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(投稿:by 僻地の産科医)
Clinical Engineering 2008年9月号からですo(^-^)o ..。*♡
特集は、手術中に発生する皮膚障害とその予防
―機器・器具による障害を考える―
.
昔から帝王切開の時に、なぜか臀部に皮膚障害が起こり
私のいた病院では帝王切開時にしかおこらなかったので、
「うーん。これ電気メスのせいです」
という診断が下されてきました。
で、信じていたのですけれど、
妊婦、帝王切開中やけど 県立中央病院 電気メス 消毒液に引火
山梨日日新聞 2008年12月13日
http://s02.megalodon.jp/2008-1213-1013-54/www.sannichi.co.jp/local/news/2008/12/13/3.html
の時に話題に出て、
「違うよ~こういう論文があるよ!」
というご指摘をいただきました(>▽<)!!!!
同じ本の中に3論文、電メによる皮膚障害についてでていますが、
そのうちのひとつを、まずご紹介させていただきます。
周手術期における皮膚障害総論
周手術期には①術中術後の褥瘡,②電気メス熱傷,③脊椎麻酔後紅斑などのさまざまな皮膚障害が生じ得る.各々の成因・病態生理を理解することは予防・対策を考えるうえで重要であり,その前提として皮膚状態の詳細な観察と臨床工学技士のベッドサイドでの積極的な関与が必要である.
神戸大学医学部附属病院褥瘡グループ・皮膚科
長野 徹
(Clinical Engineering vol.19 N0.9 2008 p953-958)
1.はじめに
ヒトの身体全体を覆う皮膚は成人で面積約1.6 m2,重量にして体重の約16%に達する人体最大の臓器である.皮膚は表皮,真皮,脂肪組織の3層構造からなり,血管,神経以外に汗腺,毛包などが附属器として存在している.
皮膚は外界と直接触れる臓器であり,
①対外保護作用(外力,水分,細菌,酸,アルカリ,紫外線などに対して)
②体温調節作用,分泌・排泄作用(エクリン発汗,アポクリン発汗)
③知覚作用(触覚,温覚,痛覚,冷覚)
④吸収作用
など,さまざまな機能をもっている.
皮膚障害はさまざまな原因により惹起されるが,周手術期には,
①術中に保持される体位 ②体位変換に伴う皮膚の圧迫
③電気メスや内視鏡など各種医療器具の使用
④全身麻酔や腰椎麻酔に件う自力での体位変換他の低下
⑤痛覚,温覚など局所知覚の閾値の上昇,および
⑥各種モニタ類やカテーテル類の装着
などの1次的な要因に加え,感染症やそれに伴う発熱,便,尿失禁などの2次的な要因が加わり,さまざまな皮膚障害を受けやすい条件がそろっていると考えられる.そして前述した皮膚障害のうち,①②により引き起こされる術中,術後の褥瘡や,③による電気メス熱傷,および④⑤に伴う脊椎麻酔後紅斑などが周手術期皮膚障害の代表といえる.これら以外には,保温材などによる低温熱傷,消毒薬による接触性皮膚炎・化学熱傷,各種モニタ・マスクによる皮膚障害などがあげられる.本校ではおのおのの事項について略述する.
2.周手術期褥瘡
一定の場所に一定以上の圧力が一定時間以上加わり続けると,局所皮膚の血流不全をきたす.褥瘡は,血涙不全の結果,皮膚が阻血性壊死に陥り生じる皮膚潰樹の総称である.褥瘡の深達度が深い場合にはさらに深層の筋肉,骨などにも損傷が及ぶことがある.この損傷の深さによりⅠ度からⅢ(Ⅳ)度にまで分類され,この分類はおおむね後述の熱傷の深さによる分類とも一致している.I度とは圧迫を除いても消退しない発赤,紅斑を指し損傷は表皮内にとどまっている.Ⅱ度では臨床的に水底,びらん,浅い潰瘍を呈し損傷は真皮内にとどまっている.Ⅲ度になると深い潰瘍を呈し壊死組織を伴うようになり,皮下組織まで損傷が及ぶ.さらに障害が深部に及び,骨および筋肉に達するものをIV度としている(図1).
