(関連目次)→過労死
先週のSpa!2007年5月15日号
http://spa.fusosha.co.jp/spa0002/2007515.php
内部告発 もう病院は信じるな! 担当者からのコメントはこちら! http://spa.fusosha.co.jp/spa0002/ent_3210.php
Spa!はあまりなじみのない雑誌なのですけれど、とてもいい記事です!
挑発的な見出しにしては、本当に意外なことに本当にきちんとした記事です。
すこしづつでもこういったきちんとした意見が増えていってくれると、いいのですけれどo(^-^)o。
最近の政策はすこしづつ医療側の意見もくみ取られるようになってきましたが、ただ残念なことに「あと10年、医師が増えない」政策ばかりで、そのころまで持ちこたえられるかどうか、厳しい状態だと思うのです。
では、どうぞ!!
内部告発 もう病院は信じるな!
医師の3割が「前月の休日ゼロ」で過労死ライン、
5割が「職場を辞めたい」!
崩壊する現場を目の当たりにする医師&看護師の断末魔の叫びを聞く
(Spa! 2007年5月15日号 p24-27)
「今、病院で働く医師の多くが、極度の忙しさから睡眠不足や精神的疲労を抱えているため、いつ医療ミスが起こっても不思議のない状態なのです」
川崎市立井田病院で勤務医として働く鈴木厚氏が指摘するように、ここ数年、医師不足が誘発したと思われる医療ミスの報道があとを絶たない。
最も激務を強いられる産婦人科では異例の逮捕者が出たり、小児救急でも、生後8ヵ月の乳児が専門医がいないことを理由に4軒の病院をたらい回しにされ、最後に辿り着いた病院で容体が急変。偶然当直していた眼科医が泣きながら救命処置を施したが死亡に至ったケースもあり、医師個人を責めるには忍びない事件が多い。
病気やケガをして病院に行っても、それを治癒してくれる医師がいない。たとえ迎え入れられても、医師たちは治す気力すら残っていない……。
なぜ、悲劇が繰り返されるのに、医師不足は解消されないのか?今回、総力リポートを試みた。
crisis 1
深刻な医師不足で病院は死ぬほど忙しい劣悪な環境に
「ほとんど寝ていない当直明けに、手術が入っている日も少な
くない……。誰がミスをしても不思議ではない。『早く、早く』と急かされ、いつも何かに追われているような気がする』(30代・男性医師)。
『医師のほとんどは患者を治したいという一心で、こんなムチャクチャな労働環境でも働いている。今の現場は、サービス残業など医師個人の意欲や頑張りに依存しすぎで、一人が欠けたりしたらすべてが壊れる……。このままでは近い将来、病院から医師が一人もいなくなりますよ』(40代・男性医師)。
今回、取材に協力してくれた医師たちには、まさに、患者のため身を粉にして働いている印象を受けたのだが、一方で
「ここまで消耗していたら、まともな診療はできないのではないか……?」という疑念を抱いたのも正直な気持だ。
先日、小児科医の自殺事案が、行政訴訟で初の労災認定を受けたぱかりだが、4月25日に発表された「医師の労働実態調査」の最終報告を見ると、その過酷な実態が浮き彫りになっている……。
医師の5割が離職願望 3割は「過労死」の危機
「医師の3割超は、現在『過労死ライン』とされる週80時間以上の時間外労働を行っている。超過勤務は7割以上が強いられ、もはや病院では常態化していると言っていい。さらに、4割超が『健康不安』や『病気がち』を訴え、実に5割以上の医師たちが『職場を辞めたい』と回答してます。残りの5割は『割に合わない』、『ツラい』と思いながらも、ギリギリのところで踏み留まっているような状態でしょうね……。実際、過労による医療ミスを危ぶむ声も少なくなく、これでは患者はもちろん、医師の生命も危険に晒されていると言わざるを得ない。医療費抑制など、医療制度改革を断行した小泉改革の歪みが、今になって現場で噴出している格好ですよ」
日本医療労働組合連合会(医労連)の池田寛氏はこう訴えるが、医療崩壊の現場に立たされる医師たちの声は、そう簡単には国を動かすところまで届きそうにない。
「ここ数年、医療過誤の問題で病院関係者全員が攻撃を受けているような状況ですから……。言いたいことも言わずに、我慢して働いているような医師は多いと思いますよ……』(30代・女性医師)
実際、過酷な労働環境に我慢を重ねたうえ、糸がプツリと切れるように病院から消えてしまう「立ち去り型」の退職が近年、医師の間で多く見られ、これも大きな問題になっているという……。
そして、これまでの過剰なバッシングの経験から、医師たちが抱くマスコミ不審も、医療の現場に深い影を落としている。
「わずかな確率でしか起きない医療ミスも、ことさら大きく報道されることで、患者の医療不信が進んでいる。攻撃的になった患者のなかには、クレーマーのように文句を言う人もいて、貴重な診療の時間を奪われることも少なくない』(50代・男性医師)
また、国民皆保険のせいか、気軽に病院を訪れる患者も、医師の労働環境を悪化させている。
