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(投稿:by 僻地の産科医)
HPでこんな記事を見つけましたo(^-^)o ..。*♡
というかこのHPの抗議記事はまったくその通りで、
治験はものすご~くたくさんの書類とたくさんの説明時間と、
コーディネーター、倫理委員会など、
基本的に私達臨床医は、すごくいい薬でもない限り、
係りたくないくらいのいや~な面倒くさい仕事なのです。
(死亡となると山のような書類と事後報告が求められるのは
言うまでもありません)
こういった仕事で「人体実験」なんて書かれてしまうと、
とても悲しいだろうなと思います。
それから遺族のみからのインタビューのみで構成された記事で、
かなりワンサイドな偏った記事であることも見受けられます。
「調査中」というのは文字通り調査中であって、
はぐらかしではないのではないか?
・また補助人工心臓が必要だった病態
・何ヶ月でも入院していてよいとは思わなかったから同意したのでは?
・後続の同じ病態の方々の道を閉ざす権利があるのかどうか。
これはご遺族の方への批判ではなく、
週刊文春記事そのものへの批判です。
(子供が亡くなった場合、どのような場合でも、
病気でも自殺でも、自損事故死であっても、災害でも、
親が納得することがないのは当たり前だと私は思っておりますので。)
それに特別面会は、「生きて出られる」と誰もが思わなかった結果でしょう。
ただ単に。生きて出られる人にはそんなことしません。
それに治験データは生きている以上、使用している以上、
報告のためにとり続けねばならないんです。
また一年生存率に当然これは入っているでしょう。
心臓機能の代替を果たしたかどうかについての調査なのですし。
治験である以上aliveかどうかと(心機能)
脳の機能の評価は関係ありません。
治験をやめるならば当然、未承認の治療器は使えません。
事実誤認がさまざまに甚だしく誘導的であるのは心臓素人の私でもわかります。
この記事が、他の患者さんの治療を邪魔しないことを祈ります。
補助人工心臓に関する記事について
http://www.ncvc.go.jp/20081218_oshirase.html
12月17日発刊の週刊文春(12月25日号 156頁~159頁)の記事について病院としての見解を述べさせていただきます。最初に、お亡くなりになりました患者様のご冥福を心からお祈り申し上げるとともに、ご家族の皆さまにお悔やみを申し上げます。
私たちは、今般の記事が、補助人工心臓による治療を受けておられる患者さんとご家族の皆様を不安に陥れ、また、重症心不全のために補助心臓に依存しなければならないと判断される全国の患者の皆さまが、適切な治療の機会を失してしまうのではないかと懸念しています。
当センターは、個人情報に属する詳細を第三者に開示することはできませんが、記事に事実経過についての誤解を招く恐れのある記述が幾箇所もあると考えますので、個々に説明いたします。記事にあります補助人工心臓(サンメディカル技術研究所製 エバハート)の治験は、薬事法で定められた方法に則って実施されたものです。治験は法令やガイドラインにより被験者の人権が最大限保護される仕組みになっており、決して人体実験ではありません。治験の適応と開始については、患者さんとご家族に主治医が詳細に説明しますが、それとは別に治験担当医、CRC(クリニカル・リサーチ・コーディネーター:臨床治験コーディネーター)が、病院とは独立した委員会で審議・承認された説明文書を基に長い時間をかけて説明し、十分に納得いただいた上で実施しています。記事で指摘された治験実施期間内の事象は、医療安全推進委員会事例検討会で医療事故ではないと判断されました。また、外部委員が参加された治験審査委員会では、治験対象機器の不具合によるものはないという結論に達しており、臨床経過の詳細は治験依頼者と規制当局に報告しました。記事写真にある治験同意文書の手書き書き込みは、治験期間中にご家族の継続意思を確認した際に、署名と同時に、気持ちを書きたいとおっしゃって残されたものです。私たちは、指摘のありました事例を真摯に検証し、高度医療をお受けになる患者さんとそのご家族の皆さまの安心と信頼を頂くために、なお一層の努力を積み重ねてまいりますので、何卒よろしくご理解いただきますようお願い申し上げます。
平成20年12月18日
国立循環器病センター
病院長
友池 仁暢
ちなみに、M3のインタビュー記事はこちら ..。*♡
最後に件の週刊文春の記事を上げてみます(>▽<)!!!!
