(関連文献→) VBAC 目次
最近、否定的になりつつあるVBACですけれど、
なかなか面白い文献をみつけたので、貼ってみることにしましたo(^-^)o ..。*♡
なぜ、VBACか。前嫌だったから!という答えみたい。
VBACの心理過程をのぞく
斎藤克
(産婦人科の実際 vol.52 No.2 February, 2003 p207-212)
帝切既往妊婦の分娩様式選択には,前回の分娩に対する否定的感情が大きく関与している。このため,帝切既往妊婦の妊娠・分娩管理のひとつとして前回の分娩体験を明らかにし,妊娠中の精神的安定と医療従事者との信頼関係をつくることが重要であり,それが帝切既往妊婦にとっての最適な分娩様式の選択につながる。またVBACを行った産婦の分娩に対する満足度は高くはなく,産後のメンタルサポートが必要と考えられる。
はじめに
Vaginal birth after cesarean section (VBAC)は子宮破裂により母児に危険が生じる可能性がある。妊婦が危険を認識しながら
VBACを選択する過程には,妊婦自身の意志だけではなく,医療従事者の分娩に対する考え方も影響することが考えられる。この稿では帝王切開術既往妊婦(帝切既往妊婦)がどのようにして分娩様式を選択しているかを検討し,VBACを行う妊婦へのサポートを考察する。
Ⅰ.VBACの選択
VBACを選択する妊婦の頻度は16~81%と報告により差が認められる1)。VBAC成功率や周産期予後を考慮しても,選択をする妊婦の頻
度はそれほど高いものとはいえない。Lauら2〕は,初めて帝王切開を受けた手術直後の褥婦49例と帝切既往妊婦50例に対し,「VBACの成功率は70%」と説明した場合,両群ともに約53%の妊産婦がVBACを選択したと報告している。帝切直後の褥婦のVBAC選択率と帝切既往妊婦のVBAC選択率との間に差を認めなかったことから,帝切を受けた直後にすでに次回の希望分娩様式が決まっていると考察している。Kirkら3)も同様にVBACを選択した妊婦の68%は妊娠前もしくは妊娠初期からすでにVBACを決めていたと報告している。Abitbolら4)は,312名の帝切既往妊婦にVBACのリスク・ベネフィットを集団で説明後,2回の個人面接による十分なインフォームド・コンセントをおこないVBACを勧めたが,40%の妊婦からは同意が得られなかったと報告している。
Ⅱ.選択に影響を与える要因(表1)
1.妊婦の心理
帝切既往妊婦の分娩様式選択に関するいくつかのアンケート調査では,VBACを選択する妊婦は,「経膣分娩は“自然"である」「手術に恐怖を感じる」「前回の帝切に対し否定的感情をもっている」とした意見が多く認められる。また,「経膣分娩は帝切に比べ,回復が早く,産後が楽である」が挙げられている。
これに対してVBACを希望せず帝切を選択した妊婦では「VBAC成功率が低い」「前回の分娩が否定的経験(長時間の分娩や産痛)となっている」「経膣分娩が怖い」「母体や胎児に与える危険を考慮する」とした意見が認められる。また,「分娩日や退院時期が明らかなため計画が立てやすい」との意見も挙げられている。
前回の帝切適応と分娩様式の選択には相反する報告が認められる。分娩停止などの難産による帝切既往妊婦は有意に帝切を選択し,胎児ジストレスの適応による帝切既往妊婦はVBACを選択するとの報告5〕が認められる(表2)。一方,既往手術が緊急か予定かでは,選択に差がなかったとの報告2〕も認められる。産婦の年齢,職業,教育程度,前回帝切時の麻酔効果などでは差はないが,経膣分娩の経験を有する妊婦や家族のために早く回復したいと考えている妊婦はVBACを選択している2)6)。しかし,多くの報告が帝切既往妊婦の分娩様式選択こは,前回の分娩に対する否定的感情が大きく影響す
るとしている。
2.社会的要因
VBACの選択には,産婦自身の意志だけではなく,医療従事者のVBACに対する取り組み方や分娩施設の問題など社会的要因が関与することが報告されている。VBACが積極的に行われ始めた1982年のMeireら7)の報告ではVBACを行うプログラム導入後では,帝切既往妊婦の選択的帝切率が27.9%減少したと報告している。また医師も導入以前はVBACに対する関心が57%と低く,また子宮破裂を心配して積極的にはVBACを行わなかったのに対して,導入後はVBACの安全性を理解し96%の医師が強い関心を示したとしている。
Josephら8)はACOGのガイドラインを満たす143例の帝切既往妊婦にVBACを勧め,59%がVBACに合意したが(表3,円グラフ:II・V),最終的にVBACを行ったのは35%(図1,II・III)であったと報告している。
