(関連目次)→医療政策 目次 介護崩壊!!! 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
日本の医療の根幹が崩壊
-2008年重大ニュース(5)-
「進む療養病床削減」
キャリアブレイン 2008年12月28日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19896.html
2008年は、療養病床の削減を進めようとする国と、存続を求める自治体や現場との攻防が繰り広げられた年だった。国は療養病床に関連する診療報酬を下げ、転換先となる新しいタイプの老人保健施設を創設するなどして削減を促すが、都道府県は厚生労働省の削減目標数を大きく下回る病床再編計画を提出。国は38万床から15万床にまで減らすとしていた当初の目標を、22万床までの減床に設定し直すなど、大幅に削減幅を圧縮した。ただ、療養病床数は着実に減っており、療養病床を必要とする急性期以後の患者の流れが滞っている。自治体や現場からは「高齢者の行き場がなくなる」と、療養病床の存続を求める声がやむことはない。年々増え続ける医療費の削減か、手厚いケアの確保か―。先行きは全く不透明だ。
療養病床の削減計画は、06年の小泉政権下で打ち出された医療制度改革の柱の一つだ。06年度の国民医療費は約33兆円。当時、国は年々増え続ける医療費を抑えるために、社会的入院の温床とされている療養病床の再編成を決めた。
療養病床には、医療保険適用の医療型療養病床と、介護保険適用の介護型療養病床の2種類がある。両者は報酬体系は異なるものの、慢性期医療を必要とする患者を受け入れており、実際に提供しているサービスに大きな違いはない。2種類あるのは、2000年の介護保険制度創設時、国は当時あった医療保険適用の療養型病床群を介護保険適用に移すことで医療費を抑えようとしたが、多くの反発があったため、医療型と介護型を併存させることにしたためだ。このため、療養型病床群を持っていた医療機関経営者の多くは当時、行政から介護型への転換を勧められていた経緯がある。
しかし、この療養病床には、在宅での受け入れが整わないなどの理由から入院が長期化しているいわゆる「社会的入院」が多く、医療費増額につながっているとの指摘があった。国は、診療報酬改定や療養病床再編計画策定によって「適正化」という名のメスを入れた。
06年の医療制度改革に盛り込まれた療養病床再編計画は、12年度末までに、当時38万床あった療養病床(医療型25万床、介護型13万床)を、介護型は全廃し、療養病床を15万床にまで減らすというものだ。療養病床の転換先としては、介護老人保健施設(老健)や、新しいタイプの転換型の老健(介護療養型老人保健施設)、在宅移行などを示している。都道府県はこれを基に自らの医療費適正化計画や療養病床再編計画を策定することになり、国はそれを基に、数値を盛り込んだ全国医療費適正化計画を策定することになった。
■報酬改定が追い打ち
また、国は06年度診療報酬改定の際に、療養病床には医療のケアが必要な高齢者が少ないとするデータを示し、医療と介護を「適正に」提供するためとして、療養病床に関連する診療報酬を引き下げた。医療依存度やADLで入院基本料に差をつける療養病棟入院基本料を創設。医療依存度の低い患者を介護保険施設などに移すため、中心静脈栄養(IVH)など最も重度の患者と軽度の患者とで、診療報酬に約1000点の差をつけた。さらに、08年度診療報酬改定では、特殊疾患病棟入院料と障害者施設等入院基本料を見直し、脳卒中の後遺症や認知症の患者が10月以降、これらの算定要件の対象から外れることになった。
こうしたさまざまな施策の影響を受け、経営が悪化した医療機関は相次いで病床を転換、閉鎖した。08年9月末現在で、国内の療養病床を持つ医療機関は4075か所、病床数は33万9955床。06年4月末と比べ、279か所、1万7881床減っている。
■療養病床削減が救急を圧迫
残る療養病床も医療区分の低い患者を受け入れない施設が増え、慢性期の患者の行き場がなくなってきたために、急性期医療の流れが圧迫されている。現場からは「慢性期の患者が急性期のベッドを埋め、新しい救急患者を受け入れられない」との訴えが相次いだ。全国保険医団体連合会(保団連)が、12都府県にある急性期の247病院に実施した調査では、9割近くが療養病床の廃止や削減に反対し、現状を維持するか増やす必要があると考えていた。さらに保団連は、全国の382自治体が削減の中止を求める意見書を決議(趣旨採択を含む)していると発表。介護療養病床の廃止の撤回と共に診療報酬と介護報酬の引き上げを求める要望書を、11月に舛添要一厚労相と衆参両院の厚生労働委員会委員に提出した。
