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(投稿:by 僻地の産科医)
日経メディカルオンラインからo(^-^)o ..。*♡
やっぱり医療安全委員会をきちんと機能させるには、
刑法をきちんとしないといけないんですよね。
だから、法律家の先生方からいろいろなご意見が出ています。
いろいろなご意見を聞いていきたいと思うんです。
ではどうぞ ..。*♡
法律的視点からの
「医療安全調査委員会」第三次試案への提言
医療者の業務上過失責任を「親告罪」に
松本啓二(弁護士、NPO法人マネジメントアシスト理事長)
日経メディカルオンライン 2008. 4. 14
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/opinion/orgnl/200804/506122.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/opinion/orgnl/200804/506122_2.html
(3)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/opinion/orgnl/200804/506122_3.html
(4)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/opinion/orgnl/200804/506122_4.html
(5)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/opinion/orgnl/200804/506122_5.html
NPO法人マネジメントアシストは、国内の企業を補佐することにより経済活動の活性化を目的として昨年設立されたもので、医療問題については、素人である。しかし教育と並ぶ日本国民にとって最重要な医療問題において「医療安全調査委員会」の設置という日本の医療の将来を左右する立法が進行中であるので、有識者の一人として、提言をさせていただくものである。
第二次試案における委員会の問題点については、各種医学会や医師個人や元東京地検特捜部長等が、厚労省宛の意見書や本サイト『日経メディカル オンライン』等で公表している。本NPOで精査した限りでは、日本産科婦人科学会の、2008年2月29日の厚労省宛の「見解と要望」の見解が最も本質をついて法律的批判にも耐えられるものと評価できる。これを本NPOの提言のベースとさせていただく。
「医療安全調査委員会」の第三次試案のポイントは、本サイトで報じられている通りだが、中でも誠実な医療機関にとっての一番の問題は、医師法21条の異状死について24時間以内に警察に届け出る義務であろう。これは本来道端で死んでいる人を医師が検案して届け出る目的であったのを、厚労省や裁判所が医療事故まで拡張解釈したところに問題の本質がある。
二つ目は刑法上の業務上過失致死傷罪を医療行為に適用することについての、刑法は反社会的行為を罰するとの原則や国際的比較からの反論である。医療安全委員会の制度設計が上記の問題点解決のカギである。
(1)委員会の構成と運営および報告書における重大な過失について
委員会(以下、中央委員会、地方委員会、調査チームを含む)のコストは、国が負担すべきであり、委員会の主たる目的を「再発防止と医療の爾後の向上」に置くべきである。委員会は、公益性と独立性が高い必要があるので、厚労省ではなく内閣府に置き、その委員の選任権も内閣府が持つのが望ましい。
委員会の構成は、医療関係者が過半数を占めるようにし、厚労省の役人、検察官、患者側擁護の立場に立つ弁護士、一般市民を代表する有識者を加え、各委員がそれぞれ選ぶ代理人の出席を認めるべきである。その人選は、責任ある人である必要があるので、内閣府の担当者のお友達ではなく、それぞれの出身母体(医療関係者については医師会等、有識者については総理大臣又はその指名する者)の推薦に基づくようにする。
委員会の決定は多数決とするが、反対少数意見は顕名で付記させる。委員会の下に置かれる、地方委員会、調査チームについても構成員の考え方は(調査チームに患者の遺族またはその弁護士1名を加えるほか)同様である。都道府県レベルで推薦するが、中央委員会の承認を条件とする。
第三次試案でも、法的医療水準については踏み込まれていない。
