(関連目次)→「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」
(投稿:by 僻地の産科医)
第3回「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」
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【参考ブログ】
ロハス・メディカルブログ
周産期・救急懇談会1
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周産期・救急懇談会2(ハイライト)
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周産期・救急懇談会3
(ハイライト)http://lohasmedical.jp/blog/2008/11/post_1511.php
(つづきというか1)http://lohasmedical.jp/blog/2008/11/post_1513.php
周産期センター、「母体救急は難しい」
現場の意見をどこまで聞ける―厚労省周産期・救急懇談会
周産期医療と救急医療の連携
―今できることと今目指すべきこと―
篠原 伸治郎
MTpro 記事 2008年12月3日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0812/081203.html
NICU増床が求められるなか,新生児科医不足改善には高い壁
「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の第3回目が,11月25日に開催された。
今回は,周産期医療,特にハイリスク分娩における麻酔科医確保の重要性と新生児集中治療室(NICU)病床の増床の必要性,新生児科医の不足とその過重労働をどうするか,などが検討された。また,周産期医療の知識や医療現場を支えている医師たちの実態について,さらに国民に周知していく必要性が示された。
周産期センターにおける麻酔科医不足の改善を
座長を務める昭和大学(産婦人科学)主任教授の岡井崇氏は,まず,第2回の懇談会の内容を踏まえた形で,短期目標として実現可能な対策の骨子案を提示,第1回からの検討内容を踏まえた形で,具体的対策案を作成する意向を示した。
今回は参考人として埼玉医科大学総合医療センター(産科麻酔科)診療科長・准教授の照井克生氏が呼ばれ,周産期医療における麻酔科医不足の問題について報告した。
同氏はまず,麻酔科医は妊婦に合併する脳血管障害の治療など,他の疾患を評価しやすい立場で,転帰の改善に寄与する可能性があると指摘。
厚労省による総合周産期母子医療センター設置基準では,診療科目に麻酔科を有することを条件に挙げている。同様に地域周産期母子医療センター設置基準では,麻酔科を有することが望ましいとし,帝王切開術が必要な場合30分以内に児の娩出が可能となるような医師の配置に努めることが望ましいとされている。
実際,2005年の日本麻酔科学会第52回学術集会で,東京女子医科大学(産婦人科・母子総合医療センター)の松田義雄氏が報告したアンケート(総合周産期母子医療センター25施設および,それに相当する3施設が回答)によれば,2001年1~12月に行ったそれら施設の分娩総数に対する帝王切開率は29.2%であり,麻酔科医の需要の高さが示された。
一方で,麻酔科常勤医は減少しており,そうした医師のいない施設に対しては,大学からもリスクを懸念し産婦人科医派遣を避ける状況にあるようで,周産期センターも同様だという。
照井氏はこれに関連し,周産期センターを対象に今年(2008年)3月に行ったアンケート(主任研究者=国立循環器病センター周産期科部長・池田智明氏※1,回答率:総合周産期母子医療センター63.3%,地域周産期母子医療センター49.3%)を紹介。
それによれば,「緊急帝王切開を30分以内に可能か?」という質問に対し,「いつでも対応可能」と回答したのは,総合周産期母子医療センター47.4%,地域周産期母子医療センター28.2%であった。また,麻酔科当直体制についての質問では,手術室兼務としたのが総合周産期母子医療センター68.4%,地域周産期母子医療センター29.3%,不在オンコール制としたのが,総合周産期母子医療センター26.3%,地域周産期母子医療センター65.2%であり,麻酔科医不足の影響の大きさを示した。
