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(投稿:by 僻地の産科医)
とりあえず、また文献ですo(^-^)o ..。*♡
なかなか妊産婦死亡の統計というのはそんなにとられていないらしくて、
公式には最近でたものとこちらだけみたい。また出てこればお伝えしますけれど。というわけで、両論文を読んでいると、『 脳出血なんて救えんよな~』という感慨を新たにしますo(^-^)o ..。*♡ ではどうぞ!
妊娠・分娩時の脳出血
鮫島浩
(周産期医学 vol.29 no.2 1999-2 p205-9)
はじめに
日本の周産期死亡率は世界のトツプレベルとなったが・妊産婦死亡はトツプレベルの2~3倍と未だに高率である。その中でも母体死亡に占める脳出血の割合は・他国に比べ日本では大きい。
そこで・厚生省心身障害研究の一環として,妊産婦死亡の防止に関する研究班が中心となり,平成3・4年の2年問に日本全国で発生したすべての妊産婦死亡を調査した。さらに産婦人科,脳外科,救急専門医・麻酔科医・その他の専門医などで組織された委員会で個々の症例に関して十分に討論を重ねたところ,27例が脳出血を主原因として母体死亡を起こしたと判定された.これらをまとめて報告した平成8年度の研究報告書と1〕,日本の母体死亡として出版された妊産婦死亡症例集をもとに2),本稿では脳出血による妊産婦死亡の現状を紹介する。さらに母体死亡の原因と背景を掘り下げ,妊産婦死亡防止のための今後の対策を模索した。
統計
図1に示すごとく,平成3,4年の2年間の総出生数は約240万であり,その中で母体死亡は230例,出生数10万あたりの妊産婦死亡率は9.46であった。230例中,研究班で個別の聞き取り調査が可能であった症例は197例であり,そのうち27例が脳出血であった・これは母体死亡全体の約14%(27/197)にあたる。また出生10万あたりでみると約1.1人が脳出血によって母体が死亡した計算となる。これらの数字をみると,脳出血の母体死亡原因に占める割合は決して小さくないことがわかる。
また,脳出血が原発性か続発性かを検討すると,27例中2例はDIC(1例は敗血症に伴う,もう1例は原因不明)に続発した脳内出血であり,残りの25例は原発性と考えられた。
1.発症年齢と経産回数
20代が14例,30代が11例,40代が2例であった。各年代別に分娩数10万あたりの妊産婦死亡率を計算すると順に1.0,1.2,7.8となり,加齢とともに増加し40代では有意に高率であった。初産,経産の割合をみると初産婦が17例で過半数を占めた。
2.既往歴と家族歴
明らかな既往歴を2例に認めた。1例は12歳時に脳動脈瘤のクリッピング術を,もう1例には8歳時に脳出血の既往があった。また疑わしい症状として,小児期の痙攣,紫斑をつくりやすい体質,重症の頭痛がそれぞれ1例ずつに認められた(図2)。脳動脈瘤の家族歴を1例に認めた。
今回の妊娠中にも,重症の頭痛,異常歩行(跛行),痙撃発作をそれぞれ1例ずつ認めたが,さらなる精査は行われていなかった。以上の症例の中から重複例を除いても,27例中7例に何らかの既往歴,家族歴が認められており,今後の予防対策を考える時に重要な役割を果たすと思われる。
3.発症時期
妊娠中の発症が12例,分娩中が5例,産褥期が9例(うち2例は続発性)であった。
妊娠中では20週未満が2例,20~28週が1例,28~36週までが最も多く7例,36週以降が2例であった。分娩中の5例中4例は正期産で,残りの1例は妊娠20週の中期中絶中に発症した。産褥期の9例中7例,78%は分娩後24時間以内の発症であり,産褥早期がハイリスクであると考えられた。
4.脳内出血とクモ膜下出血
