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(投稿:by 僻地の産科医)
医学教育 第39巻 第5号
2008年10月25日号からですo(^-^)o ..。*♡
今日のニュースでこのようなものがありましたo(^-^)o ..。*♡
青森で指導医養成講習会、研修医指導への対応学ぶ
陸奥新報 2008年11月23日
http://www.mutusinpou.co.jp/news/2008/11/4381.html
指導医講習会は、研修指定病院の科長などは出なければならないのですが、
「指定病院」医師だからと「研修指導料」などの
プライオリティがつくことってないんですよね!
指導しなさいって義務だけで。
もちろん、私達も指導してもらって育ってきたから、
指導しなきゃいけない義務も当然あるでしょうけれど、
開業しちゃった先生方、指定病院じゃない派遣あるいは転職先病院は
「完成品」を盗んで行く盗人みたいなものじゃないかなぁって気がします。
相変わらずの現場丸投げ(>_<)!!!
勤務医には義務ばかり負わされているのが現状です。
臨床研修病院における指導医の労働実態
およびメンタルヘルスに関する研究
谷口 和樹 笹原 信一朗 前野 哲博 吉野 聡
友常 祐介 富田 絵梨子 宇佐見 和哉 林 美貴子
道喜 将太郎 中村 明澄 松崎 一葉
(医学教育2008,39(5):305~311)
要旨:
2004年度に施行された新臨床研修制度以降,医師不足が社会問題となり,医師,病院勤務医における過酷な勤務実態の影響が指摘されている.今回われわれは多施設の研修指定病院において,直接研修医の指導に当たる指導医479名を対象として,労働時間,当直回数や業務内容などの労働環境とメンタルヘルスについて質問紙法を用いて実態調査した.
1)2004年度に全国8箇所で開催された指導医養成講習会およびプログラム責任者養成講習会に参加した大学病院勤務医および研修指定病院勤務医を対象に調査を実施した.
2)臨床研修制度開始後も指導医は平均月あたり100時間を越える時間外労働に従事しており,2割以上の指導医は月16O時間以上にも及ぶ時間外労働を行っていた.
3)精神的健康度に関しては,指導医の2割以上が抑うつ傾向を呈していた.
4)臨床研修内容を一層充実させ,よりよい教育体制を構築するために診療業務の軽減,勤務内容の配慮などにより,臨床研修指定病院勤務医の労働環境を改善する必要性があると考えられた.
研究背景
新臨床研修制度以降,地方中核病院や産婦人科,小児科などにおける医師不足が社会問題としてクローズアップされている.医師,特に病院勤務医における過酷な勤務実態による「立ち去り」が医師不足の背景にあるとの指摘がなされている.
日本の病院勤務医の中でも,研修医を指導する指導医は大学病院や研修指定病院に勤務する診療医を兼ねているのが通例であり,研修医を教育する教育業務の他に診療業務や研究業務,管理業務にも従事しており,多忙を極めているへ先行研究にて森田らは,公立大学病院勤務の医師の生活時間調査を行い,週の平均労働時間は86時間7分で,時間外労働は月に換算すると100時間を超えるものが79.4%であったと報告している.
2004年に開始された新臨床研修制度では,研修医が短期間のローテーションで入れ替わりが多いこともあって指導医の負担が増しており,多くの指導医が,労働環境が厳しく指導時間が十分でないと感じている.
一般に長時間労働など過重労働は疲労の蓄積およびメンタルヘルスの悪化をもたらす重要な要因とされている.米国でも医療従事者の労働時間規制に関して,ACGME(Accreditation Council for Graduate MedicaI Education ・ 米国の研修医プログラムを監督する第三者機関)のガイドラインにより,研修医の週あたり労働時間を80時間以内に制限することにより研修医の心身の健康の保持と医療安全の充実を因っている.
