私は、この中川さんという方の記事を読んだことはありませんo(^-^)o
でも、臨床婦人科産科5月号母体救急 に載っていたこの記事は、とてもいいと思いました。 がんばりましょおっ(>▽<)!!!!
産科医師の現状として、「妊産婦の心理的ケアを」といわれても現状ではむずかしいモノがありますが、
でもこの文章はいい記事ですo(^-^)o 現場を力づけてくれます。きっと!ではどうぞ!
1.25時代, 双子出産で見えたもの
中川美香 宮崎日日新聞社文化部記者
(臨産婦・61巻5号・p705-707)
管理入院で見えた世界
私は32歳だった2003年,宮崎大医学部附属病院で双子を出産した.出産前は報道部勤務、深夜労働が当たり前の職場で,同僚も取材対象も男性中心だったためか,子供を産むなんて想像もしていなかった.それが双子を授かったことで,がらりと新しい世界が見えた.すべては管理入院のおかげである.
DDツインで子供も母体も比較的安定していたのをいいことに,妊婦やスタッフに多くの話を聞いた。当時の日記をべ一スに,育児休業明けに書き始めたのが,妊娠・出産・育児をテーマにした連載「ハロー! ベイビーズ~双子育児で見えたもの」.
親たちや病院スタッフのご理解,ご協力をいただいて実現した.2006年末現在,86回を越えた.読者の方から多くのお便りをいただき,妊娠・出産への関心の高さをひしひしと感じている.
ハイリスク妊婦の憂うつ
妊娠28週からの管理入院は,最初はブルーだった.ガンでやせ細った患者さんや死期を迎えたおばあちゃんもいる場で,その方々が必死で病気と闘っていることは理解していても,「私も病気なんだ」「管理してもらわなければ産めない人間なんだ」と落ち込んでいた.よく「妊娠は病気じゃない」という言葉を聞いていたから余計そう感じたのだろう.
入院仲間もブルーな人が多かった.上の子を自宅に残し,第2子の出産のため管理入院していた妊婦さんは,見舞いに訪れた上の子が帰途に就くたび目を真っ赤にしていた.その方はMDツインで,双胎間輸血症候群と診断されていた.妊娠17週から出産まで数か月も入院.車で片道2時間半掛かる市から入院していたので,家族とは週1回会えればいい程度.胎児は命が危ぶまれ,途中では妊娠継続をあきらめる選択肢も示された.重いストレスを抱えているのに,家族とも簡単に会えない.こんなつらい状態で過ごす妊帰がいるのだと知った私は,ショックを受けた.
また,妊娠28週で陣痛が起き,管理入院していたほかの病院から緊急搬送されてきた女性は,状況を受け入れられず動転していた.「40分の28しか持たせられなかった」と口走り,ぺしゃんこになったおなかをなでて「ごめんね,ごめんね」とNICUにいる子供たちに謝り,ずっと自分を責めていた.
出産への恐怖
ある村から入院していた妊婦は,かかりつけにしていた隣町の自治体病院の産婦人科が赤字で休診となったため,遠く離れた宮崎大医学部附属病院に産前から入院していた.
産後は血圧や精神が不安定となり,「落ち着ける自宅か,近くの医療機関での療養が望ましい」と勧められたが,頼れる産婦人科が自宅近くになかったので,そのまま家族から離れた場所での入院生活を余儀なくされた.
この女性は,前回の第1子の際も妊娠中毒症がみられ,子癇防止の点滴を投与されていた.しばらくして親子とも心拍が下がり,光の刺激を受けないようにと,アイマスクを付けられた状態で高次の病院に搬送された.
分娩室で待機していると,隣の妊婦のいきむ声で血圧が上昇,しかも,保育器が空かないことが判明し,急きょ,隣県の病院へ運ばれた.「私と子供はどうなるんだろう」.当時の恐怖はまだ消えないという.その経験は,第2子の妊娠期や産後の心にも,少なからず影響を与えていたのではないかと思う.
産みたい熱意支える現場
それでも,病棟で多くの妊婦やママたちと出会うたび,ここはすごい現場だと思うようになった.子宮頸ガンを持ちながらお産に臨んだ妊婦.胎児の腎臓の1つが機能せず,もう1つまで機能しなくなる恐れがあり,ひたすら祈りながら検査を受けていた妊婦.10年間の不妊治療が実り,双子を授かった妊婦.