さらに同氏は,脳血管障害などの母体の救急では,脳外科手術や帝王切開術の麻酔や集中管理を要するため,麻酔科医の必要性がさらに高いと指摘した。
ここで大阪大学(救急医学)教授の 杉本壽氏から「大阪大学でも常勤麻酔科医の確保は大変だ」との報告があった。照井氏は,総合周産期母子医療センター麻酔科常勤医の増加のためには,緊急帝王切開術の麻酔など,学会などでも専門的な教育が必要という認識を示し,そのうえで,緊急を対象とする分,報われるような診療報酬体系を求めていきたい,と述べた。
また,昭和大学(救急医学)主任教授の有賀徹氏から「難易度の高い周産期の麻酔科診療について短期的に確保することは可能か」と質問されると,麻酔科医が妊産婦に対する麻酔の知識向上を図ることで,そうした総合周産期センターに常勤医として働く能力は担保できる(目安として後期研修1年目の勤務医なら戦力になるとの私見も)のではないか,と述べた。
NICU増床と新生児科医確保は不可欠,行政の強力な後押しを
―新生児科医数は1.5~2.5倍へ,緊急的なNICU増床必要数は200~500床
埼玉医科大学総合医療センター(総合周産期母子医療センター長)の田村正徳氏は,新生児医療連絡会の杉浦正俊氏による資料を用い,新生児医療体制の課題と問題点を解説した。
それによると,1997年に比べ2004年では全出生児数は減少している(-6.79%)にもかかわらず,高齢出産や不妊治療による多胎の増加など社会的要因もあり,低出生体重児(出生体重2,500g未満)は逆に増加(+11.72%)していたという。特に極低出生体重児(同1,500g未満:+19.1%),超低出生体重児(同1,000g未満:+25.79%)で増加が顕著であった。また,こうした出生児では救命率が改善されており,それに伴い入院数も増加,入院期間も長期化している。
1996年に開始された周産期医療対策事業から12年が経過しているが,その間周産期医療を取り巻く環境が大きく変化していることから,NICU必要病床数の推定を改めて行った(主任研究者=大阪府立母子保健総合医療センター総長・藤村正哲氏※2)という。
新生児医療連絡会加入NICUにおける入院数,および主要NICUにおける入院数,および在室期間についてアンケートを行い推計したところ,年間約3万6,000例がNICUにおける治療を必要としていることが示された。
また,1994年に比べNICU必要数は約50%増加し,現時点で約3床/1,000出生必要とされている。緊急的には,NICUを2.5床/1,000出生まで確保する必要があり,200~500床の増床が必要だという。
同氏は,ここで新生児医療連絡会に加入するNICU施設責任者214人(回答率59%)に行ったアンケートを紹介(2008年1月の集計時点)。
周産期死亡率の改善,新生児死亡率の改善に貢献してきたNICU施設責任者に対する「制約がないとして,新生児病床を増やしたいとお考えですか?」という問いでは,76%が「増やしたい」と回答した。
では,NICU増床で,実際に拡充するうえでどのようなことが障害になるのか。
同調査によれば,「医師の確保」79%が最も高く,次いで「看護師の確保」75%であった。また,近い将来,新生児不足は「より不足」すると考えている責任者は63%であった。
同氏は,ここで新生児科医師数について,新生児科は標榜科でないため,実態把握が困難なことをまず断ってから,日本小児科学会(2006年)による新生児専任医師数948人という人数を提示した。
そのうえで,3次医療圏の人口当たりでの総合周産期母子医療センター必要数,当直医師1人で管理可能な病床数などの仮定から算定した必要新生児医師数を,(1)総合周産期母子医療センター700人,(2)地域周産期母子医療センター800~1,600人と割り出し,1.5~2.5倍への増員が必要だとした。
また,2003年新生児医療連絡会調査で,新生児死亡率の低い県では,高い県に比べ人口100万人当たりのNICU専任医師数が有意に多いことを示し,「新生児科医不足は新生児死亡率にも影響している可能性がある」と報告した。