日本の臨床研修制度において,指導医が長時間に及ぶ診療業務や病院管理業務に忙殺され,指導や教育業務に時間が十分に割けない,あるいは負担になっている部分があるとすれば,新臨床研修制度の趣旨にもとり,同時に指導医の疲労の蓄積およびメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性がある.臨床研修をより充実したものにするためには,指導医が心身ともに健康な状態で余裕を持って研修医の教育に従事できる勤務環境にあることが望ましい.
新臨床研修制度施行以降の指導医の労働環境やメンタルヘルスの実態については十分な報告が得られておらず,指導医の勤務環境や教育環境を改善するための前提となるデータは極めて乏しい.また,研究,教育,臨床,さらに病院管理など指導医の多岐にわたる業務内容の割合に着目し,具体的に調査した先行研究も本邦では未だ乏しい.
そこで今回われわれは多施設の大学病院,研修指定病院において直接研修医の指導に当たる指導医(以下指導医と記す)を対象として,労働時間,当直回数や業務内容などの労働環境とメンタルヘルスに関して,質問紙法を用いた調査を実施した.
対象と方法
(対象と研究計画)
(調査対象)
2004年度に全国8箇所で開催された指導医養成講習会およびプログラム責任者養成講習会に参加した研修指定病院勤務医479名を対象に調査を実施した.調査方法は記名の自記式質問表を各講習会場にて配布し,その場で回収した.配布の際は研究目的および情報の取り扱いについて説明した上,書面にて回答への同意を求めた.393名から回答が回収された.(回収率82.0%)本研究の対象者は講習会の参加者であり,対象者の中には管理業務が中心をなしており,直接研修医を指導する機会が乏しい医師も存在していた.そのため本研究では,研修医を直接指導する立場にある指導医の労働実態を評価するため,回答者のうち実際に週3回以上研修医を直接指導していると回答した者を指導医と定義づけた.回答が回収された393名のうち,この指導医の定義に当てはまる対象者は175名であった.そのうち,すべての回答項目に欠損値のない161名を解析対象とした.(有効解析率33.6%)
(質問紙の構成)
自記式の質問紙においては以下の項目を調査した.
・年代(20代~60代),性別,日本語販CES-D*1
・就労状況(平日労働時間,休日労働時間,当直回数,研修医を週何日指導しているか,臨床,管理,研究,教育にあてる業務の割合*2など)
※1抑うつ度の評価には日本語版The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)を用いた.得点が高いほど抑うつ度が高いと判定される. 本研究ではCES-D得点16点以上を「抑うつ傾向」と評価した.
※2指導医の業務のうち,診療,教育,研究,管理業務にそれぞれ業務時間の時刻をあてているかを百分率形式で回答させた.
(週あたり労働時間の調査)
自記式質問紙の回答項目から週あたり労働時間を推計調査した.いずれの質問項目も過去1ケ月の平均労働時間を調査した.
・「平均平日労働時間」(当直を除く)
・「平均休日労働時間」(土曜日の通常時間帯の勤務および,当直を除く)
・当直回数
労働時間の測定は,先行研究と同様の手法により下記の数式に基づいて推計した.
(平均週労働時間)=(平均平日労働時間)×5
+(平均休日労働時間)×2
+(週当直回数)
×(24-平均平日労働時間)*3
※3当直時間帯の勤務と通常時間帯勤務のダブルカウントを避けるために 当直時の勤務時間は(24-平均平日労働時間)とした.
(統計解析)
週労働時間,CES-D得点,当直回数につき年代別の差異に関して一元配置の分散分析を行った.統計解析にはSPSS 11.0 for Windowsを用いた.
(倫理面への配慮)
本研究では,調査開始前に安全で質の高い医療体制の構築のため,病院医師の労働環境およびメンタルヘルスの調査を目的としていることを十分に説明し,各書面でも同様の説明を明記した.また,情報の取り扱い方法については第三者の目に触れることがなく,個人が特定できない形で研究目的にのみ取り扱うことを明示した.さらに本調査への参加は自由意志であり,調査紙に回答しない場合においていかなる不利益も彼らないことを明記し,任意で回答を依頼した.