世間は少子化,少子化と騒いでいる.当時は合計特殊出生率が1.29だったが,その「1.29」のすべてがぽろっと生み出せた命の数値なのではない.懸命に副作用のある点滴に耐えたり,怖く痛い思いをしながら羊水検査を受けたり,妊婦が必死に頑張って,その結果,世の中に出てくる命があってこその「1.29」なのだと,やっと分かった.
授かろう,生み出そうという熱意と,それを支える医師,看護師,助産師の努力は,これからの社会を築く土台そのもののように尊く思えてきた.この1.29の貴重さをもっと,世間は評価していい.子供を産みたいと願う人たちが目指す「1」の数字を,実際に「1」にするために努力を重ねている周産期医療,生殖医療の現場を,力強く支える社会になってほしいと思うようになった.
妊娠中の不安が産後に影響
ただ,数字の達成はすべてではない.連載では,双子を妊娠し,育児への自信がなかった女性が役場や保健所に「産後,育児を支援して欲しい」と頼んだのに,「個人的支援はできない」と断られたケースを紹介した.
その女性は妊娠中ずっと気持ちが落ち着かず,産後も精神が不安定なままで,子供たちが泣き叫ぶと「ベランダから落としてしまいたい」と思ったそうだ.全国で相次ぐ虐待事件を耳にするたび,妊娠期から母子ごと温かく包む社会が構築できないものかと考える.
その回には,読者から「私も行政から冷たくされた」とか「出産した病院はもう相談に乗ってくれない」という感想が届いた.
妊娠,出産に関する読者からのお便りは実に多様だ.子供がおなかに宿っても,何度も何度も流れ,女性としての自身を失った方のメールもある.経済的な理由で中絶したという女性のメールに胸が詰まることもある.必要なのは,体の管理だけではない.当たり前のことに気付かされる.
妊婦やママの不安を見詰めて
核家族化が進み,頼れる人が少なく,子供を生み育てること自体に自身を持てない親は増えているように感じる.さらに,晩婚化,晩産化が進み,ハイリスク妊婦の比重は高まっている.多胎,早産,胎内環境の悪化による低出生体重児の誕生,産後のトラブル…….
緊急事態で病院に運ばれたり,子供を生んでもNICUへと引き離されたり,すぐにその手でわが子を抱けない親の割合は増えていくのではないか.その戸惑いや不安に向き合い,親子の心をしっかり包む態勢をつくることが,今,求められている.医学の進展,態勢の整備に合わせ,力を入れて欲しい.
また,残念ながら流産や死産,新生児死という結果となったり,子が重い障害を持つ結果となった親に対しても,関係機関と手をつないでフォローして欲しい.「天に旅立った子供と一緒に私も消えたい」と自殺を考えた女性,何か月も引きこもりパソコン画面だけを眺めていた女性に何人も会った.
でも,これは医師だけでは限界がある.臨床心理士や地域の保健師,助産師の協力が欠かせないだろう.私たち親やメディアと手を結び,現場こそが知る「心のケア」の必要性を世間に訴えてほしいと思う.
社会に伝えたい,現場の声
「1.25」時代となり,妊婦にとっては一度か二度しかない出産に向けた「自分らしいお産」への理想も高くなっている.
しかし,晩産化が進み,ハイリスク妊婦が増え,快適性より安全性を優先せざるを得ないお産も増えてきたのが現実.そこを女性たちに冷静に知ってもらう必要も感じる.理想と現実のギャップに,実は私も相当戸惑った.それと同時に,心が揺れやすいハイリスク妊婦への適切なケアも不可欠である.
周産期医療のスタッフが歯を食いしばって維持している「1.25」の重みを,私は世間に伝えたい.生み育てようとする人,今回は悲しい結果だったけれどまた頑張ってみようとする人,それを支えようとするスタッフを大事にしてこそ,「1.26」や「1.27」は続いてくるはず.今,このときを周産期医療の「質」を豊かにするチャンスだと考え,私はこれからも,現場の声に耳を澄まし,ペンで伝えていきたいと考えている.
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