(関連目次)→本日のニュース・おすすめブログ..。*♡ 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
現場の意見をどこまで聞ける
―厚労省周産期・救急懇談会―
熊田梨恵
キャリアブレイン 2008年11月21日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19298.html
議論の時間も少ないまま、先を急ぎ過ぎてはいないか―。相次ぐ妊婦の救急受け入れ困難の問題を受け、厚生労働省が緊急に開催を決めた「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(座長=岡井崇・昭和大医学部産婦人科学教室主任教授)。11月20日に開いた第2回会合に、今後の対策についての骨子案が示された。しかし、会合では地域事例のヒアリングに90分以上が割かれ、骨子案についての議論は約40分ほど。自ら用意した資料の内容にほとんど触れることができなかった委員もいるなど、議論は不完全燃焼の様相を呈し、急いでまとめようと委員の発言をせかす座長の姿だけが目立った。委員は骨子案の総論には賛成するものの、各論となれば意見は分かれている。細部にどこまで現場の意見が反映されるのか、出口は見えないままだ。
【関連記事】
母体救急連携システム構築を―日産婦学会・救急学会が共同提言
妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得
妊婦死亡問題、NICUについて議論―民主・厚労会議
周産期センター、「母体救急は難しい」
年内に周産期医療体制の強化で提言―厚労省懇談会が初会合
この日の会合の資料に、同懇談会が年内にまとめる報告書のベースとなるとみられる「今後の対策について(骨子案)」が添付された。骨子案は、「良好な実績を上げている地域の救急搬送体制の例示」と「短期目標として実現可能な対策の検討」から成っており、会合での議論が内容を左右する「実現可能な対策の検討」の項目は、▽患者の病態と受け入れ施設のマッチング〔(1)病態の分類―必要な対応、処置と緊急度(2)施設の機能による分類(3)地域のネットワークの促進〕▽情報の伝達及び効果的活用〔(1)救急医療機関の状況=病床数、人員=の伝達とその迅速化(2)情報の統合、センター化(3)搬送先選定の迅速化=コーディネーターの配置=〕▽施設の機能充実と人員不足への対応〔(1)病床数の適正化=特にNICUの増床=(2)勤務環境の改善(3)パラメディカル、メディカルクラークの活用〕―の3つ。
事務局や会合での岡井座長の発言によれば、骨子案は岡井座長が作成したもので、事務局は「中身にはノータッチ」としている。
懇談会は年内に報告書をまとめなければならないため、あと数回の開催で議論の内容を取りまとめていく必要がある。このため、骨子案の内容にかかわる議論に時間を多く割くかと思われたが、同日の会合はヒアリングだけで予定していた120分のうち90分を使った。救急と産科医療の連携の事例などについて、3人の参考人に加え、委員からも発表があったためだ。参考人には、日本助産師会の岡本喜代子副会長、厚労省から出向中の広島県健康福祉局の迫井正深局長、青森県立中央病院総合周産期母子医療センターの佐藤秀平・母体胎児集中治療部部長が招かれていた。
■病態で分類した受け入れを
ヒアリング終了後、岡井座長は「残り時間が少ない」としながら、骨子案についての議論を始めた。「患者の病態と受け入れ施設のマッチング」の項目について、昭和大医学部附属病院で決めた母体搬送についての受け入れ判断基準を引き合いに、「病態を分類して、『この病態であればこの施設』というのを決めた方がいいんじゃないか。『この施設は胎児・新生児が強いから当然診る。母体が緊急のときはこちら』と整理する必要があるのでは」と述べた。さらに、病院の集約化の必要性にも言及し、「理想を言えば、大きな救急施設の中にどんなものでも受け入れられて、その中に周産期もあるというようなこと。日本はこれからそれを目指してほしい」と述べた。
これに、杉本壽座長代理(阪大医学部救急医学教授)も同調した。ただ、「周産期すべてそうしろというのではなく、それぞれの役割がある」として、あくまで周産期母子医療センターや救命救急センターのほか、多くの診療科をそろえている大学病院で実施している模範的な例としてほしいと求めた。
海野信也委員(北里大医学部産科婦人科教授)は、「そうはいっても(救急搬送について)取れないところや、機能しないところもある。実際の受け入れ実績も共に明らかにし、地域の先生方が評価しながらやれる仕組みも必要」と述べた。
舛添要一厚生労働相は「医療者ではない立場から」と前置きした上で、「病態について、吐き気や嘔吐など、病態判断ができるのだろうか」と疑問を呈した。
ここで、海野委員が「それぞれ大切な役割があるが、母体救命救急については機能が明示されておらず、ネットワークの中で暗黙のうちにやってきた」と述べ、周産期医療センターについて、誰にでも分かるよう機能を分類すべきと求めた。その上で、「入口機能として、今までの施設基準のものなら胎児に(対する救急体制)は万全なので、それを基本とする。母体救命救急機能を持っているところを『MN型』として分かりやすくすることで、進めやすくなる」と、自らがこの日提出した資料について解説した。
