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(投稿:by 僻地の産科医)
妊娠初期の多量飲酒で新生児の
口唇口蓋裂リスクが増加
(Medical Tribune 2008年12月18日(VOL.41 NO.51) p.15)
〔米メリーランド州ベセズダ〕 米国立衛生研究所(NIH)の関連機関である米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)慢性疾患疫学グループのLisa A. DeRoo博士は,女性が妊娠初期にアルコールを多量に摂取すると口唇口蓋裂の新生児が生まれる可能性が高まるとAmerican Journal of Epidemiology(2008; 168: 638-646)に発表した。
1回平均5杯以上で2倍に
1回平均5杯以上の飲酒をする女性は,非飲酒者と比べて口唇口蓋裂,口唇裂,口蓋裂のいずれかを有する新生児が生まれる可能性が2倍であることがわかった。妊娠第1トリメスターの3か月間に同量の飲酒を3回以上行った女性では口唇口蓋裂児が生まれる可能性は3倍であった。
DeRoo博士は「今回の知見は女性が妊娠期間中に飲酒すべきではないという事実を強く裏づけるものである。出生前のアルコールへの曝露,特に1回に多量のアルコールに曝露すると,胎児に悪影響を及ぼし,口唇口蓋裂児が生まれる可能性が高まる」と述べている。口唇口蓋裂の原因については不明であるが,遺伝的な傾向と環境要因が重要な役割を果たすと考えられている。
同博士らは,欧州内で最も口唇口蓋裂患者の割合の高いノルウェーで住民対象研究を行った。1996〜2001年に口唇裂,口蓋裂,口唇口蓋裂のいずれかを有する新生児の家族すべてに連絡を取り,そのうち母親573人を対象とし,ノルウェーで生児出生した児の母親763人を対照群としてランダムに選んだ。平均年齢は29歳であった。
胎児の顔面が形成される妊娠初期3か月間における母親のライフスタイルと環境因子への曝露に焦点を当てた自己申告制の郵送による質問票調査が行われた。その結果,妊娠初期3か月間に1回当たり平均5杯以上の飲酒をする多量飲酒群では,非飲酒群と比べて口唇口蓋裂が発生するリスクが高いことが見出された。また,同量の飲酒を最も頻繁に行った群ではさらにリスクが高かった。
1回の飲酒量が大きく影響
動物とヒトを対象にしたデータを検討した結果,妊娠中の飲酒において,その頻度や総摂取量よりはむしろ1回の飲酒量が一番の問題であることが示唆された。DeRoo博士は「血中アルコール濃度が高いほど,胎児は長時間曝露することになる。胎児の発達における重要な時期には1回の多量飲酒が有害な影響を及ぼす」と指摘している。
また,NIEHSのAllen J. Wilcox博士は「母親が多量の飲酒をすることは一般的にはきわめてまれであるものの,実際には起こりうることであり,われわれはアルコールが胎児の発達に悪影響を及ぼす可能性があることを母親に詳細に伝える必要がある」と述べている。
ノルウェーでは他の研究で,女性の25%が妊娠初期に多量の飲酒を1回以上行っていることがわかっている。アルコールはテラトゲン(催奇形性物質)であり,環境因子として胎児の奇形の原因になる可能性もある。母親の多量の飲酒がもたらす最も重大な結果は,頭蓋の奇形など身体的と精神的障害を一生抱えることになる胎児性アルコール症候群である。飲酒による口唇口蓋裂発生リスクとの関連を示す研究はほとんどない。
今回の同研究は,NIHとNIEHSの所内研究プログラムの助成を受けた。
共同研究者はベルゲン大学(ノルウェー・ベルゲン),オスロ大学(同オスロ),ノルウェー公衆衛生研究所(NIPH)ノルウェー医療出生登録(MBRN,ベルゲン)の研究者ら。
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