(関連目次)→医療事故安全調査委員会 他科でも顕著な医療崩壊 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
気になる記事を見つけてきましたo(^-^)o ..。*♡
法医学が崩壊しつつあるのはみんなが知っていることですけれど。
でもやっぱりこういうのみていると、
「医療安全委員会」なんてどうやってやるの?
って気がしてしまいます。
司法解剖こぼれ話
もう一つの医療崩壊
竹中郁夫
日経メディカルオンライン 2008. 5. 2
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/takenaka/200805/506347.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/takenaka/200805/506347_2.html
4月27日付の朝日新聞に、4月23日から25日かけて長崎市で開かれた日本法医学会の、東京大学大学院の伊藤貴子特別研究員(法医学)らのグループの研究報告が報じられていました。それによると、医療関連死が疑われてなされた司法解剖の結果について、6割以上の遺族で結果を知るまでに2年以上かかっており、その情報開示の遅れから医療訴訟につながっていることが推測されるとのことです。
私の身近でもそのようなケースをよく経験します。ある患者は術後の大量出血と電解質異常で心肺停止となって亡くなりました。その後、司法解剖に付されましたが、遺族はいつまでたっても捜査当局から解剖所見を得ることができず、結局民事訴訟を提起しました。控訴審になっても、解剖所見の開示なしで隔靴掻痒の闘いを余儀なくされています。捜査当局にすれば、司法解剖の所見は重要な「捜査の秘密」であり、捜査の密行性を確保するためには、起訴・不起訴等の処分が終わるまで遺族といえども蚊帳の外にするのはやむを得ないということでしょう。
また、別のケースでは、医師が手術した部位と離れた場所に穿孔が生じ、重態に陥ったところ、家族は危篤になった頃から、警察に相談するなど不信感が強く、死亡後に異状死の届出を行いました。警察は「必ずしも司法解剖の必要もないだろうが、遺族の不信感が非常に強いことを考慮して司法解剖をしておきましょう」という結論になりました。このようなケースも、遺族とは逆に、医師の方も結論待ちのまま寝覚めの悪い長い日々を過ごすことになります。
このように、医療訴訟などの医療紛争に関わる私のような人間から見ていても、吉田謙一教授(東京大学法医学)が記事で「司法解剖の結果を早く開示することは、類似事故の再発予防など社会的にも極めて重要なのに、貴重な情報が医療現場に還元されずに埋もれ、紛争を促進する結果さえ招いている」とコメントしている現況に日々遭遇して「どうにもならんなあ」とただひたすらぼやかざるを得ないのです。
ところで、1月23日に警察庁は、日本法医学会に、「解剖体制の整備について」と題する要望書を交付し、必要な解剖体制の整備に一層の配慮をなすことを要請しました。警察庁によると、2007年に全国の警察で扱った遺体は前年比5340体(3.6%)増の15万4579体で、司法解剖や行政解剖を実施した解剖率は9.5%だったとのことです。確かに、肝心の解剖スタッフがいなければ、いくら裁判所から「鑑定処分許可状」という令状を発行してもらっても司法解剖は不可能です。 さて、日本法医学会のホームページをのぞいてみると、法医学界のマンパワー窮状は次のようなありさまです。
この調査は、日本法医学会が2007年11月から12月にかけて実施し、全国国公立私立合わせて80校の法医学教室に向けてアンケートしたもののうち、61教室が回答したもので、比較は前回の調査データ(2004年12月6日~2005年1月14日実施)がある37教室の数字が比較されています。
まず、スタッフ数については、今回の調査結果では、総数、すなわち常勤の教員と職員、非常勤の職員および大学院生(研究生を含む)を合わせた数は、1機関あたり4.26人(2004年は4.49人)であり、そのうち医師数は、2.02人(同2.08人)となっています。また、常勤と非常勤を合わせた職員数は、1.87人(同1.59人)となっており、総数も漸減しています。特に2004年から2007年の3年でのマンパワーの減少が著しくなっています。
そんな中で、とりわけ医師数も減少してきており、2007年に初めて、1機関当り、1.91人と初めて2人を下回りました。今回回答のあった全61機関中、4機関で医師が不在(そのうち、1機関は歯科医のみ、また1機関は教授選考中)で、医師が1名しかいない機関が16機関におよんでいます。見方によっては、医学界で法医学者は絶滅危惧種になりつつあるといってよいのかもしれません。
マンパワー不足だけでなく、配分される経費も総体的に漸減傾向で、国立機関では、1998年度から今年までの10年間に357万1,000円から190万9,000円と、47%減で、私立では、この3年間に358万4,000円から318万3,000円と11%減となっています。
以上のような日本法医学会の調査からも、第三次試案も出てそろそろ具体的な制度設計に入りつつある医療安全調査委員会(仮称)も解剖インフラなどの面で「大丈夫かしら?」という状況であることが分かります。法医学者はしばしば「死者の人権」を代弁するといわれますが、生身の法医学者がしっかりと自らのケアができるようにならないと、なかなか死者にまで十分なケアが施せないということになるでしょう。Aiも医療安全調査委員会で活用されればその地歩をしっかりと固めることができるかもしれませんが、同様に法医学者たちもこのところ興亡の分水嶺にいるのかもしれません。
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