後述の熱傷でも同様であるが,創傷治療の過程において皮膚附属器の存在はきわめて重要である.真皮の浅い部分までの損傷であれば周囲皮膚の表皮および附属器表皮の伸長により創面は被覆されていく(創傷治癒機転).しかし真皮深層までの損傷が起きてしまうと同時に附属器も失われてしまうために もはや上記の創傷治療機転は期待できない.すなわち潰瘍底が良好な肉芽に覆われた後,周囲皮膚からの上皮化によってのみ治療加期待できる.したがって,トータルの消極期間に大きな追加生じることになる.
また後述の熱傷,あるいは一般的な慢性褥瘡でも同様であるが,初診時の臨床所見が軽度でも時間の経過に伴い深い裕樹であることが明らかとなる場合があり,治療に難渋することをしばしば経験する.
周手術期褥瘡は,術中に発生する術中発生と術後発生型に分けることができる.
術中発生型褥瘡は,①術中体位に関連した部位に発生する,②長時間手術の多い診療科や特殊な体位(腹臥位,側臥位,パークベンチ体位など)による手術が多い診療科,すなわち脳神経外科,耳鼻咽喉・頻頻部外科,心臓血管外科などに比較的多く発生する,などの特徴があり,ある一定数の発生はいずれの病院でも見受けられる.多くは術直後に発見され,その臨床像は発赤,紅斑といった,浅い皮膚障害Ⅰ度褥瘡)であるため積極的な治療はほとんど不要であり,経過観察のみで十分であることが多い(図2).また,術中発生型褥瘡に関しては,2002年の褥瘡対策未実施減算の導入以降,急速に対応が進み,医師,手術部看護師,術後ICU看護師あるいは病棟看護師問の連携による体位の変換の徹底や体圧分散寝具の使用により,その頻度は徐々に低下しつつあるのが現状である.
しかし最近,褥瘡のみが原因とは考えがたい一群の術後背部皮膚障害(後述)が経験されることがあり,注目を集めている,
3.電気メスによる熱傷
熱傷とはさまざまな熱(高温,低温)による皮膚の損傷の総称である.熱傷による皮膚障害の分類はおおむね褥瘡のそれと対応している.そして褥瘡と同様に時間経過に伴い,感染症などがあればもちろん,2次的な修飾がなくとも初診時の臨床所見より実は深い熱傷であることが明らかになることがしばしばあり,軽々に予後や治癒期間を予断してはならない.
従前より手術後に皮膚障害(紅斑,潰瘍)などが生じると,原因が特定できない場合,電気メスによる分流熱傷がその原因として扱われることが多かったが,厳密な電気生理学的な検証が行われたことはない.電気メス対策により皮膚障害の発生が減少したとの報告もあるが,当時使用されていた電気メスと異なり,最近のフローティングタイプのものでは漏れ電流は格段に減少しており,電気メスのみを術後臀部皮膚障害の原因とするにはいささか無理がある.そもそも電気メスの漏れ電流(分流)は150 mA前後であり,直径3cm以上の皮膚障害は生じないとされている.その詳細は本特集959~965ページ「電気メスによる熱傷が発生する条件」をご参照いただきたい.
4.脊椎麻酔後紅斑
脊椎麻酔後紅斑は,脊椎麻酔により生じた自律神経異常による血行障害や,体重による圧迫で局所栄養血管の血流が阻害されることにより生ずる.すなわち浅筋膜や脂肪組織内のずれの力で血管術数が起こり,その栄養領域の皮膚に皮疹(特に潰瘍,びらん)が生ずるとされている.腰椎麻酔,硬膜外麻酔のいずれでも生じるとされており,機序としては局所の血流障害によるもので,褥瘡類似と考えてよいかもしれない.おもに皮膚科,麻酔科領域からの報告が多くみられ,最近の麻酔科領域からの報告では,従来用いてきたカルボカインサメピバカイン)をアナペイン(ロピバカイン)に変更したところ,脊椎麻酔後紅斑の発生が多く見受けられるようになったとされている.これはロピバカインが長時間作用型であるうえに強力な運動神経遮断作用を併せもつことから,その作用の遷延が脊椎麻酔後紅斑の原因であると推察される.