同氏は,ここで,新生児科医の領域は「小児科のなかでも過酷とされている」ことを報告。新生児医療連絡会調査によれば,8割の施設で当直翌日も通常勤務(36時間以上の連続勤務になる)があり,1か月当たりの睡眠時間は平均3.9時間,休日は1.8回という厳しい実態が示された。
こうした状況は,医師たちのQOLに大きな影響を与えるとともに,医療の安全に不安を感じさせる結果となっており,実際,新生児科医の約3分の2が新生児医療から離れることを考慮しているという。同氏は,労働基準法を遵守させるなどして,国としてもこうした労働環境を改善する努力が必要だと指摘した。
現実的には総合周産期母子医療センターの機能分類で対応することも視野に
北里大学(産婦人科学)教授の海野信也氏は「かつて厚労省の総合周産期センターの施設基準は,最大の弱者である新生児,その救命のためのNICUを中心に考えられてきたが,現実にはこの設置基準をクリアした施設だけでやっていくことは不可能」と現状について指摘した。
同氏は「まずは,照井先生のおっしゃる麻酔科常勤医不足も含め,(設置基準に満たなくても)最低限のところを確保し,それを育て充実させていくという方向で考え,段階的に進めることが重要」と現在のマンパワーの厳しい現状を視野に入れた現実的な策を示している。「例えば,以前提案した総合周産期母子医療センターの機能分類でM型の施設(母胎救急対応機能)では,より安全に帝王切開ができるとか,そういったことで充実させていくことができるのではないか」と提案した。
岡井氏は,こうした指摘を受け「やはり行政の力が重要だ」と強調した。
遺族は各課題にじっくり取り組むことを望んでいるのでは?との指摘も
「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会・代表の阿真京子氏は,今,妊産婦が抱えている不安に対し「日本の周産期医療はこんなに安全です,と伝えることも大切」と指摘。同氏らは周産期医療の医師から情報提供を受け,NICUの必要性,NICU増床が困難になっていることや新生児科医不足などを妊産婦に伝え,さらにそうした人々からも行政に働きかけを行っているという。
また,「出産は絶対に安全である」といった,多くの妊婦に持たれている意識と,現実には命を落とす可能性も存在するといった現実に差があるなど,必要な知恵を丁寧に伝えて「お母さんたちを温かく育てる社会へ」変えていくことが重要だとした。
また,墨東病院の妊婦受け入れ不能問題があってから,同氏らのもとに「私たちに医療のことを話して欲しい,自分たちにできることを話して欲しいというお母さんたちからの依頼が増えた」と報告。
同氏は「医療資源が限られていること,連続勤務36時間といった過酷な勤務が常態化しているこの異常事態を改善するためにできること,といった発想にお母さんたちが変わってきている」とし,「足早に議論を進めず,1つ1つの課題についてじっくり解決を求めていくことがご遺族の望んでいることだと思う」と述べた。
同懇談会に出席していた舛添要一厚生労働大臣は,これらの内容を受け,診療報酬体系について触れ,中央社会保険医療協議会の協議には時間を要することを指摘。さらに診療報酬の変更でホスピタルフィーには対応できるが,勤務する医師に対するドクターフィ-という考え方もあり,長期的な問題として議論して欲しいと述べた。
なお,同懇談会ののちに,一般報道を中心に昨年(2007年)札幌市内で発生した未熟児死亡について,NICUが満床であったことや搬送時に治療に当たれる新生児科医が確保できなかったことなどを取り上げている。
*出席者(敬称略,第2回と第3回の配布資料より)
阿真 京子 「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会 代表
有賀 徹 昭和大学医学部救急医学講座 主任教授
池田 智明 国立循環器病センター周産期科 部長
海野 信也 北里大学医学部産婦人科学 教授
大野 泰正 大野レディスクリニック 院長
岡井 崇(座長) 昭和大学医学部産婦人科学 主任教授
嘉山 孝正 山形大学 救急部長・医学部長
川上 正人 青梅市立総合病院 救命救急センター長