脳内出血が20例と約3/4を占め,クモ膜下出血は7例であった。脳内出血20例中10例は妊娠中の発症であり,分娩時に4例,産褥期に5例,子宮外妊娠合併1例であった。続発性の2症例はともに産褥期の脳内出血であった。したがって原発性の脳内出血では妊娠中の発症が過半数であった。一方,クモ膜下出血は7例中4例が産褥期の出血であった。このように,脳内出血は主に妊娠中,クモ膜下出血は主に産褥期と,好発する発症時期に違いを認めた。
5.発症場所
妊娠中の12例中9例は自宅で発症した。その他の18例中・産褥14日目に発症した1例を除き、いずれも産婦人科入院中に発症した。このように脳出血による母体死亡の約6割は院内発症であり,産婦人科医としても適切な対応が要求される。
6.初発症状
突然の意識消失や痙撃発作あるいは呼吸停止で発症した症例が13例と約半数を占めた。頭痛や嘔吐が初発症状であった症例は8例であった。運動障害・歩行障害・発語障害・脱力・視覚障害・傾眠傾向などの神経症状が6例に初発症状として出現した。
片麻痺,一側の眼症状,一側の肩痛など,症状に左右差の認められた症例が4例あり,片側の頭蓋内病変を示唆する所見として診断上有用な所見と考えられた。
母子手帳の記載から,脳出血と妊娠中毒症の関係を検討した結果,5例に妊娠中毒症を認めた。しかし,重症の妊娠中毒症は2例のみであった。
診断
2例が解剖された(行政解剖,司法解剖が1例ずつ)。また3例は臨床診断のみであった。残りの22例はCT,MRI,血管造影などの画像診断がなされた(図3)。血管造影された7例と解剖2例の計9例中,2例に動脈瘤,2例に動静脈奇形,2例にもやもや病を認めた。動脈瘤の2例は産褥期発症で,動静脈奇形ともやもや病は妊娠中の発症であった。
画像診断までの時間は,早い症例では初発症状発現から1時問以内,遅い症例では5日間を要した。内訳は3時間以内が6例,3~6時間が4例,24時間までが6例,1日以降が6例であった。
このように,母体死亡に至った脳出血症例を後方視的にみると,発症後数時間以内に画像診断された例は1/4に過ぎず,大多数は診断までに長時間を要していることがわかった。これと関連して,画診断時の脳外科医が手術適応ありと判断した症例は3例に過ぎなかった(図3)。適応のありなしと画像診断までの時間との関係を図4に示すが,適応ありの症例はいずれも6時間以内に画像診断がなされていた。統計学的な差は認めないが,早期に画像診断が行われていれば手術適応症例が増加し,救命可能症例も増加する可能性は否定できない。
発症から死亡までの時間
24時間以内の死亡が11例で全体の約40%を占め,急激な臨床経過をたどる症例が多いことが判明した。一方,発症後1週間以降の死亡も13例と約半数あり,慢性化した症例の管理の困難性が示された。
搬送の問題
27例中20例が搬送された。残りの7例中5例は脳外科医が勤務し,CT等の画像診断機器を備えたセンター病院で発症し,他の2例は産婦人科の一般病医院で発症し,そこで母体死亡に至った(図5)。
搬送された20例中15例は直接,脳外科やCT等の画像診断機器を備えたセンター病院に搬送された(図5)。しかし残りの5例は脳外科やCT等の画像診断機器を備えていない施設に搬送され,このうち4例はさらにセンター病院に搬送された。しかし5例中1例はセンター病院に搬送されないまま母体死亡となった。
搬送に伴って臨床症状が悪化した症例は20例中10例にも及んだ。この中には,手術適応ありと判断されたにもかかわらず2回目の搬送後には血腫が著明に拡大し手術不可能となった症例や,搬送依頼後に搬送許可が得られるまでの間に脳動脈瘤が再破裂した症例など,明らかに搬送に問題を残す症例が含まれた。
救命の可能性と考察
