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(投稿:by 僻地の産科医)
少し昔の記事ですが、見つけてきましたo(^-^)o ..。*♡
独立法人化される「国立病院」群の行く末を暗示する記事です!
「国立」病院廃止の深層
山田利和・新井裕充
キャリアブレイン 2008/5/5・6
(1)http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=15862&freeWordSave=1
(2)https://www.cabrain.net/news/article/newsId/15853.html
縮小する「政策医療」
約70年の歴史を持つ横浜市の南横浜病院が、今年12月でその歴史に幕を閉じようとしている。独立行政法人国立病院機構が4月、同病院の廃止を決めたからだ。2004年に全国の国立病院・療養所が同機構に移行してから、赤字を理由に病院が廃止されるのは今回が初めて。結核医療の拠点となってきた同病院が廃止されると、神奈川県内の結核医療の基準病床が不足する。加えて、新型インフルエンザへの対策が急がれる中、同病院は感染症の病原体を院外に拡散させない「陰圧病床」を有している。このため、同病院の廃止による影響を懸念する声が少なくない。
■経営効率優先の医療
「経営改善計画(再生プラン)の達成不能な病院として、貴院を廃止することとした」-。このような通知が4月8日、同機構から南横浜病院長に届いた。知らせはすぐに院内に広がり、職員や入院患者らに正式に廃止が伝えられた。
「病棟の縮小や赤字経営の問題で、ある程度は予想していたが、本当に残念」。同病院に28年間勤務し、あと4年で定年を迎える看護師はこう嘆いた。
独立採算制の同機構では、経営効率を優先した病院運営を展開。過去の債務が返済できない、または単独で運営費を確保できない状況にあるなど、早急な経営改善が必要な病院に対して、病床規模や人員配置などを見直し、収入増とコスト減を図る「再生プラン」を策定するよう求めている。南横浜病院は3月に同プランを提出。しかし、「経営改善を行うとしても収支改善の見通しが立たず、約22億円の債務も返済できない状況にある」として、同機構が「達成不能」と判断し、廃止を決めた。
同病院は、戦前の1937年に神奈川県立結核療養所として開院。結核医療のパイオニア的存在で、結核をはじめとする呼吸器疾患の治療や地域医療で中心的な役割を担ってきた。同機構に移行した2004年には、結核病床147床と一般病床138床の6病棟285床で運営。その後、結核患者に加え、一般医療の患者も減少する中、経営改善の一環として同機構が病棟を集約し、毎年1病棟ずつ閉鎖してきた。これにより、05年に5病棟、06年に4病棟、07年に3病棟、今年3月には結核病床49床と一般病床42床の2病棟91床にまで縮小していた。
こうした経緯について、同機構の職員で構成する全日本国立医療労働組合(全医労)南横浜支部の役員は、「病棟の閉鎖によって収入が激減し、赤字が増えていたにもかかわらず、耐震工事やボイラーの設備更新などを行って支出を増やしたことで、経営状態が急激に悪化した」と指摘。「多額の債務といっても、多くは04年以降に累積したもので、意図的につくられた赤字、計画的に偽装した『倒産』というほかない」と、同機構を厳しく批判している。
■切られる不採算医療
結核は、1950年ごろまで年間死亡者が十数万人に上り、日本人の死亡原因の第一位だった。このため、国を挙げて取り組まなければならない疾病を対象とする医療(政策医療)に位置付けられ、これを国立病院が担ってきた歴史がある。国立病院が2004年に独立行政法人国立病院機構に移行してからは、同機構の54結核病院(南横浜病院を含む)が受け継いできた。政策医療は民間の医療機関では取り組みにくい「不採算医療」が多く、結核医療も不採算部門となっている。
神奈川県内の結核医療について、同機構は「県単位で神奈川病院(秦野市)に効率的に集約する」との方針を表明。しかし、同支部では「日本の結核罹患(りかん)率は諸外国と比べ依然として高い。強力な耐性菌の出現とともに、都市部の若年層の間で新たな広がりを見せている中、県都市部における結核など呼吸器疾患の治療に基幹的な役割を果たしてきた南横浜病院の廃止は深刻な影響を及ぼす」と警告している。
