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各地で続々と産科が撤退していきます。
産科医がどんどん減っていっています。
(H16には11282人いた産科医ですが、
H18.8月の産婦人科医会の発表では7873人)
なぜでしょうか?
労働条件が厳しいから? もちろんそれもあります。
訴訟率が高いから?
それもあるでしょう。ひょっとしたら敗訴率だって高いかもしれません。
民事訴訟額が高いから?
そうですね。まったく生涯賃金ペイしないくらいに高いのが現状。
女性医師が増えているから?
現実的にはあります。でも結構、子持ち女医だって頑張ってる。
でも本当のところ、訴訟の増加が私たちを追い詰めるのではありません。
医療訴訟の求める厳格すぎる医療への要求水準が、
私たちを追い詰めているのです。
語られてこなかったことですが、
「産科医療」はもともと穴だらけなのです。
分娩は夜間に多いです。
胎児モニタリングのない時代なら胎児の状態を知ることもできなかったですから緊急帝王切開は「緊急」で行うこともなかった。しかしいまの医療水準では30分以内に帝王切開を行うことが推奨される場面がいくつもあります。
緊急の出血時には、あっというまに亡くなる。
昔なら輸血は届かなかった。仕方ないで終わることもあった。
でも現代ではそれは許されません。
いわば、すぐに医師が対応せねばならない事態が多くなりました。
しかし現実には産科医師はそうたくさんいるものではありません。
1999年長屋憲「妊産婦死亡防止のための周産期医療体制」
(周産期医学1999年2月)によりますと、1992年の段階で日本の一施設における勤務医数は下記のようになります。
1産婦人科施設当たり 1入院医療施設当たり (年度)
の産婦人科医師数 の麻酔科医師数
日本 1.36 0.21 (1992~1994)
アメリカ 6.69 4.95 (1992~1995)
(ちなみにこのころよりも
産婦人科医師数は実は減り続けています
by厚労省資料)
医療技術は上がり、一分一刻を争う場面がどんどん増えているにもかかわらず、産婦人科医の勤務はよくても「当直」、せいぜい「待機」であるのが現実です。昼には外来と手術があります。
36時間勤務を行わねばならないのは「時間交代制」という勤務態勢が日本にはないからです。昔から<当直>という代替手段によってカバーしてきたのが現実です。そしてこの乖離が支えがたいほどに増大してきました。ひとつは産科医師の減少によって。ひとつは尽きることのない「訴訟」「報道等による医療レベル水準の要求」によって。
たとえば、この前の奈良死産事件と騒がれた当日の奈良医大の状況です。
新小児科医のつぶやき 2007-09-02
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070902
当直医師らがひどい労働条件に陥っているのに気がつかれませんでしょうか?
大淀病院事件においても、詳細は存じ上げませんが、
0時に妊婦さんに点滴指示を与え
0:14頃にも一度診察をされており、
1:37には痙攣に対して処置をされ、
4:30には挿管等の処置を行い、救急車に同乗し、
5:50国立循環器センターに搬入後、
救急車で病院へ帰られたのは7時頃でしょうか。
もちろん一人医長ですから8:30からは外来や入院回診等が続きます。
毎日毎日、このような日々ばかりではありません。
しかし、このような日が一日でもあれば、しばらくぐったりと疲れきります。
30分以内に帝王切開ができるのが世界標準なのかもしれませんが、
そしてそのようなことは産科医師こそがもっとも承知しており、
しかし現実産科医師がそのようにたくさんいるわけでもなく、
一番危険性を承知しながら、「こわい」と思いながら、
もう一生懸命このシステムの穴をふさぐ努力を続けていくのは「いやだ」
と思った時に辞める決心をしているように、私には思えます。
そしてすべての「根本的な原因は、日本の特殊な医療システムを背景とした、24時間体制の不備に基づく。」
という長屋憲「妊産婦死亡防止のための周産期医療体制」の結論に私は深く同意します。
「当直」という耳触りだけのよい、しかし実態は「24時間体制の不備」であるシステムについて今一度考えなおしてみてはいただけないでしょうか。
こんにちは: 紀伊民報にメールを出しました。内容は以下のようなものです。
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開業医です。9月6日(木)の社説・コラム「『医は仁術』はどこへ」は医療系のブログでは物笑いのたねになっています。いくら和歌山の田舎の名もない新聞社とはいえ、悲しすぎる内容でした。少しインターネットで調べれば、救急車で搬送された患者が、1)年齢を偽り、2)結婚しておらず、3)医師に伝えられた情報は妊娠しているかも定かではなく(産婦人科を受診していないので「妊娠」と断定できない)、4)妊娠7ヶ月(後に判明)なのに婦人科に行かず、5)以前に流産の経験があるのに、前日からの出血を放置し、当日、夜の2時半過ぎに深夜スーパーに買い物に行く、・・・こんな患者はフォロー困難です。また、奈良医科大学の産婦人科は当日(たぶんいつものことでしょう)猛烈に忙しかったことがnetで公開されています。調べれば、こんな無責任で馬鹿なコラムは書けないと思うのですが、書いてしまうところが和歌山の田舎たるところでしょうか?
また、このコラムに対するフォローとして、9月11日(火)に「産科医の過重労働」と言うコラムを書いていますが、内容が何も有りません、反省もしていません。また提言もしていません。偉そうに「医は仁術」を言うなら、医師に仁術を発揮できるような環境をどうすれば整えられるのか、考えて下さい。
目先、南和歌山医療センターで助産師外来をするようですが、これは産婦人科専門医の間からは賛否両論(否定が強い)があり、中井國雄院長が、批判的なブログに本名で意見を書きましたが、否定意見が強いようです。地元の問題ですから、取り上げるならマイナス面も「こう言う意見がある」と取り上げれば?と思います。そちらの知的レベルが判らないので、こういう文章になりましたが、気に障ったなら、お許しを・・・
投稿情報: aqua2020 | 2007年9 月11日 (火) 15:10
aqua2020さま、本当に同感です。
人間疲れすぎると他人への思いやりを忘れてしまうなんてことはよく経験すると思うのですが・・・。
今の医療現場には、自分のことで精一杯、仕事をこなすのに精一杯という医師しかいないのではないかと思います。
医療現場は疲弊しています。
投稿情報: 白熊もどき | 2007年9 月11日 (火) 18:06
マスコミさんが医師の過重労働を取り上げるときには、
時間外労働に当直を含まないのに・・・。
そのときの言い分は、当直は電話番程度の労働だからってことですけど。
でも、当直が対応不十分だったりする事件が起こると、
当直がいるのに、日中帯と同じ対応ができなくてけしからんという論調。
日本で2~3交代制を敷いている産科救急の病院なんて
あるんでしょうか。。。
投稿情報: y-gami | 2007年9 月11日 (火) 19:13
トラックバックありがとうございました。
ところで、最近妙に医療関係のニュースが多い気がするのは私だけ?
投稿情報: mosriteowner | 2007年9 月12日 (水) 02:24
いつも勉強させていただいています。
かなり脱線した内容になってしまいましたが、私のブログでも紹介させて頂きました。
深く考えています。
投稿情報: 琴子の母 | 2007年9 月12日 (水) 12:31