脊椎麻酔後紅斑としての報告は,電気メスが登場する以前の1904年にJolienによる婦人科術後急性褥瘡の発表があり,当時からほとんどが婦人科術後の腰椎麻酔後の急性褥瘡としての難治性潰瘍発生の報告である.わが国では1967年の小長谷らの報告を嚆矢とし脊椎麻酔症例の1%前後に発生しているとされている.
5.保温材などによる低温熱傷
術中の低体温予防のため保温マットが使用されることが多いが,特に低体温が懸念される長時間手術において,センサの不良やマットそのものに対する圧迫などにより接触部に限定して低温熱傷が生ずることがある(図3).
6.消毒薬による接触性皮膚炎・化学熱傷
消毒薬による接触|生皮膚炎づヒ学熱傷は,術前の消毒に用いられることが多い,イソジン(ポビドンヨード)やヒビテンサグルコン酸クロルヘキシジン)などを中心に過去に報告例がみられる.以前に何らかの形で同種の消毒剤を用いたことがあり,感作が成立した患者において消毒剤使用部に限局して皮疹が生じる.これは遅延型過敏反応そのものであり,パッチテストを行うことにより因果関係が明らかになるため,他疾患との鑑別はきわめて容易である.
7.各種モニタ・マスクによる皮膚障害
前述したもの以外の機器,機材による皮膚障害は多数認められるが,その詳細については本特集970~974ページ「間欠的空気圧迫装置で起こり得る皮膚障害」,975~979ページ「近赤外線を用いた混合血酸素飽和度測定装置で起こり得る皮膚障害」,980~983ページ「BISモニタで起こり得る皮膚障害」,984~987ページ「手術後に発見された臀部皮膚障害に対する原因究明とその防止対策」,の各項をご参照いただきたい.
8.術後背部皮膚障害
前述のように術中発生型の皮膚障害(褥瘡)は最近減少傾向にあるものと推察されるが,近年,褥瘡のみ,あるいは電気メス熱傷のみが原因と考えがたい一群の術後背部皮膚障害が存在することが広く認識されつつある(図4,図5).前述したいわゆる脊椎麻酔後紅斑も,おそらく同様の病態を示していると考えられる.術後臀部皮膚障害については過去さまざまな報告がなされているが,褥瘡・電気メスによる熱傷・脊麻後紅斑あるいは消毒液による接触皮膚炎など種々のとらえ方があり,さまざまな病態をひとまとめにされて議論している可能性がある.
当院手術部・褥瘡グループでは,記録のある2001年以降,術後発赤・褥瘡発生報告書に基づき統計をとっているが,すでに30例以上の術後臀部皮膚障害の症例の集積がある.その特徴は,以下の通りである.
①20~30歳代の若年者にも生じている.
②発生するのは泌尿器科,産婦人科,消化器外科など腹部臓器を扱う科が中心である.長時間手術の多い,すなわち褥瘡発生が多いはずの脳神経外科,耳鼻咽喉科,心臓血管外科では生じていないか,まれである.
③手術時間は最短50分の症例でも生じている.
④形状は類円形ではなく,不整形の紅斑性の局面ないし潰瘍で,周囲に毛羽だったような(刷毛で書いたような)線状の紅斑を伴い,ときに水疱形成に至る.
⑤術直後に気付かれることはまれで,1~2日後に発見されることが多い.
周手術期背部皮膚障害はその原因をどうとらえるかによりさまざまな呼び方があり,混乱を招いている.ただしその特徴としてはおおむね前述した①~⑤のプロフィールをもっているため,同一の病態を指し示しているものと考えられる.本症の病態はいまだ不明とせざるを得ないが,熱傷であるにせよ褥瘡であるにせよ,病変の主座は皮下組織にあり,そのために術直後は表面的には変化を生じず,数日後に潰瘍あるいはびらんといった表皮の壊死を示唆する所見が現れると考えられる.術後深部皮膚障害の診断の基準は明確になっておらず,電気メス熱傷として片付けられてしまうことが多いが,理論的には3cm以上の皮膚障害が生ずるとは考えにくいとされている.
