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(投稿:by 僻地の産科医)
地方における産科医療の問題点
岐阜県の産科医療における3年後、5年後の予測
岩砂眞一
(日本産婦人科医会報 平成21年1月1日号 医療と医業特集号 p20-21)
全国的に産科医療の崩煩が叫ばれている。特に産科医師不足岐阜県においても危機的な状況である。こうした事態に対応すべく産科医療施設の集約化が進んでおり、今後どの様に産科医療が進むのか甚だ見当がつかないの現状である。
そこで岐阜県産婦人科医会として、これからの産科医療の問題点にどの様に取り組むべきかを検討する目的で、全県下の産婦人科診療施設にアンケート調査を行い、産科医療の3年後、5年後の予測を試み、ここに報告する。
調査期間:平成17年から平成19年まで。生計平成20年5月
対象: 岐阜県下の全産婦人科114施設、その内産科診
療は病院22施設、診療所41施設。回収率100%。
図1 平成20年10月現在 岐阜県の5地域にある産婦人科医療施設。すでに3施設が閉院。病院および診療所は総数111施設で( )の数値は分娩取扱施設数である。
調査結果より各地域の病院、診療所の常勤医師数と分娩数を表1に示した。病院、診療所では何れの年も岐阜が常勤医師数、分娩数共に再多数であった。また病院で分娩数が多い地域は岐阜、東濃、飛騨の順で、診療所では岐阜、西濃、東濃の順であった。診療所の総常勤医師数は平成17年から20年にかけて53名から48名に減少し、飛騨においては1施設の1名のみで変化がなかった。
常勤医師一人あたりの年間対応分娩数を表2に示した。太字が平均値以上を示している。病院では何れの年も岐阜と西濃が、診療所では岐阜が平均値以下であった。岐阜、西濃以外の地域では平均以上の分娩対応数であった。次に下記の年間平均分娩取扱数より各地域の充足常勤医師数を算出し表3に示した。
年間平均分娩取扱数
病院 平成17から19年の総分娩数:18380件
総常勤医師数:200名
常勤医師一人あたりの年間平均分娩取扱数=91.9
診療所 平成17から19年の総分娩数:39549件
総常勤医師数:159名
常勤医師一人あたりの年間平均分娩取扱数=248.7
年間平均分娩取扱数を基に算出すると、病院では年が増すごとに常勤医師数が不足し平成19年には5名、診療所では各年2名不足していた。次に平成19年の3年後と5年後の予測を試みた。
第1設定条件に病院、診療所の定年退職を65歳とし、第2設定条件に年間平均分娩取扱数を病院91.9、診療所248.7に設定した。表1の数値を基に算出予測し、表4に示した。第1設定条件の65歳定年退職を当てはめてみると、3年後の平成22年に岐阜県の病院において11名の常勤医師が退職する。退職医師数11名×平成19年の常勤医師一人あたりの分娩数95.4から病院常勤医師の退職により診られなくなる岐阜県での分娩数1,049.5人が算出できた。平成19年の病院常勤医師数は66名で、退職11名を引くと、残り55名。1,049.5の分娩数を55名の残った常勤医師で割ると、一人あたり19.1人余分に診療する必要がある。つまり常勤医師一人の取扱分娩数95.4をこれに足すと、合計114.5人診なければならない。この数 字を病院年間平均分娩取扱数91.9で割ると、不足常勤医師数1.2が導き出せる。各地域における平均の常勤医師不足数は1.2名で、人数にすると10名の不足常勤医師数となる。同様に診療所の不足常勤医師数は13名となる。また5年後の平成24年には病院11名、診療所15名の常勤医師の不足が予測される。表5に予測結果をまとめた。
3年後には5,245人の妊婦が分娩難民になると予測され、これは平成19年の総分娩数の27.4%にあたる。不足常勤医師数は23名に及ぶ。5年後では6,821人の妊婦が分娩難民となり、平成19年の総分娩数の35.7%にも達する。不足常勤医師は26名となり、常勤医師不足が少しでも解消できなければ深刻な数値となる。表6に病院、診療所常勤医師の年齢分布を示した。
病院年齢分布から20代の医師が極端に少ないことが分かる。これから先の産科医療の担い手があまりにも少ないのが現状である。診療所常勤医師の高齢化が認められる。
アンケート結果を図2に示した。病院における定年退職後の職場希望は再就職、パート希望が多く、このニつを合わせると72%になり、職場復帰への意欲が伺われる。次に医師の欠員補充の可能性は全く無い、少ないを合わせてみると86%に及び、医師欠員補充は不可能に近いことが分かる。診療所では何れの図においても定年退職後も診療を続けるが83%、93%と多くみられた。
まとめ
岐阜県の産科医療では、常勤医師数が多いのは病院、診療所ともに岐阜で、分娩数が最も少ないのは診療所の飛騨であった。常勤医師一人あたりの平均分娩数は岐阜と西濃以外は常勤医師の分娩対応数が平均以上で、診療所においても岐阜以外の全ての地域で平均以上の対応であった。充足常勤医師数から見ると病院は岐阜と西濃が、診療所で岐阜は充足しているが、それ以外の地域では医師不足が目立った。このことから特に地域の中核をなす病院では、早急な医師補充が急務である。また診療所においては中濃と飛騨で医師および施設の補充が緊急に必要である。
65歳定年退職を基準に行った3年後5年後の予測から、医師不足数は平成22年は23名、平成24年は26名となり、それに伴い分娩難民数は平成22年には5,244人に、平成24年には6,821人に達する。またアンケートからも医師の欠員補充は甚だ困難で、定年退職後の希望は医療を続けるが多く、この事より65歳の定年退職の延長が必要である。
結 論
平成19年を基準に3年後5年後の予測について検討したが、既に平成19年は医療崩壊のまっただ中にあり、この時期を基準に置くこと自体が問題で、ここに掲げた数値は最低の状況下での数値である。現在の状況では、産科医療施設の集約化がいくら進んだとしても産科医師の増員がなく、ましてや施設の拡充は困難であると思われる。常勤医師の年齢分布を見ても20代の産婦人科医師の少なさが目立つ。このまま現状を放置すると5年後の予測ではでは年間分娩難民は6,812人で、平成19年の総分娩数の35.7%になり、深刻な数値となる。一時的な緩和方法ではあるが65歳定年延長を早急に考える必要がある。こうした事実より、地域住民の安全なお産を考えるにあたり、県行政、産婦人科医会そして個々の産婦人員医師が全力をあげて、早急な対策を講じる必要がある。
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