(関連目次)→助産師分娩について考える
(投稿:by 僻地の産科医)
平成16年の助産所からの搬送例についての論文を見つけました。
guri先生、ありがとうございます(>▽<)!!!!!!
あと驚いたのは、「3.助産所からの新生児搬送」のところの最後の方。
「15例のうち9例が早産,適期産,IUGR,双胎,胎児不整脈,non reassuring fetal status であり,取り扱い基準逸脱例と考えられた(表2)」というところです。
助産所からの搬送例の実状と周産期予後
北里大学医学部産婦人科・小児科*
池田泰裕 鴨下詠美 望月純子 金井雄二
右島富士男 谷 昭博 天野 完 野渡正彦*
(日本周産期・新生児医学会雑誌 第40巻 第3号 p553-556)
概 要
過去5年間に北里大学病院で受け入れた助産所からの母体搬送21例,新生児搬送15例の予後について後方視的に検討した.その結果,助産所からの搬送36例中4例が新生児死亡,1例か乳児死亡であった。同時期の1次,2次施設からの母体搬送742例中新生児死亡は34例(4.6%)であったが,助産所からの母体搬送21例中死亡例は4例(19,0%)で有意に高頻度であった.助産所か分娩取り扱い基準を遵守していれば救命し得た症例もあった。助産所は周産期救急医療システムの理解を深め,関連協力病院との連携を密にする必要があると考えられた.
緒 言
近年,妊産婦の分娩に対するニーズは多様化し,極力医療介入を排し,より「自然」なかたちでの分娩を望む妊婦が増加している.われわれの病院の周辺には助産所が6施設あるか,助産所からの母体搬送・新生児搬送例には予後・経過不良例が散見されている.そこで1998年から2002年の過去5年間に受け入れた,助産所からの母体搬送・新生児搬送例の予後について後方視的に検討した.
1.神奈川県の周産期救急システム
1975年に厚生省によっておこなわれた「母子緊急医療システムに関する研究を分担し,緊急基準の作成,産科グルーブ体制の育成,母子救急センター体制,母子緊急医療システム構想等について検討された.翌1976年には,グルーブ診療の推進や母子救急センター病院のありなどについてまとめられた.
こうした産科救急への対応の中で,新生児の管理,治療の問題が急浮上していった.1978年に神奈川県新生児未熟児連絡会が組織され,連絡会会員相互の連携で病的新生児の受け入れを開始した.翌1979年,行政,医師会,小児科医会,産婦人科医会,保健所よりなる神奈川県救急医療問題調査会新生児部会が正式に発足し,1981年には神奈川県新生児救急システムとして稼動した。その結果,新生児死亡率(対出生1,000)は1980年の4.9から1983年には3、4に低下したが,さらなる児の予後の改善には母体搬送(transfer in utero)が必要であるとの考えから,1983年に神奈川県救急医療問題調査会に産科救急部会が発足した.
1985年神奈川県産科救急医療システムの完成とともに,新生児救急システムと合わせて,[神奈川県周産期救急医療システム]が稼動することになった.県内を6地域に分割し,それぞれに基幹病院,協力病院を設定し(図1),搬送は消防本部の協力のもと周産期救急医療システムを運営している3).
また,定期的に医療システム,搬送システムの勉強会・検討会を設け,システムの円滑な運営を図っている.原則として搬送対象は地域内での症例としているか,受け入れが困難な場合には他地域の基幹病院とも協力・連携している.2003年4月1日には,さらに変革が加えられ協力病院の見直しにより新たに中核病院,協力病院が設けられた(図1).
2.助産所からの母体搬送
北里大学病院において,1998年から2002年の5年間の母体搬送依頼総数は1,627件,そのうち受け入れ可能であったのは763件(46.9%)であった.母体搬送の依頼件数は年々増加しているが,NICUの収容能力から受入数としては年度間に大きな変動はなく150件程度であった.助産所からのほ体搬送依頼は年間およそ3~6件で,5年間で21件(2.8%)あり全例受け入れていた(図2).
その内訳はnon reassuring fetal status 9例(42.8%〉,PROMと切迫流早産5例(23.8%),弛緩出血と癒着胎盤3例(14.3%),早剥1例(4.8%),前置胎盤1例(4.8%),その他2例であった(表1〉.
母体搬送の実例を呈示する.
症例:29歳,0経妊0経産.
診断:妊娠41週0日・遷延分娩・子宮内感染
non reassuring fetal status
経過:妊娠初期より助産所で管理されていた.40週2日,陣痛発来後,4日間水中分娩を行っていた.40週5日21時破水(羊混2+),22時子宮口全開大後経過観察していたが,所見の進行が認められず,41週0日で母体搬送となった.
身体所見:体温37,3℃,脈拍数88/min.
内診所見:頭位,sp±0,子宮口全開大
羊混3+(悪臭あり)
入院時のCTGモニタリングで高度変動一過性腺脈,基線細変動消失を認め,non reassuring fetal statusの診断にて緊急帝王切開術となった.
新生児所見
出生体重:3,157g Ap.S 0/0(10分値1点).
