央病院も同じ状況ではないか」
香川県立中央病院では胚培養士が3人いたが、いずれも検査技師と兼務で、担当医の川田清弥医師(61)が1人で受精卵を扱うことが多かったという。20日の記者会見で川田医師は「医師である私が検査技師や胚培養士の勤務態勢を決めることはできない。私の力のなさ」と話した。
「民間では専門家である胚培養士を雇って任せるのが一般的」。不妊治療専門医院であるASKAレディースクリニック(奈良市)の中山雅博院長は「医師が診療の合間に培養作業や管理まで行うのは負担が大きすぎる。役割分担が必要だ」と指摘する。
日本生殖再生医学会(事務局・横浜市)の森崇英理事長も「医師が1人で何でもやるのは、体外受精が始まったころの昔の話。胚培養士のほか、生殖医療のカウンセラー、専門の看護師でチームをつくらなければ医師が疲労し、ミスが起こる」と話す。
胚培養士の団体「日本臨床エンブリオロジスト学会」(本部・浜松市)によると、胚培養士も人手不足だという。「培養士が少ないうえ、都市で奪い合うため、地方は人を確保しづらい状態。培養士も1人で作業をしている施設が大半だろう」
体外受精卵取り違え、消えぬ疑問…なぜ1人で作業?
読売新聞 2009年2月22日
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20090222-OYO1T00259.htm?from=main1
香川県立中央病院(高松市)で体外受精卵を取り違えたとされる問題は、初歩的ミスと見られるものの、病院側の説明では理解しにくい点が多い。なぜ医師1人で作業をしたのか、なぜ20歳代の女性に別人の受精卵を移植した可能性が高いと判断したのか、なぜ親子関係を検査で確認せずに中絶に至ったのかなど、疑問点がいくつも浮かぶ。
◆培養士いるのに
川田清弥(かわだきよや)医師(61)は1993年以来、同病院で約1000例の体外受精を手がけ、単独で作業することが大半だったという。
同病院には受精卵を扱う胚(はい)培養士の資格を持つ臨床検査技師が3人おり、うち2人は体外受精も担当していた。「採卵や培養液の交換などはやってもらっていた」と川田医師は説明するが、日常的には他の検査の仕事と掛け持ちだった模様だ。胚培養士の配置は“有名無実”だったのか、「詳しい実態は把握できていない」(松本祐蔵院長)。作業ミスをしたとされる昨年9月18日(木曜)も、胚培養士は他の検査業務をしていたという。
◆順調過ぎて不安
当時の心境について「受精卵の成長が良く、これで移植できる、と気持ちがはやった」と、川田医師は読売新聞の取材に話した。しかし2日後に移植して女性が妊娠した後、気持ちは変化したという。「女性の受精卵は最も良いものを培養しても成熟が進まなかった。妊娠後の経過があまりにも順調過ぎたため、疑問がわき起こった」(20日夜の記者会見)。取り違えた確証がないのに、なぜ不安がそこまで募るのか。
大阪市内で不妊治療を手がける西川吉伸医師は「状態のよくない受精卵から順調に胎児が育つことはある。受精卵の状態やその後の妊娠の状態から、別人のものかどうかを見分けるのは不可能。何をもって別人のものと判断したのか、理解に苦しむ」と話す。
◆妊娠9週目
別人の受精卵を移植したという不安が高まり、院長に報告したのは昨年10月31日。夫婦に伝えたのが11月7日。最終月経から数えて妊娠9週目だった。100%別人のものという確信はなかった、と川田医師は言う。そのまま中絶すると本当の子どもを中絶してしまう可能性もある。
胎児の親を確かめる手段としては絨毛(じゅうもう)検査があったが、川田医師は「日本ではほとんどされておらず、危険」として提案せず、11日に中絶手術が行われた。絨毛検査は妊娠9~11週に、胎盤のもとになる絨毛を採取する。専門家によると、12~18週に行う羊水検査に比べて技術的に難しく、流産のリスクが数%あるが、国内で年間100件程度、行われているという。
中絶後、胎児のDNAを調べればミスの有無は確定する。川田医師は「これ以上のせんさくは本人を傷つけると思った」と苦渋の表情で述べたが、夫婦に検査の提案はしていなかった。
廃棄用の受精卵を移植か 香川県立中央病院
47NEWS 2009年2月21日
http://www.47news.jp/CN/200902/CN2009022101000644.html