「救急外来は緊急を要するときに来るものです。それなのに、24時間開いているコンビニエンスストアと勘違いしている人が多すぎる。『昼は混んでるし、夜間ならすぐに診てもらえるから』と安易に来院されたら、ただでさえ忙しくて立ち行かない状況なのに、本当に苦しんでいる急患に対して、まともな対応をしてあげられない……』(30代・男性医師)
これら医師の悲鳴はほんの一部にすぎないが、いずれのケースも、その根底には深刻な医節不足の問題が横たわっているように思われる。
鈴木氏が説明する。
「アメリカでもクリントン政権の時代、医療過誤が多発しました。このときの調査で、事故の多くは医師や看護師の過労が根本的な原因だという報告が上がったんです。労働条件を改善さえすれぱ医療ミスは防げるとのリポートが発表され、実際にその後はミスが激減したといいます。ただ、日本の場合、厚労省が具体的な施策をとるかは大いに疑問ですが……」
患者よりも、むしろ医師の悲鳴のほうが多く聞こえる今の病院に、快癒を求めようとは思えない。
crisis 2
「医師余り」は幻想にすぎない! 医師不足のそもそもの原因は!?
「こんなにも医者が足りない現実が知られるようになったのは、3年前に発覚した医師の『名義貸し』事件に遡ります」
04年、北海道や東北の病院が、大学病院から医師の名義だけを借り、病院職員として厚労省に報告していたことが公になり、多くの病院が廃院に追い込まれた。前出の鈴木氏は、この「名義貸し」のカラクリは現行の診療報醐システムにあると指摘する。
「病院にいなけれぱならない医師の定数は法律で決められているのですが、その定数を満たしていない病院は入院基本料を減額されます。例えぱ、医師が定数の6割に満たない病院は基本料が12%減、5割以下は15%減となり、医師不足の病院は赤字経営に陥りやすいシステムなのです……。だから、病院側は苦肉の策として、大学病院の医師の名前を借りて運営せざるを得なかった。ただ、この事件を受けて調査したところ、北海道や東北では、なんと半数近い病院が定数に達しておらず、全国でも4分の1以上の病院が医師不足であることが判明したのです」
しかし、厚労省は10年来「医者余り」を喧伝してきたばずではなかったのか……。
前出の池囲氏が、その「裏側」を説明する。
「厚労省はいまだに医師不足を認めようとせず、数は足りてるが偏りがあるなどと言っていますが、06年の医療施設調査によると、2年間で1万人近い医師が診療所を開設していることがわかる。つまり1万人の医者が病院から逃げ出している状況なのです……」
開業医が増えているなら問題ないのでは、とも思うが、話はそう単純なものでもないようだ。
「過酷な労働に耐えかねて開業したわけですから、夜はもちろん、土日も休むのが普通でしょう。病院に比べ施設も整っていないため、専門的な医療には対応できない。そういった場合、彼らは大学病院に紹介状書くだけの仕事しかしないのです」(鈴木氏)
実質的には、既に慢性的な医師不足に陥っていた日本の医療だが、さらに、この窮状に追い打ちをかけたのが04年に導入された研修医の新研修制度だ。
「この制度によって、研修医は学ぶ病院を自由に選べるようになったんです。すると、地元の出身大学ではなく、都会の大病院ばかりに研修医が集中してしまった……。実は、彼らは貴重なマンパワーだったのですが、こうして人手不足に陥った地方の大学病院の医局は、関連病院などエリア一帯に派遣していた医師を一斉に引き揚げざるを得なくなった。結果、地方の医師が激減したのです」(同)
医学博士で作家の米山公啓氏が、医局の「功罪」を説明する……。
「新研修制度導入までは、医局のカは絶大で、私が医局にいた頃など、ほとんど強制労働(笑)。僻地の病院にトバされたまま半年間放置されたこともありましたよ。ただ、確かに封建的ではあったが、こうして地方の医師が確保されていたのも、また事実なんです」
開業する医師が増える一方で、新しい人材の供給が削減されている点も問題視されている。
「厚労省は81年に8360名だった医学部の定員を93年には7725名に減じました。医師が多すぎると言うが、OEC0の平均から換算しても日本の医師は12万人も足りない……。世界的に見て、日本の医師が多いなんてことはまったくないんです」(池田氏)
この点においても、医療費の削減を目論む厚労省の術中にハマている格好なのだ。
「イギリスを見れぱわかるように、医療費を抑制すると間違いなく医療の質は落ちる。心臓の手術待ちが10年なんていうケースさえあるくらいで、待っているうちに死んじゃいますよ。では、レベルが高いとされるアメリカはといえば、保険未加入者が6000万人もいたりで、万人に開かれた医療ではない。結局、医療費削減の先にあるのは、金持ち層しか受けられない高い技術のアメリカ型か、タダだけど手術が10年待ちのイギリス型かのどちらかですよ」(米山氏)
厚労省が主導して、日本の医療システムが崩壊へと導かれているということなのか。
crisis 3
産婦人科、小児科のみ、ならず、外科、内科も医師が激減……!?
