(関連文献→) 妊産婦死亡 目次
産科崩壊 増える高齢の母親 30代出産女性の不妊治療も増える
天漢日乗 2007-06-11 ぽち→
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/06/30_6dcb.html
をよんでいて、日本の高年妊婦の危険率がいまひとつ知られていないようなので、文献をあさってきましたo(^-^)o ..。*♡
我が国における周産期死亡,妊産婦死亡の現状
朝倉啓文
周産期医学 vol.37 No.7: p799-803 2006
周産期死亡,妊産婦死亡ともに周産期医療の尺度となる指標である。日本では両者ともここ数十年で著減している。欧米諸国と同様で周産期医療の進歩を反映している。本稿では日本における現況について概説する。
一部のデータは本年3月に報告された「「健やか親子21」中間評価報告書」から2004年度のものを使用したが1),詳細については未だ報告されていない。そのため,詳細については母子保健の動向」2)を基に2003年度までの成績を示す。
周産期死亡
周産期死亡とは,胎児死亡のうち母体外で生育可能な妊娠22週以後の死産と,生後1週間未満の早期新生児死亡をあわせたもので,出産1,000に対する率が周産期死亡率である。
1.各国との比較
図1でみるように周産期死亡率は早期新生児死亡数とともに年々減少している。1979年には出生1,OOO人に対して21.6であったものが暫減し,2004年には5.0にまで低下している1)。欧米各国と比較しても我が国の周産期死亡率は低く,世界最低の周産期死亡率を維持している(図2)。胎児または新生児死亡は,母体の健康状態に強く影響を受け,両者の死因には共通性がある。そのため,周産期死亡率は周産期医療における設傭およびシステム完備状況など,その地域の衛生水準を示すよい指標になる2)。つまり,日本の周産期医療システムは世界最高レベルと考えてよい。
2.死因
周産期死亡の中では,妊娠22週以降の死産が早期新生児死亡より格段に多い(図1)。2003年度の死因では,周産期に発生した主要病態が原因であるものが83.4%を占め,その中の67%は「母体側要因ならびに妊娠および分娩の合併症による影響」が原因である。また,母体に原因のないものは全体の30%を占め,15%が先天異常による死亡である。
3.周産期死亡の現状
周産期領域で働くものにとっては周産期死亡率の低値を維持し,さらに減少させることが目標である。先述のごとく,周産期死亡率は周産期管理のための医療設備およびシステム完備状況など孝反映するため,これらのシステムを整備し,グレードアップさせることで向上を図るべきだろう。厚生労働省主導の国民運動「健やか親子21運動の目標は,全国都道府県に総合周産期母子医療センターを中心とした周産期医療システムを2005年までに整備させることであった。しかし,2006年月現在でも,周産期システムが整備されている都道府県は29であり1〕,早急な整備が望まれる1)。
妊産婦死亡
妊産婦死亡とは,妊娠中または妊娠終了後4日未満の女性の死亡をいう。妊娠期間や部位に関係しないが,妊娠もしくはその管理に関連したかまたはそれらによって悪化したすべての原因による死亡をいう(ただし,事故などの不慮または偶発の原因は除く)。
1.年次推移
出産(妊娠12週以降の死産数+出生数)10万に対する妊産婦死亡数の割合が妊産婦死亡率である。この50年間に妊産婦死亡は大きく減少してきた(図3)。2000年には年間76人が死亡し,妊産婦死亡率は6.3まで低下したが,それ以降2003年まで妊産婦死亡率は6.0前後で減少傾向はみられなかった。しかし,2004年には4.3(死亡数49人)と大きく減少している1)。
世界各国の妊産婦死亡率は0~1,180と,国によって非常に大きな隔たりがある2)。その中で日本の妊産婦死亡率は4.3とかなり少ない。しかし,最も低いレベルのスイスやイタリアなどの3台にはまだ及ばない(図4)。「健やか親子21」運動の10年後の最終的な目標は妊産婦死亡率3台で,今後目標到達のための努力がさらに必要である。
2.妊産婦死亡の内訳
直接産科的死亡(妊娠,分娩,産褥時の産科的合併症,あるいは不適切な処置なども含めて,産科に関連の深い状況から発生した一連の事象で生じた死亡)が,妊娠前から存在した疾患または妊娠中に発症した疾患による死亡である間接産科的死亡より著しく多い。2003年度のデータでは前者が81%を占めている。
原因には出血によるものが多い。分娩後出血によるものが2003年には17例あり,年ごとに増減はあるが1990年以来あまり変化しない。1994年までは産科的肺塞栓,1995年以降は産科的塞栓となっている。出血による妊産婦死亡が多い点が,日本における妊産婦死亡の大きな特徴である3)。長屋らは,妊産婦死亡には産科医療現場におけるマンパワー不足が大きく関わっていることを指摘している。