香川県立中央病院(高松市)の受精卵取り違え事故で、人工妊娠中絶した20代女性に移植された受精卵は、廃棄しようと作業台に放置していた別の患者の受精卵だった可能性が高いことが21日、分かった。この受精卵が入っていた培養容器(シャーレ)のふたは捨てたといい、香川県は、なぜ患者名が記されたふただけを捨て、本体をそのままにしていたのかを含め、再発防止に向け一連の経緯を詳しく調べる。
病院や産婦人科の川田清弥医師(61)によると、女性は昨年4月に産婦人科を受診。最初は人工授精、次に体外受精をしたが、いずれもうまく発育せず、川田医師は「妊娠は難しいかもしれない」と感じていた。
川田医師は9月18日、別の患者の受精卵が入った複数のシャーレを台上に出して作業。うち1つは不要と判断し、ふたを捨て、台の上に置いたままにしていた。次に女性の受精卵が入った複数のシャーレを出し、作業するうちに混在し、すべてを女性のシャーレとして保管した。新たに女性の名前のシールを張ったふたを作ったかどうかは不明という。
受精卵取り違え:「安全管理徹底を」 県と高松市、10医療機関に要請 /香川
毎日新聞 2009年2月21日
http://mainichi.jp/life/edu/child/news/20090221ddlk37040698000c.html
県立中央病院で受精卵の取り違え疑惑が発覚したことを受け、県と高松市は20日、県内で体外受精を実施している10医療機関に安全管理を徹底を求める文書を出した。
また今回の不祥事について、真鍋武紀知事は「患者様はもとよりご家族に多大の身体的・精神的な負担をおかけしたことをおわび申し上げる。再発防止策を徹底し、県民の皆様に信頼されるよう努めていく」とコメントした。
[解説]体外受精「1人でできる」産科医の過信
指さし、声かけ 通常、複数で確認
読売新聞 2009年2月21日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090221-OYT8T00425.htm
香川県立中央病院(高松市)で起きた受精卵の取り違えは、ベテラン医師の初歩的なミスだった可能性が高い。不妊治療を受ける夫婦は年々増え、容器(シャーレ)上で受精卵を扱う体外受精も増え続けている。不妊治療を行う施設の多くは複数のスタッフでチェックしており、今回の問題を「あってはならない」と指摘する。医師1人に作業が集中していた同病院の実態がミスの背景として浮かんできた。
「Aさんのものですね」「はい、Aさんのです」
大阪市中央区にある「西川婦人科内科クリニック」(西川吉伸院長)。受精卵を扱う培養室で、技師(胚(はい)培養士)が2人1組で、培養器から受精卵が入ったプラスチック製のシャーレを取り出した。培養器の取り出し口と、シャーレとふたに書かれたフルネームを見ながら、指さしと声かけで確認し合う。マニュアルの一番先に指定されている手順だ。培養室内で複数の夫婦のシャーレを扱うことは厳禁にしている。
受精卵を扱う作業台では、別のシャーレに移し替える作業の前にもう1回、同じ確認を繰り返す。通常、卵子の採取から受精卵の移植まで最低4回、シャーレを交換するが、その度に声出しと指さしを行う。医師が受精卵の状態を診断する時は、技師のほかに別の医師が加わる。同クリニックでは1996年から昨年までに3220例の体外受精を実施。複数のカップルを同時に進めるのを避け、採卵から移植まで、各段階の作業を1組ごとに独立して行っている。西川院長は「受精卵は傷みやすく、素早い作業が不可欠。集中していれば、別のシャーレを同時に扱う余裕などあるはずがない」と強調する。
年間約700例の体外受精を実施しているオーク住吉産婦人科(大阪市西成区)の中村嘉孝理事長は「受精卵は、経験豊富な技師による専従チームで担当し、医師が常時、状況をチェックするような体制が望ましい。1人では危険だが、地方の公立病院では、体外受精のような特殊な仕事が、一部の医師に集中してしまいがち」と指摘する。
香川県立中央病院の川田清弥医師(61)は、1979年に産婦人科医として赴任。93年4月に病院初の体外受精を手がけ、受精卵の培養や管理などを1人で行ってきた。これまでに約1000件を手がけ、「受精卵の扱いは1人でもできる」と話していたという。同病院では、今回の問題が起きるまで、患者の受精卵を識別するのは、シャーレのふたに張ったシールの色だけが頼りだった。