救命の可能性を客観的に検討する目的で,産婦人科,脳外科,麻酔科,救急專門医,その他の各専門医からなる委員会が別に設置され,個々の症例を詳細に検討した。救命の可能性を[救命不可能と判定した委員が0で,かつ,ある程度救命可能と判定した委員が総数の70%以上]と厳しく設定すると,この27症例中,救命可能な症例は1例のみであった1)。
次に,既往歴など脳出血発症以前の管理を改善することで救命できた可能性を検討すると,明らかな既往歴を持つ2例(クリッピング術と脳出血)と今回の妊娠中に痙撃発作を起こした1例は,少なくとも脳出血に対する何らかの予防策を講じることができたと推測された。また,紫斑体質の1例,敗血症によるDICの1例も,適切な凝固線溶系の治療により救命できた可能性があったと考えられた。
搬送の問題で救命できなかった2例も,発症後の適切な対応によっては救命可能と判定できる。したがって,個々の症例をみると,少なくとも8例の約30%には救命の可能性があったと推測された。
次に,救命率を向上させるための今後の対策について検討を加えた。
ひとつには,ルーチンとして行われている家族歴,既往歴を見直し,脳血管障害と母体死亡の密接な関係を考慮に入れ,細心の注意を払いながら聴取することが重要である。また,頻発する頭痛などのように見逃されやすい症状にも注意をはらう必要がある。次に,画像診断までの時間を短縮することも要因のひとつであろうと推測される。今回の検討ではわずか1/4以下の症例のみが発症後数時間以内に脳内出血の診断が可能であった・妊娠-産褥期に頭痛・嘔吐・痙撃・意識消失をみると・産婦人科医の多くは妊娠中毒症や子癇発作と考えその治療を優先させる。この治療方針は正しいが,脳出血を見逃し,母体死亡を起こしてしまってはならない。妊娠中毒症や子癇発作と異なる症状が出現したら,画像診断を行い,脳出血を鑑別する必要がある。今回の検討からは・まず運動障害・歩行障害,発語障害,脱力,視覚障害などの神経経症の出現,次に片麻痺,一側の眼症状などの症状,左右差も鑑別の一助となると考えられる。このような症状を基に脳出血を疑った場合,画像診断を早急に行うことで,救命率を上昇させる可能性ある。
搬送の問題も母体死亡の予防と密接な関係があると考えられる。脳外科医,麻酔医などのマンパワーと,画像検査等の設備面や,救急センターICU等の施設面が充実した総合医療センターが24時間体制で稼動し,しかも数時間以内にそのセンターに搬送できるシステムが必要である。また,搬送に伴い50%が症状の悪化をみており,搬送中の呼吸管理,循環管理など,救急専門医との連携で対策を講ずる必要がある。
鮫島先生が書かれた1999年の日本の状況と2007年の現在とほとんど変化がないというかシステムに関しては逆に悪化しているでしょうか?
妊娠時の脳出血の予後が悪いことは意外と一般の医師にも知られていない事実だと思います。乳児期死亡率世界一と日本が誇る医療レベルはよく聞きますが、妊婦が脳出血を起こすと予後は決してよくないことを啓蒙し、システムの改善が速やかに行われることを切望します。
投稿情報: Taichan | 2007年9 月 7日 (金) 02:56
最後の提言(「脳外科医,麻酔医などのマンパワーと,画像検査等の設備面や,救急センターICU等の施設面が充実した総合医療センターが24時間体制で稼動し,しかも数時間以内にそのセンターに搬送できるシステム」作り)には考えさせられました。
こういった「無限の資金とマンパワー(呼吸管理,循環管理などが連携できる救急専門医)があればマシになる」という解決策は、理想論としては大変大事だと思いますが、その実はほとんど何も言っていないに等しいとも言えませんか。
マスコミの「医者が無限に頑張ればなんとかなる」を連想しました。
投稿情報: Anonymous | 2007年9 月 7日 (金) 09:48