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(投稿:by 僻地の産科医)
海堂尊の「死因不明でいいんですか?」
自国開催なのに演題ゼロ 日本はAi後進国?
海堂尊
日経メディカルオンライン 2008.8.29
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kaidou/200808/507628.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kaidou/200808/507628_2.html
(3)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kaidou/200808/507628_3.html
9月3日から5日、大阪で第7回国際法医学シンポジウム(ISLAM)が開かれます。3年に1度、日本とドイツで交互に開かれる国際学会です。
3年前このシンポジウムがハンブルグで開催されたとき、私はシンポジウムに参加し、Aiについてスイス・ベルン大学のDr. Thali (ターリ)らとディスカッションしました。Dr. Thali はvirtopsy(バートプシー) という、Ai(エーアイ)の類似概念を提唱し、欧米で展開している学者です。
3年前、この学会に参加する前夜、『このミステリーがすごい!』大賞の受賞を知らされました。受賞の電話を受けた翌朝、フランクフルトに向けて旅立ったのです。ですから受賞後の1週間は異国の地で、受賞したことを誰にも言えずに過ごしました。そして学会の最後の打ち上げパーティでDr. Thaliと同じテーブルで2時間ディスカッションをしたついでに、「実は今度、ミステリー作家になるんだ」と告白しました。まあ、外国の人だからカミングアウトしても大丈夫だろうと思ったのです。Dr. Thaliは笑顔で「Great」と答えました。おそらく冗談だと思ったのでしょう。あれから3年。月日が経つのは早いものです。
前回、画像診断セッションで一緒に発表したDr. Thaliは、今回ISLAM でシンポジストとして座長を務め、演題発表もします。座長はDr. Thaliとフランクフルト大学のDr. Bratzke (ブラッケ)、そして千葉大法医学教室の岩瀬博太郎教授の3人です。
国際シンポジウムの華ともいうべきシンポジウムで、さぞ日本の法医学会が画像診断研究を大々的に発表するだろうと多くの人が考えると思います。ところがさにあらず。あっと驚くプログラムになっています。「シンポジウム11・Diagnostic imaging のセッション」の演題は全部で8つ。座長のDr. Bratzkeが1題。Dr Thaliが2題。ベルン大の演題はほかに3題あり、計5題。このほか、オーストラリア、イタリアから各1題。これですべてです。
あれ、日本の演題は? 座長の岩瀬教授は、メディア世界では法医学会におけるAiの先駆けと認識されている方なのに、どうして?
日本からAi 関係の演題募集がなかったわけではありません。世界初のAiセンターを立ち上げた千葉大放射線科・山本正二講師が、演題を3題応募しています。残念ながらそれらの演題はポスターセッションにされてしまいました。さすがに山本先生もこのプログラムを見て、がっかりしたようです。どうして「シンポジウム11・Diagnostic imaging 」のセッションで、日本人は誰も発表できなかったのでしょう。
推測は難しいので、こうしたシンポジウムを組んだ功罪を検討してみます。功は、ほとんどありません。外国ではこれほど研究が盛んだということをアピールする意義ぐらいでしょうか。
一方、罪の方はかなり重い。日本でも素晴らしい研究が行われているということを対外的にアピールしないのは、信じがたい内気さですし、関連研究に従事している研究者にとって国辱物のプログラムです。それにしても法医学会の先生たちは、現実に最先端の研究が日本に存在していることをなぜ国際的に紹介しないのでしょうか。
3人の座長のうち2人は演題発表するのに(Dr. Thaliは一人で2題も!)、唯一の日本人座長の岩瀬教授が演題発表されないのはなぜか。世の中には実績がないのに、肩書きだけでこういう席に出張るお飾り座長も存在します。しかし岩瀬教授は、法医学会におけるAiの第一人者と認識されています。千葉大学医学部法医学教室のホームページでは、「当教室では検死CTを無料で行います」と掲載され、検死CT結果は、鑑定書に内包させる由が書かれています。国際シンポジウムの座長を引き受ける以上、自らの教室の研究業績を発表するのが、日本を代表する学者としての責務ではないでしょうか。
