(関連目次)→産科医療の現実 目次 なぜ産科医は減っているのか
(投稿:by 僻地の産科医)
愛知県産婦人科医会ニュースよりo(^-^)o ..。*♡
本当に、産婦人科にとって前向きに明るくなれるニュースは、
大野事件の判決だけだったという年になってしまいました。。
一年間を振り返って
愛知県産婦人科医会副会長
鈴木 清明
(愛知県産婦人科医会報 平成20年12月5日 第413号 p1-2)
12月の声を聞きますと、例年の如く何となく慌ただしくなり、気分も落ち着かなくなります。この一年、できなかった事ややり残した事、あまりにも多く侮いが残るといえば残る。まぁ、こんなものかと云えばこんなものの一年でした。私事はともかくとして、社会的には特に産婦人科の世界では物事が悪い方向へ悪い方向へと進む一年でした。
また、今後も極めて厳しい状況が待ち受けています。これらを引き起こす原因が社会的、構造的な問題に根ざしている事は周知の事実です。改めて、その問題を洗い直してみたいと思います。
最大の問題は産婦人科医が急激に減少してる事実です。産婦人科を志す医師の人数が年300名を切っています。その新たな産婦人科医の構成は70%が女性医師です。 20代・30代の女性医師は50%以上、年代によっては70%を占めています。女性にとって、医師としての仕事だけではなく、人生の上で最も大切なもののひとつ、出産・育児の役割があります。5年後10年後には一定の人数の方が仕事から離れられ、長期に及ぶことは予測せざるを得ません。加えて、現役の40%を占める60才以上の医師がリタイアされる事も明白な事実であります。おそらく、10年後には分娩を拒う産科医は半減するのではないかと危惧するのは、私ひとりでは無いと思います。 これは私共、産科医の不幸であると同時に国民の皆様を窮地に造いやる事を意味しています。
産科医を増すには、なぜ産科医が減るのか根本的に原因を国民の皆様に理解して頂いて、その解決に協力して頂かなくては未来は無いと考えます。医学部の定員を増やす様な小手先の考えでは、何の役にも立だない事は明白です。なぜ医師が産婦人科医、特に産科医にならないのか、私共はよく認識していますが改めてこの紙面を借りて整理したいと思います。開業している産婦人科医が、御白身の子弟に産科医だけはなるなと戒めるのはよく聞く話ですし、子供自身も親の生活を見て育っているため、最初から産婦人科医にはならないと決めている事も非常に多く有ります。その最大の理由は、プライベートの時開か全く無い事につきます。民間の産婦人科医は多くは24時間勤務です。心の休まる時間が有りません。分娩の扱いを止めた先生が、「こんなに開放感が味わえる世界があったのか。しみじみ心に安らぎを感じる」とおっしゃる事は皆様がよく耳にする事です。
次に、責任の重さは医師になった以上当然の事ですが、必死の努力をしても結果が悪いとすぐに訴えられてしまう、訴訟の多さです。如何なる生命の誕生も、死と云う側面を持っています。平成19年度の我が国の周産期死亡率は、1,000名の出産に対して4.7名です。世界で一番少ないにも係わらず、4.7名の死産児に対する責任をややもすると問われるのです。脳性麻痺は、正確な集計は行われていませんが、1,000名に対し2名ほど発生するとの報告があります。妊娠22週から妊娠34週までの未熟児は一定の割合で脳性麻痺が起きるべくして起きます。また、出生前、胎内で理由が判るもの判らないものを含めて脳性麻痺が発生します。それに対して責任を問われる事が日常的に起きています。
なぜそうなるのか、最大の責任は厚生労働省にあります。国民に広く知れわたる様に、毎年周産期死亡の実態を報告すべき義務が有るのにそれを怠っています。いや、一度小さく報道されているのを目にした事がありますが、厚生労働省が、周産期死亡の定義を妊娠22週から産後1週間としているにも係わらず、妊娠28週からの死亡率を報道し実数を過少に報告していました。完全な欺瞞です。この姿勢がお産の安全神話を造り出しているのです。その他、数々ありますが、有り過ぎて一度では書けません。
次にマスコミが医療を悪くしています。医療を真に理解した上での報道ではなく、真実とかけ離れた事を興味本意で報告しています。真実かのごとく、異なった内容を報告する事が多すぎます。今は、使ってはいけないものかも知れませんが、昔の諺にある「群盲、象を撫でる」如く、尻尾を触って「象は縄の様だ」とか、腹を撫でて「太鼓の様だ」とか、面白おかしく報道しています。それは意図的なものなのか、知識が無くて報道しているのか?マスコミは世論を動かし絶大な影響力を持っています。正しい理解と報道を願うのですが事情は極めて困難な事です。
第3に、司法が産科医療を叩き潰しています。弱者救済の意識が働くのか、後方視的に結果論から医師に責任を負わせるケースが多く有ります。異常事態が起きた時、医師は幾つかの選択肢の中からベターと考える方法を決断するのですが、結果が悪ければ、タラ・レバの世界で断罪されるその不条理は無念であります。もっと前方視的に事柄を判断する力を持ってもらいたいと考える次第です。また、警察・検察の無法な介入が一層事態を深刻にしています。人の生命を助けようとする必死の努力が、結果が悪ければ強盗殺人と同列の犯罪者として扱われるのは先進国では日本以外には無いと思います。いずれにしても、社会が産科医を窮地に追い詰めている事を国民の皆様に知ってもらい善処して頂かなくてはならないと考えています。
この様な暗い話題を、書き連ねてまいりましたが、一筋の光明が射してきた事を持って新しく迎える年の一歩を踏み出せるのではないかと考えます。それは1月1日をもって正式に発足する産科医療保障制度であります。 これによって無理矢理責任を負い披される様な事態が減少するものと考えます。脳性麻痺のお子さんが生まれる事は、医師として悲しく心潰れる思いには変わり有りませんし、何とかしてあげたいと云う思いはあります。ただ、無理矢理責任を負い被される不条理は別の事です。しかし今後はその様な事が少なくなるのではないかと思います。ただし、蛇足ながらその運用にあたっては注意しなければならない点が2つあります。1つは産婦人科診療ガイドラインを厳守する事、もう1つは該当症例は全てカルテを提出し事故調査委員会で解析され報告書が医療側と患者側に送られます。その時、カルテに詳細な記載が無いと記載不備のため不利な判断がなされる事は事明の理であります。ご多忙の中、日頃から医師のみならず助産師・看護師が記録を十分なされる様習慣づけておかないと、この制度がかえって訴訟を増す危険が有る事も念頭におく事が必要です。
心穏やかにお過ごしの皆様に、日頃の不満をぶちまけ不愉快な記事を書きました事をお許し下さい。
いつも拝見させていただいてます。この文章、こちらの日記でも紹介したいのですが宜しいでしょうか?
投稿情報: 鴛泊愁 | 2008年12 月28日 (日) 07:40
どうぞo(^-^)o ..。*♡ お使いくださいませ。
光栄です!(2.18の時にご一緒させていただきました!)
産科医に対する政策はいろいろ出てくるようになりましたけれど、本音としては息苦しさを増すばかり。
つらいというのが本当の所の実感です。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年12 月28日 (日) 09:12