問題発覚後の今年1月、病院は体外受精作業マニュアルに、〈1〉受精卵、精子を扱う際は2人以上で確認し、記録に残す〈2〉作業台の上には患者1人分の受精卵しか置かない〈3〉シャーレのふた、本体両側に患者を識別するシールを張る――といった対策を初めて盛り込んだ。松本祐蔵院長は「不妊治療は専門的な知識や技術が必要な分野だけに、病院として監視できず、任せきりにしていた。今後は、病院全体として問題意識を持ちたい」と話す。
「ヒヤリ事例」114施設中56か所で
急速な不妊治療の増加に対応し、日本産科婦人科学会は1986年、不妊治療を行う医療機関の登録報告制度を設けた。体外受精などを実施できる要件などを満たした施設に対し学会認定を行っているが、受精卵の取り違え事故の防止などマニュアル策定については認定の要件としていなかった。
実際、全国の不妊治療施設での取り違え防止マニュアルの整備は24%にとどまり、同様の医療ミスにつながるヒヤリ事例が発生していることが「蔵本ウイメンズクリニック」(福岡市)の福田貴美子・看護師長の調査で明らかになっている。
2007年末~08年1月に、日本産科婦人科学会登録の不妊治療施設594施設に調査。無記名回答した114施設のうち56施設(49%)が「医療事故を身近に感じたことがある」と回答。投薬ミス(13施設)、患者の取り違え(2施設)などのほか、生殖医療関連でも〈1〉受精卵の取り違え〈2〉人工授精時に患者を間違った〈3〉凍結保存した場所を記入ミスした――などのミスがそれぞれ1件ずつ起きていた。また、院内の安全管理指針については90%が整備済みだが、福田さんは「今回の問題は、全国の施設で共有すべき問題」とし、横断的な再発防止策が必要としている。
年2万人50人に1人
体外受精は、不妊治療の中でも踏み込んだ技術だ。日本では83年に東北大で初めて受精児が誕生した。近年では年間約2万人、少子化が進む中で、全出生児の1.8%に達し、ほぼ50人に1人。治療はまず複数個の卵子を女性から採取し、シャーレの培養液中で精子と受精。妊娠確率の高そうな受精卵を選んで子宮に戻す。精子の能力が低い場合は、卵子の膜に小さな穴を開ける「顕微授精」も行われる。
厚生労働省研究班の2003年の調査では排卵期を予測するタイミング法以外の不妊治療を受けた患者は46万7000人と推定された。政府が05年度から体外受精1回あたり10万円(年2回まで)の助成を始めたことも追い風になり、日本産科婦人科学会によると、06年に体外受精(顕微授精を含む)を受けた患者は約9万4000人。
受精卵取り違え 再発防止の指針を急げ
中国新聞 2009年2月21日
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200902210200.html
妊娠したという喜びの絶頂から、一転して奈落の底―。その悲しみは想像を絶するものがある。香川県立中央病院(高松市)で昨年九月、不妊治療を受けた二十代女性が、誤って別の受精卵を移植された疑いがあり、妊娠九週目に人工中絶という苦渋の決断をした。男性医師の初歩的なミスが深刻な事故を招いてしまった。
体外受精児は年間二万人近くが生まれ、新生児の六十人に一人以上を占めるまでになっている。それだけに、この事故を医師個人や一施設の問題としてはならない。取り違えを防ぐための指針づくりを急ぎ、不妊治療の施設全体で共有する必要がある。
卵子と精子を受精させて子宮に戻す体外受精は、受精卵の培養が必要だ。医師は受精卵が入った複数の容器(シャーレ)を作業台に並べ発育状況を確認した際、台の上にあった別の患者の容器を誤って取り違えたとされる。医師は二組の受精卵を同じ作業台で取り扱っていた。しかも一人で作業し、ほかの医療スタッフによるチェックの態勢もなかった。約千例の体外受精を実施してきたベテラン医師で、安全意識のゆるみが事故を招いたといえよう。
同病院は不妊治療マニュアルは以前からあったが、ミスを防ぐための仕組みは含まれていなかった。今回のケースを受けて、複数のスタッフによる相互チェック態勢の構築や、培養容器の識別方法の改善などを盛り込んだ。受精卵の取り違えはほかにも二〇〇〇年、石川県内の医院で発覚。〇二年には愛知県の病院で人工授精時に夫以外の精液を女性に誤って注入する事故があった。いずれも妊娠はしなかった。
