(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
M3から、第15回検討会の記事です(>▽<)!!!!!
堤先生の発言が全文掲載されています ..。*♡
が、PDFファイルをなかなか読み込めなくて(涙)
間に合わないので、堤先生の発言全文はまた後程。
「ガス抜き」検討会に終わらせないために
M3.com 2008/11/02
「結局 “反対派”のガス抜きか……」
10月31日、厚生労働省で開催された「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」、いわゆる“医療事故調”の検討会後、傍聴者の中にはこう受け止めた方もいたようです。
診療関連死の死因究明などを行う“医療事故調”は、現在、厚労省の「第三次試案・大綱案」をベースに議論が進められています。この日の検討会は、両案へのパブリックコメント(『「第三次試案」「大綱案」へのパブコメは計732件に』)で疑義を呈した、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会、日本救急医学会の代表者へのヒアリング。いくら異論を唱えても、それを踏まえた議論に発展しなかったので、確かに「ガス抜き」とも感じられました。
しかし、3学会とも真摯(しんし)に検討した結果を述べられていました。中でも、一番保身に走らず、持論を展開したのが、日本救急医学会理事の堤晴彦氏(埼玉医科大学総合医療センター教授)。“医療事故調”への提言から、「公正・中立な事故報告書を書ける資質を持つ医師はどれくらいいるのか」など、医療者への手厳しい意見まで、内容は多岐にわたります。
もちろん、堤氏の発言への賛否はあると思いますが、今後の議論の貴重なたたき台となりますので、ご紹介します。下記は発言の冒頭部分の一部。全文は添付のファイル(この記事のタイトルのすぐ下にあります)をご覧ください。また本検討会に関する記事は、「医療維新」のコーナーで後日掲載予定です。
◆日本救急医学会の見解 同学会理事・堤晴彦氏の発言
本日は、この検討会にお招きいただきまして、ありがとうございます。検討会の委員の皆様方ならびに事務局である厚生労働省の担当者に御礼申し上げます。ただし、一言言わせていただければ、もう少し早い時期に呼んでいただければ、もっと良かったということでございます。
(中略)
それなら、なぜ最終的な見解が異なるのか。私自身も、実は良く分からなかったのですが、最近になって、賛成派の医師は性善説に立っており、反対派の医師は性悪説に立っている、という感じではないかと思っております。
(中略)
まず、「1.死因究明と責任追及の分離」ですが、救急医学会としては、これが譲れない一線であります。医療安全を構築することと紛争を解決することの違いと言ってよいかもしれません。このことは、この検討会の第1回目からずっと議論されていることです。この点を曖昧にしたまま、明確にしなかったが故に、本検討会が延々と迷走を続けているというのが私の印象です。
「賛否の見解の相違は、性善説か性悪説かの違い」
“反対派” 3学会へのヒアリング、刑事訴追との連動を問題視
m3.com編集長 橋本佳子
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/081104_1.html
「私と委員の先生方とは、本質的には意見の相違はない。ではなぜ、最終的な見解が異なるのか。私自身も実はよく分からなかったが、賛成派の医師は性善説に立っており、反対派の医師は性悪説に立っている。この違いではないかと思っている。私どものことは、反対派ではなく、むしろ慎重派と呼んでもらいたい」
日本救急医学会理事の堤晴彦氏は、厚生労働省の“医療事故調”の第三次試案・大綱案への賛否が分かれている理由をこう解説した。10月31日開催された「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」の第15回会議でのことだ。堤氏はさらに、「日本救急医学会が問題視しているのは、何が業務上過失致死罪に当たるかが不明である点。この最も本質的な問題に真正面から取り組むべき。医療者のみならず、警察・検察を含めた本音かつ踏み込んだ議論をすべき」と話し、“医療事故調”に関する、さらなる検討を強く求めた。
「私はこれまでの議事録をすべて読んだ。座長は検討会を仕切るために、“溝が狭まった”という発言を繰り返している。それが検討会がここまで長引いた原因」「もしこの“医療事故調”が医療者の責任追及ではなく、医療安全が目的であるなら、医療者が座長を務めるべき」などと発言し、堤氏は検討会のあり方についても根本的な疑念を呈した。
