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(投稿:by 僻地の産科医)
見直しか、廃止か、国政の焦点に
-2008年重大ニュース(1)-
「後期高齢者医療制度」
キャリアブレイン 2008年12月27日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19847.html
2008年も、きょうを含めあと5日となりました。振り返ってみると、医師不足について、従来は「偏在」としていた政府が「絶対数不足」を初めて認め、医師養成数の増加に転じるなど政策の転換を迫られました。ほかにも、「後期高齢者医療制度」の創設、EPA(経済連携協定)によるインドネシアからの看護師や介護福祉士の初来日など、大きな「変化」がありました。そこでCBニュース編集部では、医療や介護をめぐる今年一年の主要な動きを振り返り、その後の動向などをあらためて取り上げることにしました。きょうから5日間、「2008年重大ニュース」として1日2本ずつ配信します。(記事内容は配信日現在の最新情報で、その後に状況が変わっている場合があります)
■対立深める与野党
4月1日に始まった「後期高齢者医療制度」は、06年の通常国会で、自民、公明の与党が野党の反対を押し切って強行採決した「医療制度改革関連法」の柱の一つで、成立過程から与野党が激しく対立してきた。野党提出の「後期高齢者医療制度廃止法案」が今年6月に「ねじれ国会」の参院で可決され、衆院で継続審議となったが、臨時国会では審議はわずか1日しか行われず、来年の通常国会に持ち越された。政府・与党は「見直し」の姿勢を変えず、野党は「廃止」の一点で共闘する構えを見せており、対立をより深めている。
同制度は、施行前の段階で、新たに保険料を負担することになる75歳以上の後期高齢者の保険料負担を6か月間「凍結」するなどの措置を取ったほか、「長寿医療制度」へと呼称変更するなど、厳しい状況下での船出となった。
こうした中、施行直後の4月11日には、6万3000人余りに被保険者証が届いていないことが判明し、早くも問題が表面化した。また、保険料が初めて年金から天引きされた同15日には、全国の自治体や医療機関などの窓口に問い合わせや相談、苦情が殺到し、同制度に対する国民の不信感が一気に高まった。
国会では、民主、共産、社民、国民新の野党4党が5月23日、「(同制度は)国民の高齢期における適切な医療を確保するものではなく、同制度を廃止し、元の老人保健制度に戻すための措置を緊急に講じるべき」などとして、「後期高齢者医療制度廃止法案」を参院に共同提出した。同法案は6月6日の参院本会議で、野党の賛成多数で可決された。衆院では継続審議となったが、臨時国会での審議は11月19日のわずか1日のみで進展がないまま、来年1月5日に召集される通常国会での継続審議となった。
同制度について、麻生太郎首相は9月の所信表明演説で、「説明不足もあり、国民を混乱させた事実を認め、反省する」と、政府の責任を認めた。しかし、「制度をなくせば、(問題が)解決するものではない」として、現行の制度を軸にして今後1年をめどに「必要な見直し」を検討する意向を表明している。舛添要一厚生労働相も、麻生内閣発足に伴う閣僚会見で、「制度に関する検討会を立ち上げる」などとして、「見直し」の考えを明らかにしている。
一方、野党各党は、「後期高齢者医療制度の廃止を求める東京連絡会」が12月14日に東京都内で開いた「12・14後期高齢者医療制度の廃止を求める東京大集会」に出席。医療団体や高齢者団体など5000人を超える参加者を前に、厚生労働委員会などに所属する各党議員があらためて「廃止」の一点で与党を追い込む考えを表明しており、今後の国政の焦点の一つとなっている。
■強まる各団体の反発
同制度は、75歳以上の国民が加入を義務付けられているほか、生活保護世帯を除き、子どもの扶養家族となっていた人や寝たきりなどで障害認定を受けた65-74歳も対象になっている。保険料は、毎月の年金が一定額以上あれば、介護保険料と共に天引きされるが、滞納すると国民健康保険と同様に保険証が取り上げられ、「資格証明書」が発行されるなどの制裁がある。
具体的な医療については、一人の患者に一つの「主病」を決めて一人の主治医が治療する「後期高齢者診療料」(月額6000円)などが定められている。
こうした医療内容などに対し、各地の医師会が制度の反対や撤回に加え、同診療料の届け出や算定の自粛を呼び掛けた。茨城県医師会が4月、「医療費抑制のため、年齢により人間の価値を差別する制限医療を目的にしている」などとして制度の撤回を要求したのをはじめ、35都道府県の医師会が「廃止」や「見直し」など現行制度に否定的な態度を表明している。
同制度への反発が強まる中、厚労相の諮問機関で診療報酬の改定などを協議する中央社会保険医療協議会(中医協)では6月、回復が見込めないと医師が判断した後期高齢者を対象に、同制度の一環として新設したばかりの「後期高齢者終末期相談支援料」の算定を当面「凍結」することを決めるなど、施行後に早くも見直しを余儀なくされた。
また、同制度で問題視されていた国保から移行した後期高齢者の保険料負担問題について、厚労省は6月4日、「全国平均で69%の世帯で保険料が減少した」との結果を公表した。しかし、全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)が同11日、国会内で記者会見し、病院や介護施設で患者らを対象に実施した聞き取り調査について発表。「保険料の軽減は約7%にとどまり、増加している人が4割を超えている」という全く反対の結果を示した。9月には、制度の影響で後期高齢者の外来(通院日数)が8.47%減ったとの調査結果を示し、高齢者の医療費が1割負担となった02年の「健康保険法改正」時の4.4%を大きく上回る「受診抑制」が進んでいるとして、制度の廃止を強く求めている。
さらに、全国の自治体にも同制度に「反対」する動きが進んでいる。中央社会保障推進協議会(中央社保協)の調べ(今年12月4日までの集計分)によると、同制度の廃止や見直しを求める意見書を採択したのは662議会で、昨年10月の約200議会から1年余りで3倍以上に急増している。この動きは、高齢化率が高い地方にとどまらず、東京都で62市区町村の8割を超える51市区町村で採択されたほか、日の出町では、全国で初めて後期高齢者の窓口負担の全額を負担することを決めるなどの動きも起きている。
また、制度への不服審査請求を申し立てた人は、東京都の1000人余りを筆頭に全国で1万人を超えており、意見書採択を含め、こうした動きが今後もさらに広がるとみられている。
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