だが、不妊治療の現場では事故寸前のミスも少なくないようだ。蔵本ウイメンズクリニック(福岡市)が昨年、全国の不妊治療施設を対象に調査し、その実態が明らかになった。回答のあった百十四施設のうち、受精卵の取り違えや複数の精子混合などの事故を「身近に感じたことがある」とした施設は49%を占めた。ところが、防止マニュアルを整備していない施設は76%にも上った。
女性の社会進出に伴う晩婚化などもあって、不妊に悩むカップルは増えている。それに対応して、不妊治療に熱心なのは、大病院でなく小規模なクリニックである。多くの公立、大学病院は人手不足の上、受精や培養の専門技術を持った培養士が少ないことから必要な態勢が組めないのが実情だ。国内の体外受精の実施施設は五百を超える。安全向上の取り組みは遅れ、個々の施設の努力に委ねられている。厚生労働省や学会も定期的な調査で実情を把握し、事故情報や安全対策を共有できるようにすべきである。
不妊治療は、高額な医療費だけでなく女性の心身に大きな負担がかかる。少子化対策が国の重要な施策であるならば、不妊治療に対する十分な助成や、安全マニュアルづくりに積極的にかかわっていく必要があろう。
受精卵取り違え/普及に見合う防止体制に
河北新報 2009年2月21日
http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2009/02/20090221s01.htm
技術の普及は緊張感を薄れさせる。携わる人たちが当初のこわばりから解放されるのは、それ自体はいいことだ。慣れこそが重大なミスを招き寄せるのだという自覚さえ、保たれているのであれば。
香川県立中央病院(高松市)で昨年9月、体外受精の不妊治療を受けた女性に別の患者の受精卵を移植するミスが起きた。妊娠後に医師が気付き、夫婦は人工中絶を選択したという。作業台の上で別の受精卵が入った容器を取り違えたのが原因のようだ。先端医療現場ならではの固有のミスとはとても言えない。被害者夫婦の憤り、悲嘆は一層深いに違いない。
体外受精による国内での初めての出産は1983年だった。今では実施施設が全国で500カ所に増え、1年に誕生する赤ちゃんは約2万人に上る。安全対策、ミス防止のための体制整備が、技術の普及の度合いに見合って進んできたか。問い直されるべきはその点だ。現場の緊張感や自覚だけに頼るのではない、体系的な再発防止策の構築を急ぎたい。
病院側の説明や担当医師本人の話によると、この医師は約1000例の体外受精を手掛けてきた。今回は1人で実施し、作業台の上には別の患者の容器を置いておいた。生殖医療の関係者が挙げる基本動作は、もちろんそうではない。
作業する際は1人の患者の検体だけを扱うようにする。治療操作の担当者のほかに、ミスに注意する別の担当者を配置して確認し合う。
検体の混同防止と複数によるチェック。今回の香川の病院ではその原則を明示したマニュアルも作られていなかった。
受精卵の取り違え防止を意識した対応マニュアルを整えていない施設は76%。日本産科婦人科学会に登録している全国の不妊治療施設約600カ所を対象に福岡市の病院が実施し、昨年10月に集計した調査で、そんな数値が出ている。香川のケースがまれな例というわけではない。
舛添要一厚生労働相はきのうの会見で、再発防止に向けた各施設でのマニュアル整備の必要性を強調した。
マニュアルを作るかどうかも、各施設の「自覚」に委ねられてきたように見える。一般的な治療法として受け入れられ、定着した以上、厚労省と学会が共通の指針作りに乗り出すべき時ではないか。
不妊治療の体験を公表している野田聖子科学技術担当相はきのうの会見で「国が指導監督していかなければ」と話した。野田担当相は以前、不妊治療施設の実態やマニュアル整備の状況を調査するよう厚労省に求めたが、実現しなかったという。今回のケースを取り組み強化を促す契機にしたい。今回の事態ほどではなくても、表面化していない事故寸前のミスは相当あるはずだと指摘する関係者は多い。
小規模な施設も含めてミス情報を集約し、関係者が共有する。そして教訓を還元する。その仕組みも早く整えたい。
「黙っていようか葛藤…人として報告」 受精卵ミス医師