ただし、こうしたイメージには誤解もあり、実は岩瀬教授の大目標は法医学教室に経済裏付けを行うことなのです。かつて私にもそう言っていましたし、ワイドショーや報道番組に出演されたときの主張や、ホームページの主張、あるいは、とあるノンフィクション・ライターとの共著を拝読すれば分かります。このような状況であるので、実は現在、岩瀬教授はAiに関しては同志とは言いにくい状態です(メディアの方たちにはそのようには見えないかも知れませんが)。
それにしても、岩瀬教授が国際シンポジウムの座長をしながら、自らの研究成果を発表しないという不自然さは、ミステリー作家である私にも、解けない謎です。誰かこの謎を、代わりに解いてください(笑)。
今年3月、日本放射線学会はAiに関する意見書を日本医師会に提出しました。Aiを行うとき、業務に関わるのは法医学者でも病理医でもありません。放射線科医です。その放射線科医が、Ai制度を受け入れるに当たり必要とするのが診断費用の拠出です。業務ですから、報酬を求めるのは当然です。
岩瀬教授の、画像診断に対するボランティア的対応は、放射線学会の要望実現に逆行します。法医学者が無料ボランティアAiを行っては、制度を構築しようとする社会的運動の妨げになります。さらに、このボランティア画像診断は実は、放射線科医の山本講師が無償で読影していることで支えられています。ここに正当な費用拠出をせずに試みを継続することは、Aiが社会的に認知された今、放射線学会の提言を無視する形になります。
それにしても、日本人の外国依存症にはほとほと困ったものです。学会の偉い人たちは、すぐ外国に視察に行き、結局、「外国は素晴らしい、日本はダメだ」という主張をします。
もう、こんな海外視察はやめませんか。死因究明に関していくらウィーンが素晴らしくても、日本とは関係ない。オーストラリアの制度が素晴らしいと強調する学者やジャーナリストには、こう言いたくなります。
「日本独自のシステム樹立に知恵を絞りましょうよ」と。
以前「たかじんのそこまで言って委員会」に出演したとき、コメンテーターから、「ウィーンでは解剖率が100%だそうですが、日本も見習った方がいいのでは?」という意見が出たとき、思わず反射的にこう答えました。「ウィーンで解剖率100%でも、日本では2%だから、参考にはならないでしょう」。
驚いたことに、その瞬間、会場から拍手がわき上がりました。市民の意識は専門家よりも遙かに先に行っているのかもしれません。残念ながらその部分は、放送ではカットされてしまったようですが(笑)。Aiは日本で生まれ、日本の社会状況に適合した、新しい死因究明制度です。その国内独自の誇るべき試みを、シンポジウムという舞台に載せてほしかったと、心底思います。
追記。福島大野病院事件の無罪判決が出ました。多くのメディアが論議を展開していますが、私からは2点だけ。
多くのメディアは1日も早く中立的第三者機関の成立を、と主張します。しかしこの点はこれまでの主張通り、Ai制度の導入、費用拠出、ついでに全解剖症例に対する費用拠出がなされない限り、かえって混乱が助長されます。ここに警告しておきます。もしこの警告を無視し、無理に新制度構築を急ぎ、その結果ひどい組織ができあがったら、成立に関与した人たちすべての責任です。その覚悟があればどうぞ、という感じです。みなさん、法案成立事の賛同者を銘記しておきましょう。そして後日、責任を問えるようにしておきましょう。これくらいしか、メディアを使って暴走する官僚たちの抑止力を発動できる手はないのです。
二つ目。今回の判決では、異状死の範囲について明瞭な線引きが行われました。「診療を受けている患者が当該疾病で死亡した場合には、そもそも異状の要件を欠く」。
これは診療関連死を異状死に含めた法医学会ガイドラインとは明らかに異なる線引きです。こうした判決が出たのですから、法医学会は直ちに異状死ガイドラインの見直しに着手すべきでしょう。それをせずに、従来の自分たちの決定に固執することは、法律遵守の精神に反することになります。何しろ日本は法治国家なのですから。
http://www.rock-net.jp/sight/index.html
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巻頭言だけでも是非。
投稿情報: 匿名希望 | 2008年9 月 5日 (金) 18:36