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(投稿:by 葉明)
なぜに、こんなにカナダの産科医は問診如きに50分も時間が割けるのか?
当番医の分娩が、1日に2人までという制限で、そもそもお産がまわるのか?
そういうわけで、カナダの産科医療事情について調べてみました。
(こんなヒマがあったら、論文書けよ〜たのむよ〜>ぢぶん)
すんません、胎児が無事でホッとしたものの、論文執筆する気にならず、現実逃避してます。
コレ書いたら、ピアノでも弾こうかなぁ〜。るんらるんら。
参考にしたのは主に
http://secure.cihi.ca/cihiweb/products/GBC2004_report_ENG.pdf
です。ちょっと古い(2001〜2002年)けど、カナダの周産期医療が最も危機的状況にあるときに書かれたもので、現在はカナダはこれよりはマシ、なので、比較するには丁度よいかと思います。また、2001年、カナダの産婦人科医は1590人で、そのうち1270(80%)がお産を扱っていますが、人数としては1590を採用しました。日本で、お産を扱っている産婦人科医の割合も80%くらい(もしかしたらそれ以下)だと予想されるためです。
日本の資料は、産婦人科医師数については
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/kekka1-2-3.html の2006年のものを参考にしています。
出生数等については、WHOのDataBaseを活用いたしました。
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さて、カナダVS日本の産婦人科医や助産師の数、ならびに出生数から比べてみましょう。あっ、ついでに医療費(GDPあたり)も載せちゃいます。
100,000(10万人)医療従事者数&出生数ならびに医療費
カナダ 日本
医師 206 194
産婦人科医 4.9 8.6
出産取り扱い可能医師 14.7 不明
看護師 959 776
助産婦 1.1 19
出生数 1050 853
医療費(対GDP) 9.8 7.8
え!? 日本の医師数って、こんなに少ないのに、カナダと比べると人口あたりの産婦人科医って、けっこう多いじゃん。。。と、思った方もいらっしゃることでしょう。
しかも、10万人あたりの出生数は、カナダの方がずっと多いので、単純計算すると、一人当たりの医師が取り上げる出生数はカナダが年間214人、日本が99人ということになります。
あれ? あれれれれ? どういうことよ?
日本の産婦人科の方が余裕があるようにみえるよ?
なんだ〜、日本の産婦人科医、足りてるじゃん、
やっぱり数の問題じゃなくて、地方格差の問題だったのね。
厚生労働省のお役人達の高笑いや、日本の国民みなさんのもっと働けゴルァという声が聞こえて来るようです。ああ、ヤだヤだ。
これにはからくりが幾つかあるのですが、最大のものは、カナダにはお産にかかわっている「家庭医」がけっこういるということでしょう。
これらの家庭医は、普段は家庭医として、家庭医のクリニックで勤務しているのですが、分娩当番医なると、分娩室のある病院に夜勤&/OR待機するのです。
もうちょっと詳しく云うと、カナダの医師は、半分が家庭医なのですが、産科専門医でありながら家庭医を標榜して居いる先生が少なからずおり、家庭医の16%が出産も取り扱っています。つまりカナダの出産取り扱い可能な医師の数は10万人あたり、14.7人。産科専門医でも家庭医のばあい、さすがに帝王切開や多胎などはあまり扱わないようですが(つまり、ちょっとはやると云うことです)。
さらにもっと突っ込むと、産科医の資格を持つ家庭医1人あたり年間41人。産婦人科医が取り上げるのは、1人あたり63人。(ただし、実際には、産科医といっても、お産を主に扱う先生とそれ以外の先生では差があるはずなので、おそらく、お産を主に扱う先生は1人で年間300人くらいは取り上げているのではないかと思います。)
なにそれ?
日本の産科医のみなさん、怒って暴れないでください。
そりゃー、カナダの先生達は年に2回、2週間ずつのバカンスも楽しめましょうし、1日2人お産を取り上げたら、その日のお仕事は終わりになるよねぇ。夜勤の翌日はクリニックもお休みにできるし〜。
さらにっ!