産婦人科や小児科で医師が激減しているのはよく知られてますが、これは地方に限った話ではなく、東京でも深刻な状況です。妊娠3ヵ月の時点で、予約を入れないと、産む病院すら見つからないこともありますから……」
産婦人科の看板を掲げながら、その5割が分娩を扱わなくなった、小児科医を志望する学生もピーク時の6割と激減。お産もできなけれぽ、子供が生まれても病気になったときには小児科医もいない……。これが現在の病院の姿なのだ。鈴木氏はその背景を説明する。
「産科医が少なくなったのは、いつ始まるかわからないお産の性質上、年中無休で昼夜関係なしの過酷な労働を強いられるのもさることながら、多大な訴訟リスクを抱えているのが原因でしょう。そもそもお産には一定のリスクがあるのですが、今の時代、『無事に生まれて当然。万一、死産にでもなれば、即、医師を告訴する』という考え方が支配的です。小児科でも同様で、患者が子供だけに大人のようにはうまく医師に症状を伝えられないし、小児は容態も急変することが多く、結果、ミスも起こりやすい。ほとんどの医者は患者を心底救いたいと考えています。ですが、何かあったらすぐに訴えられるうえに、これらの診療科では報酬も低く抑えられている。なり手がいなくなるのは当然ともいえます。しかも、ここへきて『花形』である外科を目指す医学生も激減しています……」
テレビではゴッドハンドを持つスーパードクターが注目を集め、外科医を主人公にしたマンガやドラマも人気だが、実際の医療の現場では、これとはまったく逆の現象が起こっているというのだ。池田氏が続ける。
「やはり、訴えられる可能性が高いのが理由だと思いますが、
特に、脳神経外科、心臓血管外科などは時間外労働も多く、なり手がいない。外科学会も、このまま志望者が減ると、10年後には外科志望者はゼロになると警鐘を鳴らしています。さらに最近では、内科医も減少している。病院に行っても医師がいない。たとえいても、疲労し切って十分な治療にあたれない……。今の医療現場は、それくらい逼迫した状況なのです」
一方で、逆に人気になっている専門医の分野もある。
「大阪市大の医学部では、学生の半数以上が眼科志望という異常な状況です。数年前までは胃がんの手術と白内障の手術が同額という、高価な値段設定がまかりとおり、当時は"水晶御殿"といわれる眼科医の豪邸がたくさん建ったものです。3年前の診療報酬の改定で半額になったとはいえまだまだ高い。眼球は2つあるから、左右両方手術すれぱ"身入り”は同じですしね。皮膚科にしても、皮膚病で人が死んだなんて聞いたことないし(←これは間違い、もちろん死ぬものもあります。皮膚癌だってありますし)、訴訟リスクが低いのが人気の理由でしょう」(鈴木氏)
こうした医師の偏りに悪い意味で「貢献」してしまったのが、臨床医の新研修制度であると、米山氏は指摘する。
「医局に所属しないでいろいろな診療科を研修するようになったので、内側が覗けるようになった。外科医がどれだけ大変か目の当たりにしたら、行きたがらないのは当然。日本の医療はローリターンで、リスクの部分だけ診療科ごとに高低がある。若い医者はそのあたりをクールに見ています」
外科、内科、産婦人科、小児科のすべてが崩壊しつつある今、病院に安全な医療は期待できるのか。
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