木下 勝之 順天堂大学医学部産婦人科学講座 客員教授
杉本 壽(座長代理) 大阪大学医学部救急医学 教授
田村 正徳 埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療センター長
藤村 正哲 大阪府立母子保健総合医療センター 総長
横田 順一朗 市立堺病院 副院長
〈懇談会参考人〉
岡本 喜代子 (社)日本助産師会 副会長
迫井 正深 広島県健康福祉局長
佐藤 秀平 青森県立中央病院母体・胎児集中治療管理部 部長
照井 克生 埼玉医科大学総合医療センター 産科麻酔科診療科長
周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会◆Vol.3
「誰のための会議か」と患者委員が問題提起
早急な結論は禁、「一つひとつの問題に解決策を」
m3.com 橋本佳子編集長
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/081126_1.html
「この会議は誰のためのものか。一番不安を抱えている母親たちに、皆が努力しており、安心できることを伝えるための会議ではないのか。時間が限られているのは分かるが、早急に結論を出すのではなく、一つひとつの問題をきちんと議論し、時間がかかってもそれぞれについて解決策を出すことを国民は望んでいるのではないか」
11月25日開催された厚生労働省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の第3回会議で、「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表、阿真京子氏はこう訴えた。
この発言は、議論が患者の視点に欠ける上、今年末までに意見をまとめるという性急な議事進行を問題視したものだ。懇談会の議論は、周産期医療、新生児医療、救急医療、麻酔など、それぞれの立場から窮状を訴える発言がメーンになっている。従来、このような場は少なく、様々な問題を洗い出すという点では意義があるが、相互の立場を理解しながら、一定の解決策を見いだす段階には至っていない。しかし、あと2回の会議で議論をまとめるスケジュールになっている。会議は午後6 時過ぎから約2時間開催。
舛添要一・厚生労働大臣は最初から最後まで出席。
「こんなはずではなかった」とならないために情報提供を
阿真氏の発言は、「活動を通じて、予防や病気に関する様々な情報を提供していると、母親たちは医療資源は限られていることを次第に理解するようになり、『36時間連続勤務など、あまりに異常な事態を改善するために私たちはどうすればいいのか』などの発想に変わってきた」といった現状を踏まえた発言だ。
前回(『「救急」「周産期」調査で“縦割り”浮き彫りに』を参照)、そしてこの日の会議でも、阿真氏は、「妊婦は多くの場合、かかりつけ医を持っている。いざという時、かかりつけ医を受診したらいいのか、それとも救急車を呼んだらいいのか」と問いかけた。この10月に都内で発生した妊婦の搬送問題で、妊婦は頭痛を訴えていた。
確かに、医師不足やNICU不足の解消は不可欠だが、「妊婦が異常を覚えた場合、最初にどこにアクセスすべきか」が本来、妊婦搬送問題の議論の出発点のはず。症状のほか、地域のインフラなどを踏まえ、最初にどこに連絡すべきかを検討し、その上でその後の対応の流れを議論していかないと物事は解決しない。しかし、この阿真氏の質問に関する議論はなされなかった。
そのほか、阿真氏は、妊婦や母親への情報提供などの重要性を強調した。
「私たちは、あまりにも知らなさすぎた。だから『こんなはずではなかった』となる。今、私たちにできるのは、知ることだと思う。お産は100%安全なものではなく、NICUに入る子供は120人に1人、病気を持って生まれる子供は100人に4人、妊婦の250人に1人は出産の際に生命の危険にさらされること、同時に母親の死亡率の低さは世界のトップレベルという現状を知るべき」
「『社会がお母さんを温かく育てる』という発想が必要。出産前の母親学級では、オムツの替え方だけではなく、NICUの現状や、未受診の妊婦がNICUにもたらす混乱など、医療資源が限られている中で、皆が上手に利用するために教えるべきことは多々ある。これは既存の仕組みの修正で済み、それほどお金がかかることではない」
