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(投稿:by 僻地の産科医)
出産費未収が昨年12億円、大学・公立病院で多発
読売新聞 2008年11月3日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20081103-OYT8T00261.htm
2007年に出産費の未収金があった医療機関が全国で977施設あり、総額は12億4500万円に上ることが、日本産婦人科医会(東京・新宿区)が初めて行った調査でわかった。
出産を扱う全国2843の医療機関すべてを対象として今年9月に調査、1977施設から回答を得た。未収金には入院費や新生児介助料を含んでおり、一部でも支払われなかったのは5414件。都道府県別の未収金は神奈川が1億4799万円と最も多く、愛知の1億1770万円、東京の9647万円と続いた。1施設平均では、山梨の193万円、栃木の151万円が目立った。
同医会によると、妊婦健診を受けずに出産間際になって受診する「飛び込み出産」は、身元を十分に確認できないことがあり、未収になるケースが多いという。石渡勇・常務理事は「出産育児一時金を他の用途に充ててしまう例も増え始めている」と指摘する。
群馬県高崎市の産婦人科病院長(71)は、「3人産んで一度も支払わなかった女性もいる。未払い金は、開業医には死活問題。『支払えないなら公立病院で産んでほしい』と妊婦に告げる開業医仲間もいるほどだ」と話す。
未払い事例は大学・公立病院に特に多く、茨城県では未収金のある病院の96%を占めた。民間病院は、指定した健診日に来なかったりする妊婦から出産費の一部を事前に預かったり、出産育児一時金を病院が直接受け取れるよう承諾書を求めたりするなど自衛策を取り始めている。しかし、大学・公立病院ではこうした対策が進んでいないとみられる。同医会は「救急は、公立に搬送されることが多く、未払いも搬送先に集中する事態が起きている」と分析する。
出産費支払い不要、一時金は直接病院へ…政府方針
読売新聞 2008年11月3日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20081103-OYT8T00266.htm
政府・与党は2日、少子化対策の一環として、病院に分娩(ぶんべん)費用を直接支払わずに、公的負担で出産できる制度を来年度から導入する方針を固めた。
若い夫婦などが費用を心配せず、出産しやすい環境を整えるのが目的だ。また、出産費用を病院に支払わない親が増えていることから、医療機関の未収金対策としての狙いもある。政府は来年の通常国会に関連法案を提出する方針で、来年夏以降の実施を目指す。
不足分は上乗せ支給
出産に関する現行制度は、親がいったん医療機関に費用を支払い、出産後に健康保険組合など公的医療保険から出産育児一時金(現在は35万円)が親に支給される仕組みとなっている。新制度では、健康保険組合などが出産育児一時金を直接、医療機関に支払うように改める。さらに、出産費用が比較的高額になっている東京都などの都市部では、出産育児一時金と実際の費用との差額負担が生じているため、都道府県ごとに標準的な金額を定めて差額分を公費で上乗せ支給する。
ホテル並みの豪華な食事などを提供する病院もあるが、そうした費用は分娩費用として計算しない。政府は各都道府県の標準的な分娩費用を調査したうえで、一時金に上乗せする額を今後、詰める方針だ。上乗せ分など、来年度予算案に約500億円を計上する方向で調整している。
政府・与党がまとめた追加景気対策では、妊婦や胎児の健康状態をチェックする「妊婦健診」の無料化方針も明記された。妊婦健診は現在、5回分が無料となっているが、出産までに必要な14回分を無料化する方針。政府・与党は、こうした施策で若い夫婦の金銭的な負担が軽減されるほか、医療機関の未収金が減るなどの効果があると見ている。
[解説]「子育て支援」の目玉に
政府・与党が、来年度から分娩(ぶんべん)費用にあてる出産育児一時金を医療機関に直接支払う仕組みを導入するのは、若い夫婦らの経済的負担を軽減し、少子化に歯止めをかける狙いがある。政府は子育て支援対策の目玉施策ともしたい考えだ。
最近は妊婦の安全志向などもあり、設備の整った都会の大病院で出産を望むケースが増えており、首都圏では妊婦1人あたりの分娩費用は45~50万円が相場と言われる。出産後に出産育児一時金35万円が支払われるとはいえ、これを一時的に立て替える経済的負担が、心理的にも負担となり、少子化の一因となっているとの見方もある。このため分娩費用の無料化は、急速に少子化が進んだ5、6年前から議論されてきたテーマだった。一時は国が全額負担する案も浮上したが、財政負担が大きすぎることなどから、実現の見通しはなかなか立たなかった。今回、立て替えをなくすことと、出産費用がかさむ都市部などで支給を増額する仕組みを導入することは、財政負担を抑えた現実的な選択といえるだろう。
一方、日本産婦人科医会の調査でも明らかになったように「出産した親が出産費用を病院に支払わず、踏み倒すケースも増えている」(医療関係者)ことから、医療機関の未収金対策としての効果も期待される。
出産費用未払い172人 昨年度県内 医療機関の負担重く/山梨
読売新聞 2008年11月3日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamanashi/news/20081102-OYT8T00452.htm
県内の病院や診療所で出産したにもかかわらず、医療費や入院費などを支払わなかった人が昨年度172人おり、未払い金額は計約3100万円に上ることが、県産婦人科医会の調査でわかった。同規模の未払いは毎年あるとみられ、医師からは「患者に金がないからといって診察を断ることはできない。泣き寝入りするしかないのはおかしいのでは」と行政に対策を求める声があがっている。
同会によると、昨年度に県内の出産可能な16の医療機関(病院7、診療所9)でお産をしたのは6687人で、未払いがあったのは7病院と4診療所。一般的に出産には約40万円かかるが、全額未払いは106人、一部のみ支払ったのは66人で、未払いの総額は3087万円に上った。
読売新聞が各病院に問い合わせたところ、金額が最も高かったのは県立中央で約1021万円。次が市立甲府で982万円。同会によると4診療所では84~4万円の未払いがあった。武者吉英会長は「県内では毎年約7000人がお産をしており、未払いも毎年同程度あるはず」と分析する。
ある診療所の産婦人科医は「給料日に払うと言われて待っていたが、その後連絡が取れなくなった」と話す。別の産婦人科医は出産育児一時金について「生活費や遊ぶ金に使う人もいる」と指摘し、「子供を産むからには親としての責任を持ってほしい」と憤る。
出産育児一時金を医療機関に代理で受け取ってもらえる制度もあるが、あくまでも妊婦側に選ぶ権利があり、利用は全妊婦の2割ほどにとどまっているという。日本産婦人科医会の関係者は「未払いは若者や外国人などの無保険者に多く、そもそも一時金を支給されない」と明かす。
出産時の医療事故を巡り、来年1月に始まる「産科医療補償制度」(無過失補償制度)に対しても不満は強い。保険料3万円は医療機関が保険会社に支払い、診療費に上乗せして請求する仕組みだ。このため、県内16医療機関はすべて加入しているものの、「踏み倒されれば負担が増えるだけ」との声が多い。
武者会長は「患者に金がなくても皆全力投球で診察をしている。未払いがなくなることはないだろうし、行政には医師を守る仕組みを考えてほしい」と話している。
未払い問題は全国的な傾向で、日本産婦人科医会が全国調査を進めている。
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