このほか、第三次試案・大綱案の“反対派”とされる学会、つまり日本麻酔科学会理事長の並木昭義氏、日本産科婦人科学会常務理事の岡井崇氏へのヒアリングも行われた。 3氏ともに、診療関連死の死因究明する組織(医療安全調査委員会)の設置自体には異論はないものの、制度設計の細部、特に第三次試案・大綱案が、医療事故の死因究明と刑事責任の追及が連動する仕組みになっている点を問題視。「(厚労省案に)医療界の9割が賛成している」(東京大学心臓外科教授の高本眞一氏)との発言もあったが、第三次試案・大綱案を支持する委員と、3学会との溝は最後まで埋まらなかった。
次回の検討会は11月10日で、全日本病院協会、全国医学部長病院長会議、医療過誤原告の会へのヒアリングを行う予定になっている。
10月31日の検討会は、午後4時から2時間以上にわたって開催された。
「悪意を持つ人がいれば、何とでも制度を変えられる」
堤氏が「性善説、性悪説の違い」と発言したのは、“医療事故調”が実際に運営される場面を想定した上でのことだ。「賛成派の人は、大綱案がこの検討会で議論された基本的な精神通りに運用されればうまくいくはずだと期待しているのに対し、反対派の人は、法律はいったんできてしまえば、どのように運用されるか全く分からない、悪意を持つ人がいれば何とでも変えられる、あるいは解釈できる、と疑っている」(堤氏)。
この「悪意を持つ人」について直接的に例示はしなかったが、「検察は、“医療事故調”が設置され、医療事故の報告書が作成されることについては基本的に賛成し、使えるものは使う、しかしそれに縛られるつもりは全くない、と考えているのだろう。事故報告書は単に鑑定書の一つにすぎず、検察の判断はそれに拘束されるものではないことは明らか」などと堤氏は述べた。
堤氏の発言の骨子は以下の通り。
1. 死因究明と責任追及の分離
2. 医療事故における業務上過失致死罪の明確化
3. 医療事故調査報告書のあり方
4. 刑事事件と民事事件の明確な分離
5. 今後の展望
刑事責任追及との関連では、「杏林大学の“割りばし事件”では、患者の搬送を断った病院が複数ある。救急医療を専門とする私どもの立場では、断った病院より受け入れた病院の方を評価するが、現状は受け入れた病院だけが叩かれる。今の厚労省案のまま“医療事故調”を作っても、こうした問題は解決せず、医療側は患者を診ない方が安全であるという認識になる。本当にこれで国民は納得するのか」と問題提起。その上で、「業務上過失致死罪を医療事故にどう適用するかという点も含め、行政、司法、立法を交え、英知を集めた検討が必須」と強調した。
「反対派には誤解がある」と座長、委員が指摘
以下、他の2学会へのヒアリングの骨子のほか、本検討会の座長で刑法学者の前田雅英氏(首都大学東京法科大学院教授)、さらに医療界の代表者のうち、日本医師会常任理事の木下勝之氏、高本氏の発言の一部を紹介する。
◆日本麻酔科学会理事長・並木昭義氏
「第三次試案の趣旨は、原因究明と再発防止にある。その達成のために、中立的な第三者機関を設ける」という点には賛同したものの、以下の点を検討すべきとした上で、「拙速な成立をやめるべき」と指摘、さらなる検討を求めた。
1.医師法21条に関する点
何をどんな基準で、どこに届け出るのかなどを議論すべき。
2.医療関係者の責任追及
犯罪ではない医療事故を刑事罰から外す制度とすべき。
3.届け出に関する点
4.重大な過失に関する点
(医療安全調査委員会から捜査機関に通知する事例について)「重大な過失」「標準的医療から著しく逸脱した医療」としている。福島県立大野病院事件で、「標準的医療」について「わが国における臨床医学の実践における医療水準」との解釈が示されたが、さらなる検討が必要。
5.医療安全調査委員会の設置に関する点
府省を厚労省などに特定せずに検討すべき。
6.医療安全調査委員会で届け出事例を調査するか否かの判断
この判断の基準が明確ではないなどの問題があり、仕組みの再検討が必要。
7.警察への通知について
厚労省の見解では「謙抑的な対応が行われることとなる」などとなっているが、厚労省、法務省・警察庁のどのような合意であるかは不明なので、明文化すべき。
8.民事・刑事裁判の証拠としての調査報告書の扱い
公表される調査報告書は匿名化されていても個人の特定は可能。刑事・民事での使用を禁止しても不可能。調査報告書以外の書類も、裁判所の文書提出命令などで提出が求められる場合が想定される。この点についての検討も必要。