朝日新聞 2009年2月21日
http://www.asahi.com/national/update/0221/OSK200902200114.html
香川県立中央病院(高松市)で不妊治療を受けた20代女性に別の患者の受精卵を移植した可能性があり人工中絶した問題で、担当した川田清弥医師(61)が20日夜、同市の県庁で記者会見し、体外受精について「ダブルチェックの態勢をとらず、私1人でやっていた」と明かした。受精卵を取り違えた原因として、「原則を守らず、最初の検体を片づけずに、同じクリーンベンチ(作業台)で次の人の検体の作業をした」と説明した。
会見は午後9時に始まり、同病院の松本祐蔵院長が同席した。川田医師は会見の冒頭、「患者や家族の皆さんに心よりおわび申し上げます」と謝罪。取り違えた可能性に気付いた状況について、「(被害女性が)妊娠した時、あまりに胚(はい)がどんどん成熟するので、これまでの女性の診察の経験から『間違えたのでは』とがくぜんとした」と述べた。
また、このまま黙っていようと心の中に葛藤(かっとう)があったと認め、「(隠蔽(いんぺい)は)人間として許されないと考えた」と述べた。
ミスはミスとして認め、この後は当事者同士の話し合いですから外野が(マスコミも)わーわー言うのは不適当だと思います。
それはそれとして、10年前はまだまだ市中病院や大学病院の先生が自分の努力でIVFを地道にやっているのが当たり前でした。一部保険使って安くしたりしてね。でも、人員配置の問題などがやり玉に挙げられれば挙げられるほど、一部の先生の熱意で行われていた安い地道なIVFは死に絶えてしまうことが確定しましたね。そして米国のように初診300万、1回100万の治療になるか、英国のNHSのように1年待ち、38歳以上は無条件に不可、となるかのどちらかです。たぶんこの件に関しては米国型になりそうですね。
残念ですがこれが現実。世界で最も安価で成功率の高かった日本の不妊治療も、あっさり終了ということになりそうです。個人的には不妊に興味がないので「残念ですね」としか言いようがありませんが、マスゴミの皆さんはこの事件報道の意味するところが全く分かっていないでしょうね。本当に残念な脳の持ち主ばかりです。
投稿情報: 惨禍医/不妊はやる暇がありません | 2009年2 月22日 (日) 17:15
仰るとおりですo(^-^)o ..。*♡
私も大学にいたときには、それこそピペットから手作り、皮むき、精子の尾っぽきりなど、それこそ「技術者を雇ってくれないから、医者がやるしかない」こといっぱいやっていました。市中病院では、「閑がない」ので子宮脱の手術より何より先に切られるのが不妊でしょうね。ま、せいぜいクロミッドまで。最近は人工授精でさえ時間を合わせるのが苦痛ですからやりません。(そういえば精子の調整は当然、医師が遠心分離にかけたり調整液チャコチャコやるわけです)スウィムアップなんてやってられません。ええ、時間ないもん。
やらなくなってから見れば、この件については「やったもの負け」な気分が濃厚に漂う記事です。
でも不妊治療、できない地域だったのかなぁ。。。。と不憫でもあります。自分でやるしかなかったんでしょうね。
「やれ」と病院は簡単に言いますが、そりゃ簡単にできますけれど、リスクも人手も何にも考えていませんよね。
エンブリオロジストさえ整えてくれない公立病院では、今後ますますの不妊治療の衰退が目に見えていく事件だと思われます。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年2 月22日 (日) 19:39
初めてコメントいたします。
思うのですけれど、公立病院でどこまで
最先端不妊治療を実施すべきなのかと
疑問に思います。
IVFはもちろん保険外治療でしょうけど、
民間病院に比べれば割安な設定なのではないでしょうか?
人員も予算も限られる公立病院で、こういった最先端治療を行うより、一般的な不妊治療に留めるべきではないかと思います。
何故なら、ろくに人員も予算も配分されず
現場の頑張りでこなす限りこのような事故は起こりうると思うからです。
IVFはハッキリ言って贅沢な医療だと思うのです。それは公立ではなくIVFに特化したクリニック等に任せた方が合理的ではないでしょうか?