結核などの政策医療が不採算医療として、効率優先の流れの中で縮小していくことに対し、ある関係者は危機感を強めている。
「赤字という理由だけで同機構の病院が廃止されるのなら、他の病院にも採算の取れないところから計画的な廃止や政策医療からの撤退の動きが波及するだろう。南横浜病院は、始まりにすぎない」
問われる新型インフル対策
■断ち切られる病診連携
「横浜市として、なくなったら困る。何とかしてほしい」―。南横浜病院の廃止に対し、横浜市の担当課長は不安を隠せない。
市は4月8日付けで、独立行政法人国立病院機構に対し「市内における適切な結核医療体制の確保を図るため、特段の注意を払うよう要請する」との要望書を提出したが、先行きは不透明だ。
同市によると、南横浜病院の廃止問題について同機構と協議を開始したのは昨年末。
話し合いを重ねる中で、市側は結核医療を専門とする同病院の役割を強調。再三にわたり廃止取りやめを申し入れたが、同機構は「神奈川県全体に結核患者があふれることはない。秦野市にある神奈川病院で吸収できるから大丈夫」と説明したという。
市の担当者は「理屈は分かるが、南横浜病院の患者が神奈川病院に行くには遠過ぎる」とこぼす。横浜市から秦野市まで直線距離で約45キロ、急行電車で約1時間かかる。転院する患者の負担面だけでなく、横浜市の感染症対策に与える影響も大きい。
同市によると、市内で発生する結核患者(年間約800人)のうち、およそ半数が南横浜病院に入院。特に、日雇い労働者のための簡易宿泊所が多い中区の寿町には、結核の罹患(りかん)者が多いため、市は1999年度から寿町への服薬支援事業を展開している。その中心的な役割を果たしてきたのが、同病院と寿町の診療所との「病診連携」だった。
市が懸念するのは、同病院の廃止によって「病診連携」が断ち切られ、減少傾向にある結核罹患率が増加に転じること。しかし、それ以上に深刻なのは、新型インフルエンザが発生した場合の対応だ。
■心配される“地域格差”
同市は新型インフルエンザ発生時の行動計画の中で、同病院の役割を重要視している。具体的には、新型インフルエンザの感染患者を第一次的に横浜市立市民病院に受け入れてもらい、そのベッドが満床になったら南横浜病院が受け入れるという計画だが、市民病院に結核病床はなく、感染症患者のための病床はわずか26床。感染症の病原体を院外に拡散させない「陰圧病床」を有する南横浜病院が廃止された場合、新型インフルエンザ対策に必要な体制を取れるのだろうか―。
市の担当者は「採算が合わないので、多額の費用を掛けて新たに結核病床をつくる病院があるとは考えにくい。できれば南横浜病院を残していただきたい」と話す。
神奈川県の受け止め方はどうか。県の担当者は「感染症指定医療機関は県内に8か所しかないので、これでは足りなくなる」と困惑している。「排菌が継続している結核患者が入院する病院がないと困る。機構は県内全域での病院数の過不足を判断し、神奈川病院で患者を吸収できるとみているようだが、地域間の偏りが出ないか心配だ」
■ 廃止に反対の署名活動も
南横浜病院の近隣の自治会では、廃止に反対する署名活動も始まった。「新型インフルエンザが大発生したら、この地区では対応できなくなる。南横浜病院以外に空きベッドはないのではないか。この状況をどう考えているのか」と、地元の自治会長は語気を強める。
「以前、南横浜病院が経営に苦しんでいた時、“守る会”をつくって地域住民が活動したことがあった。独立行政法人化されるまでは、病院と地域が交流する『健康まつり』を毎年開催し、2003年には約6000人が参加した。地域住民として黙っているわけにはいかない」
「結核は国民病」という時代が終わったとはいえ、結核に代わる感染症への対策が終わったわけではない。「医療は国民の安全保障」ともいわれる。不採算を理由に「政策医療」を廃したとき、残るのは「格差医療」だろうか。企業経営と同様の経済原理だけで医療を論じていいのか、国の対応が今、問われている。
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