「事故調査は厚労省ではなく、まず院内で実施する」
―国立循環器病センター総長橋本信夫氏に聞く―
厚労省による調査は責任追及になる恐れ、医療の質向上につながらず
m3.com 2009年1月16日
聞き手・橋本佳子編集長
http://www.m3.com/iryoIshin/article/87390/?q=%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%BE%AA%E7%92%B0%E5%99%A8
昨年12月、一部週刊誌などが報じた、国立循環器病センターの「植込み型補助人工心臓治験症例」の問題。当初は厚生労働省が第三者機関を設置し、調査を行うことも想定されていたが、1月16日、同センターは自院で委員会を設置、調査・検証等を行うことを公表した。 同センターの総長を務める橋本信夫氏に委員会設置の狙いや今後のスケジュールなどについて聞いた(2009年1月16日午後に電話取材)。
――まずこれまでの経過からお教えください。
今回の件は、2007年3月に当院に入院した、重度の拡張型心筋症の患者さんです。私が報告を受けている範囲では、患者さん側が、当院で当時治験をしていた補助人工心臓であるエバハートの植込み手術を希望され、当院を選択したようです。幾つかの補助人工心臓を提示したのですが、最終的にエバハートを選ばれました。どんな説明を患者さん側にしたのかなど、この辺りの事実関係は、今回の委員会で検討することになると思います。
この補助人工心臓は国内で開発されたもので、この患者さんが3例目でした。脳梗塞のリスクがあることは分かっていましたが、まだ治験のデータはない段階です。この点も含め、インフォームド・コンセントを行いました。
――3例目というのは、日本全体で3例目ということでしょうか。
はい。患者さんは、補助人工心臓の植込みの手術の約2週間後、容態が悪くなりました。 当院には、患者さんの容態が急変したり、あるいは死亡した場合、担当医だけでなく、リスクマネージャーなどがすぐに集まり、データなどを基に症例を検討する仕組みがあります。日々の臨床経過の中で、行っている検証です。
――それは治療方針の検討ではなく、レトロスペクティブに検証する委員会でしょうか。
はい、そうです。この患者さんについても、この時点で検証しました。
――今回の件で、「医療安全推進委員会事例検討会で検証した」との報道がありますが、これは患者さんが死亡した後のことではなく、容態急変直後に行ったものでしょうか。
その通りです。「死亡直後に調査委員会を開催して、今回の件は問題ない」と判断したわけではなく、あくまで容態急変時点のことです。 この点について、死亡後に医療事故だったか否かなどの検証を行ったような、誤解のある報道がされています。
もっとも、いろいろ調べてみると、患者さん側と医療側のコミュニケーションが難しくなってきたということは、あったようです。この辺りは、メディエーターを導入するなどして、今後対応していくべき課題だと思っています。
――それはいつ頃のことでしょうか。患者さんは2008年春に亡くなられています。
お亡くなりになる前、入院中のことです。
その頃、治験の症例数が増え、次第にデータが集まってきたわけです。この患者さんは3例目ですから、手術の時点ではデータがなく、脳梗塞の危険性に関するデータはありませんでした。しかし、データが蓄積されてくると、ほぼ全例に脳梗塞が生じることが分かってきました。
今回は治験ですから、「継続治験」のためには同意書が必要です。患者さん本人の同意は取れない状態でしたので、家族に同意を取るときに、「このようなデータが出るのだったら、最初から治験を受けなかった」と言われたようです。
――それはいつ頃のことでしょうか。
2008年2月です。継続治験として必要なデータを取るのですから、侵襲的なことを新たにするわけではありません。また補助人工心臓の治験ですから、治験が終了したからと言って、取り出すわけにはいきません。仮に治験をやめれば、費用面の難しい問題も発生します。
