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(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ8月号からですo(^-^)o ..。*♡
世界の医学誌から BMJ
うつ状態のレジデントは投薬過誤をおかしやすい
うつ・燃え尽き症状を有するレジデントにおける投薬過誤の発生率
前向きコホート研究
Rates of medication errors among depressed and burnt out residents: prospective cohort study.
Fahrenkopf AM,et al.BMJ 2008; 336: 488-491
Harvard Medical School. USA.
(MMJ August 2008 VOI.4 N0.8 p676-677)
■目的
小児科のレジデントにおいてうつ症状・燃え尽き症状を有する割合を調査し、これらの精神的障害と投薬過誤に関係が存在するかどうか検証する。(訳注;危害の大きさに関係なく、投与指示、処方、投薬処置における何らかのミス)
■研究デザイン
前向きコホート研究。
■設定
米国内都市部にある独立した小児病院3施設。
■参加者
3つの小児科レジデンシープログラムに在籍しているレジデント123人。
■主要評価項目
①うつ症状(Harvard national depression screening day scale で評価)および燃え尽き症状(Maslach burnout inventoryで評価)の有症率
②レジデント1人あたりの1ヵ月間の投薬過誤発生率。
■結果
対象レジデントのうち24人(20%)がうつ症状の基準を満たし、92人(74%)が燃え尽き症状の基準を満たした。投薬過誤に対する能動的な監視(スタッフによる自主的報告を含む八こおいて、参加者による投薬過誤が45件見つかった。うつ症状を有するレジデントは、うつ症状のないレジデントに比べ、1ヵ月あたりの投薬過誤が6.2倍多かった:1.55件(95%信頼区間[CI],0.57~4.22)vs 0.25件(95%CI,0.14~0.46;P<0.001)。一方、燃え尽き症状のあるレジデントは、燃え尽き症状のないレジデントに比べ、1ヵ月あたり投薬過誤発生率は同程度であった:0.45件(95%CI,0.20~0.98)vs0.53件(95%CI,0.21~1.33;p=0.2)。
■結論
抑うつと燃え尽き症候群は小児科レジデントにおいて重大な問題である。うつ症状を有するレジデントはうつ症状のないレジデントに比べ、有意に多くの医療過誤をおかした。しかし、燃え尽き症状に関連した医療過誤発生率の上昇は認められなかった。
BMJ Publishing Group Limited 2008 - All rights reserved.
解説
研修プログラムの一環としてメンタルヘルスケアの導入を
慶應義塾大学病院卒後臨床研修センター副センター長
慶應義塾大学医学部小児科
福島裕之
研修を始めて間もない若手医師に、抑うつなど精神保健的な問題がしばしば認められ、医師を育成するうえで大きな問題となっている。これまでの調査結果から、国や専門分野を問わず、若手医師におけるうつ症状や燃え尽き症状の有従卒は高いことが知られており、それぞれ7~56%、41~76%と報告されている。一方、うつ症状や燃え尽き症状を有することが診療あるいは研修に及ぼす具体的な影響については、いまだ十分に検討されていない。
本論文は、米国小児科レジデントにおけるうつ症状、燃え尽き症状の有症率を求め、さらにうつ症状と投薬過誤の発生率の間に関連があることを明らかにした点で意義がある。うつ症状を有するレジデントは、うつ症状のないレジデントに比べて、投薬過誤が6.2倍多かったという調査結果は、レジデントの精神保健的な問題が診療の質の低下をもたらすことを示しており、注目に値する。今回の調査では、燃え尽き症状と投薬過誤の発生率に関連は見いだされなかったが、結論を出すにはさらに確認作業が必要と思われる。
著者らも述べているように、今後小児科以外のレジデントについても、同様の調査ならびにうつ状態と医療過誤の因果関係の検討が行われることが望まれる。また、若手医師のみならず、ベテラン医師を対象とした精神保健的問題に関する調査も必要であろう。
わが国の研修医、専修医教育の現状はどうであろうか。 Wadaらは、新臨床研修制度導入後、14の教育病院で研旅中の1年次研修医107人を対象に、うつ症状と針刺し事故発生の関連性を検討している.その結果、26.1%の研修医にうつ症状が認められ、うつ症状を有する研修医に針刺し事故の発生率がより高い(2.98倍)傾向がみられた。わが国の若手医師でもうつ症状の有症率は高く、うつ症状の存在が医療過誤と関連していることを示唆する1つのデータと考える。
このようなデータおよび現状を踏まえて、筆者ら指導医は研修医や専修医のために何かできるかを真摯に考えなければならない。近年、臨床研修指導医講習会において研修者のメンタルヘルスケアの重要性が議論されるなど状況は改善されつつあるが、精神保健的な問題の具体的な予防、早期発見、早期対応の方法は確立されていない。現状を打破するには、研修医・専修医育成プログラムの一環として、研修者全員を対象とした定期的なメンタルヘルスケアの機会を設けるなど、思い切った対応策を講ずる必要があるかもしれない。
同時に、指導医側も燃え尽きないように注意が必要である。本論文で用いられた、うつ症状のスクリーニング検査2は10項目の質問からなる簡便な検査である。読者にもうつ状態のセルフチェックを推奨したい。
1.Wada K, et al. Ind Health 2007;45:750~755.
2.Baer L, et al. Psychother Psychoson 2000;69:35~41.
うつ状態では決断力が低下するのだから、判断を誤る事が多いのは当たり前に思えるのですけどね。そういうことも調査して実証しないと、説得力がないってことでしょうか。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2008年9 月20日 (土) 08:09