今まで、私がぶちぶち愚痴を綴って来たように、カナダの医師へのアクセス制限、特に、専門医へのアクセス制限には凄まじいものがあり、そもそも、そんなに簡単に産婦人科専門医にかかることはできないのです。
あれだけ制限しまくれば、おのずとゆとりも出て来るっちゅーものです。
また、初診こそ50分時間をかけて診ますが、普段の妊婦検診は産婦人科医と云えど、5分以下です。しかも、検査するのは、尿と血圧と体重のみ(っていうか、尿(テステープ)と体重は自分でやるんですぜ)、胎児の検査も普通はDopplerEchoのみで、超音波を医師がすることはありません。予約とって技師さんがするんです。
なお、超音波検査は、普通は出産までに2回、ハイリスクや高齢の妊婦でもせいぜい4回です。
何が言いたいかというと、産婦人科医の仕事はお産だけではないが、お産以外の仕事に使うエネルギーも、おそらくは日本よりは少なくて済むだろうというとこです。
さらに、妊娠初期に出血しても、それが流産につながったとしても「ダメなものはなにをやってもダメ」というのが徹底しているわけですから、切迫流産での搬送は殆どないし、それに対する訴訟もありません。あのとき、入院させて安静にして、ウテメリン使えば、流産は予防できたにちがいない。。。などと言い出す人もおりません。
日本の普通の皆さんが気付いていないことがもう一つあります。
年間5,000人のお産を15人で診る(1人当たり年間333人)のと、年間1,000人のお産を3人で診る(1人あたり年間333人)のと、一見同じに見えますが、はっきりいって、年間1,000人を3人で診たら医者の方が死にます。医療の集約化を日本の皆さんは嫌う傾向がありますが、このあたり、分かっていただきたいものです。
たぶん、カナダだって、産科を主にやってて、お産を積極的に取り扱っている医師だったら、年間300~500くらいは取り上げてるんじゃないかなぁと思うのですが、1日2人まで、と制限があり、しかも自分の時間が終わったら帰れる勤務と、いつ呼ばれるか呼ばれないかわからないお産を待ち、いざとなったらいつでも出動することを期待されている勤務はじぇんじぇん違うということです。
さて、崩壊しつつある医療のなかでも、まず最初に厚生労働省も国民もなんとかしたいと思っているであろう、日本の産科医療、どこからどう手をつければ、日本のみなさんがハッピーになれるのでしょう? 日本のみなさんがハッピーになれば、日本の産科医のみなさんもハッピーに働けると確信しておるのですが、ワタクシに具体案は浮かびませぬ。
へ、へきちのさんかいせんせい
そして、こちらを読んでくださっている皆様、
た、た、た、た、たいへんです。
ワタクシ、やらかしてしまいました。
易学者じゃ。。。なくて疫学者としてやってはならぬ数字の間違い!!
日本の医者の数と産婦人科医の合計が違います(産婦人科医と産科医の合計、婦人科単独は除外した)。よって、一人当たりが取り上げるお産の数も間違えてしまいました。
数字を転記、計算するときに、誤って勤務医だけを計上してしもーたのです(開業医を足すのを忘れてしもーた)。
ううううう、ごめんなしゃい。
以下の二カ所が訂正後の数値です。ご確認ください。
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100,000(10万人)医療従事者数&出生数ならびに医療費
カナダ 日本
医師 206 194
産婦人科医 4.9 8.6
しかも、10万人あたりの出生数は、カナダの方がずっと多いので、単純計算すると、一人当たりの医師が取り上げる出生数はカナダが年間214人、日本が99人ということになります。
投稿情報: 葉明(はざや) | 2008年3 月 9日 (日) 09:42
本文訂正しました(>▽<)!!!
ありがとうございます!!!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年3 月 9日 (日) 11:26
1日に取り上げる赤ん坊の数はふたりまで、2人とりあげればその日は終わりで、しかも翌日はとりあげない、のなら、単純に考えて365人の赤ん坊を年間にとりあげることが可能です。
214人なら年間実働は107日。
つまり200日以上はお産をとらなくて済む計算です。
夢のようです…カナダに移住しようかな…
投稿情報: suzan | 2008年3 月14日 (金) 12:01