海野委員が同懇談会への提言として提出した資料によると、総合周産期母子医療センターを、現行の施設基準を満たしただけの「N型総合周産期母子医療センター」と、現行の施設基準を満たした上で、24時間の麻酔科体制や、院内連携で母体救急に対応できるようにしていることなどを条件とする「MN型総合周産期母子医療センター」の2種類に分類している。地域周産期医療センターについては、現行の施設基準に加えて、こうした条件を満たしている場合は「M型周産期母子医療センター」とし、M型周産期母子医療センターの機能を複数の医療機関が連携して実現する場合は「M型周産期母子医療施設群」とした。それぞれの機能分類について、補助金によるインセンティブを付与している。さらに、母体、新生児搬送の受け入れ実績を評価し、症例数に応じて補助金を上乗せすることや、母体救命救急の受け入れ実績に関しては別に評価すること、未受診妊婦受け入れ実績の評価を行うことなどの診療実績評価システムも検討すべきとしている。
岡井座長は、「今あるインフラを利用して体制をつくり直すのにはどういうものがいいか。次の次の会合までに出す」と早口で引き取った。
■日医の木下常任理事が新委員に
ここで事務局の推薦により、今回から新しく委員として加わった木下勝之氏(順天堂大医学部産婦人科学講座客員教授)が発言。木下氏は日本医師会の常任理事で、同省医政局が取り仕切る「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」の委員も務めている。木下氏は、総合周産期母子医療センターではどのようなケースでも受けなければならないために、正常分娩でも受け入れており、そのために満床になっている場合があるとした。その上で、「一床は空いているという、空床確保的な考え方も必要」と述べた。
■国民に分かりやすい情報整理を
次に、岡井座長は骨子案の「情報の伝達及び効果的活用」について、周産期救急情報システムと救急医療情報システムの統合について意見を求めた。
ここで阿真京子委員(「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表)が発言した。「病態判断ができるということについて。わたしたちが『頭が痛い』となったとき、産婦人科に行って周産期のネットワークで大変な思いをするより、救急車を呼んだ方がいいのか。(妊婦側に)提示すれば、防げるものは防げると思うが。こういうケースが救急車、というのがあれば教えてほしい」。
これに、有賀徹委員(昭和大医学部救急医学講座主任教授)が「今の話は情報の整理整頓のテーマを投げ掛けている」と応じた。「ファーストコンタクトが救急隊であれば、救命の方に来る。産科なら従来積み上げてきた周産期ネットワークを使う。東京など大都市圏なら、救急隊のシステムが全体で整備されているが、地方は消防本部ごとに情報を持っている。お母さんが地元の救急隊を呼んでも、救急隊は隣の町の様子などは分からない。となると、産科の先生の方が手持ちのカードがある可能性がある。丁寧な情報システムを考えた方がいいと思うと、阿真さんが言ったと考えられる」。
このほか、スムーズに搬送するためのコーディネーターの配置が骨子案に盛り込まれたことについて、池田智明委員(国立循環器病センター周産期科部長)が、地元の大阪府で運用がうまくいっている例を紹介し、「コーディネーターはOBの医師がよい」と主張した。これに対し、海野委員は「数少ない医師が現場に専念できる方がいいのでは」と述べ、医師である必要はないとした。海野委員は提出資料の中で、情報システムの更新や搬送先照会の実務は、原則として行政の責任で行うよう求めている。
厚労相はコーディネーターについて、「質の問題に尽きる。力量によってうまくいくかどうかがあると思う。役所は『こんな資格がないといけない』とか、やぼなことは言わないので、コーディネーターの要件がどういうものかを詰めていただきたい」と述べた。
■画一的な情報統合は危険
予定終了時刻を15分ほど超過しており、岡井座長は「周産期と救急医療の情報をネットワーク化するということで、皆さん異論はないと思う。情報をセンター化し、コーディネートして早く受け入れ先を探すということで、次の次の会に(案を)出したい」と述べ、議論を終えようとした。
そこで田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)が、情報ネットワークの統合に異論はないとした上で、「関東圏、大阪圏で情報コントロールセンターをつくるようにしないといけない」と述べ、都市部の情報が周辺の県にも分かるようにしてほしいと求めた。
さらに有賀委員が、周産期救急情報システムは都道府県単位だが、救急医療情報システムは、市町村消防の単位で運用していることを指摘し、「単純に一緒にやれるかは、地域で工夫が必要。地方は地方で上手にやっていくことがあるということでは」と述べた。
岡井座長は「地方の特性で具体的にやるなど、地方の自分たちのやり方というのがある。ここ(懇談会)は全体のグランドデザインを考えるところだから、ここで皆さんの知恵をお借りして、いいものを考えていただきたい」と、ここでも早口で引き取った。
最後に、阿真委員が発言した。「先生方はお母さんたちがどれほど不安を感じているかご存じかと思いながら聞いていた。本当にたくさんのお母さんたちがものすごく不安を感じている。これまで医療についてわたしのところになど来なかった一般のお母さんが、何か不安を感じて訴えている。不安は不安として、医療がいかに大切なものかに気付いている大事な時期だと思う。わたしたちができることを考えてきたから、次回話したい」。
コメント