結局、患者さん側とのコミュニケーション不足がある中で、患者さんが死亡されたわけです。その後、カルテ開示請求や証拠保全があった以外は、一切、病院側へのコンタクトはありませんでした。
――証拠保全が行われたのはいつですか。
2008年7月です。カルテ開示請求は11月です。当院には患者さんの相談窓口を設けていますが、遺族側や弁護士から、相談などはありませんでした。 それで突然、12月17日に週刊誌に今回の件が報道されたのです。
――国立循環器病センターへの取材依頼はなかったのですか。
ありませんでした。証拠保全があったので、裁判になる可能性はあると病院としては認識していましたが…。
――証拠保全をされた時、病院から遺族側に何らかのコンタクトは取られたのでしょうか。
それもないようです。
――報道をどう受け止められたのか。また出版社等に対して、何らかの対応はされたのでしょうか。
「循環器病センターにはこの問題を解決する能力はない」などと報道されました。厚労省で調査すべきだと。
その後、いろいろな動きがありました。舛添要一・厚生労働大臣は、12月19日の会見で、「院内でまず調査すべき」としました。一方で、厚労省の担当部署は「調査のための第三者委員会を設置すべき」だと公表しました。二つの違う意見が出てしまったわけです。
年末年始をはさんだので、今になったわけですが、結局、循環器病センターが、院内で第三者を入れてまず調査を行うことで落ち着きました。1月15日に私は厚労省の医政局長と国立病院課長にお会いしましたが、彼らもそうすべきだとちゃんと言ってくれました。
検証等がない段階で、出版社に何らかのアクションを起こすわけにはいきません。「何も言わない」というのは、「報道内容は事実だ」と受け止められる懸念は非常にあったのですが、あえて反論などはしていません。 ただ、これまでの事実関係でお話できる部分は、可能な限りお話していこうということで、今、インタビューにお答えしているわけです。
――改めて厚労省が調査することと、院内での調査の違いをお聞かせください。
私は、これは監督官庁が調査すべき問題ではないと思います。医療事故の調査は、犯人探しや責任追及であってはなりません。当事者が第三者を中心にして、調査・検証しないと、真相究明はできません。
もし監督官庁が実施したら、病院の自律性は失われてしまいます。また調査の過程では、当然ながら「こうすべきだったのではないか」など、次のより良い医療に向けた、様々な意見が出てきます。しかし、監督官庁が調査したのでは、こうした意見すら出なくなる恐れは否定できません。 確かに院内調査の結果、内部で解決できない場合もあり得るでしょう。その場合は別のところで調査・検証を実施しなければなりませんが、現時点では院内での調査が先決です。
監督官庁が臨床現場のデータを基に検証するのは、パニッシュメントにしかならないのではないでしょうか。現在、“医療事故調”のあり方が検討されています。こうした前例を作ってしまうと、例えば何らかの不満がある患者さん、あるいはその代理人が直接厚労省に訴えて調査を求めるというアプローチが可能になるわけです。
確かに今回、患者さんが死亡されたのは不幸なことであり、コミュニケーションに問題があったことは改善すべき点ですが、私は今回の件は医療事故ではなかったと思っています。こうした事例において、病院側が調査権を失い、監督官庁が調査を実施することは、医療の質向上に当たっての大きな障壁ができることになると危惧します。
――今日1月16日に院内調査委員会を設置されたとのことですが、メンバーなどをお教えください。
名古屋大学大学院心臓外科学教授の上田裕一先生が委員長です。外部委員が5人、内部委員が2人の計7人です(下表参照)。上田先生はこうした事故調査の経験が豊富で適任だと思います。安全管理や臨床研究に詳しい方、さらには循環器病センターの倫理委員会に一般の立場でかかわっていただいていた人などがメンバーです。また内部委員は当時は当院に在籍していなかった、あるいは本件に全く関係のない職員です。今後、法律の専門家として、元裁判官の方にも加わっていただく予定です。 議論の過程では、適宜、人工心臓や治験の専門家などをお呼びして、意見をうかがうと聞いています。