結 果
(基本属性とbase line データ)
指導医161名のうち,男性にに50名(93.2%),女性は11名(6.8%)であった.年代別では20代が0名(0.O%),30代が29名(18.O%),40代が90名(55.9%),50代が39名(24.2%),60代が3名(1.9%)であった.女性指導医数が極めて少なかったため,年代別の解析においては性別ごとの解析は実施しなかった.
(週労働時間)
指導医全体の平均週題労働時間は,68.7時間であった(表1).週労働時間65時間は月の時間外労働が100時回超に及ぶ水準であり,指導医の週労働時間は平均でこの水準を上回っていた.週労働時間か法定労働時間の40時間を下回っていた指導医は161人中1人(0.6%)のみであり,50時間を下回っているものも161人中5人(3.1%)にすぎなかった.一方,週労働時間80時間を越えるものは161人中29人(18.0%)に及んでいた.
(当直日数)
指導医全体の平均月あたり当直日数は,2.3日であった(表2).161名中44名(26.0%)が月4回以上の当直に従事レ14名(83%)は月6回以上の当直に従事していた.これに対し、43名は月に1度も当直をしておらず,個人間の差が比較的大きかった.
(指導医の業務内容別割合)
指導医全体の業務に占める診療業務の割合は,6割強であった.これに対し指導医全体の業務に占める教育業務の割合は,2割弱であった.また研究業務の割合は,5%弱と比較的少なかった.指導医全体の業務に占める管理業務の割合は,約15%であった(表3).
(メンタルヘルス)
指導医全体の平均CES-D得点は10.25点であった(表4).指導医全体でCES-D得点が16点以上であった者は161人中36人(22.4%)であり,2割以上の指導医が抑うつ傾向にあると評価された.
(年代による差異)
週労働時間について見ると,30代の指導医における平均週労働時間は68.22時間,40代では69.55時間,50代では67.50時間,60代では58.33時間であった.当直回数について見ると,50代の指導医の当直日数は30代,40代に比べて有意に少なかった.指導医の業務内容の割合に関しては,臨床,教育,研究割合においてはどの年代間でも有意差は認めなかった.他方管理業務においては50代の割合が30代と比較して有意に高かった.精神的健康度については,指導医のCES-D得点,抑うつ状態にあるものの割合はどの年代間においても有意差を認めなかった.
考 察
(回収率と解析率)
本研究における回収率は82.0%であった.海外における研修医と医師を対象とした大規模ストレス研究では34.3~56.5%の回収率であり、これらの研究結果と比較して、.全国・多施設の医師を対象とした本研究における回収率は十分に高いと考えられた.
(労働時間の計算方法)
本研究は回答者自身の回答による質問紙法で実施されたためめ、回答者の主観的要因を完全に排除できない. しかし先行研究では質問紙法による労働時間算出と第三者が記録したタイムスタディー形式の労働時間算出との相関は0.98と極めて高い一致率を示したとの報告があり,質問紙法によってもある程度客観的な労働時間を推計することは可能であると考えられた兜
二三究で得られた指導医の平均労働時間は,公立病院や大学病院に勤務する一般勤務医を対象とした先行研究と類似した結果が得られていた. このことから,本研究の対象である臨床研修病院指導医が,中核医療機関に勤務する勤務医に対し,一定の代表性を持つことが示唆された。
(指導医の労働時間,当直日数)
指導医群の平均週労働時間は68.7時間に及んでいた.年代別に見ても30代,40代,50代のいずれの年代でも指導医の労働時間は週65時間を越えていた.2006年4月に改正された労働安全衛生法では,「1週あたり40時間を超えて行う労働が1月当たり100時間を超え,疲労の蓄積が認められる者で面接を希望した者」に対し,医師の面接指導を義務付けている. 本研究結果で得られた指導医の週労働時間を月あたりに換算すると、どの年代でも平均して医師の面接が勧奨される対象となる計算となった.一方,法定労働時回の週40時間以下の労働時間であった指導医はほとんど存在しなかった.調査方法が異なるため直接的な比較はできないものの,ノルウエーの病院に勤務する医師を対象とした先行研究において平均週労働時間は52.8時間であった. また前述のとおり,米国の研修医は労働時間を週80時間以内に規制されている.2割以上の指導医が週80時間以上の労働時間に従事しているという本研究結果からは,国際的な比較においても,日本の指導医が相対的に長時間の労働に従事していることが示唆された.
