東北地方における出産費未払い調査 ぽち→
(日本産婦人科医会報 第59巻第1号No.682 p10-12)
はじめに(略)
方法
東北地方の産婦人科医療施設511施設(病院200施設、診療所311施設)に出産費・医療費未払い人数・損害額、増減、出産費貸付制度、国民健康保険の出産育児一時金受領委任払い制度の利用状況、対策について質問紙法にてアンケート調査し回収した。調査項目は
1)最近1年間の出産費未払いの状況
2)その他の医療費未払いの状況
3)未払い件数の推移についての印象
4)出産費貸付制度の利用状況
5)出産育児」時金受領委任払いの利用状況
6)対策
の6項目とした。調査期間は平成15年12月1日から平成16年1月31日である。
結果
1)回収率
調査対象511施設であり、回答を得られたのは250施設であった。回収率48.9%とした。
2)最近1年間の出産費未払いの状況
「未払いなし」102施設(40.8%)、「未払いあり」128施設(51.2%)、無回答20施設(8%)であり、25人も未払い者のいる施設があった。全額未払いは90施設(36%)あり、このうち、1施設での被害額1OO万円以上が16施設(17.8%)で、最高被害額は370万円であった。分割未払いは98施設(39.2%)であり、そのうち、1施設での被害額100万円以上が11施設(11.2%)であり、最高被害額は367万円であった(表1)。
3)その他の医療費未払いの状況
「未払いなし」115施設(46%)、「未払いあり」102施設(40.8%)、無回答33施設(13.2%)であり、63人もの未払い者のいる施設があった。被害額は1施設で100万円以上が8施設で、最高被害額は424万円であった。
4)未払い件数の推移についての印象
「未払いが増加している」107施設(42.8%)、「減少している」23施設(9.2%)、「変化なし」97施設(38.8%)であった。
5)出産費貸付制度の利用状況
「出産費貸付制度を積極的に利用している」41施設(16.4%)、「出産費貸付制度を利用していない」93施設(37.2%)、「積極的には利用していない」92施設(36.8%)であった。
6)出産育児一時金受領委任払いの利用状況
「出産育児一時金受領委任払いを知っている」143施設(57.2%)、「出産育児一時金受領委任払いを知らない」85施設(34%)、無回答22施設(8.8%)であった。
「出産育児一時金受領委任払いを利用している」56施設(22.4%)、「出産育児一時金受領委任払いを利用したい」76施設(30.4%)、「出産育児一時金受領委任払いを利用していない」79施設(31.6%)、「興味ない」8施設(3.2%)、無回答31施設(12.8%)であった。
出産育児一時金受領委任払いの適応件数は、適応があった施設は49施設(19.6%)、適応O件11施設(4.4%)、無回答190施設(76%)であった。
7)対策
記述欄より未払い対策を分類した。行われている対策のうち、「通知書・督促状・訪問」43施設、「前金払い(人工妊娠中絶)」17施設、「分割支払いを勧める」14施設、「誓約書や借用書を書いてもらう」14施設、「入院時保証金をあずかる」10施設、「各種制度の利用を勧める」9施設の順であった。「対策なし」13施設、「あきらめる」2施設などどうにもならない状況をうかがわせる記載もあった。
考察
今回の調査でも、出産費未払いのある施設が全体で51%であり、医業の大きな問題と言える。被害額も100万円を超過している施設が17.8%にも及び、早急に対策が必要と思われる。また、出産費未払いが増加していると感じている施設が42.8%、「変化なし」が38.8%であり、「減少している」と感じている施設は9.2%に過ぎなかった。この結果から、出産費未払いは解決できない問題として感じていることが明らかになった。
その対策として社会保険(社保)、国民健康保険(国保)での出産費貸付制度があるが、これを利用している施設53.6%であったが、この制度の問題点は、貸付申込者(被保険者)が出産育児一時金を直接受け取るため、病院や診療所に支払われず、生活費やローンの返済に使用される可能性がある。今回の調査の記述欄には、このような貸付制度の弊害も述べられていた。