――委員会では事実関係の調査が一番の目的ですか。
事実関係の検証のほか、インフォームド・コンセントや治験のあり方なども検証することになると思います。最終的には、先端医療に取り組む当院において、このようにクリティカルなケースに対応するに当たって、今までのシステムでいいのか、などの提言もしていただきたいと思います。
――医学的な検証と、インフォームド・コンセントなどの面についての検証、二つをこの委員会で実施するということですか。
はい。
――議論は非公開にしたのは、なぜでしょうか。
「毎回、議論の要約は公表する」と上田先生はおっしゃっていました。ただ、議論では様々な角度から意見が出ますから、誰が何を言ったかを公表すると、それが批判やうらみなどにつながる可能性も否定できず、自由な議論ができなくなる恐れがあります。
――どれくらいの頻度で会議を開き、いつごろまでに報告書をまとめるのでしょうか。また報告書は公表されるのでしょうか。
頻度は分かりませんが、次回は1月31日に開催予定です。土曜日ですので、上田先生は「6時間か、8時間はやります」とのことでした。当センターでは膨大なデータをまとめています。それを各委員が検証していくことになります。 今後、3カ月、プラスアルファの期間をかけて検討する予定です。結果は、報告書という形でまとめ、公表することになると思います。そのようになると思います。
植込み型補助人工心臓治験症例に関する事例調査委員会名簿
委員
上田裕一 名古屋大学大学院 心臓外科学教授
是恒之宏 大阪医療センター 臨床研究センター長
中島和江 大阪大学医学部付属病院准教授
西村多美子 就実大学薬学部教授
森田秀樹 (株)イリンクス 元代表取締役社長
鎌倉史郎 国立循環器病センター 臨床検査部長
山田泰子 国立循環器病センター 看護部長
オブザーバー
中岡成文 大阪大学大学院文学部教授
妙中義之 国立循環器病センター研究所 副所長
最後にくだんの文春記事です!
国立病院のおぞましい人体実験
(週刊文春 2008年12月25日号 156頁~159頁)
<透明性と説明性と高い倫理観こそ私遠の理恵です>
循環器荊の最先端医療を手がける大阪府の“国立循環器病センター(以下国循)は崇高な理念を揚げている(HP写真参照)。だが、この日本中から重度の心臓病患者が来訪する医療機関には、その理念とはかけ離れた重大かつ、おぞましい疑惑が存在する。
小誌が入手した資料に目を通したある医師は絶句し、こう憤怒の言葉を語った。
「不可逆性脳障害(植物状態以上)の青年から治験データを取り続けるなんて、まさに人体実験だ!人間として扱われていない。こんなことが許されるのか」
十八歳の青年、山ロ克彦さん(仮名)が国循に入院したのは、昨年春のことだった。病名は重度の拡張型心筋症で、前の病院では余命いくばくもないと診断されていた。拡張型心筋症とは心筋の収縮が弱まり、心臓が血液をうまく送り出せなくなってしまう病気。心不全を引き起こし死に至る可能性のある難病である。
克彦さんの命は、『補助人工心臓」がなければ救えないものだった。重度の拡張型心筋症に有効なのは心臓移植だけとされている。しかし、日本はドナー数がまだ少なく、数多くの患者が移植待機している現状がある。そのため克彦さんのような末期患者には移植までの間、心臓の動きを助ける補助人工心臓が必要とされている。うまく血液を送り出せなくなっていた克彦さんの心臓右心室の働きを補助するための機器だ。
数種ある機器のうち国循が提案した補助人工心臓は、『エバハート」という未承認の製品だった。
「三ヵ月で家に帰れますよ」
克彦さんの母親が語る。
「『まだ治験段階ですが、エバハートだりたら三ヵ月経ったら家に帰れますよ』と言われました」