「スウェーデンでは、1人の看護師が500人くらいの子供を出産から小学校に入るまで担当し、ホームケアや予防接種などについて指導している。出産後こそ母親学級が重要。子供の病気やホームケアの仕方、#8000(行政が行う小児救急医療電話相談事業)の使い方などを教えれば、改善につながる。助産師などの専門家が情報をしっかりと把握し、分かりやすく母親に伝えてほしい」
理想は「周産期センターに麻酔科医を配置」だが…
この日はこのほか、参考人として出席した埼玉医大総合医療センター産科麻酔科診療科長の照井克生氏、委員の同大総合医療センター総合周産期母子医療センター長の田村正徳氏へのヒアリングを中心に展開された。
照井氏は、2008年3月に実施した調査(厚生労働科学研究費補助金「乳幼児死亡と妊産婦死亡の原因に関する分析と提言」)では、「緊急帝王切開術を30分以内に施行することが時間帯によっては困難」と回答したのは、総合周産期母子医療センターの52.6%、地域周産期母子医療センターの69.5%に及び、「手術室に空きがない」「麻酔科医不足(不在)」が主因であると紹介。脳血管障害などの母体救急ではさらに麻酔科医の必要性が高まることから、総合周産期母子医療センターの実態改善と、地域周産期母子医療センターへの麻酔科医の設置基準の明確化(現在は努力目標)を求めた。
もっとも、これらの必要性は誰も認めるところだが、麻酔科医不足という現状がある。北里大学産婦人科教授の海野信也氏は、周産期医療センター自体が未整備である現状も踏まえ、「全国にこのシステム(麻酔科医の配置)を作るのは容易ではない。まずは最低限のところを確実に確保した上で、周産期医療センターを各地域で育てていく発想が必要ではないか」と指摘し、全国一律に進めるのではなく、可能な施設から麻酔科医の配置を進めるべきという考えを示した。
「母体搬送から新生児搬送の時代に逆戻り」との懸念も
田村氏は、新生児医療に携わる立場から、「母体搬送の観点から言えば、総合周産期母子医療センターが何でも受け入れるという発想はいいが、新生児医療の観点から言えば不安。NICUの確保を同時に進めないと、新生児の受け入れができず、母体搬送から新生児搬送の時代に逆戻りする」と訴えた。
もともと周産期医療センターは、「一番弱い新生児」(田村氏)搬送の観点から整備されたもの。胎児・新生児が何らかの問題を抱える場合、出産後に新生児を搬送するのは危険であり、分娩前、母体に胎児がいる状態で搬送した方が安全であるという考え方に基づく。
さらに、(1)母体搬送受入困難の主因はNIUC満床、(2)NICU専任医師数が多いほど、都道府県別新生児死亡率は低い、(3)低出生体重児の増加でNICUのニーズは増える一方で、新生児科医不足、看護師不足でNICUは不足、などの現状を指摘。「特に福島県立大野病院事件以降、1次、2次の周産期医療施設ではあまりリスクが高い分娩を扱わなくなった。結果的に周産期医療センターが担うことになり、NICUが比較的軽症の新生児で埋まってしまう傾向がある」(田村氏)といった問題もあるとした。
当面の解決策として、(1)34、35週くらいの新生児であれば、総合周産期母子医療センター以外で診ることが可能であり、週数も加味した搬送を行う、(2)人員配置基準がやや低い「準NICU」を作る、(3)新生児科医に手当てを付ける、などを求めた。「長期的にはNICUへの交代制勤務の導入が必要。しかし、現時点の解決策として、労働基準法に準拠した給与の支払いを最低限すべき。当直と言っても、ほとんど睡眠はできず、実態は通常勤務であり、時間外の割り増し賃金を支払うべき」と田村氏は訴えた。
もっとも、こうした田村氏の主張に対し、副座長で大阪大学救急医学教授の杉本壽氏は、「『NIUCがないとダメ』と母体搬送を入り口で絞ってしまうと、また同じ問題が生じかねない。NICUは重要で、胎児を助けるのも大切だが、まずは母体の救命が大切であり、両者は分けて考える必要があるのではないか」とコメント。