何もかも公立病院が抱え込むと勤務される医師の方々の疲弊が増すばかりだと思います。
医療には全くの素人なので見当はずれな文章だと思いますが、素朴に「何故公立病院でIVF」と思ったものですから。
乱文失礼しました。
投稿情報: 通りすがり | 2009年2 月22日 (日) 21:57
恐らくみなが思っている疑問だと思います。
また昔は何でもやる、という風習でしたが、近年の産婦人科医人手不足のため、どの病院でもだんだんと行われなくなっているのが現状です。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年2 月22日 (日) 22:56
今回の件がきっかけで、人手不足を理由にIVFを中止する公立病院が、多数出現しそうですね。公立病院じゃあIVFできるからといっても、担当医がボーナスもらえる訳ではないですからね。医者の心が折れたら終了です。
そして、患者は都市部の不妊専門クリニックに流れたところで、今度は「採卵時の麻酔事故」のニュース、というのが私の予想です。
ほとんどの不妊専門クリニックでは、非麻酔科医による怪しい鎮静が横行していますので、そろそろ何か起きそうな予感がするのですが。
投稿情報: clonidine | 2009年2 月22日 (日) 23:02
>ほとんどの不妊専門クリニックでは、非麻酔科医による怪しい鎮静が横行
麻酔科への採卵の麻酔依頼ってまだあるんでしょうか?
昔は、病棟までボンベを積んだ麻酔器をもっていって挿管して全身麻酔をかけて1時間くらいかけて卵をとっていましたが。
投稿情報: 麻酔科医 | 2009年2 月23日 (月) 15:28
麻酔科麻酔による採卵は見たことがありません。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年2 月23日 (月) 21:44
問題なのは
×自然受精
×人工受精
最後に体外受精という高度医療治療方法にしか頼れないこと
香川の川田医師の不妊治療ニュースを見て、20台夫婦も40台夫婦も子供を手にしていない。大騒ぎしても子宝は授からないまま。
神様は子供を与えたくないような印象
投稿情報: 産婦人科は山のごとく | 2009年2 月24日 (火) 01:04
>非麻酔科医による怪しい鎮静が横行
現在の採卵の麻酔は、麻酔科医がかけるレベルではなく、採卵する医師の管理する範疇ということですね。
投稿情報: 麻酔科医 | 2009年2 月24日 (火) 07:29
ワシが大学でやってたころは、自分で腰椎麻酔かけてましたね。
(今から15年前)
鎮静はなし。
その後赴任した先でも腰椎麻酔でした。
同じ大学の先輩とやってたから、大学と同じやり方なのは当たり前か。
全身麻酔で採卵?なんと贅沢な…
今回の事件に関して。
妊娠できてよかったね、で済ませられなかったのが、気の毒ですね。
不妊症患者はなによりも「妊娠したい」から、妊娠が成立したときの喜びはもう、爆発的です。
それを、事情はともかく「妊娠中絶」になってしまったら、そりゃものすごく傷つきますわな。
なんかもー、その瞬間を想像するとこっちまで心臓が痛くなるくらい、気の毒です。
投稿情報: suzan | 2009年2 月24日 (火) 09:13
私が大学でマジメに学問していた頃の、研究テーマの1つがIVF採卵の麻酔でした(興味のある方は↓リンクをどうぞ)。新研修医制度前の良き時代でしたので、採卵はすべて麻酔科医管理による日帰り全身麻酔でした(現在では全例とはいかないそうです)。
そのせいか、いまでもハイリスク採卵の麻酔や、不妊クリニックの麻酔プロトコール作成を、依頼されたことがあります。
現在の麻酔科医数を考えると、IVFが自家麻酔中心になるのは仕方がないと私も思います。しかし、婦人科医→婦人科医の口伝を経るうちに、ヤバそうなワザ(左ラボナールワンショットなど)が一人歩きする噂も耳にします。
IVF認定施設なら、年一回ぐらいは麻酔科医を採卵室に招いて、勉強会&デモンストレーションをしてもらうのはいかがでしょうか?
投稿情報: clonidine | 2009年2 月24日 (火) 22:34