(関連目次)→コメディカルの人手不足 医療訴訟の現状 事例集
(投稿:by 僻地の産科医)
病院での身体拘束で苦痛、女性遺族が逆転勝訴…名古屋高裁
読売新聞 2008年9月5日
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080905-OYT1T00412.htm?from=navr
愛知県一宮市の病院に入院した女性(当時80歳)が、不必要な身体拘束で心身に苦痛を受けたとして、岐阜県大垣市の遺族が病院を経営する医療法人に計600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が5日、名古屋高裁であった。
西島幸夫裁判長は「抑制には切迫性が認められず、緊急避難的に例外的に認められる場合にも当てはまらない。抑制は違法だった」として、請求を棄却した1審・名古屋地裁一宮支部判決を変更し、病院側に計70万円を支払うよう命じた。1審判決などによると、女性は2003年8~11月に、腰痛の治療やリハビリのため一宮西病院に入院。同年11月、ひも付きの手袋でベッドに拘束され、手首などに軽傷を負った。女性は06年9月に死亡した。
1審は、女性は当時、はいかいする状態で、転倒やベッドからの転落による生命や身体に対する切迫した危険性があったと指摘。その上で「抑制以外に危険を回避する手段は無く、緊急避難行為としての正当性もある」と判断していた。遺族側は控訴審で、拘束は看護師の休憩中に行われており、病院の看護体制には余力があったと主張。「拘束は必要性が無く、著しく不当だった」などと主張していた。
病院の身体拘束違法<判決の要旨>
朝日新聞 2008年9月5日
(1)http://www.asahi.com/national/update/0905/NGY200809050012.html
(2)http://www.asahi.com/national/update/0905/NGY200809050012_01.html
不要な身体拘束は違法だと訴えた入院患者側の主張を認めて、愛知県一宮市内の病院側に賠償を命じた5日の名古屋高裁判決の理由要旨は次の通り。
◆違法性の判断基準
身体抑制や拘束の問題を見直し、行わないようにしようという動きは主に介護保険施設や老人保健施設を中心に見られたが、高齢者医療や看護にかかわることのある医療機関などでも問題は同様で、少なくともこれら医療機関では一般に問題意識を有し、あるいは有すべきだった。
身体抑制や拘束が、厚生労働省がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き」に示されているような身体的弊害、精神的弊害及び社会的弊害をもたらすおそれのあることは一般に認識されており、また当然に認識できる。
そもそも医療機関でも、同意を得ることなく患者を拘束して身体的自由を奪うことは原則として違法だ。患者または他の患者の生命・身体に危険が差し迫っていて、他に回避する手段がないような場合には、同意がなくても緊急避難行為として例外的に許される場合もあると解されるが、その抑制、拘束の程度、内容は必要最小限の範囲内に限って許される。右記の手引きが例外的に許される基準としている切迫性、非代替性、一時性の3要件が判断要素として参考になる。
◆本件抑制の違法性
本件抑制で、患者や家族から事前に同意を得た事実はない。抑制しなければ、転倒、転落により重大な傷害を負う危険性があったとは認められない。患者の夜間せん妄については、病院の診療、看護上の適切さを欠いた対応なども原因となっている。特に、おむつへの排泄(はいせつ)の強要や、不穏状態となった患者への看護師のつたない対応からすれば、本件抑制に、切迫性や非代替性があるとは直ちには認められない。当日の入院患者に格別重症患者もおらず、看護師がしばらくの間、患者に付き添って安心させ、排尿やおむつへのこだわりを和らげ、落ち着かせて眠るのを待つという対応が不可能だったとは考えられない。
切迫性や非代替性は認められず、緊急避難行為として例外的に許される場合に該当するという事情も認められない。抑制の態様としても、様々な疾患を抱えた当時80歳の患者に対するものとして決して軽微とはいえない。従って、本件抑制は違法だ。
◆損害額
抑制の結果としての傷害により患者が受けた身体的及び精神的損害に対する慰謝料は、病院の不適切あるいは違法な対応、傷害の程度から50万円が相当だ。弁護士費用は20万円が相当だ。
コメント