認可されている人工心臓はいずれも大型で、装着しても入院生活を余儀なくされる。一方、エバハートは小型の機器であり、退院して日常生活を送ることもできるという。医療関係者のなかでも、その認可が期待されていた。つい最近まで元気に学校に通学していた克彦さんが、エバハートに命を託そうと期待を寄せるのも無理ないことだった。
しかし、現状ではエバハートは未承認。そのため本人及び家族が「治験」に参加するという同意の上でしか使用することができない。治験とは、認可を得るための安全性などに対する臨床データを集める試験研究のことである。
エバハートの開発の中心となったのは東京女子医大の山嵜健二准教授。治験を実施、申請を行っているのは、山嵜准教授の兄が社長を務める「サンメディカル技術研究所」(以下サン社)という会社である。治験はサン社が複数の医療機関に委託する形で行われていた。国循では、中谷武嗣臓器移植部部長を責任者として治験が実施されていた。
昨年番の入院後、克彦さんは治験に合意、エバハートを心臓の血管に接収し、体内に埋め込む手術が行われた。手術後、克彦さんは明るくこう語っていた。
「若いもんね、一年や二年どうってことないよね。補助人工心臓を忖けても通える学校を探さないとね。どこの学校に行こうかな」
母親が涙ぐむ。
「あの子は前向きに生きようとしていました……。自分がいちばん苦しかったはずなのに、家族の心配ばかりをする優しい子で」
だが、克彦さんの希望は、無情にも潰えてしまう。手術から二週間後、容態が急変したのだ。母親が当日の様子を振り返る。
『午前中から克彦についていたモニターの波形が変だったのです。看護師さんに医者を呼んでくれと訴えたのですが、ぜんぜん来てくれない。タ方になるとだんだん波形が平坦になってきた。血液がちゃんと運ばれていないんじゃないか。肩で呼吸をしているし、絶対何かが起きている!って」
医師が姿を見せない中、十八時三十分には両足の痺れが現れる。克彦さんの顔色は悪く、唇の色が紫になっていたという。やっと医師が病床に到着したのが十九時二十分。治験責任者である中谷部長と主治医が到着したのはさらに遅く二十一時のこと。直後の二十一時二十Ξ分、克彦さんは呼吸停止状態に陥り、やがて心臓も停止してしまう。
「『病室を出てください』と言われ、ずっとロビーで待っていました。そのうち看護師さんの『キャー』という悲鳴が聞こえてきて……」(同前)
家族に説明されなかった事故
緊急手術が開始されたのは、翌日の未明のことだった。克彦さんは一命こそ取りとめたものの、心停止時間が長く低酸素脳症により不可逆性脳障害が残った。「三カ月後に退院」どころか、以後ずっと植物状態が続くことになうてしまう。
克彦さんのように予期せず患者が重篤な状態に陥ったケースは、過失の有無に狗わらず、国循には「医療事故」として関係機関に届ける義務がある。母親は何度も中谷部長や主治医に、なぜこうなったかと尋ねたという。だが、中谷部長は「なぜこうなったのかはわかりません。現在、調査中です」とはぐらかし続ける。もちろん、「医療事故」という説明もなかった。
小誌も国循に克彦さんのケースを医療事故として関係機関に届けたりか尋ねたが、「個人情報は答えられない」と回答するのみだ。
いったいその日に何が起きていたのか。小誌が遺族サイドから入手したカルテを見た、心臓外科医の南淵明宏・大和成和病院院長はこう解説する。
「人工心臓の手術をしているわけですから、まず心タンポナーデを疑う必要がありました。経過を見る限り、最低でも超音波をかけた十九時二十分の時点で開胸手術を考えなければいけない。唯一それしか対応策はないはずです」
別の人工心臓の移植手術に詳しい心臓外科医は、いとも簡単にこう指摘した。
『これは誰が見てもタンポナーデが原因です。それを見落としたのではないか」
「タンボナーデ」とは、心臓などから漏れた血液により心室や血管が圧迫され、血液循環が不全となりショック状態を起すことを指す。まさに、母親がエバハートのモニターを見て「血液がちゃんと運ばれていないんじゃないか」と疑ったことが現実に起きていたのだ。