◆日本産科婦人科学会常務理事・岡井崇氏
「医療事故に対する刑事訴追の問題が、医療者が一番重要視している点だと思う」とし、「人の死や傷害に直接かかわりを持つこと自体が業務である医療に、業務上過失致死罪の適用するのは不合理」と主張した。
しかしながら、業務上過失致死罪を定めた、刑法211条の改定は難しいとした。「医師法21条の拡大解釈が引き金になって医療の混乱が生じている。刑法211条の改定を待っているわけにはいかないため、刑法211条が存在する中で医療事故と刑事訴追の問題をどう解決するかが重要」(岡井氏)。
業務上過失致死罪がある以上、それを切り離してしまうと、医療安全調査委員会で専門家が調査している間に、刑事捜査が行われることもあり得る。このため、医療安全調査委員会から捜査機関に通知する事例は、「標準的な医療から著しく逸脱し、種々な背景因子を考慮しても許容できない悪質な医療に起因する死亡または死産の疑いがある場合」などの表現にすべきと提言。そのほか、警察が独自に動くことを避けるために、捜査機関とのパイプは作った方がよく、それを明文化すべきなどと指摘した。
◆座長(首都大学東京法科大学院教授)・前田雅英氏
・「過失の範囲が不明である」というのはよく分かる。「医療過誤を刑事罰にすべきではない」「(医療事故に刑法211条を適用するのは)罪刑法定主義違反ではないか」といった議論も昔からある。しかし、はっきりしているのは、国民感情からして、過失行為は処罰せざるを得ないということ。
・交通事故などから比べると、医療では刑事責任の追及は非常にモデレート(緩やか)。ただそれでも医師の側から見れば、不満があるのも分かる。一方で被害者側の感情もあり、そのバランスがある。刑事責任追及の対象となる「重大な過失」、つまり基本的な注意義務からの逸脱と、岡井先生の定義(前述)は、あまり相違はない。
・大野病院事件は法律的には無罪になっている。そうしたものが基準となって、その積み重ねで過失の基準を作っていく。それを作るためにこの会がある。
・岡井先生は「刑法211条が残るのなら、パイプはつなげておく必要がある」と言った。ここがポイントだと思う。警察は、医師の協力がなくては捜査できない。大野病院事件の場合も同様だった。「医師の鑑定はあてにならない」というが、それをより良きものにする一歩として、この“医療事故調”を作ろうという議論になっている。
・(刑事罰を科す)水準をかなり高く設定しているところに、(反対派の)誤解がある。刑事罰は本当に問題のあるレベルに科す。また重要なポイントは、刑事裁判は、医療過誤をなくすためだけにあるのではなく、はやり国民の応報感情もあり、こうした人にどう対応するかという目的もある。
◆東京大学心臓外科教授・高本眞一氏
・(反対派には)ずいぶん誤解があると思う。一つは、医療安全調査委員会が行うのは医学的判断のみであり、過失の判断はしないということ。法的判断と医学的判断の両方をやる機能は持っていない。医療安全調査委員会は、再発防止策を検討し、より良い医療を提供するのが狙い。
・現在、刑事事件として処理される医療事故は極めて限定的。医療安全調査委員会が刑事事件に振り回されると受け止めるのは誤解だと思う。
・医学会は、医療安全調査委員会については、8割どころか9割以上の人が賛成していると思う。ただし、誤解がある。責任追及のために死因究明をやるのではない。
◆日本医師会常任理事・木下勝之氏
・医療界は、同じ方向性に向いて動いていただけたらと思う。医師法21条がある以上、警察への届け出から始まる刑事訴追の流れは避けては通れない。それを何とかしたいという思いから、この検討会がスタートした。警察に届け出る代わりに、新しい第三者機関届け出るのであれば、どうあるべきかを議論してきた。そのときに「第三者機関が行うのには原因究明だけで、責任追及をしない」となると、検察・警察は当然、今まで通り入ってくる。
・「大綱案の第12の1」にある通り、「委員会は、医療関係者の責任追及が目的ではなく、医療関係者の責任については、委員会の専門的判断を尊重する仕組みである」としている。警察に通知すべき事例か否かは、われわれ医療界が真剣に検討して判断する。
それを警察は尊重する。刑事責任の追及は、本当に限られたものにするために検討会で議論してきた。性悪説などではなく、社会の現実をより踏まえた議論にしかなければ、ただの議論に終わる。このような仕組みを作るには、「できない」ではなく、「やろう」という姿勢が必要。
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