(関連目次)→ 地方医療の崩壊 実例報告 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
愛知県下の各大学産婦人科医局の実情
(愛知県産婦人科医会報 2008.1 No.403 P10-13)
名古屋大学
名古屋大学には大学附属病院を除く45の関連病院があります。その中で33の施設が分娩を取り扱っているものの、昨今の産婦人科医減少の影響で年、一施設の割合で産科休診とせざる得ない関連病院が出現してきております。事実、これらの関連病院の中でも現時点で3施設において産科一人常勤の状態で、産科継続に対して危機に瀕していると言っても過言ではありません。これら45の関連病院の中の名古屋大学産婦人科に席を置かれている医師は約150人ほどでありますが、そのうち2/3が男性医師、1/3が女性医師という状況です。 しかしながら、新入局員の医師に限定してみますとし1/3が男性医師、2/3が女性医師と完全に逆転しております。 この数字は全国的な統計と一致しており名大産婦人科に関しても例外ではないようです。
現時点の医局人事で最も難渋している点は35才以上のいわゆる中堅オーベン医師の退職が目立っている点です。このクラスの医師は余人に代え難く、補填するのに多大な時間と労力を必要とします。そのため、ある短期間にオーベン医師が複数退職されますと、それだけで産科の休止・あるいは業務縮小に至るケースが少なくありません。それら、退職をくい止める意味でも各病院の院長先生には是非、待遇面でのアシストをお願いしたいと考えております。
医局の復権を望む声は多数聞かれますが、20~30年昔と異なり教授や医局長の一声で人事が片付く時代ではありません。やはり、粘り強い交渉に次ぐ交渉が必要になってきます。我々、大学医局もできる限りの努力を続けて行きたいと思っておりますので是非、医会の皆様や院長先生をはじめとした病院関係の皆様と協調路線を図って難局に立ち向かいたいと思っております。
名古屋市立大学
名古屋市立大学産科婦人科医局の在局者は、教授以下14名で、うちわけとしては職員1O名、大学院生4名です。在局者は、数年前までに2O名以上でしたが、徐々に減少し、現時点では14人とこれまでで最少となり、大学病院・医局業務をこなして行くうえで医局員個々の負担は大幅に増してきています。
女性医師は教授を含めて5名在籍しております。現在、日本の20代の産婦人科医の中に占める女性医師の割合は70%に達していますが、当医局でも40歳未満の医師のうち半数は女性医師です。
当直は以前より2人体制をしいています。在局者が減少したため、1人体制にすることも検討しましたが、大学病院としての機能を当直帯も果たすためには2人体制は崩せないとの結論に達し現在もその体制を維持するため、教授を除いた准教授以下の医局員全員で当直業務を分担しております。
関連病院のうち現在、16の施設で分娩を取り扱っております。そのうち、11施設は定員が4名以上ですが、5施設は定員3人の病院です。全国大学の分娩取扱関連病院のうち1人医長の病院が14.2%、常勤医2名以下の病院が40.6%に上ると報告されていますが、当医局の関連病院においてはそのような状況は回避できています。 しかし定員3名の施設のうち1施設で現在1名の欠員が有り、常勤医2名で分娩を取り扱っています。可及的早期に定員補充をしなければと考えこおりますが、なかなか困難な状況です。
また、関連病院全体では、6施設でそれぞれ1名ずつ計6名の欠員があり、現在勤務している先生方に負担がかかっています。 これら施設の先生方の健康のためにも、また疲弊しきって退職されてしまうという悪循環に陥らないためにもなんとか定員の充足を目指していますが、その目処は立たず個々の先生方の負担増に頼らざるを得ない状況が続いています。
今後、高度で安全な産科医療を安定して提供して行くには、産科医療現場での勤務体制、労働環境の改善が急務ですが、そのためには、施設当たりの産科医の増員が必須と思われます、そして、新規産科医の急増が期待できない現時点において、産科施設の集約化は、問題もありますが解決策の1つになると考えます。また、それにより勤務体制、労働環境が改善されれば、関連病院・医局からの離職を防ぐだけでなく、新たな産科医を生み出すことにも繋がると思います。
愛知医科大学