司法権の独立の観点からは当然のように思えるが、検察官や弁護士を委員会に加えることすら明記されていない。刑事司法は、あくまで法にのっとり、事案ごとに可罰性と量刑を決めるもので、患者の遺族のための報復ではない。
法的な医療水準は、検察庁、裁判所やADR(裁判外紛争解決)においても最も判断に困る点である。鑑定書(これは医療者にとって大きな負担となる)の両当事者からの乱発請求という弊害も予想される。最終案の作成においては、委員会は医学的な判断だけではなく、日本産科婦人科学会の「一般に行われている診断の多くは最善でない」との御指摘も考慮の上(「最善でなくてよいこと」をそのまま肯定するものではない)、その法的評価とその理由も付記することが望まれる。ただし、これは検察庁や裁判所に対して拘束力はない。事故の原因究明は再発防止のために重要であるし、医療関係者が多数を占める調査チームであれば、的確な究明が期待できる。もっとも、重過失があったかどうかは、医療関係者が多数を占める調査チームの判断が妥当かどうかの議論はあろう。
しかしながら、「一般に行われている医療は最善ではないこと」を含めて実務的な判断をすることが重要である。さらに(1)日本においては、患者が病院や医師を自由に選べる制度になっていること、(2)日本法体系では、最も進んでいるはずの企業のコーポレート・ガバナンスにおいてすら、独立(現行法上「社外」は「独立」ではない)の取締役・監査役すら要求されていないこと、(3)しかしながら、独立の有能な社外取締役や監査役が一人でも居ると取締役会に良い意味での緊張感が発生すること等を考えると、有能な検察官1名及び患者の遺族またはその弁護士1名を含む非医療関係者が少数入るチームでその運用をうまくやれば、公正性は担保できると考えられる。
明らかに、医療行為についての重過失は、刑法上の業務上過失とは違った独自の基準が必要なので、新しい医療法上の重過失の規定と委員会制度のもとで先例を積み上げていくことが期待される。従来の司法判断を、理論化してまとめたものはないと言ってよい。確かに最終的な重過失の認定を含む有罪・無罪の判断は裁判所でなされるが、裁判所は委員会の報告書に重要な証拠能力を与えることが予想される。患者の遺族またはその弁護士1名を調査チームに加えることは、医療者仲間が身内で刑事事件にならないようにすることを防ぎ、調査チームにADR的な役割も与えることになり、効率的であろう。
(2)患者側からの申立について 患者側からの申立については、従来は、刑事責任を追及するためには警察に告訴する他なかった。警察に対する告訴は、弁護士が代理しても、証拠をほぼそろえていないと相手にしてくれないのが実情であった。この点この委員会制度ができれば患者側からの申立も容易になる。 (3)報告書の公表と利用 最も大きな問題は、報告書の公表と利用である。 (4)あるべき医師と患者の信頼関係 問題の根源は、「患者側からの専門家の処置・行為を原因とする結果についての説明責任・行為責任・法的責任を巡る不満に対して、社会的にどのように対処するか」にある。 すなわち、ただでさえ医師が不足している現状で、患者からの告訴のリスクの大きい診療や、報酬とリスクが比例しない病院医師に更なるリスクを負担させることになれば、必要な診療そのものが受けられないことになり、かえって患者の利益にならない。患者側から見れば、せっぱ詰まった状況で当該医療関係者から医療リスクにつき事前説明を受け承諾書にサインしていたとしても、医療事故が発生した場合には必ずしも納得できないケースも多く、患者側の立場も尊重してくれる中立公正な第三者の十分な説明が必要である。従って患者側からみても納得のいく制度とするためには「報告書について十分な患者への説明」が重要であり、それを担保するために、委員会の調査結果を患者へ説明することを任務とする、第三者的な医療関係者と有識者等からなる「説明チーム」(仮称)を地方委員会の中に置くことを検討すべきである。患者の遺族またはその弁護士1名を調査チームに加えることが実現すれば、その必要性は減少するであろう。 最後に第三次試案についての記者会見の際に、二川一男総務課長が述べられた「捜査機関が調査委員会の調査を尊重する」旨の明文を報告書の最終案に入れることを検討いただきたい。司法権の独立から、医師法改正の条文の中に入れることには反論があろう。 (5)親告罪にする提言 医療側に対する患者側(遺族)の刑事告訴は、強姦罪のように告訴者の親告がなければ、検察官は起訴できない旨を、医師法21条の改正の際に医師法改正の中に含めることは検討に値する。