「補助人工心臓手術後の最大のポイントは、血管と人工血管を繋げる際の出血なのです。補助人工心臓を入れた心臓は、ほんのちょっとの出血で簡単につぶれてしまう。異変があれぱまず胸を開く。問題がなくてもいいのです。遅れて死ぬことのほうが怖い』(同前)
ところが克彦さんの手術は母親の訴えから半日以上、容態が緊迫し始めてからも六時間もの時間が経過していた。しかもその後、国循が克彦さんに施したのは血腫の除去、いわゆるタンポナーデの除去手術だった。
克彦さんの急変の原因には、更なる医学的検証が必要であろう。だが状況的に、これがエバハート装着に起因する医療事故であり、医師の対処があまりにも遅すぎたことは明らかである。
「翌日、病院から『お母さん、お子さんに会いたいですか。特別面会を許可します』と言われ、病室に長時間入れるようになりました。規則では一日十五分しか面会時間がなかった。でも、他の重症患者さんの家族に聞くと特別待遇になっているのはうちだけ。子どもを心配するのはみな同じなのに、なぜうちだけ特別面会なんだろう?不審に思えて」
母親は病院が何かを隠しているのではないか、そう感じたという。
だが、重大な問題はさらに続く。驚くべきことに国循は家族に対し事態の説明を行わない一方で、治験データの収集は続けていた。治験が原因で植物状態になぅた患者を研究材料として利用していたのである。
意識不明のまま半年か経過した九月、中谷部長は母親に対して、治験総統への同意書への署名を求めてきた。この治験には半年で、継続するかどうかの同意を得ることが必要だった。同意書には「本人著名欄」と「家族署名欄」がある。当然、意識がない克彦さんは署名をすることができない。中谷部長は母親にこう指示をしたという。
「(本人の署名欄には)お母さんが代筆ということで書いてください」
「それは犯罪じゃないですか」
今年のニ月、主治医が新しい治験継続の同意書を持ってきた。克彦さんはもう一年近くも寝たきりの植物状態にあった。呼吸器とエバハートで辛うじて命を繋いでゆくしかなかった。母親はこのとき、治験の同意に対して激しく抵抗した。
『同意書には脳血管障害が起こる可能性が高いことが、追加で加えられていた。手術前には聞いていません。そんなにリスクが高いならエバハートを選びたくなかった。とても同意はできない。納得ができないので私は先生に『同意しなかったらエパハートを外してしまうんですか?』、『呼吸器を外すことと同じで、それは犯罪じゃないですか?』と質問しました」
母親の質問に対して、医師は口を閉ざしつづけた。
命を守るためにエバハートの接続を続ける「医療行為」と、データ収集を目的とする「治験行為」は別のものである。本来なら、接続は続けて治験は止めましょうと提案すペき場面だ。しかし国循側は冷ややかにこう言った。
「でも、提出しなければならないので、(同家署を)書いて欲しい」
このときの同意書には、母親の悲痛な思いを表す一文が書き込まれている。
<手術する前に説明された内容と大きく異なります。今回のこの文書に記された内容を理解(納得)する事は出来ません。ですが、生命維持する為には、治験に参加するほかないでしょ?)
母親はこう語る。
「あの子の命を諦めることはできません。でも、私は治験に同意はできないという意志を伝えたいから(一文を)書きました」
鳶職不明の状態が続いたまま、克彦さんはこの春、短過ぎる生涯を終えた――。
「すぺての治験は患者の自発的な同意が求められる。治験実施者は、ルールを逸脱した問題が起きたときは治験の中止や除外症例とすることは常識です」(前出・移植手術に詳しい心臓外科医)
克彦さんを治験継続とすることが倫理に著しく反することは言うまでもない。
このケースで克彦さんの治験が許されないものであることは、サン社の内部資料からも明らかだ。ここに同社が作成した「治験実施計画書」がある。治験実施計画書には、治験者の『選択基準』が次のように規定されている。
