(投稿:by 僻地の産科医)
洞爺湖サミットでの婦人外交では、妊産婦死亡についての
共同声明が出される予定です。
そんななか、ちょうどMedical ASAHI7月号から(>▽<)!!
今月号、早くきました。
嬉しいです。
Medical ASAHI7月号
妊産婦死亡を減らすために何か必要か
洞爺湖サミットに向けて・途上国の実態と先進国
(Medical ASAHI 2008 July p42-43)
洞爺湖サミットではアフリカ開発と環境問題が注目を集めているが、さる4月25日、東京・市ケ谷でサミットに向けたシンポジウム「国際政治・経済のなかのリプロダクティブ・ライツ/ヘルス」(主催・家族計画国際協力財団/G8女性の人権フォーラム)が開かれた。 国際産科婦人科連合(FIGO;the lntemational Federation of Gynecolo9y and Obstetrics)のドロシー・ショー会長とNGOrFamily Care lntemational」のジル・シェフィールド名誉会長が演者として参加し、妊産婦の健康改善の重要性を訴えた。(リポート 大橋由香子)
結婚年齢や避妊も重要な鍵
ドロシー・ショー会長は、毎年約600万人の女性が、妊娠・出産が原因で亡くなっている現実をデータで示したうえで、三つのことを提案した。
①途上国では、医療施設への交通アクセスが充分ではないうえにそもそも医療従事者が不足している。医療施設に行かなくてもコミュニティレベルで対応できることを増やすと同時に保健医療従事者の育成、賃金や住居など生活を保障して仕事が続けられるような環境づくりが重要な鍵を握る。
②出血や感染症など以外にも、妊産婦死亡の原因として、女性への暴力、早すぎる結婚(若年妊娠)、安全な中絶へのアクセス不全が考えられる。インドでは妊産婦死亡の16%が暴力によるという推定がある。また20~24歳の女性に比べて、10~14歳の少女が妊娠・出産で死亡する確率は5、6倍、15~19歳では2倍。妊産婦死亡を減らすためには、結婚年齢の見直し、暴力の禁止など、女性の人権を保障する法制度や、女性差別的な文化の見直しが不可欠である。
③避妊へのアクセスを保障することも大切である。2億100万人の女性が避妊を希望していて、それがかなっていない現状がある。妊産婦死亡の25%は、避妊によって防ぐことができる。
すべての出産はハイリスク
1985年に「1分間に1人の女性が妊娠に関連して死亡している」という衝撃的な推計(表1)が国連人口基金から発表されたことを受け、「妊産婦の健康を守るイニシアチブ(Safe Motherhood Initiative)」キャンペーンが87年からナイロビで国際機関やNGOによって始まった。シル・シェフィールド名誉会長は、このキャンペーンにずっと取り組んできた。
「こうした運動では、出発時の目的と違うところにたどり着いてしまうこともあります。だから、失敗を認めるのは大切なこと」と語り、こんな例を紹介した。
当初、妊産婦死亡を減らすために高リスクグループの妊産婦を特定して、そのリスクに対処するプロジェクトが実行された。ところが実際に合併症死亡例を調べてみると、高リスクグループと低リスクグループの間に差はなく、「出産が無事完了するまで、すべての出産はハイリスク」だと分かったという。
またNGO「Family Care lnternational」では妊産婦死亡率の高いケニア、ブルキナファソ、タンザニアの3カ国で、専門技能者のためのケア向上プロジェクトを行った。その結果、ケアを受ける率は確かに向上したが、1人当たり8~12ドルの費用は貧困層にとって大きな負担(場合によっては家計の3分の1以上)で、受けられない人々もいるという新たな問題が発生した。
さらに、保健医療従事者を養成しても、予算などの制約から定期的な再教育ができず、技術水準を保つことができないという問題も起こっている。
最後に二人は「妊産婦の健康にもっと資金を。女性に投資を」と呼びかけて、シンポジウムは終了した。
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レベルが全く異なるとはいえ、医療従事者の不足、サービスを受けられない貧困層、暴力による健康被害など、途上国と日本で共通する課題もある。シンポジウムでは、そもそも妊産婦死亡率の定義(出産後いつまでをカウントするか)が国によって異なることも指摘された。
妊娠・出産にかかわる健康(リプロダクティブ・ヘルス)を改善するために医療関係者に何か求められるのか、途上国と先進国の格差(表2)が問いかけていると言えるだろう。
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