ただし典型例ではやはり純粋な褥瘡のみとは考えにくく,脊椎麻酔後紅斑や熱傷,接触性皮膚炎など何らかの一時的な病態がベースにあり,周手術期裕樹に対する十分な予防的介入が実施されない場合,症状が顕在化する可能性が高いとも考えられる.今後もさらに症例数を積み重ね(あってはならないことだが),病態を把握する努力を積み重ねなければならない.
9.周手術期の皮膚障害の予防と対策
前述のうち保温材などによる低温熱傷,消毒薬による接触性皮膚炎化学熱傷については,術中における細心な注意,および詳細な術前の問診によって事態の発生を予防することが可能である.また,術中発生型の褥瘡も,手術部,術後ICU,病棟看護師間の連携,適切な体圧分散寝具の使用により,その予防は十分可能であると考える.各種モニタ・マスクによる皮膚障害の予防に関しては,それらの機器の機能,禁忌を熟知している臨床工学校士の今まで以上の積極的な関与,提言が必要であると感じている.
術後臀部皮膚障害についてはその病態が明らかになっておらず,原因が多岐にわたる可能性,複合的な要因により生ずる可能性があることを勘案すると,予防・対策はかなり困難である.その病因を電気メス熱傷,あるいは褥瘡であると決め付けてかかるのではなく,さまざまな原因の可能性を考慮しつつ対応を考えていかなければならない.術後臀部皮膚障害の一部が褥瘡,あるいは裕樹類似の機序によって生ずる脊椎麻酔後紅斑の表現型とするならば,術中,あるいは術後早期からの裕樹に対する予防的介入はきわめて重要で,早期より積極的に体圧分散寝具の使用,体位変換の徹底を図っていかなければならないであろう.事実,褥瘡に対する積極的な予防的介入により術後臀部皮膚障害の発生が防止されたとの報告もある. さらに中村が指摘しているように術中あるいは術直後の皮膚症状の観察はきわめて重要であり,どの時点で皮疹として顕在化してきたのかを把握することが他疾患との鑑別において有用であり,決して怠ってはならない.一般的には患者による疼痛の訴えやオムツなどの交換時に偶発的に気付かれることが多く,腹部疾患の術後にはルーチンに定期的な臀部症状の観察を行うことが望ましい.
周手術期に経験される皮膚障害の原因は多岐にわたるため,一職種のみでの対応には限界がある.電気メスや内規鏡,保温マットレス,褥瘡予防用マットレスなど,手術場において頻用される各種ME鉄器.器材に精通した臨床工学技士の関与は必須であり,さらに積極的に医師・看護師への啓発,ベッドサイドでの関与を深めていくことが肝要である.
■文 献
1)中川秀己(編著):臨床病態学第3巻12章感覚器系疾患皮膚科,p206-211,ヌーベルヒロカワ,2006
2)宮地良樹、真田弘美(編著):褥瘡のすべて,p1-2,永井書店,2001
3)長瀬信太郎、塚田年夫、徳永恵子(編著):褥瘡ケアの技術,p32-35,日本看護協会出版会,1993
4)厚生省老人保健福祉局老人保健諜(監):褥瘡の予防・治療ガイドライン,p59,照林社,1998
5)林伸和ほか:電気メスによると考えられる術後背部皮膚障害,日皮会誌108(13):1863-1870,1998
6)山口孝之ほか:脊麻後紅斑,臨床皮膚科32(5):371-372,1978
7)平山直美ほか:脊椎麻酔後紅斑に対する介入効果の検証,日本褥瘡学会誌9(2):210,2007
8)中村義徳:周手術期の褥瘡とその対策,クリニカルエンジニアリング17(6):588-600,2006
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