<(1)不可逆性の末期重症心不全患者で、心臓移植の適応があると判定がされた患者であること
‐中略‐
(6)インフォームドコンセントで、同意書に本人及びその家族の署名が可能な患者》
まず、国循が作成した克彦さんの治験の検査票を見ると「心臓移植待機登録状況」の項目には「適応外と考えております」と記入されており、(1)に該当しないのは明白だ。(6)の本人同意も不可能だ。
さらに別資料の「倫理の問題」の項にはこうある。
<(2)代諾の有無 代諾者への同意は求めていない。本治験の参加は、必ず患者本人と家族から同意を得ることとしている。また本人が同意をとれない状態の患者の組み入れは考えていない》
中谷部員が「お母さんが‘代筆ということで書いてください」と指示したことは、まさに許されない行為だ。
だが、おぞましい事実はまだある。克彦さんの死から半年後、エバハートの高性能を謳う記事が全国紙に掲載されたのだ。
「女子医大など開発の日本製人工心臓、移植並みり高生存平に」(○八年十月十八日付読売新聞夕刊)
東京で開かれた日本移植研究会での発表によると、エバハートを装着した心臓病患者の一年生存率が八三%にも達したのだという。治験の実施例はわずか十八例である。一年間もの長きに亘って植物状態だった克彦さんのケースが、「一年生存」として含まれている疑惑が存在するのだ。
少なくとも克彦さんのデータは、四月までは研究データとして利用されている。エバハートの開発者である山嵜准教授は、医学雑誌『循環制御』(第9巻)に「本邦発の次世代型補助人工心臓EVAHEART」と題された論文を発表し、次のような治験データを紹介しているのだ。
「生存例」とされた治験データ
<18Y M DCM NCVC 395+(alive, on going)>
国文循環器病センターに入院している拡張型心筋症の十八歳男性が一一一百九十五日生存し、治験を続けているという意味だ。まさに克彦さんのケースを、あたかも良好な生存例であると読めるようなデータとして公表していたのである。
’「治験を除外すべき患者のデータを『alive』として許されるのか。植物状態というネガディブな実情も一切記載しないのは、科学的ではないし、論文の捏造と指摘されても仕方がな
い内容です」(医療ジャーナリスト)
克彦さんの治験の検査票には「自覚症状―昏睡状態」「心肺機能―昏睡にて評価不能」と記入されている。
「この治験データは医学的にほまったく意味を持ちません。患者は生存率の記録のためだけに利用されたのではないか。これではまるでエパハートの運転試験のための人体実験。治験のありかたそのものが問われる大問題です」(同前)
なぜ彼らは禁忌を犯してしまったのか。まず国循の治薮責任者である中谷部長に話を聞いた。
―意識不明の患者データは治験データとして成立するのか。
「可能性はある。末期ガン患者とか。治験はどういう形であれ適合を現場で判断しない。どう評価するかは依頼者(サン社)……」
――エバハートの治験には本人同意が必要なはずだ。
「本人確認。すべてのケースに対して、ルールに沿って、手続きをして、治療をおこなっている」
――医療事故という認識はあるのか。
「……」
また、サン社は小誌の電話取材にこう答えた。
――エバハートの承認は?
「早くやりたいということで、いま進めている」
――克彦さんの症状を知っていたのか。
「植物状態であったという報告は受けています」
――治験は適格か。御社はそれを了承しているのか。
「判断は病院がする。機器を装着していただいて、それが正常に勣いているということを確認させていただいてます」
改めてサン社に質問状を送ったが、「治験参加に適格性があることを確認している」、「同窓書のご署名があったことから同意されていると認識しております」
と、繰り返すばかりだった。
山嵜准教授はこう答える。
――論文は何を根拠に。
「その時点で生在、継続ということで。意識障害は報告であがっていました」
――治験継続に問題は感じてないのか?