臍帯動脈血pH:6.72
血液検査:WBC 24,400/mm3 Plt 17.9×103/mm3 CRP8,502μg/dl.
児胃内容培養:H.Parainfluenzae
(母体の腔培養からE.coli,Staph.Epidermidis,H.Parainauenzaeが検出された.〉
重症感染症のため,日齢5新生児死亡となった。
3.助産所からの新生児搬送
1998年から2002年の5年間のNICU総入院数1,295例のうち,院外出生時は393例(30.3%)であった.助産所からの新生児搬送依頼は45例で,受け入れた症例は15例で5年間の総入院数の1、2%であった(図3).
依頼理由の内訳は呼吸障害5名(33.3%),チアノーゼ5名(33.3%),低出生体重児2名(13.3%),発熱・新生児仮死・不整脈が各々1名であった.この15例のうち9例が早産,適期産,IUGR,双胎,胎児不整脈,non reassuring fetal status であり,取り扱い基準逸脱例と考えられた(表2).
4.搬送例の予後
母体搬送21例中3例(14,3%)が新生児死亡、1例(4.8%)か乳児死亡であった.いずれも妊娠正期のnon reassuring fetal statusが搬送理由(表1〉で,その中には助産所取り扱い基準を逸脱(既往帝切,骨盤位,IUGR,適期産)している症例もあった.同時期の1次,2次施設から当院への母体搬送は742例あり,新生児死亡は34例(4.6%)であった.一方助産所からの母体搬送は21例あり死亡例か4例(19.0%)と,有意に高頻度であった(図4).
新生児搬送15例中,助産所取扱い基準逸脱例は9例であった.このうち双胎の症例は分娩中に初めて双胎と判明したものだった.逸脱例9例中1例が新生児死亡となったが,これら逸脱例は病院で管理されるべき症例であり,出生前診断か可能であったと思われた(表2).
5、考察
妊婦の出産に対する要望は多種多様になってきた.妊婦のなかには様々なメディア,口伝より情報を入手し,満足度の高い分娩を行うために分娩場所や分娩方法を自主的に選択するケースも増えつつある.助産所分娩,あるいは助産師による自宅分娩を希望する妊婦が存在し,その結果満足がいく分娩が行われ,正児を得ていることも事実である、われわれの地域内にも助産所が6施設あり,そこでの分娩を希望する妊婦も見受けられる.しかしながら,助産所での活動内容(健診内容,分娩様式,分娩数など)はわれわれ医療機関側からは不明な点が多く,また助産所における嘱託医制度についても形骸化していると言われて久しい.
助産所分娩取り扱い基準では助産所分娩の対象者を限定しており,それ以外の症例は病院分娩を選択すべきであると明示されている.しかしながら当院への母体搬送・新生児搬送例を検討してみると,助産所分娩には適さない妊婦が経過中に医療機関を受診せずに,助産所で分娩していることもあることが判明した.さらには妊婦の,あるいは助産所のあまりにも強い「自然」分娩指向があるためなのか,搬送時期が遅れ重症・予後不良となった症例もみられた.
助産所分娩取り扱い基準には緊急対策についても明記されている.「分娩が開始したら,嘱託医師に連絡をし…」緊急時には「経過の詳細な記録(発生時間,医師に連絡した時間,妊産褥婦・新生児の全身状態及びその変化)」等々詳細に示されているが,母体搬送・新生児搬送の際の助産所側からの患者情報と搬送患者の実際の重症度が異なることがしばしばあった.そのため軽症と判断し関連病院への搬送後,基幹病院へ再搬送となる症例もあった(表2・一症例2).また,助産所通院中に産科を受診し胎児に異常があることが分かっても,妊婦か助産院での出産を希望し,分娩後新生児搬送となった症例もみられた(表2一症例9).
平成8年に大分県立看護科学大学で有床助産所に対する母児搬送判新基準と救急支援体制に関する全国調査が行われている.それによるとPROM,双胎,non reassuring fetal status,骨盤位,臍帯下垂等を認めても助産所において対応しようとする施設もある.たとえば,分娩時に骨盤位であることが判明しても,開業10年以上の34人中18人(53%),開業10年未満の6人中1人(17%)は母体搬送の判断基準とはならないと考えているという.
助産所取り扱い基準を遵守していれば,救命し得た症例があることを助産所に認識してもらう必要があり,母児の安全を確保するためには周産期救急医療システムに理解を深め,システムヘの積極的な参加を促す必要があると考えられる.
文 献
1)佐藤啓治、神奈川県における産科救急の実態.産婦
人科治療1993 ; 66 : 806-810
2)天野完.医療の機能分担としての病診連携、日本
母性保護産婦人科医会.関束ブコック会報2001;
19:22-23
3)斎藤克,天野完、西島正博ほか.母体搬送受け入
れ施設の現状.周席期医学1999 ; 29 : 1243-1246
4`)石塚和子ほか.助産所の分娩取扱い基準並びに搬送
基準、助産所開業マニュアル(改訂版)2002:拓3-167
5)宮崎文子ほか.肋産院における母児搬送判新基準と
救急支援体制に関する実態調査、日本助産学会誌
1999 ; 13 : 22-29
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