肺塞栓症をはじめ塞栓による死亡は,1995年まで増加する傾向であったが,それ以降,減少する傾向がみられる(図5)。血栓塞栓症に対する関心の高まり,学会レベルでの予防,治療ガイドラインの普及,さらには,帝王切開術後の血栓予防措置が保険適用され,多くの医師が実際に予防に努めてきたことなどが影響しているのではないかと考えられる。
2004年度の妊産婦死亡率の減少が何によってもたらされたかの検討の上で,さらに減少させる対策が考えられなければならない。
周産期を取り巻く環境
1.高年齢と妊産婦死亡および周産期死亡
少子高齢化社会が周産期に及ぼす影響は大きい。就労卒性が多くなり,結婚年齢の高まりとともに,高齢の妊婦が増加する。妊産婦死亡率および周産期死亡率は年齢が高まるに伴い確実に高くなる(図6)。周産期死亡では,特に妊娠22週以降の死産が増加する。妊産婦死亡率は40歳を過ぎると,20~24歳の妊婦の実に20倍以上にまで高まる。一般の人たちも是非認識して欲しい事実である。
高齢で妊娠を目指すために生殖医療技術(ART)のサポートにより妊娠する女性も多い。現在では出生児の100人に1人が体外受精によるとされている5)。それに伴い多胎妊娠や低出生体重児,早産未熟児などのハイリスク新生児も増加しつつある6,7〕
2.周産期死亡を減少させる対策
特に,妊娠28週以前の早産児の予後は悪く,早産の早期予知と予防により,妊娠期間を妊娠30週までに延長することが周産期死亡を減少するための主要課題となると考えられる8)。将来的には,ARTの進歩による多胎妊娠防止対策も重要であろうし,先天異常も早期に診断して胎内治療がなされるなら,周産期死亡軽減に寄与するだろう9)。
周産期死亡減少対策は総合周産期母子医療センターを中心として対応すべきだが,NICUのベヅドも常に満床のことが多く・周産期ネットワークを完成させることこそ急務であるlO)。
3.妊産婦死亡を減少させる対策
妊産婦死亡を減少させるためには,産科医療におけるマンパワー不足を改善し,出血による死亡を減少させることが肝要と考える。母体救命のためには,周産期ネットワークの中で,周産期母子総合医療センターというより救急蘇生医学に習熟した施設の整備が求められる。遅れることのない輸血供給システムや,救急救命医や麻酔医などが全身管理を行えるような施設が必要である。そし、て,マンパワーに乏しい医療施設はこのような病院と密な連携を保つべきである。
おわりに
将来の周産期医療を担うべき産科医,小児科医の若手医師不足が深刻化している。妊産婦死亡や周産期死亡を減少させるためには総合母子周産期医療センターや救命が行われる病院を中心とした周産期ネットワークが必要であるが,そのためのマンパワーは現状では乏しい。さらに,分娩を行う産科病院の閉鎖が相次いでおり,周産期医療の質的低下が危倶されている。分娩を行う病院の集約化や,オープンシステム病院の普及,「妊産婦リスクスコア」などを用いた妊婦の選別などさまざまな対策が実際に練られ始めていて分娩には周産期死亡と妊産婦死亡は付き物で,分娩に内在するリスクでありたがって・分娩が行われる限り,常に予防と対策が準備されていなければならない。
文献
1)「健やか親子21」推進検討会:「健やか親子21」中間評価報告書,2006
2)財団法人母子衛生研究会編:母子保健の主なる統計,2005
3)福岡秀興,載鶴峰:母子保健統計、周産期医学26:723-731.1996
4)長屋憲(責任編集):日本の母体死亡一妊産婦死亡症例集,三宝社,東京,1988
5)平成12年度倫理委員会登録・調査小委員会報告:平成11年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および平成13年3月における登録施設名.日産婦誌53:1462-1473.2001
6)岩下光利:ARTと早産.産婦の実際53:1827-1837.2004
7)Mcgoven PG, Llorens AJ,Skurnick JH,et al:ncreased risk of preterm birth in singleton pregnancies resulting from in vitro fertilization-embyo transfer for gamete intrafallopian transfer;a meta analysis.Fertil Sterlile 82:1514-1520.2004
8)伊藤博之:周産期死亡を減少させるには?周産期医学34(増刊):399-401.2004
9)千葉敏雄:胎児医療の現況.小児外科34:815-821.2002
10)鈴木俊二,朝倉啓文,茨聰,他:全国NICUにおける長期入院例の検討,日本周産期新生児医会雑誌41(4):837-842.2005
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