市町村と国保出産一時金受領委任払いで協定を結ぶことにより市町村が直接医療機関に出産費用を支払うことができる制度(出産育児一時金受領委任払い)を利用している施設は22.4%に留まっている。出産育児一時金受領委任払いは、窓口支払額減少、未収金の発生防止などが期待され、推奨される制度であるが、いくつかの問題点がある。
現時点では杜保では利用できないこと、被保険者が保険料の滞納があると利用できない、税金や滞納金があると出産育児一時金から引き落とす市町村がある、この制度が利用できない都道府県があるなどの問題を抱えていることも事実である。
その他の対策では、各施設で苦肉の対策を立て苦労しながら未収金を減らす努力をしている現状が明らかになった。表2に示すように未払い相談窓口の充実し、特に外来や母親学級などの出産前教育の場で支払方法や各種制度のわかり易い説明が必要である。妊婦の生活状況・医療費の納入状況を把握し、入院前に支払能力があるかどうか推定し、事前に対策を立てることも必要になるであろう。
未払い者となり易いケースは
1) 妊婦健診受診回数が少ない
2) 外国人
3) 未入籍
4) 妊婦健診料金の未払いがあるもの
5) 以前に未払いがあるもの
6) 妊娠後期に紹介状なく受診するなどである(表3)1)。
入院誓約書により連帯保証人を含めて分娩費用・入院費用が期日まで支払われるように確約させるのが」般的であるが、未払いが予想される場合は、入院時保証金、分娩予約金を一時的に預かることも必要であろう。
調査では複数の施設で人工妊娠中絶などは同意のうえ、前金支払いを導入していた。発生した未収金の回収対策は、根気のいる作業であるが、組織的に行うことも必要で、督促を行う場合は督促記録(督促日時、方法、話し合い内容など)を具体的に残しておくことが重要である。
また、督促に応じない場合は保証人、家族・会社にも連絡を取ることも必要になってくる。それでも支払いがない場合は裁判所を利用した少額訴訟制度2)や督促手続も選択肢になるであろう。その他の医療費未払いの状況を見ても「未払いあり」が40.8%で、被害額100万円以上の施設が8施設で、424万円もの被害額の施設もあり、出産費未払いに加えさらに深刻な状況が把握できた。
平成18年8月30日保発第083000!号厚生労働省保険局長通知「健康保健法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令の施行について」により、国保以外の保険でも被保険者が医療機関等を受取代理人として出産育児一時金等を事前に申請し,医療機関等が被保険者に代わって出産育児一時金等を受け取ることができるようになった。しかし、この制度の目的は被保険者等が医療機関等の窓口において出産費用を支払う負担を軽減することであり、任意であるため、継続して未払い対策に取り組まなければならない。参考のため図1,図2に現行の制度と改正後の制度の違いを示した。医会報平成18年11月号に出産育児一時金の受取代理に関するQ&Aが掲載されているので参考にしてほしい。
結語
出産一時金も35万円に引き上げられ、平成18年10月1日より出産育児一時金の受取代理が適応されたが、今後はこの制度を強制力のあるものに改正する働きかけが必要である。
しかし、貧困で全く支払能力がない者、払う意志のない者から未収金を回収するのは至難の業と言える。これを解決するには未払い相談窓口の充実と無銭飲食同様に刑事的・法的強制力が行われるように働きかけるのもわれわれの役目とも思われる。
文献
1)佐藤優、他:「分娩未払い・医療について」のアンケート集計結果報告.秋田産婦人科医会報161:5-11.2002
2)判例六法編集委員会編:模範六法2005.p1824-1825、三省堂、2004
管理人さんへ。
字が細かすぎて読めません。もう少し大きなフォントサイズでお願いします。
投稿情報: 吉田 俊平 | 2009年6 月 1日 (月) 17:29
あうっ(´・ω・`) 。。すみません。
字の大きさが制御不能なんです。情けないことに。(よくわからない大きさに化けたりして、そうなると機械語がイッパイ混じった状態に(涙)。。。)
えーん低レベルなんです。すみません。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年6 月 2日 (火) 15:53