看護師の内診問題をめぐって(私見)
愛知県産婦人科医会理事可世木成明
日産婦医会の寺尾俊彦会長の新体制は看護師の内診問題、有床診の問題、無過失補償制度、出産育児一時金の代理受領、助産所の嘱託医契約、など様々な問題を抱えて発足しました。日産婦医会としては国民の産科医療のために一丸となるべき時と思われます。いくつかの問題について私個人が理解していることを述べてみたいと思います。
看護師の内診問題
看護師の内診問題はともすると開業医の利権を守るための戦いと見られがちで、医会の会員の中にもそういった冷めた見方のあることも事実です。しかし、看護師の内診は禁止と通知されて以来、50年間日本の産科医療を支えてきた体制が崩れ、ドミノ現象は地域の中核病院にまで及んで産科医療の崩壊に王手がかかりました。最近日産婦医会のホームページ、医会からのお知らせに以下の2項が掲載されています。
◎平成19年3月30日厚生労働省医政局長の通知
「分娩における医師、助産師、看護師等の役割分担と連携について」
◎平成19年4月24日寺尾俊彦会長
「分娩関係団体の医政局長ξの会談」に関する報告
松谷有希雄医政局長の呼びかけで分娩関係4団体が医政局長会議室に集まり、会談を行いました。松谷医政局長、白石審議官、二川総務課長、野村看護課長、小野看護課看護職員対策官、寺尾会長、日医木下常任理事、日本看護協会古橋副会長、日本助産師会近藤会長。「今後はこの局長通知を遵守することにより、病院、診療所、助産所は、安心して分娩を担うことができるようになりました。」
寺尾会長、木下日医常任理事(日産婦医会副会長)、平岩顧問弁護士らは「安心してください。もう看護師の内診問題は解決したと思っても良い。これからは医師、助産師、看護師が協力関係を築いて、良い産科医療について考えようじゃありませんか。」と繰り返し述べています。
以下に私の理解しているところを述べます。厚労省医政局長の通知(3月30日)には、「看護師等は、療養上の世話および診療の補助を業務とするものであり(保健師助産師看護師放題5条および第6条)、分娩期においては、自らの判断で分娩の進行管理は行うことができず、医師又は助産師の指示監督の下診療又は助産の補助を行い、産婦の看護を行う」とあります。の文章のどこにも看護師の内診を禁止するとの表現はありません。この通知からは「看護師は分娩管理の目的で内診をすることは許されないが、医師の診療の補助として行うことは禁止されていない」と解釈できるのです。
この局長通知が出されるまでの寺尾、木下、平岩、お三方の苦労は並々ならぬものがあったと聞いています。彼等は「折角ここまでもってきたのだから、今は騒がず静かに経過を見ていただきたい」と言っています。なお、度重なる厚労省幹部との会談に際しては、武見敬三厚労省副大臣が大変尽力されたと聞いています。
4月2日日産婦医会のホームページにガイドラインが出されましたが、厚労省内の反対勢力が大騒ぎをして医政局長を突き上げたのでホームページから取り下げることになりました。このことについてメーリングリストではがっかりするやら、怒るやら、かまびすしい騒ぎとなりました。しかし実際のところ、基本的にはガイドラインは生きており、説明は省きますが一度出したことが重要なのです。
厚労省内部のアンチ医師会の勢力はマスコミと強い関係を築いているので、看護課の意見が厚労省として発表され、結果的に活字になるときには「看護師の内診禁止」と書かれてしまいます。寺尾会長はできるだけ口頭で伝えるようにと述べておられます。しかしながら、この医会ニュース4月号に近藤東臣理事が書いておられるように、産婦人科医会の会員は情報がなければ「安心しろ、安心しろ」と言われても安心できません。きちんと説明できるものをと要求するのは当然と思われます。今後徐々に文書が出されることになると期待します。
検察庁の考えについてですが、豊橋、横浜、青森における検察の対処は、実に良く産科の崩壊に至る現状を把握し、看護師の内診が危険性のないことを理解しています。この点に関しては愛知県での検察官の事情聴取に際して成田会長や中村弁護士らが果たした役割は極めて大きいものがありました。これまでの経過から今後警察の家宅捜査は行われなくなると期待されます。
厚労省としての考え方については、事実上は医会の考え方は受け入れられているように思われます。厚労省としては一旦出した通知(平成14・16年)に基づいて各地で問題が起こり、千葉では医業停止の行政処分まで行われているので、いまさら看護課長通知の取り消しは出来ず、今回の通知が玉虫色になったものでしょう。
日本産婦人科医会のまとまりについて
医師は頭の良い人の集まりであるのに、他人の悪口・陰口の多いこと、人のことを批評することは巧みだが、組織としてまとまって動くことが下手なように思います。以前、ある政治家が「日産婦医会の先生方は何をしているんですか」とあきれていたそうです。政治的な動きが真に下手なのです。参議院議員の桝添氏「自分は一人で159万票を集めたが、医師会は22万7千票。医師会など気にせずに構造改革を進めたらよい」と書いています。政治の問題になると耳をふさぐ会員も多いようですが、国民のための良い医療の水準を保つために医師会は以前のような政治力を持たなければなりません。医療も結局は政・官によって支配されています。医系議員に票を集めることが大切なのです。医師会内部でごちゃごちゃ言っていても解決しないことが多いのです。
産婦医会は故坂元先生の時代が長かった。優れた学者で、人格的にも大変尊敬される方でありましたが、厚労省に弱かったと聞きます。厚労省は「日産婦医会の会長が認めたことだから」と言い、日産婦医会の中央は「厚労省が決めたことだから」と言っていました。平成14年・16年の通知はこのような中でおこり、その時点で手を打てなかった。当時の日産婦医会の中央は大学病院・大病院の医師、関東中心であったと聞きます。日本の分娩の47%を扱う有床診療所に対する影響はどの程度感じていたのでしょうか?ある幹部は厚労省が出した助産師は充足しているとの誤った情報を鵜呑みにしていました。今回の役員人事はこの点を意識して決められたようです。われわれの周辺の大病院の勤務医師の「看護師の内診問題?当然やめるべきだ。開業医の問題だから自分たちには関係ない」という声を聞きます。大・中の病院勤務医師にとって看護師の内診問題は対岸の火事ではありません。産科勤務医師の減少は著しい。ところが看護師の内診問題を契機に地方で身を削って働いてきた開業医、親子代々続いて地域の出産を取り扱ってきた開業医が閉院する。これにより病院勤めの医師が開業の夢を無くしたことも大きい。日産婦医会の調査でも、産婦人科を後継者に勧めない会員の数が多くなりました。
今は勤務医も開業医も共通の場にたって問題解決を目指さなければならない。オープン・セミオープンシステム、分娩の集約化、院内助産院など新しい診療形態についても前向きに取り組むべきと思われます。
【参考にどうぞ!】
■視点/医政局長通知による保助看法問題の解決
日医ニュース 5月20日号
http://www.med.or.jp/nichinews/n190520g.html
P.S.
まだ医会報5月号届いていません。いい記事が載っているそうですので、届きましたら掲載するかも。
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