(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
道標主人さまが早速パブリックコメントを送ってくださいましたo(^-^)o ..。*♡
連休明けの5月7日に一度締切り、
今後別の策を考えるのか、第三次試案でいくのか、決めるそうですので、
どうか当直中の先生方、パブコメのご協力お願いいたします。
厚労省のやり方が難しいので、こちらを使ってください。
「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡
の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案
- 第三次試案 - 」に対する意見について
道標主人
目次
1. 結論 2. 総論 3. 各論
4. 試案の各段落への意見 5. 提案
1. 結論
この第三次試案に基づいて立法し、医療死亡事故について、分析・評価を専門的に行う機関を拙速に制度化することに、反対します。
2. 総論
医療に関連して起こった不幸な出来事を医学的科学的に調査し、再発防止に役立て、患者さんと医療との間の溝を埋めていく努力と施策は必要です。ですが、今回提示された第三次試案は、第二次試案と同様の以下の問題を内包しており、このままの拙速な制度化は賛成できません。
(1) 医学的科学的な充分な調査がなされません。
(2) 起こった出来事の経緯の解明も充分にはなされません。
(3) 医療事故の再発防止に役立てられる見込みは乏しいものです。
(4) 刑事司法の手続を何ら抑制するものではありません。
(5) 調査と行政処分の権限が集中する厚生労働省の権限は強大なものになります。
(6) 患者さん側の理解を得られる見込みは乏しいものです。
これを制度化すれば、医療破壊を決定づけるものとなります。なぜなら、高度な、リスクの高い医療の場から医師が去り、医療の現場は萎縮し、医療の進歩は阻まれます。それとともに医師は自律を奪われます。すなわち医療は後退しモラルが失われるおそれが強いからです。
医療に関連して起こった不幸な出来事を調査する目的は、
1) 医療を提供する側と受ける側の間の溝を埋め軋轢を減らし、
2) 事故の再発を防ぎ、医学医療を発展させる
ことにあるはずで、これらのことが、真に国民の生命、健康と幸福のためになります。
そのための
1) 調査、
2) 再発防止策の確立、
3) 患者さんとご家族の支援、
4) 医療を受ける側の理解を得ること、
これらのための制度や組織を、医療安全調査委員会 ( 仮称 ) 単独で担うことは困難です。
医療に関連して起こった不幸な出来事を調査する制度や機関 ( 以下「調査機関」と表記 )、処分と医療機関の改善策や再教育制度、調停や ADR などの複数の法制度、組織の創設を、充分に時間をかけ、広く現場からの意見を集約し、検討を重ねてつくり上げていかなければなりません。
よって、この第三次試案の制度化には、反対します。
3.各論
3-1. 目的と位置付け
医療に関連して起こった不幸な出来事を調査する制度および調査機関は、
・刑事司法の手続を抑制することができる、
・医師に処分を下す場合、医師側を納得させられる、
・再発防止策のための量質とも充分な基礎資料とする、
これらを明文化した法規定で実現しなければなりません。個人の責任追及が前提では充分な調査はなされません。
目的は、第一に再発防止策のための基礎資料を作ることとすべきです。そしてその調査能力と権威、法的基盤で刑事司法の手続を抑制でき、医師も国民も調査結果に納得できるものでなければなりません。
位置付けは、医療に関連して起こった不幸な出来事が重大な場合、捜査機関への通知の有無の判断、特に「重大な過失」という法的判断を医学的判断で代行するというものです。重大ということが、結果が重大なのか、原因・過程が重大なのか、一般の人が感じる重大さ ( 死 ) と、医療の現場でおこる様々な出来事の重大さが乖離しているので、何が重大で何が刑事手続相当かを医学の外で判断していては、医療を破壊へと向けてしまいます。
3-2. 届け出る基準
調査機関への届け出の基準、異状死の定義、診療関連死の範囲が曖昧なことが問題です。医療機関内での判断が、警察や裁判所に尊重されるだけの能力、権威、厳格な基準、明文化された法的根拠に基づいていなければ、医療機関が下す届出不要という判断は、無力です。
患者さん側の納得とは曖昧で際限ないものであり、不充分で権威や法的基盤のない調査や個人の責任追及では、医療と患者さんとの溝は広がるばかりです。
3-3. 報告のシステム
世界保健機関 ( WHO ) が 2005 年に発表した医療 ( 患者さんの ) 安全のためのガイドラインとプログラム ( WHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and Learning Systems および World Alliance for Patient Safety Forward programme 2005 ) をみまして、調査のために必要な報告者の保護について、第三次試案には欠陥があり、誠実で充分な調査がなされません。
3-4. 調査能力
調査機関は多数の調査を迅速にこなし、それぞれの案件をその分野の現役最前線の複数の医師が検討するというシステムが要求されます。不充分な調査結果をそのまま処分の根拠にされるのでは、医師の納得は得られません。
