(関連目次)→厚労省による医業取消し処分
(投稿:by 僻地の産科医)
厚労省は現在でも、かなりの行政処分権限を持っているんです。
その一例がこちらですo(^-^)o ..。*♡
医療維新 2008.5.20
「保険医登録取消処分」に違法判決
兵庫の開業医の訴え認める、「処分は過酷」と判断
小牧英夫(弁護士)
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080520_1.html
「指導・監査の目的は一罰百戒にあるべきではない」と語る、同裁判担当弁護士・小牧氏。兵庫県保険医協会の顧問も務める。
診療報酬を不正・不当に請求したなどとして、兵庫社会保険事務局長から保険医登録の取消処分を受けた医師、細見雅美氏が、この処分に対して「過酷である」と不服を訴えた裁判で、4月22日神戸地裁は処分を違法として取り消す旨の判決を下した(5月2日に兵庫県社会保険事務局長は控訴)。
処分事由となったのは、細見氏が2001年に開業した「ほそみ眼科」(神戸市東灘区)において、
(1)診察行為を行わずに処方せんを交付する無診察治療を行い、診療報酬を不正に請求した
(2)保険適用がない点眼薬を患者に処方した上で、保険が適用される別の点眼薬を処方したことにして診療報酬請求を行った——などの7項目の診療報酬不正・不当請求(該当患者数43人、請求額68万740円)と、監査において従業員に虚偽の答弁をするよう指示したなど事実解明への妨害行為(詳細は文末を参照)、合計8項目。
2004年4月と5月に2回の個別指導が行われ、指導が中断されたまま7月と8月に監査、11月に診療所の保険医療機関指定ならびに細見氏の保険医登録の取消が行われた。
保険医の登録取消についての基準は、法律によって定められているわけではない。ただし、厚生省保険局(当時)は、「監査要綱」として、保険医登録を取り消す場合の要件を「故意に不正・不当な診療又は診療報酬の請求を行ったもの、または重大な過失により不正・不当な診療又は診療報酬の請求をしばしば行ったもの」と定め、公表している。
細見氏は処分を不服として2004年12月に提訴した。判決では、兵庫社会保険事務局長が処分事由として挙げた8項目(細分すると約30項目)がこの要件に該当するか否かを個別に検討した。その結果、診療報酬不正・不当請求7項目のうちの4項目、監査妨害の1項目の計5項目が保険医登録取消の処分事由として認められるが、他の3項目は取消事由に当たらないと認定した。さらに、取消事由に該当する5項目についても、回数、金額、動機、方法などが検討された結果、総合的に見て特に悪質とはいえないとの判断に至り、保険医登録取消処分は違法とされた。
「社会保険事務局長の裁量権の乱用」と判断
どこまでがさほど悪質ではなく、どの程度なら「悪質」なのか。これは状況次第と言え、単純に線を引くことはできない。診療報酬の請求がルーズに行われていたことは事実であり、処分事由とされた事項について改めなければならない点も多々認められる。しかしながら、保険診療や診療報酬請求の内容は複雑であって十分理解しにくい点があることも事実である。また、他方で患者が診察を省略して薬の処方のみを希望したケースなどもある。こういった問題は、患者側にも理解を求めていく必要があるだろう。今回の裁判では、兵庫県眼科医会の会長が証人としてご自分の経験や診療の現状などをお話しくださり、これも大きな助けになったと考えている。
判決では、社会保険事務局の処分は過酷に過ぎ、裁量権の乱用に当たるとされた。保険医登録が取り消された場合、その後、原則5年間は再登録ができない。医院の廃止を余儀なくされるだけでなく、勤務医として働くことも不可能となることから、医師としての臨床経験の蓄積や生活の維持にとっての打撃は大変に大きい。なお、このような場合、過去の例では自由診療を行う医療施設で保険外診療に携わるなどがわずかな選択肢となっているが、自由診療分野の範囲には診療科ごとに大きく差があり、いずれにしても多大な困難を伴うことは避けられない。
社会保険事務局が、指導・監査・処分などの権限を背景に、保険医療機関や保険医に対し、強権的に支配する傾向はいまだに払拭されていない。
保険医である以上、当然保険診療のルールには従わなければならないが、指導・監査の目的は一罰百戒にあるのではなく、真に求めるべきはあくまで保険診療が適切に行われることであり、今回の判決は、地方社会保険事務局長の安易な保険医登録取消処分を厳しく戒めたものと言える。
周知の通り、近年、行政裁判に限らず、医療を巡る訴訟は増加してきている。行政、民事、刑事裁判のいずれであっても、自らが当事者となる可能性を考えて、医師が備えるべきことは何か。
まずは、保険診療のルールを正しく理解することと、適切・明確な診療記録を残すことである。カルテの記載が不十分だと、適切な医療を行った場合でもその証明が困難となる。カルテは医師の心覚えであると同時に患者の重要な診療記録であるという意識を強く持つことが極めて重要である。開業医のみならず、勤務医の方々もこれを徹底し、また、疑問・問題が生じた場合には、速やかに状況を明らかにし、率直に上司や他の医師に相談する——という体制を作っておくことが、患者の利益に資すると同時に、医師自身の身を守ることにもなる。
【社会保険事務局が主張した処分事由】
(1)マイティアの処方に係る診療報酬の不正請求(故意)及びこれに関する診療録の不実 記載(故意)、
(2)負荷調節検査、調節検査、矯正視力検査及び精密眼圧検査に係る診療 報酬の不正請求(過失)、
(3)無診察での薬剤処方による診療報酬の不正請求(故意)、
(4)フローレス試験紙に係る診療報酬に不正請求(過失)、
(5)再診料(診療所)、継続管理加算及び外来管理加算に係る診療報酬の不正請求(過失)、
(6)診療録の不実記載及び加筆(故意)、
(7)診療録の記載不備(過失)が、法81条2号(又は3号)の取消事由として、
(8)診療録の加筆及び従業員に対する虚偽申告指示による監査妨害(故意)
〔*裁判所が認めた処分事由は(1)、(3)、(4)、(6)、(8)〕
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