これらの結果を総合して,新臨床研修制度が研修医の労働環境への配慮を指針としているにもかかわらず,大学病院ないし研修指定病院にて研修医を指導する職責にある指導医の労働時間は依然極めて長時間に及んでいることが示唆された.
(当直回数)
指導医の月あたり当直回数についてみると4分の1以上の指導医が月4日以上の当直に従事している反面,当直業務に従事していなかった指導医も4分の1程度おり,月あたり当直回数については個人の勤務環境により差が大きいことが示唆された.
(指導医の業務内容別割合)
指導医の業務内容についてみると,診療業務の割合が5割を超えており,教育業務の割合は2割程度であった.指導医の年代により,診療業務や教育業務の割合に変化は見られなかったが,50代では管理業務の割合が増えていた.ノルウエーの研修施設の医師を対象とした先行研究では,後期研修医が教育を受ける時間が15%であるのに対し,指導担当の医師が教育にあてる時間は5%であった. 研究手法の相違により直接的な比較はできないが,本邦の指導医は長時間勤務に従事しているにもかかわらず,臨床および教育に多くの時間を割いていることが示唆された.
(メンタルヘルス)
指導医全体の平均CES-D得点は10.25点であり,どの年代間においても有意差は認めなかった.指導医全体で抑うつ傾向(CES-D得点が16点以上)にある者は161人中36人(22.4%)に及んでいた.疫学研究において,一般の日本人のうつ病12ヵ月有病率は1~8%,生涯看病率は3~16%とされている. 調査手法が異なり,本研究結果と先行疫学研究を直接比較することはできないが,本研究の結果からは,大学病院や研修指定病院に勤務する指導医が一般国民と比較して精神状態が良好ではない可能性が示唆された.労働時間を80時間に制限した後,米国の研修医の燃え尽きが減少したという報告もあり,本邦においても長時間労働など病院の勤務環境が指導医の精神的健康に影響を及ぼしている可能性が考えられた.
(本研究の限界)
本研究の限界としては,対象者が指導医養成講習会の参加者であるため,比較的大規模で研修環境が充実している病院の指導医であり,全勤務医を代表していない可能性がある.また,一時点における横断研究であるため,労働時間や当直回数と抑うつに関して因果関係を特定できない.さらに女性指導医の対象者数が極めて少なかったため,性差が労働時間や当直回数,業務の割合に及ぼす影響について十分に考察できなかった点が挙げられる.
(結論)
新臨床研修制度開始後も指導医は平均月あたり100時間を越える時間外労働に従事しており,2割以上の指導医は月160時間以上にも及ぶ時間外労働を行っていることが明らかになった.精神的健康度については,指導医の2割以上が抑うつ傾向を呈していた.指導医が高い割合で抑うつ傾向を呈していた背景には,長時間労働や臨床業務と教育業務など多岐にわたる業務内容の過重な負担を強いられていることが影響している可能性が考えられた.
臨床研修の内容をいっそう充実させ,よりよい医学教育体制を構築するために診療業務の軽減,勤務内容に関する配慮などにより研修指定病院に勤務する指導医の労働環境を改善することが望ましいと考えられた.
告 示
本研究は文部科学省科学研究費助成研究「卒後初期研修における研修医のストレス」研究班の共同研究として実施させていただきました.調査にご協力してくださった各施設の研修医および研修指定病院勤務医の先生方に心より謝意と敬意を表します.
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