この場合、行政や司法の重複作業とそれに伴う医師の逮捕や捜索という無駄を省くために、親告には、調査委員会が重過失ありであると認定した報告書の写しの添付を要するとの検討も有用かもしれない。 (6)検察審査会に関する法改正に留意が必要 注意すべきことは、国民から無作為に選ばれている検察審査会に関する法が2008年5月までに改正される予定であることである。現在は同審査会に対する検察庁の不起訴処分の申立に対して、審査会が起訴相当の判断をしても検察庁は拘束されず、2回目の不起訴処分で終結していた。しかし改正法では、審査会の再度の判断が起訴相当であった場合、起訴になる制度設計になっていることである。委員会では、医療者の専門的判断を委員会に入れようとしているにもかかわらず、親告罪にならなければ、検察庁は委員会の重過失なしの判断に拘束されない。医療者の専門的判断が入らない別の起訴ルートができてしまうことである。 (7)民事紛争のADRによる解決 民事訴訟においても、報告書を一つの証拠としての提出を許した上で、当事者間で通常の争いをさせることでよいと思われる。
今まで申立したくてもできなかったものができるようになるのは、患者側からみても良いことである。だが、申立の乱用になり、受理件数が多くなりすぎて、処理できなくなる危険がある。従って、患者側からの申立自体を受理するかどうかについては、調査チームの窓口審査により受理しない裁量権(不服があれば地方委員会に異議申立権を与える)を設けることも検討が必要であろう。第三次試案の中で、「遺族が原因究明を求める場合は、地方委員会による調査を大臣に依頼できるものとする」の趣旨は明確でない。
米国の航空機事故等調査委員会の独立性は徹底しているが、SOX法と同様、文化のみならず司法・行政制度の異なる日本にそのまま導入するのには無理があろう。米国のような委員会と裁判所の二重審査の無駄を省き、日本の現在の医療財政事情のもとでの限られた行政コストを削減するためには、調査報告書の写しを、申立人及びを被申立人に交付するべきである。そしてそれは刑事、民事の裁判手続やADR手続において、証拠の一つとして利用が認められるべきである。ただし、その場合、裁判で、調査委員会や調査チームの委員(遺族を除く)が証人として呼ばれることになると、委員になる人がいなくなることであろう。従って、裁判所の判決について、裁判官は判決書以上の説明義務がないので証人に呼ばれないのと同じ扱いにすべきである。
また、委員会で「新しい法律概念としての“医師法上の重過失”が認定された場合にしか、委員会は警察や検察庁に告発できない」ようにすべきである。証拠保全は、検察官が委員として参加しているので、委員会の責任においてなされるべきである。また、真実究明のため、医師の黙秘権は認めない制度設計にすべきであるが、当該医師が裁判の当事者になった場合には、その証言は証拠採用ができないものとするような工夫が必要である。
最近は、医療機関において患者に対する説明義務が重視され、同意書を取るようになってきているのは、前進といえる。日常の説明は無駄な時間(医療紛争になれば数十倍百倍の時間がかかる)ではない。患者と医師の信頼関係はそこから発生する。十分な信頼関係があれば、医療事故が発生し、患者側が医療事故の理由をはっきり知りたくて調査委員会に申立をし調査してもらい、その調査報告書に「医師の重過失あり」と書かれていても、告発をしない場合があることも期待される。それこそが、今後育てていくべき医師と患者側の信頼関係である。報告書は、今後の医療の質の向上のためのものであることはもちろんとして、医療に関する刑事民事の紛争の防止や解決に資するものであるべきであり、報告書を利用することによって紛争を増加させるという結果を招くものであっては本末転倒である。
親告罪にすることは、確かに検察の手足を縛ることになる。その点については、調査委員会に検察官が加わっていることは正当化の理由になるであろうが、逆に保護されるべき法益が、単なる私益か(であれば親告罪は正当化される)社会的な法益かという点で疑問があり、十分な検討がなされるべきである。
病院医師(病院)側では、近時医療リスクを説明し承諾書にサインさせる慣行もでてきており、それは当然証拠として提出できる。民事訴訟の大半は和解で解決することや、近時ADR機関が、法務省等の公的機関の認証機関とされてきている。報告書の利用を許すことは、紛争当事者の金銭的時間的負担を軽減しようとする努力の方向性にも合致する。
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