VBACから帝切に変更した中には,患者自身の希望が8%(図1,VA)と医師が妊娠後期になってVBACから帝切への変更を勧めた19%(図1,VB)が認められた。最終的には,全体の27%が医師の勧めによる帝切の選択であった。またKhneら5〕は,VBAC群と選択的帝切群ともに,分娩様式の選択に医師の勧めは影響せず,VBAC群では患者自身の意思が75.2%と大きな要因となり,逆に選択的帝切群では,患者自身の希望は31.6%と低く,巨大児などの医学適応による選択がもっとも大きな要因であったと報告している(表3)。
分娩施設の違いが分娩様式の選択に影響することも考えられる。Pub1ichospitalでは医師の勧めがもっとも影響したとする頻度はVBAC群のなかで11%,選択的帝切群が33%であったのに対し,Private hospitalではそれぞれ2%,3%と医師の関与が少なかったと報告している。
ひとたび子宮破裂が生じた場合,母体もしくは胎児の生命に危険が生じ,一刻を争う“超緊急"帝切を行わなければならない事態になる。緊急時の対応の遅れはとくに胎児の神経後障害につながる可能性がある。わが国では,産科病棟もしくは分娩室内に手術室を持ち,産科麻酔医が常駐している施設はきわめてまれである。社会の変化とともに医療訴訟の頻度が増加し,分娩に関する訴訟が多くみとめられている現状から,医療従事者がVBACを回避することも当然のことと考えられる。
Ⅲ.帝切術既往妊婦の分娩に対する満足度
Abitbo1ら4〕は帝切既往妊婦の分娩に対する満足度について検討している(表4)。帝切既往妊婦312例中,選択的帝切を選択した125例
中,116例,93%が今回の分娩に満足をしていたのに対し,VBACを試みた187例では,99例,53%のみしか満足していなかった。
VBACに成功した122例中においても68%しか満足していない。その理由として,分娩までに時間がかったことや経膣分娩にともなう合併症を挙げている。また,VBACに成功し満足したと答えた1/3の症例でも,帝切は経膣分娩より楽なため,次の分娩は帝切を選択するとしている。
これに対し,VBACを試み帝切となった65例のうち,49例,75%は不満足で,とくに長時間経腔分娩を試みたあとの帝切移行例では不満度が高かった。入院中にVBACに対する不満を訴えていない症例でも,個人面接を行った場合,多くの例が非常に強い不満や怒りを訴えていたとしている。
これらの結果から,VBACの満足度は医療従事者が考えるほどには高くはない。とくに,VBACを試み帝切となった症例では不満度が高く,VBACを行った症例に対するメンタルサポートが重要と考えられる。
Ⅳ.VBAC選択までの心理過程―精神疾患合併妊婦のVBAC選択例から―
当院ではACOGのガイドラインにそって,VBACの適応となる産婦にはVBACを勧めている。われわれは,セルフケア能力が欠け分娩時のさまざまな不安や不安定な精神状態から約1/3が錯乱分娩となる可能性がある精神疾患合併妊婦のVBACを2例経験した。この2例の妊娠中の看護記録および分娩後の半構成的面接内容から,KJ法により2症例に共通した項目をカテゴリー別に抽出し(表5),関連図を作成し(図2)VBACにいたる心理過程を検討した8)。
症例は不安神経症の2例で,1例は妊娠中増悪傾向があり,精神療法,薬物療法,自立訓練法を施行。1例は妊娠中に増悪がなく,精神療法を施行していた。前回の手術適応は前置胎盤と胎児ジストレスであった。
VBACにいたるまでの心理に影響を及ぼすカテゴリーを抽出すると,表5の5つのカテゴリーとサブカテゴリーが抽出された。妊娠初期は「前回の分娩体験」に対し,「分娩による精神状態への影響」「VBACによる身体へのリスク」が否定的なカテゴリーとなり,VBACを選択することに対して否定的に影響している。
しかしその後,「妊娠中の精神的自已評価」を行い,精神面の安定が肯定的に作用している。また妊婦健診により「医療従事者との関係」が良好に構築された後には「VBACによる身体へのリスク」「分娩による精神状態への影響」が肯定に変化し,「妊娠中の精神状態」がさらに安定と安心感をもたらした後に,VBACの選択となっている。また,VBACの成功は分娩の達成感・満足感となり,育児への自信につながっていた。
今回の検討でもVBACを選択するか否かには前回の分娩体験・医療者との関係・妊娠中の精神的安定が大きく関与していることが明らかとなった。妊娠から産後まで一貫したメンタルサポートの重要性が示唆された。
Ⅴ.帝切既往妊婦の妊娠・分娩管理
帝切術既往妊婦が外来を受診した場合,医師はACOGのガイドラインを念頭に,周産期予後を中心としたインフォームド・コンセントを行い分娩様式を決定しようとする。しかし,帝切既往妊婦は前回の分娩体験が今回の妊娠・分娩に大きく影響を及ぼすことから,VBACなどの分娩様式に言及する前に,まず前回の分娩に対する経験を十分に振り返り再検討することが必要と考えられる。
