(関連目次)→ADRと第三者機関 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
続出した反対意見を無視した検討会
厚労省の第二次試案を疑問視する声が高まる
橋本佳子m3.com編集長 2007年11月19日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/071119_1.html
"医療事故調"とは、厚生労働省が現在導入を検討している「医療事故調査委員会」のこと。その動向に多くの医療関係者の注目が集まっている。医療の透明性を確保し、「医療崩壊」と称される現状を改善することなどが、"医療事故調"の目的だが、厚労省の検討会における議論の最終局面になって、医療界内部から疑問視する声が噴出しているからだ。
本連載「混迷する"医療事故調"の行方」では、"医療事故調"をめぐる議論を追う。
「第二次試案では、萎縮医療・医療崩壊が促進される又は決定的なものにする懸念がある」
「第二次試案の調査委員会は、医療者が求める原因究明・再発防止を目的とした校正中立な第三者機関とは異なる。拙速な結論は避けて引き続き慎重な検討を進めるべき」
厚労省が、“医療事故調”に関する第二次試案を公表したのは、10月17日のこと。パブリックコメントを求めたところ、中には賛意も見られたが、それ以上に目立ったのが強い反対意見だ。ところが、11月8日に開催された「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」では、出席した日本医師会常任理事の木下勝之氏をはじめ、医師側の代表は、第二次試案には基本的には賛成するとし、現場の医療者から反対意見が相次いだことについては、「(“医療事故調”に関する、現場の医療者への)説明不足」と一蹴した。
実は検討会に先立つ11月1日、自民党本部で「医療紛争処理のあり方検討会」が開催され、日医をはじめとする医療者代表、厚労省、法務省、警察庁の担当者が出席した。その席上でも、「第二次試案を大筋で認める」との趣旨の発言が医療者代表からなされた。
とはいえ、議論をまとめようとする厚労省や関係者の思惑とは裏腹に、臨床の第一線に立つ医師からは、“医療事故調”を問題視する声が日増しに高まっている。その急先鋒の一人が、虎の門病院(東京都港区)泌尿器科部長の小松秀樹氏だ。
目的は「医療崩壊」阻止にあったはずだが…
“医療事故調”や第二次試案について、ここで説明しておく。厚労省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等に在り方に関する検討会」は、今年4月20日に第1回の会議が開催され、11月8日までに計9回開かれている。
この検討会の目的は、その名の通り、診療行為に関連した死亡に係る死因究明の仕組みやその届け出の在り方などについて整理することにある。医療事故で患者が死亡した場合、遺族の多くは「なぜ死亡したのか、真相を知りたい」との思いを抱く。現状では、医療機関側の説明で納得がいかず、紛争がこじれた場合、その解決は民事か刑事裁判に委ねるしかなく、そのハードルは高い。また最近では、帝王切開手術で妊婦が死亡、担当した産婦人科医が逮捕された「福島県立大野病院事件」のように、医療事故が刑事事件に発展するケースも目立つ。さらに、医療事故・過誤が社会問題化し、行政当局にも、医師免許停止などの行政処分を的確に行うべきとの世間の要請が高まっている。
こうした諸問題を解決しないと、医療の現場では萎縮医療が進み、医療は崩壊しかねない。それを食い止めるための仕組みづくりがこの検討会に求められていた。
10月17日の第二次試案を抜粋すると、以下の通りになる。
(1) 診療関連死の死因の調査や臨床経過の評価・分析を担当する「医療事故調査委員会」を設置する。
(2) 医療機関からの診療関連死の届け出を義務化する。届け出を怠った場合には、何らかのペナルティーを科すことができることとする。届け出先は、委員会を主管する大臣とし、必要な場合に警察に通報する。
(3) 調査報告書は、遺族および医療機関に交付するとともに、公表する。また再発防止策も講じる。
(4) 行政処分、民事紛争、刑事手続きにも、調査報告書を活用できることとする。
第二次試案の内容では、「診療関連死」の定義が曖昧な上、そもそも処分を前提とする届け出を行う自体に問題がある。これでは今一番解決すべきはずの医師・患者の紛争解決につながらないどころか、両者の軋轢(あつれき)も招く上、萎縮医療に拍車がかかる――。現場の医師・医療関係者の間に高まっているのは、こうした危機感だ。
コメント