医療機関の内部調査および調査機関による調査の量、質、権威、法的根拠は、刑事訴追、民事提訴の動きを抑制することができなければなりません。これだけの調査がなされた上での行政処分、刑事訴追、民事提訴であれば、医師側は納得でき、はじめて医療破壊の一つの穴を塞ぐことができるのです。
3-5. 刑事手続の抑制
警察が捜査することが、医療破壊の核心の一つですが、第三次試案は、刑事司法の手続に関して、刑法、刑事訴訟法に何ら変更を加える手だてを講じないものです。証拠隠滅や故意犯は刑事手続相当とする以外、刑事手続は明文化した法的根拠で制限しなければ、刑事訴追への入口が増えるだけです。
謙抑的であることは、これまでも刑事司法の大原則です。その中で福島県立大野病院の事件は起きました。第三次試案では、刑事捜査を減らすことはできません。診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業では、患者さん側が調査に納得されないことが少なくないことが分かってきました。患者さん側からの警察への届出や警察独自の事件の覚知によって刑事司法の手続が動き出すことを、第三次試案では止めることができません。警察が証拠を押収すると調査機関は無力化されてしまいます。刑事手続において調査機関を優先するという明文化された法制度が必要です。
調査機関が「刑事手続不相当」という判断を下せる法規定が必要です。警察が捜査に着手しても、警察を凌駕するような誠実な報告と専門家集団による調査がなされていて「刑事手続不相当」と判断されているのだから警察は手を引く、そこまでの調査機関の権威と調査能力、明文化された法的根拠があってはじめて、謙抑的という言葉が信用できるようになります。
3-6. 調査チームに加わる有識者
調査機関は専門的調査と判断に徹することができるようにすべきです。調査機関の運営を管理し透明化するために有識者や法律家が加わることは必要ですが、個別事案への非専門家の介入は、調査の妨げにしかなりません。
4. 試案の各段落への意見
(5) 制度は、厚生労働省単独でいくら試案を積み重ねても不充分です。刑事司法、民事紛争解決、医療、それぞれの法制度を、連携をもってつくらなくてはなりません。
(8) 制度は、内閣府の下に設置するべきです。
(13) 医療の専門家以外のチーム構成員は、運営を管理し透明化するために陪席することを明記し、個別事案の調査に介入すべきではありません。
(19) 医師法第 21 条の改正文を例示すべきです。それとともに、異状死の定義を明確に法文で示すべきです。
(27) 第 5 項に「医療従事者等の関係者が、地方委員会からの質問に答えることは強制されない」との規定が入っていますが、これでは、誠実で充分な調査がなされません。供述における何らかの免責とともに正確な報告がなされる制度とすべきです。
(39, 40) 通知すべき事柄が明確でありません。例えば、消毒薬の誤注射が警察に通知すべき重大な過失にあたるかどうかも明確ではありません。システムエラーは通知しないということを明文化すべきです。
(51) 今後とも広く国民的議論を望むとするなら、第三次試案をもって最終案であるというような報道がなされることが理解できません。第三次試案で法制化したいという貴省の意向は伺っておりますが、矛盾するものです。
5. 提案
5-1. 法改正について
調査機関が、死亡死産に限らず、医療に関連して起こった不幸な出来事が重大な場合、例えば重篤な後遺症などにも機能し、調査が刑事司法の手続よりも優先するものとするべく、以下を明文化した法制度の改正で実現するように提案します。
(1) 診療行為に関連した死亡及び死産について、医師個人の届出義務を免ずる。
1) 医師法第21条の規定を改編又は追加し、「医師個人は診療行為に関連した死亡及び死産については届出義務を免れる」ことを定める。
2) 届出は「死亡・死産に限らず」、「調査機関に対し医療機関が行ってよい」というものし、そのために健康保険法、医療法などの医師法以外の法律に規定を新設するか、または特別法を設ける。
(2) 医療に関連した不幸な出来事の刑事訴追のための特別法を設ける。
1) 刑事訴追について、業務上過失致死傷罪の適用に関しては「親告罪」とする。
条文例 : 刑法第 211 条 1 項の罪は、医療に関連する不幸な結果について適用しようとする場合は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2) 調査機関の「刑事手続に付すことが相当」という「意見」、すなわち「告発」を起訴の必要条件とする。
3) 被害届、告訴、告発があった場合、捜査機関は調査機関に通知・回付し、調査機関の「意見」が出るまでは捜査しないように規定する。
(3) 証拠の取扱のための法規定を定める。
刑事訴訟法第 47 条の「但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない」という規定を調査機関による調査で生かすため、特別法にてその例外を「捜査機関は保有する証拠を調査機関に開示する」ことと規定する。
5-2. 調査機関の任務について
調査機関は、厳密な科学的・医学的調査だけを行うこととします。調査報告書をまとめ、患者さん側、医療機関に提示するとともに、刑事手続相当・不相当の判断を下すところまでを任務とします。
それ以外の、再発防止策の確立、患者さんとご家族の支援、医療を受ける側の理解を得ること、処分などの機能は、それぞれ独立した他の組織、制度で担うべきです。
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