第27回公的病院等産婦人科部長及び病院管理者と本会役員との懇談会のテーマは、「愛知の産婦人科医療を守るために」であるが全国的に産婦人科医不足は深刻である。 これまで他の都道府県で行われた同様のシンポジウムでは、産婦人科医師不足の原因としてハイリスク妊娠分娩の増加と周産期救急医療体制の不備、他の科に比べて多い当直と医療訴訟、女性医師の増加などをあげている。また、産婦人科医の不足により医師一人の仕事量が過剰になったことが、将来、産婦人科医師を目指す研修医や医学生の減少につながっている。さらに、新しい研修医制度により、大学病院においても常勤の産婦人科医が不足し大学から派遣を受けている分娩施設の4分の1、非常勤医の派遣を受けている病院の3分の1が医師の引き上げを経験しているという。 このままては、これらの悪循環による産婦人科医師不足が一層進行すると予測される。 このため大学を含め産科を持つ公的病院は、現在稼働している愛知県周産期医療情報システムをより充実したものとし医学生や研修医に周産期医療の魅力を感じてもらうことが必要である。また、産婦人科は、日々の診療において責任と実行力が求められる。このため、産婦人科は、診療における判断の結果を自己の存在意義として感じることができる数少ない診療科でもある。当教室は、教育機関として産婦人科医師を育てる環境づりに努め、将来の新入医局員につながる研修医や学生の教育、指導を行っている。
藤田保健衛生大学
現在当教室には、教授2名、准教授2名、講師5名、助教(社会人大学院を含む)12名(うち派遣2名)の合計21名が所属し、婦人科病床54床と本年4月に母児同室で個室管理が可能となるよう改装された産科病練18床の合計72床を運営しております。
最近は、施設周辺の分娩取り扱い施設の減少やハイリスク例の母体搬送に伴う分娩数の増加はもとより、悪性腫瘤の診断治療や内視鏡手術を目的とした紹介患者さんの増加に伴って臨床業務が多忙を極め、これに学事や教育も加わって、現在の状況にさらに拍車がかかっております。
こうした環境の中で大学病院として研究・教育・臨床の三本柱を高いレベルで維持していくためには、人材確保と育成が教室の最優先課題のひとつと認識しております。 このたびの研修医制度改革に伴って当施設でもその影響は甚大で、数年間にわたる新人医局員なしという期間がありましたが、教授以下教室員部一丸となって勧誘活動を行った結果、平成19年には4名が入局し平成20年にはさらに5名の仲開が加わる予定になっております。昨今は、学生に占める女性の比率が上昇すると同時に、産婦人科志望者の7割が女性という傾向があり女性としてさらに母としての医師が働きやすい環境作りにも力を注いでいるところです。また医師の派遣につきましても大幅な整理を行い、人を送ることよりもまず何を修練したいかを主眼において派遣先の選択を行っております。
社会に対して良質な医療を提供するには、医師としてのスキルアップとクオリティオブライフの向上が必要不可欠で、今後も継続して人材確保にむけた取り組みを行っていかねばならないと強く認識しております。
藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院
藤田保健衛生大学、坂文種報徳會病院は現在院内に中沢教授以下6名で診療にあたっています。院外の当病院のかつての在籍者、同門会員は17名いますが、その現在の動向は公立病院勤務1名、私立病院勤務6名、開業7名。 このうち産科を扱う開業が4名、婦人科外来のみ1名、不妊症ビル開業1名、外科病院の婦人1名。その他、精神科に転科した医師が1名、産業医1名、休業1名です。院内勤務6名のうち当直にあたっているのは丹羽准教授以下5名、このうち女性が3名です。 1名が独身、2名が既婚、このうち1名が小さな子供二人を育てています。当直回数は皆同じく6回ずつ、待機も5~6回ずつですが、小さな子供のいる女性は、原則日曜日の当直は免除されています。しかし小さな子供がいると一番困るのがたぶん、子供の急な発熱など病気の時どうするかということだと思います。先日も、勤務時間後子供が二人とも発熱という連絡が入り急遽、カンファレンスの途中でその女性医師は帰宅しました。このような事態では、他のスタッフにやはり気を使わなければなりません。そもそも産婦人科医の労働時間は延々と長時間におよぶことが多々あります。労働時間を短縮し家庭のある女性医師でも無理なく勤務を続けていけ、さらに男性医師も余裕を待って仕事に従事できる環境ができるのが望ましいと思います。
行政の立場から
愛知県健康福祉部 技監 吉田 京
愛知県周産期医療システムの現状でございますが、愛知県では平成1O年度より周産期医療システムをたちあげ、地域の産婦人科医の先生と周産期母子医療センターとの機能連携、ハイリスク妊婦さんの円滑な受け入れを図るための連携システムを皆様のご尽力によりまして構築してきたところです。
ところが、地域の中核病院から産科が診療制限、撤退するなどの事態を生じたことにより、中程度のリスクを抱かえた妊産婦さんの対応が周産期母子医療センターに集中するようになってきており、本来のハイリスク妊婦対応とする周産期母子医療センターの機能を阻害するような状況になってきています。
この事態を打開するため、産科医不足のなか、なんとかして総合周産期母子医療センターを複数設置すること、またNTCU不足に対応するため、できるところから積極的に増床を図っていこうということを先般行われました周産期医療協議会で方針を決定したことを、ご報告します。
また今後引続きこの課題については、検討を重ね、具体化していく予定であります。
コメント