これに対し、田村氏は、「胎児は週数で評価できるが、母体については、妊娠に伴う救急とそれ以外の評価がきちんとなされていないのではないか。今回の懇談会には救急医療の医師も入っており、“トリアージ”という概念を産科救急にも導入する必要があるのではないか」などと指摘した。
座長の昭和大学産婦人科主任教授の岡井崇氏は、「その点については、ガイドラインを作るという話になっている。懸念は分かるが、現時点ではNIUCが満床でも受け入れざるを得ないのではないか」との見解を示した。
「空床補償をすべき」との要望も
そのほか、順天堂大学産婦人科客員教授の木下勝之氏は、同大では総分娩数の57%正常分娩が占める現状を指摘、「病院の姿勢として、ベッドを満床にしておかなければならない」とした。経営的観点から、大学病院であっても正常分娩を受け入れてベッドを満床にすることが、結果的に「空床なし」という事態を招いており、母体搬送を断らざるを得なくなっていることを意味する。「ベッドを空けておくために、空床補償をすべき」(木下氏)。この空床補償は、診療報酬ではなく、各自治体での取り組みでも可能であるとした。
舛添要一・厚生労働大臣は、会議の冒頭、一連の議論を受けた最後にそれぞれ次のように挨拶した。
◆舛添大臣の冒頭の挨拶(抜粋)
「12月をめどに意見の集約をお願いしたいが、くれぐれも医療提供者の負担を増すことのないようにしていただきたい。人的、物的手当てが必要なら政治の力で、予算を付ける。また国だけではなく、各自治体での取り組みも重要。ここでの議論が各自治体のやる気、各地域での取り組みにつながるようにしたい」
◆舛添大臣の最後の挨拶(抜粋)
「空床補償をはじめ、(お金を付ける話は)全部基本的に診療報酬体系で対応するしかない。しかし、中医協で議論すると、悠長な話になりかねない。今のように診療報酬体系を通じてしか変更できない政策システムでいいのか。(不足している診療科の医師の)処遇に差を付けるためには、診療報酬で評価し、病院にそれを分けてもらうしかない。ホスピタルフィーの形でやると、なかなか解消できないのではないか。ホスピタルフィーとドクターフィーという概念を入れる方法がいいのかどうか。常々こうした疑問を持っている。これはこの会議の議題ではないが、長期的な課題としてこうしたことも考えなくてはいけないだろう。12月にまとめる意見をいつ実現するのか。予算を確保することは可能。しかし、中医協で必ず議論しないと先に進めないというのはどうか、という疑問は呈しておきたい」
中医協では悠長に―病院支援で厚労相が認識
キャリアブレイン 2008/11/25
https://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=19327&freeWordSave=1
「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(座長=岡井崇・昭和大医学部産婦人科学教室主任教授)が11月25日に開かれ、麻酔科医不足の問題などについて議論を行った。舛添要一厚労相は席上、病院への財政支援を決める現在の仕組みについて、「中医協を開いて、そこで話をすると悠長になりかねない」との認識を示した。
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舛添厚労相はまた、「(医師の)処遇に差を付けるとすると、診療報酬で病院に掛かるものを分けるしかない。そうではなく、ホスピタルフィーと共にドクターフィーという概念を入れるのがいいのか悪いのか」と述べた。
さらに、「(医療提供体制の確保に必要な)予算を取ってくることは可能だが、必ず中医協で議論して、そこで答えを出さなければならないとなるとどうするんだ、という疑問を大臣として呈しておきたい」と強調し、知事会とこの問題について近く話し合う考えを示した。
この日の会合では、照井克生参考人(埼玉医科大総合医療センター産科麻酔科診療科長)、木下勝之委員(順天堂大医学部産婦人科学講座客員教授)らからヒアリング。照井参考人は麻酔科医の立場から周産期医療の課題を指摘し、それを受けて各委員が意見を交わした。12月8日に予定されている次の検討会では、勤務医の労働環境の改善策などを話し合う。
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