このほか、厚労省や消防庁が開いた救急医療についての会議では、委員の医師や救急隊員が、療養病床削減が医療提供の流れを悪くしていると訴えた。自民党の「療養病床問題を考える国会議員の会」では、療養病床削減により“医療介護難民”が11万人出るとの試算を示し、厚労省の担当者が議員から詰め寄られ、返答に窮する場面もあった。同会は舛添厚労相に対し、介護型療養病床と同質のケアを受けられるサービスを保障するよう求める提言や署名を提出している。
■国が削減目標を見直した
こうした中、各都道府県が国に提出した療養病床再編計画では、療養病床を存続させるとする自治体が、厚労省の当初の予想より多かった。中には東京都のように、療養病床は都民の生活に必要であるとして、療養病床の数を増やす方向を打ち出している自治体もあった。
厚労省は9月にこれらを踏まえた全国医療費適正化計画を公表。策定時に集計された約21万床(44都道府県)の療養病床を存続させる方向に見直した。10年度には、今後の病床再編の様子を見て、医療費適正化計画の中間見直しを実施する。
■本当に大丈夫か、転換老健
厚労省は療養病床の転換先として、新しいタイプの老健、「介護療養型老人保健施設」を5月に創設した。経管栄養や喀痰吸引など一定の医療が必要ではあるが、入院するほどではない状態の高齢者が入所するイメージだ。介護報酬は療養病床より約2割減り、利用者負担も小さくなる。
現在、国内の介護療養型老健は、10施設(575床)。療養病床の減少数からすると、転換先として選択されているとは言いにくい。療養病床では100床当たり3人配置されていた医師が、介護療養型老健になると1人になるため、現場からは「ケアが手薄になる」として、転換を踏みとどまる意向も聞かれる。報酬額が療養病床から下がることからも、人員確保や施設整備が困難になるとの指摘もある。
こうした中、09年度介護報酬改定でも、介護療養型老健の報酬の見直しが進んでいる。介護療養型老健は従来型の老健よりも医薬品費や医療材料費が掛かるとして、報酬アップになる方向だ。また、夜勤時の職員の配置基準のほか、医療依存度の高い入所者へのケアの実態に応じた報酬の見直しなども示されている。
■設備投資費もない
また、福祉医療機構が医療貸付事業の対象になる2278病院(医療型7万6652床、介護型3万1876床)に対し1月に実施したアンケートによると、117病院が「療養病床を転換する予定だが、転換施設の種類を決めていない」と回答した。理由(複数回答)としては、「行政動向をもうしばらく見る」(82%)、「転換後の経営上の問題に不安」(52%)、「転換施設を決めかねている」(52%)、「スタッフ確保・削減が困難」(21%)など。また、療養病床転換について、工事費の見通しを立てている病院の4割が、簡単な間仕切りの改修や内装工事などしかできない1億円未満に改修費を抑えようとしていた。設備投資より患者へのケアを優先して転換しようとする病院が多く、医療機関が厳しい経営を迫られていることが分かる。
「介護療養型医療施設の存続を求める会」が8月29日に都内で開いたシンポジウム。同会の吉岡充会長は「われわれの手で社会的入院に対処していくことが、介護と医療の両方を必要とする患者の権利を守ることにつながる」と述べ、患者や現場の実態を一番よく知っている医療者自身が療養病床の適正化に取り組み、入院プロセスを国民に見える形にすることが必要と訴えた。そうすることで、国から不必要な干渉を受けることなく、高齢者に必要なケアを提供でき、医療者自身の満足にもつながるとの主張だ。
超高齢化を控える中で、日本の医療に暗い影を落とした療養病床削減政策。病床は日々確実に減っている。病床再編が12年度末に迫り、高齢者の行き先が模索される中、来年、われわれには何ができるのだろうか―。
【関連記事】
介護療養型病床は財政再建の「いけにえ」か
「医療介護難民は11万人」―療養病床削減問題
救急受け入れ「ベッドがない」(1)~特集・救急医療現場の悲鳴
救急受け入れ「ベッドがない」(2)
医療者自身が社会的入院に対処を
コメント