過度の苦痛を味あわず,自然に,かつ自已のバースプランに沿った分娩を行った場合,産婦にとってもっとも満足した体験になりうる。経膣分娩を希望しながら母体もしくは胎児適応により帝切となった場合,出産に対する失望感,失敗感,喪失感から経膣分娩を行った産婦にくらべ分娩体験を否定的に考える。また適切なサポートが得られないと自己評価を低下させ,母児の相互関係に影響を及ぼす可能性がある。
このため,外来での助産師による保健指導の場は情報を収集し患者との信頼関係を構築するうえで重要である。前回の分娩体験を振り返り正しい情報伝達を行う,いわゆる準備教育を行うことが過度の恐怖を取り除き,妊娠中の精神的安定につながり,帝切既往妊婦にとっての最適な分娩様式の選択となる。また,結果が悪い場合でも,準備教育のなかでの予期的悲嘆を経ることで,実際に生ずる心理的負担の軽減にもつながる。
患者との信頼関係を構築したうえでVBACを含めた分娩様式を決定することが,今回の分娩を行ううえで不可欠である。また分娩後にはVBACの成功か否かにかかわらず,前回の分娩体験を含め,今回の分娩体験を振り返る必要性がある。VBACを試み帝切となった症例は前回の分娩以上に妊婦の分娩体験が否定的となりやすく,その後の母児関係に影響を及ぼす可能性があり,メンタルサポートは重要である。
おわりに
帝切既往妊婦は,次の分娩様式の決定に前回の分娩体験が大きく影響していることから,前回の分娩体験を振り返り,分娩に対する過度の恐怖を取り除き,妊娠中の精神的安定をはかる必要がある。患者との信頼関係を構築したうえでVBACを含めた分娩様式を決定することが,帝切既往妊婦にとっての最適な分娩様式の選択となる。また,VBACをおこなった場合の満足度は,医療従事者が考えるほど高くはなく,成功,不成功にかかわらず分娩後のメンタルサポートは不可欠である。
はじめてコメントさせていただきます。
(某所ではリンクを貼っていただきましてありがとうございました!感激です)
私はVBACを希望してた1人です。
前嫌だったから!っていうの、一言でほぼ言い表せていてなんだか笑ってしまいました(^^;)
反論もあるでしょうが、確かにVBACを希望する人はそういう理由ですね~。
私は結局、陣痛は来たものの、不全子宮破裂を起こして超緊急帝王切開で母子ともに無事でした。
だから、「VBACしたい!」って気持ちもわかるし、VBACの恐ろしさも身を持って知りました。
帝王切開者に対するケアと同時に「お産で何かあるなんて、どっかよその人の話~」といった妊婦さんやその家族の考え方を変えて行かなくてはいけないな~と思います。
投稿情報: 桃tea | 2007年7 月29日 (日) 22:48
桃teaさま、コメントありがとう存じますo(^-^)o ..。*♡
どこへのリンクかわかりました(笑)。
世間って狭いですね、ご覧になっていたとは!
>帝王切開者に対するケアと同時に
>「お産で何かあるなんて、どっかよその人の話~」といった妊婦さんや
>その家族の考え方を変えて行かなくてはいけないな~
私も本当に心からそう思いますo(^-^)o ..。*♡
なかなかうまくいかないけれど、病気や、突然の緊急事態は避けえないけれど、分娩全体に関してもいえることだけれど、
「なかなか人生って、思うほどうまくいかないよ?」
っていうこと、すこしでも感じていただけたらいいな、とおもうのです。
またCSなどでつらい思いをされた方に、
「人生、そんなにつらく感じることもないんだよ?」
って伝えていければいい。そんな私も帝王切開分娩です(笑)。
なかなか危険性を広めていくことって、難しいです。
脅しすぎもよくないと思うのですが、重大性がわかってもらいにくいのです。桃teaさまのようにいろいろあってブログに書いていただけると本当にみなさまにとってはいいことだと思うのですが、なかなか分娩があまりつらくなかった人のほうがブログを書きたがる傾向があり、(なんでしょう、自慢ぽいと言いますか)ひどい目にあってしまった方は、やっぱりめげてしまってそれどころじゃなくなっちゃうんですよね。
また機会があれば、ぜひぜひ宣伝させていただきます!
よろしくお願いいたします!!!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年7 月29日 (日) 23:07
はじめまして。
帝王切開ママの集いを細々とやっているものです。個人的には2度のVBAC経験があります。
しかしながら、文中にもありますように、VBACしたから満足という気持ちはあまりありませんでした。
最近はじめた私のブロクに記事を書かせていただきましたので、ご報告します。
もし良かったらご覧になってみてください。
先生も帝王切開経験者ということで、心強く思っております。
http://ameblo.jp/mother-light/theme-10004430092.html
投稿情報: 山羊 | 2007年10 月 1日 (月) 01:45