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(投稿:by 僻地の産科医)
問題山積、改革への道険し
-2008年重大ニュース(7)-
「看護基礎教育で大学化議論」
キャリアブレイン 2008年12月30日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19851.html
将来の看護師に求められる資質や基礎教育の方向性を探るため、今年1月から7か月にわたって開かれた厚生労働省の「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」。最大の焦点となった看護基礎教育の4年制化(大学化)について、7月にまとまった「論点整理」では、3論併記となった。大学教育の重要性で認識は一致したものの、日本看護協会が主張する「大学一本化」に対しては一部に反発の声もあり、それ以降、議論は進んでいない。一方で、文部科学省の「高等学校の看護教育に関する検討会」が12月にまとめた報告書では、高校専攻科(2年課程)単位の大学での認定などが今後の課題として挙がり、高校と大学の連携強化に同省は前向きな姿勢を見せている。ただ、大学を増やすにしても、財源や教員の確保など問題は山積している。一本化するか否か-。いずれにせよ、看護基礎教育再編への道のりは険しそうだ。
■「大学一本化」で意見割れ、3論併記に
厚労省の「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」がまとめた論点整理では、看護基礎教育の大学化について、「看護基礎教育は充実されるべきであり、教員の資質の向上をはじめ、そうした教育を提供するのに相応しい体制や環境を確保していく必要がある」とした上で、具体的な方策として以下の3点が提示された。これを見ると、大学教育の必要性では一致しているものの、完全な移行については意見のずれがあることが分かる。
▽看護職員の資質、能力の高度化や学生の高学歴化などの観点から、将来的に基礎教育を大学に移行させる
▽看護職員の養成数や養成校の割合などを踏まえた上で、将来的に大学を主体とした看護基礎教育の充実を図る
▽大学教育の必要性は認識した上で、現行の養成課程を評価しながら、大学だけに限定しないで必要な改善策を取る
論点整理に対し、「一本化」を掲げる日看協は、全体として4年制大学化への方向性が示されていると評価し、「今後は教員数確保・教育環境整備などの課題への早急な取り組みが必要」と強調。日本看護系大学協議会の井部俊子会長(日看協副会長)も、「4年制大学化は当然」とし、社会の高学歴化の観点から、「看護基礎教育の『最低ライン』は大学だ」と主張する。
一方、日本医師会の羽生田俊常任理事は、「大学における教育が増えていくことに反対するわけではない」としながらも、「看護師不足の解消や地域医療を守るという面から、すべてを大学にする、という考え方には反対」と表明。日本看護学校協議会の山田里津会長は「ナースの教養を高めるとか、社会的地位を高めるという目的で『一本化』をしようとしているとしたらナンセンスだ」としている。
■「一本化」の背景に養成所の定員割れ
では、なぜ日看協は「一本化」にこだわるのだろうか。その根拠の一つに、昨今の養成所(3年課程)の定員割れがある。
文科省の07年度学校基本調査によると、高校(全日制・定時制)を卒業した女子学生約56万7000人のうち、専門学校に進学した学生の割合は20.2%(11万5000人)。このうち看護系養成所を選んだ学生は13%だった。
日看協によると、養成所を卒業した学生の1年後の就業者数は、05年で定員の7割に当たる約1万6500人。これに対し、大学・短大では定員の9割弱に相当する約1万300人で、養成所卒の就業者数が大卒・短大卒を上回った。ところが、30年の時点の数値を試算すると、少子化や定員割れの影響で、養成所卒が約8300人にまで激減するという。
近い将来、定員に満たない養成所が閉鎖する可能性もあることから、足りない分を大学・短大で補う必要があるというわけだ。
■年明けにも看護師確保の指針-舛添厚労相
今年秋、複数の病院に搬送を断られた妊婦が死亡するケースが相次ぎ、特に周産期医療でのNICU(新生児集中治療管理室)不足は社会問題となった。
だが実際には、看護師不足でベッドが機能していないNICU設置病院もあることから、11月末に舛添要一厚労相は「看護の質の向上と確保に関する懇談会」(その後、「検討会」に改称)を開いた。検討課題には、看護基礎教育の見直しなど看護教育の在り方も含まれ、厚労相は「来年1月中旬をめどにまとめて、直ちに政策に移したい」と、短期間で看護職員確保などの指針を策定する意向を示している。
■大学での単位認定には前向き-文科省
文科省は今年2月から「高等学校の看護教育に関する検討会」を開き、高校の看護教育の問題点などについて検証した。
12月にまとまった報告書では、今後の展望や検討課題として、▽本科(3年課程)卒業生の大学推薦入学や特別選抜の拡大▽専攻科(2年課程)の教育内容の大学での単位認定▽専攻科卒業生の大学への編入学▽准看護師課程の5年一貫看護師課程への移行-などを提示している。同省によると、単位認定と編入学が報告書などで明文化されたのはこれが初めて。単位認定の導入は法改正の必要がないため、高校専攻科を所管している同省初等中等教育局は実施に前向きな姿勢を見せているが、大学や短大を所管している高等教育局医学教育課が難色を示しており、来年度からの実施は困難となっている。
12月8日に開かれた第6回会合では、「看護の質の向上と確保に関する検討会」での厚労省側の結論を踏まえて報告書をまとめるべきだとの声も委員からあったが、文科省側は「厚労省の医政局と密接に連携を図っていく」としながらも、「限られた期間の中で、文科省や関係機関の声が反映されるかという懸念がある」と発言した。大学化に向かいつつある厚労省と高校と大学の連携を強めたい文科省。看護系教育機関を所管する両省の思惑の違いが顕著に読み取れた。
社会保障国民会議が10月にまとめたシミュレーション結果では、団塊の世代が75歳以上になる25年に必要な看護職員数について、医療・介護体制の改革の度合いの低い順にB1(比較的緩やか)、B2(大胆)、B3(より大胆)の分類別に見ると、現状(07年)の132.2万人に対し、B1が179.7-187.2万人、B2で194.7-202.9万人、B3で198.0-206.4万人だった。現状のままでも、169.6-176.7万人となり、いずれにしても大幅な増員を迫られる。
看護基礎教育の改革は今、まさに「待ったなし」の状態だ。今後の看護教育の全体像をどのように描くか-。来年の動向に注目したい。
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