「急変時もエバハートはずっと正常に稼動したというデータを得られている」
――意識障害なら医学的データが取れないはずだ。
「いや、そういう……」
彼らの言葉からは人間の尊厳への配慮が感じられない。克彦さんの母親はこう訴える。
「まず、あの子にあの日、何が起きたのか知りたい。そして、あの子のデータが科学的にどう使われたのか。私は誰も責めるつもりはありません。全てを知りたいだけなのです」
国循とサン社には真実を明らかにする責務がある。
2008年12月19日
週間文春12月25日号の掲載記事に関する弊社見解
サンメディカルHP
http://www.evaheart.co.jp/newsrelease.html
弊社の補助人工心臓の治験にご参加いただきながら、お亡くなりになった患者様及びそのご家族の皆様に対しまして、改めて心より哀悼の意を表させていただきます。
弊社では、産官学、また多くの方々のご理解・ご支援を賜り、補助人工心臓の開発及び治験を進めております。
このたび、弊社治験に関する記事が週刊文春12月25日号に掲載されましたが、その内容は多くの事実誤認を含み、弊社ならびに関係する方々の努力を顧みず、誹謗中傷する内容になっています。この記事により治験に参加されている患者様及びご家族様、また弊社に関係する多くの皆様に不安と不快感を招いたものと、誠に遺憾に存じます。
弊社では、改めて事実確認を行いましたが、治験は遵法的にも、科学的にも全く問題なく進めておりました。
掲載記事は、一方的かつ、不十分な取材に基づく多くの事実誤認を含むものであり、弊社は株式会社文藝春秋 社長に対して記事の訂正および謝罪を求める書面を12月17日に内容証明郵便にて送付しております。
私どもは、今後も技術向上に努め、患者様・医療関係の皆様が切望される補助人工心臓の開発及び治験を進めてまいります。関係される皆様におかれましては何卒ご理解いただき、より一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
【追記】別記事に対してのもののようです。
週刊文春1月29日号の掲載記事に関する弊社見解
サンメディカルHP
http://www.evaheart.co.jp/index.html
弊社の補助人工心臓の治験にご参加いただきながら、お亡くなりなった患者様のご冥福を心よりお祈り申しあげます。また、ご遺族の皆様には改めて衷心より哀悼の意を表します。
弊社では、産官学、また多くの方々のご理解・ご支援を賜り、植込み型補助人工心臓の開発及び治験を進めておりますが、このたび、弊社治験に関する記事が週刊文春1月29日号に掲載され、この記事により、治験に参加されている患者様及びご家族様、また弊社に関係する多くの皆様に多大な不安と不快感を招いたものと、誠に遺憾に存じます。
掲載記事に関しまして、弊社に関係する点についての見解を以下に述べさせていただきます。尚、掲載にあたっては、患者様の個人情報に関わる点については、個人情報保護の観点から記載を差し控えさせていただいております。
「弊社見解」
「体表面積が1.4?u未満の除外基準に該当していたのではないか」という指摘について
弊社では治験委託者として、当該患者様は弊社の治験実施計画書の除外基準には該当していないことを確認しております。
「4割以上の治験が開発者の所属する病院で行われるのは偏りがありすぎるし、フェアではない」とする点について
もともと適応患者数が少ない今回のような治験での被験者確保は、治験実施医療機関4施設で均等に症例を確保することは困難です。また、開発者である東京女子医科大学の山崎医師は、東京女子医大で行われる治験に関して、その判定評価に関わることを一切行わないことを治験実施計画書に明記しております。
「心臓移植自粛中の施設を治験実施医療機関に選定したことの適否」について
当社が、東京女子医科大学を治験実施医療機関に選定した根拠は、当時、日本ロータリーポンプ(定常流型ポンプ)の臨床実例がなく、開発者の山崎医師等、本治験機器もしくはロータリーポンプに習熟している医師が、同大学病院に多くいることが被験者の安全性を考慮すると望ましいと判断したことによります。
また、東京女子医科大学病院が心臓移植を自粛していることが、直ちに補助人工心臓装着を自粛することを意味しておりません。もちろん、被験者の心臓移植の機会が失われないよう、心臓移植が行われる場合は、他の心臓移植施設の協力を得て実施することとしておりました。
なお、東京女子医科大学病院は、2008年2月7日に自粛解除となりましたので、現在は、心臓移植機会の確保の問題は存在しておりません。
「エヴァハートの形状に対する学会で疑問の声があがっている」との指摘について
どの学会でのことか明示がなく、また少なくとも弊社では形状に対して学会で疑問の声があがったという経験をしておりません。記事の根拠がどこにあるのか全く疑わしいと言わざるを得ません。
「移植症例で横隔膜に穴が開いていた」との指摘について
弊社では、心臓移植3例のいずれにおいても、横隔膜穿孔の有害事象の報告は受けておりません。この点も、記事の根拠がどこにあるのか全く疑わしいと言わざるを得ません。
私どもは、今後も技術向上に努め、患者様・医療関係の皆様が切望される補助人工心臓の開発を進めてまいります。関係される皆様におかれましては何卒ご理解いただき、より一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
以上
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