(投稿:by 僻地の産科医)
前置胎盤です! 大野事件とも関連がありますので。
大野事件のニュースはこちらですo(^-^)o ..。*♡
では、どうぞ!
前置胎盤
亀田総合病院産婦人科 鈴木真
(臨婦産・61巻11号・2007年11月 p1342-1347)
はじめに
前置胎盤はさまざまな社会的な要因により非常に注目される疾患となった.この疾患は太古の昔から存在し帝王切開術が行えるようになる前はおそらく100%,帝王切開が行えるようになってからもかなり高率で,さらに超音波検査で分娩前に診断できるようになった現在でさえも母体死亡を避けることのできない疾患であり,産科医が中・後期の出血として常位胎盤早期剥離とともに最初に頭に浮かぶ疾患である.
前置胎盤について疫学、診断、管理に分けて記述する.
疫 学
1.定 義
前置胎盤は「妊卵が正常の着床部位(子宮体節)よりも下部の子宮壁に着床し,このために内子宮口の全部または一部を胎盤が覆う状態をいう」と日本産科婦人科学会で定義している.
2.頻 度
前置胎盤は妊娠満期において分娩200例に対して1例の頻度で発症するとされている.そのリスク因子としては,
1)子宮内股の損傷や瘢痕があるような場合で,多産,高齢,既往帝王切開術,既往流産手術など
2)子宮内膜が低酸素となるような状熊として喫煙、高地居住,多胎妊娠がある.前置胎盤の頻度を経産回数で比較すると初産では0.2%であるのに対して,経産では5経産以上の多産婦では5%と高率であった.また年齢の比較では25から29歳では0.03%であるのに対して,40歳以上では0.25%であった.帝王切回を4回以上受けたものではその頻度は10%に及んでいた.また胎児数の比較では単胎では0.28% 双胎では0.39%であった.
3.分 類
前置胎盤は臨床上,子宮口を覆う胎盤の程度により以下の3つ分類される.
1)全前置胎盤(complete placenta previa):
胎盤が内子宮口を完全に覆うもの.
2)一部(部分)前置胎盤(partial placenta previa):
胎盤が内子宮口の一部を覆うもの.
3)辺縁前置胎盤(marginal placenta previa):
胎盤の近縁が内子宮口にある状態.
前置胎盤には含まれないが,胎盤が子宮下部に付着し,胎盤の下縁が内子宮口に達しないもの(2~3cm以内)を低置(低位)胎盤(low lying placenta)としている.これは子宮口が開大していない時点で低置胎盤であるものの一部は子宮口開大により辺縁前置胎盤や部分前置胎盤となることがあることと,子宮口と胎盤辺縁が2cm以下の低置胎盤について経膣分娩を行ったところ95%の症例が出血により分娩中に帝王切開になったことに起因している.
この分類は子宮口の開大度とは無関係に診断の時点で決め,反復した場合は最終診断によるとされている.
4.臨床症状
前置胎盤の臨床症状は子宮収縮を伴わない多量の性器出血を第2から第3三半期に起こし「就寝中に起こる痛みを伴わない多量性器出血」に代表される.前置胎盤症例の1/3が妊娠30週までにさらに妊娠36週までに1/3の症例が性器出血を起こし,最も頻度が高いのは妊娠34週とされている.これは妊娠9か月後半から,生理的子宮収縮が増強し次第に子宮口の軟化,開大が起きるためと考えられる.少量の性器出血は「警告出血」と呼ばれ,その後に起こる多量出血の前兆である.性器出血は再発することが多く,その量は徐々に多くなり,間隔は短くなる.
現在では超音波診断が普及し,前置胎盤は妊娠20週までには診断され,十分な管理がされていることが一般的である.このため,妊娠中の安静指導などにより,性器出血をきたさずに予定帝王切開となる症例が多くなっているように感じる.
合併症としては癒着胎盤,胎位異常,胎児発育不全,前置血管,臍帯卵膜付着などがある.
診 断
1.診断時期
子宮増大や子宮下節伸長に伴い,子宮口と胎盤辺縁の位置関係が変化することがある(図1)(placental migration).これはゴム風船を子宮に喩え,空気を入れる元の部分を子宮口,対側を子宮底とすると考えやすい.風船を膨らます前(妊娠初期)に,風船の下部にあった文字や絵は,風船が大きくなる(妊娠週数が進む)につれて根部からの距離が長くなっていく(子宮□から離れていく).しかし,本当に根元にあったものはいつまでもそこにあり続けるのである.実際の報告では前置胎盤の陽性的中率は妊娠5か月で12%であるが.妊娠週数が進行するにつれて徐々に増加し妊娠9か月で73%と妊娠週数が進むにつれて胎盤が内子宮口から離れていくことがわかる.このため前述のように胎盤位置についての評価を反復した場合は,最後の所見でもって最終診断とすることになっており,妊娠後期,場合によっては分娩中に最終診断がなされることもある.
これらを踏まえて,当院では妊娠20週の時点でスクリーニングをして,前置胎盤および低置胎盤については,最終的には妊娠34週の時点で最終判断として診断を確定している
2.診断方法
現在では前置胎盤は超音波検査により診断される.辺縁前置胎盤などでは分娩中のクスコ診による視診や内診により診断されることもあるが一般的ではない.走査方法の違いによる正論率の比較では,経腹超音波検査での正診率は約95%,経膣超音波検査では99%以上との報告がある(図3,4).そこで経腹超音波検査でスクリーニング検査を行い,否定しきれないものについては経膣超音波検査を施行する.経腹法では児頭の下降により胎盤と内子宮口の関係が十分な観察ができないことが多い.このときには、児頭が固定していなければ,これを挙上しながらプローブを走査することで観察が可能となることがあるので試していただきたい.
妊娠中の診断はあくまでも内子宮口と胎盤の関係であり,臨症診断上,以下の2つに分類されることが適切と考える.
1)胎盤が内子宮口を覆っている:complete placenta previa.
2)胎盤が内子宮口に接している:marginal (incomplete)placenta previa.
また,内子宮口から胎盤辺縁までが2cm未満のものを低置胎盤:low lying placentaとして前置胎盤と同様に扱っている.
(略)
おわりに
産婦人科診療ガイドライン作成委員会では,「前置癒着胎盤では十分準備を整えた予定手術を行っても,出血コントロール困難例は一定頻度で存在する.したがって,前置胎盤帝王切開の最大合併症は母体死亡ということになるが,これを術前にインフォームすべきかどうかは,医療倫理面でも種々議論があり,最終的結論はできなかった」としている.このことは産科医療において,われわれが最大限の努力をしても母体死亡をゼロにすることのできない医療の不確実性と限界を再認識させるものとして,重く受け止めたい.
私も前置胎盤で死にかけたんですよ。
手術の前に、夫は私が死ぬかもしてないと説明を受けました。
経験から言わせていただくと、患者にある一定以上の知識や教養がないと、すぐ訴訟になるかもしれませんね。
もちろん、私達は結果がどうであれ、訴えることは考えておりませんでした。
投稿情報: せんせい ありがとう♥ | 2007年12 月 1日 (土) 16:11